丸い眼鏡をかけてみる

小林ゆうすけ
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公開:2025/5/18

たいてい、車を運転する日はコンタクトレンズを、しない日は眼鏡を装着して過ごしている。眼鏡はまあ安物のやつで、3年半ほど使い続けてそろそろフレームの歪みが気になってきたので、買い替えることにした。視力の検査も先代の眼鏡を作った時以来だから、ここらでひとつ度数の確認をしておきたかったのもある。

私は文化史としてのファッションには興味があるが、自分を着飾る意味でのファッションにはほとんど無頓着なので、こういう眼鏡とか、服とか靴とか帽子とか、髪型にこだわるということをあまりしない。またあえて意識しなければ他の人のファッションにも特に関心が向かないから、仮に一緒にご飯にいった友達がトイレから帰ってくるときに全身まったく違うコーディネートになっていても、色の系統が同じなら気づかないかもしれない。

しかし、おそらく唯一自然と注意がひきつけられてしまうファッションアイテムというのがあって、それが丸眼鏡である。べつに「丸眼鏡好き」という自認まではないのだけど、見かけるとなぜかじっと注視してしまう。フレームはなるべく線の細い華奢なフレームが良い。真円度はなるべくゼロに近い方が良い。レンズの厚み、フレームの輪郭、つるの伸びる先を、舐めるように追ってしまう。もちろん街中でそんなことをしては通報されてしまうので、そこまで食い入るように見るのは写真をみたときだけにしている。

そういう自分の癖にここ数年で気づいたのもあって、今回の眼鏡の買い替えでは、思い切って丸眼鏡を採用することにした。これまで外から眺めていた丸眼鏡の世界に歩み入り、自らが丸眼鏡の一部となってみることにした。これは自分にしてはかなり踏み込んだ選択をした感覚がある。とにかく無難でシンプルで思想のない服やなにかしらを買い揃えて、自分の意思を何も乗せないファッションに徹していた私が、かなり久々に「あえてこれを選ぶ」ということをしたのが丸眼鏡だった。

こうしてインドアな毎日は、顔面に美しい異物を身につけることによって少しスパイシーさを帯びたものになった。まだ慣れないので、鏡の前を通りかかるといつも自分の眼鏡の丸みをまじまじと確かめてしまう。

@yuu_kobaya
世界のすみっこで、もそもそ身をよじって生きています。 デザイン, 技術, 読書, 学び... いろんなことが好きな人。 lit.link/yusukeweb