いちごは苦手な果物だ。個人的な舌の問題で、当たり外れが両極端だからだ。
小さい頃は、好きだった。兄弟ときっちり等分しないと癇癪を起こしたくらいには、好物の分類だった。
評価が一変したきっかけは、どこかの飲食店でデザートとして注文した、フリーズドライのいちごをチョコでコーティングしたお菓子である。いちご=甘い認識が一気に崩れ去った。
めちゃくちゃ酸っぱかった。おしりがちょっと浮くくらいの驚きを伴う酸っぱさだった。美味しそうで、飲食店へ行く度に食べてみたいと強請って、ようやく頼んでもらえることになったいちごが、とんでもなく酸っぱかった。しかも、全然柔らかくもない。
あれは幼心に裏切られた気分になったんだと思う。実をいうと今でもフリーズドライのいちごは苦手で、自ら進んで食べたいとは思えない。
激酸っぱ事件で、まず生のいちごが苦手になった。たまに紛れている酸っぱいいちごを食べるのが嫌だったからだ。まったく嫌いにはならなかったので、1〜2個食べて、あとは家族に譲ることにした。
いちご味のお菓子はというと、プロによって甘く美味しく調整されているので、引き続きフリーズドライ以外は食べていた。といっても、いちご味をメインにしたお菓子は滅多に買わなくなったので、アソートで含まれているのをつまむ程度である。
(ちなみに家族はいちご味のお菓子が好きだったので、よく出されていた)
二度目の事件は、思春期の頃。普段まったく興味のなかったいちごミルクを飲んでみようとした時だ。みかんジュース信奉者なので、甘い飲み物といえばみかんジュースばかりで、これまでいちごミルクは興味の対象から外れていたのだ。
なんとなく、甘いいちごとミルクを一緒に食べたような味を想像していた。お洒落なカフェにありそうな、ミルク色の液体に、真っ赤ないちごジュレで層を作り、可愛くカットしたフレッシュいちごが乗っているような、そんなドリンクに近い味である。
お察しの通り、買ったのは安さ重視で香りだけつけたような甘いジュースで、お察しの通りに甘いだけの味わいにショックを受けた。美味しいだろうと想定していた範疇から外れた甘さに、今度は加工品もダメになってしまった。あのよくわからん甘さは、二度と味わいたくないという一心だ。
こうなってからは、コースやらいただきものやらで手元にやってきたいちごだけ食べる生活になってしまった。何となく遠ざけつつ、時々食べては「いちごはこれくらいでいいよ」なんて言ったりする。結構、この期間は長く続いた。
味自体は好きなのだから、全部拒絶する程でもなし。のらりくらりと少し食べて美味しいねなんて言いつつ、積極的には食べようとしない。いちごのデザイン🍓は好きなので、見た目の可愛さだけでショートケーキを買うこともあった。(なお、メインのいちごは同伴者に譲っていた)
けど、なんとなくで避けるのもちょっと面倒になってきた頃、ひとつ出会いがあった。いちごと砂糖だけの、自家製いちごジャムである。やや輪郭が崩れたくらいの柔らかいいちごを、熱々のトーストの上で潰して食べたら美味しかった。
あ、これだ。このラインなら食べられるぞと思った。そういえば、それなりの値段を出したいちごスイーツは、どれも美味しかったじゃないか。身も蓋もないが、高くていいいちご(加工品含む)なら食べられるじゃん???と、とても狭い範囲で目覚めてしまった。
それから、生のいちごも食べるようになり、段々と解像度が上がっていった。いちごにも種類があって、甘さのベクトルが全然違うと。自分の好みはこっくり甘く、水分量の高いいちごだと。
何年も自分でいちごを買うことはなかったけど、先日、あまりにいい香りに誘われて1パック1000円以上するいちごを買った。まるまると大きく、素晴らしいテリのいちごが5粒入り。いそいそとひとつだけ皿に乗せてかじってみたら、激酸っぱ事件の記憶が吹っ飛びそうな甘さだった。
いちごって美味しいもんだな?
相変わらず一回で食べるいちごは一粒で充分だけど、いけない扉を開いてしまったかもしれない。次は安売りのいちごを探して、ジャムでも煮てみようと思う。きっと美味しいに違いない。