モルタルの、素材の感覚が失われた、のっぺりと柔らかく白いビルの階段、少し高い、踊り場、景色を見渡せる、夕方の、だいだい色のフィルターを、掛けた、低いビルの西側面、陶器の、白い肌に似た、夕日の方角を、知らせるように、光っている、夢見心地の、ユニコーンのような、もも色とみず色、風が頬に、痛い、高温で光る、鉄板のような反射、薄さもガラスの透明感も、捨象されて、オレンジ色を、青色を、嵌め込まれている、窓。
⿴⿻⿸
終わりとは一点の出来事のようなものであると思われるかも知れないがこの世にそのように明快なものはなく世界は終わり続けます
終わりの終わりは来ません終わりはただ始まるのです
乱雑さの度合いとも、分からなさの度合いとも、情報の真新しさの度合いとも言われるエントロピーの数値は、必ず増大し続けることになっている 終わりが始まり続けるこの場所には秩序と区別がないのです
恐ろしさは広まりながら薄まって、前と後ろは同じになり
現に、怖がっている人はここにはいないでしょう
次は何が見えるのか、つまりは先程は何が起こっていたのだったか、自由に見て回ることができるでしょう 朝に起きると死んでいて、眠りながらナイフを刺されて目が覚め、生き返ると死に始めるここは死んでも終わらないけれど生まれても生きていかれない
■■とはそういう所なのです
⿴⿻⿸
だから今もむらさき色の道の上を青い屋根をした赤い家が生えている下側を歩いている 秩序はなく区別はなく区別が広がっていく また同じものはひとつもなくなり違うものは同じになる
黒い穴に落ちている
ねこがいて白いことりがいる 赤ちゃんをくわえてもっていった なにかは泣いていた
目で音を聞かせ、耳で形を知られるものです
光は粒になり音は光になって届きます、■■だから見るべきものだけが順番に聞こえて、聞こえるべきものだけを順番に見ることができる、
終わらない場所ならばこうはならなかったでしょう
死んだとしても、ある限り、■■は生きている
死とは、観測できる、や、生きている、の、限界の東端まで見に行って、それより先に行かれないことだけを悟り、それでもそこにあるはずだったものを思うから仕方なくそう名づけられたのだ。
だから終わり続けている始まりであるこの場所は、それを本当に見に行くことにすることができるのだ。
真昼の誰もいない町の
うららかな春の日差しや
夕暮れの手をすり抜けていく秋のこと
過去に夢想して見たすべてのものが
そこにはある ここは、帰り続ける場所
⿴⿻⿸
三拍子で進むPM五時の、夢色のひび割れた無線の音楽を見た。
⿴⿻⿸
食べ残された魚の骨が、数日経って固い銀色のテグスに変じて冬の木の枝のように錆びて泳ぎ始めた。
永遠に帰っていく。しかし先の永遠を■■は保証することができないので、ただ、今そこは帰っているとだけ。
今も、帰っている。
宇宙の年齢を超える頃も、今また、PM五時の災害無線から流れてくる、掠れてとぼけた音楽は、ゆったり三歩ずつ近づいてくるのです。
それを見て、また、帰り始めている
⿴⿻⿸
モルタルの、
素材の感覚が失われた、
のっぺりと柔らかく白いビルの階段、
少し高い、踊り場、景色を見渡せる、
夕方の、だいだい色のフィルターを、
掛けた、
低いビルの西側面、
陶器の、白い肌に似た、
夕日の方角を、知らせるように、光っている、
夢見心地の、
ユニコーンのような、
もも色とみず色、
風が頬に、痛い、
高温で光る、
鉄板のような反射、薄さもガラスの透明感も、
捨象されて、
オレンジ色を、
青色を、
嵌め込まれている、
窓。
⿴⿻⿸
白く教室の形をした夢が聞こえます
ここに人の姿はなく何も思い出は生まれていないけれど
そこには温かさがあり
白飛びした昼の日差しに似た光が満ちていて(光源もないのに!)
いつもの幸福の気配がある
それは教室そのものの気配かも知れません
ここは、穴の底であって、雲の上であって、どこかの波間を漂っているのでした。
イーゼルに絵を描く。
出来上がった、湿気た海のような春の空のような薄いみず色の絵の具の乗った四角い絵を見ています そんな色をした、名前の、画家か絵が、あったような気がした 元々あった絵だったはずなのです
それを偶然発見しただけだと思ったのです。見たことがないので懐かしさを感じたもので。ずっとそれを見つめて目を動かさないまま何も考えたくないと思う一方で、その絵の仔細を見つめ、突き止めて、考え抜いて、
理解したい
とも同時に思う
⿴⿻⿸
■■は夢の中で、終わり続けている場所だから、過去は未来よりも後に生まれてくるのだ。涙が出てくるまでは泣いていてもいい。
⿴⿻⿸
みず色のカモメがいる春の海の上の腑抜けた空を手紙にするために四角く取ってきたようです。みず色の絵を描いたその後で、この■■はそれよりずっと前に太陽の希望のエネルギーのようなだいだい色の絵の存在を持つことになった。そして遠い未来のその先では金色の絵を描いていた
この場所を知っている人のためだけにあつらえられている■■は、知っているその時にだけ見られている。
そして世界は回らなくなったけれど、誰もいたみません。穏やかさです
⿴⿻⿸
ふたつの目がある白いものが、ここで、こちらを見つめていたので目が合った。よく知らない白色でした。人かモノか動物か、兎に角それは大切に見つめていた。今もむらさき色の道の上を歩いている。あるいは隣で
少し先に行くと黒い穴に落ちる さて諸君は白色のものは一点の出来事のものであるかのように思われるかも知れないがこの世には、ないのです
終わりも始まりも
あらゆる光の波が目に届いて耳に聞こえるすべてが聞こえている
ここはそういう場所です。
機微に先立つ人は、先のものを知り先程まで何があったかをもう一度聞くこともあるのでしょう。
⿴⿻⿸
白いことりは飛んでいった そして白いものになった イーゼルは飛んでいった そして終わりになりました
昔にいたねこが この先の四角い絵を見てため息をついてうっとりと聴き入っています