デザインのもたらす価値をまったくビジネスの言葉で一般化したい。その中で、仕事の価値一般を整理することから出発することにしてみた。
Outcome = Output × Quality × Leverage
と分解する。
我々が直面する仕事は、状況を生み出すか・よくするかである。そしてその目標成果はパフォーマンスを生み出す状況である。これは事業づくりも組織づくりもそうである。そして、ホワイトワーカーのパフォーマンスは生産性だけでは測れないし、品質だけでも測れないし、そしてやっていることの筋が悪いとあまり意味がない、という複雑系に直面している。
なにかがうまくいっているとき・いっていないときに、プリミティブなものとして参照可能な枠組みを考えることにした。似たようなフレームワークを探したが、汎用性のあるものはなかった。
前提、ある仕事や取り組みのパフォーマンスというのは、より大きな目標の達成に寄与するわけだから、パフォーマンスが高いというのは量的・質的どちらかの意味でその目的への寄与度が高いということである。そして、あらゆる取り組みの効果は階層構造あるいはネットワーク構造のなかで連鎖すると想定することができる。
それでは、任意の粒度で仕事をとりだして、Outcomeを以下のように因数分解してみる。
Outcome 成果 = Output 出力 × Quality 品質 × Leverage テコ
Output 出力 = Input 入力 × Efficiency 効率
日本語にすると、高い成果というのは「多くの出力を、高い品質で、レバレッジを効かせて実行する」結果として生まれるものとする。あるいは、生まれたものとして認識できる。あらゆる状況を抽象的ながらも共通因子でとらえ、状態を診断できるようになる。式単体でみれば、常に真を返す命題である。
少し考えると、この2つの式は「抽象的な意味での量」×「抽象的な意味での効率」といってるものを2段階に分けただけである。
これをどう使うか。次のようなものがあるだろう。
起きていることをバランスよく分かることができる。
分業・協業における責任範囲を定義することができる。責任をもつことができる。
遭遇した個別具体的な事象を、経験則に変換することができる。
これらの因数を最適状態にするのが様々な種類のManagementの日常的な任務と捉えることができる
くわえて、個別具体的な事象にむきあうときに生じる妙味は、ある因子の変動がおきたときの動的な側面である。トレードオフが起きるのか、シナジーが起きるのか、あるいは弾力性ゼロなのか。その他にも、システムダイナミクスとして抽象化できる知識が知られているので、文末に記そうと思う。
各因数について、当たり前のことをならべて現実の例を題材に検討してみよう。プリミティブな枠組みを志向するので、個人・組織で考えられるようにしていきたい。
ここまでで思ったこととして、この分解も何かを行う側の取り組みを分解したものにすぎず、その対応として現実になされた成果が存在するので、イコールとするのはいまいちかもしれない。
Input 入力
成果を生み出すために必要な投資である。時間、労力、資金、知識など。
単純にいえば、多くの稼働量を投じれば生産量があがるが、ある状況を超えると効率や品質にトレードオフが生じることが知られている。そのトレードオフは投資を不効率に運用することに繋がる。
そして多くの場合、最大投資可能量は制約である
投入されるものの価値は、高い低いだけで表現しきることはできない。時間でいえば「絶好のタイミング」があるように、時点や位置で価値が変わる。
Effeciency 効率
与えられた入力からどれだけの出力を引き出せるかの尺度。これは仕事のスピードや資源の使用効率、つまりどれだけ賢く、速く、無駄なく仕事をこなせるか。
効率の面白いところは、組織内における権力がなくても任意のレイヤーから改善に手をつけやすいところである。若手でも専門外でも、阻まれずに実績をだしやすい。
効率はコストを下げるレバレッジであるので、これを極限までにすることができると他の要因が低くても実行する意義が高めることができる。たとえば、大きな効果を客観的に説明しにくい施策でも、コストが実質ゼロになるのであれば実行しやすくなる。
Output 出力
ある期間における生産量。多くの入力と高い効率によって最大化される。ある種、OutputはOutcomeに対するInputである。
Quality 品質
目的に対して生み出されたものがどれだけ適合しているかである。
Qualityの判断基準は往々にして評価者によって異なり、主観が介在しやすいし、その妥当性を客観的に評価することは困難である。ベンチマーク法なども存在するが、この世に存在するベンチマークに依存している。定型化に成功したとしてもその問題は同じである。
Qualityが実現したとして、規模が大きくなればなるほど再現性を高めることの困難が問題になる。それは効率によってなされるかもしれないし、基準化によってなされるかもしれない。あるいは無理筋かもしれない。
実務上ではQualityはOutputの一部として捉えられるが、Outputの高低の表現になじまないので、Qualityは並列概念として切り出すことにした。
Leverage テコ
レバレッジは、テコの原理。その取り組みに外部因数によってQualityとOutputがどれぐらい増幅されるかである。これに関しては、複数の意味合いを押し込んだので、式上も分解する余地があるかもしれない。
それでも、成果というものが、当事者の努力・行動そのものではなく現実化した結果を指す以上は、Output × Qualityから独立した要因が少なからず重要である。むしろ大局的になればなるほど、Leverageを発見するか・構築するかが決定的要因になる。
以下はその例である。
早さ
世界は1日という平等に支給された元手を消化しながらまわっている。一般的に、早くデリバリーされた仕事は多くの機会にはたらきかけることができる。COVID19のワクチンは早く生み出されることが、感染者数を減らすレバレッジをもっていた。長期的な投資では複利が大きな・半直感的な利益を創出する。新興市場では一番手として参入することが多くの事業メリットをもたらす(事業環境はリニアではないで、早すぎることが望ましくない場合もある)
デリバリー
QCDというフレームワークでいうところのDeliveryはLeverageに近い概念である。生み出されたものがどのような広さで、効率的に届けられるかはパフォーマンスに決定的な影響をもたらす。
ターゲット
レバレッジの質的側面である。どんなにすばらしいものが生まれても、望ましいターゲットにアプローチしていなければ望ましい成果は起こせない。戦略でいえば、勝てる市場・伸びる市場にアドレスできているか。デザインでいえば、解く価値のある課題にフォーカスできているか。ターゲットの設定は任意性が高くまた、ふつうその確からしさは未知である。不確実性の高い現代の事業環境では、こうしたターゲットの存在を明らかにする・妥当性を明らかにするための探索と評価がビジネスプロセスとして重視されている。
影響力
影響力も一つのレバレッジとすることができる。質によって影響力がなされる場合もあるが、ここでいう影響力は取り組みに外在するゲタのようなものである。しばしば経営者の時給は高いというが、一般的にそれはOutputやQualityが高いからではなく、それはそのアクションに基づいて動員される規模や影響範囲が広いからである。Leverageが高いのだ。Outputが高いとすれば、それは色々なものをショートカットできるからだし、Qualityが高いとすれば、周りのQualityが実現されてないということになる。そしてその状況は、Leverageが低いということだから望ましくない状況にある。
動的な側面
ここまで、成果をもたらす因子の抽象化を試みた。
これは、「ある状態」を分解して評価を整理したものであるが、スナップショットとして捉えたうえで操作を試みる、ほど問題解決は単純ではない。変化をもたらそうとするとき、実行者が直面する効果がいくつか知られている。
遅効性
多かれ少なかれ、施策の実行・伝播・結果の観測には時間がかかる。リードタイムとして知られている。
持続可能性
持続するのはただではないし、期せずして持続する場合もある。
維持コスト: ある状態を維持するためにはInputが必要であり、それを維持するのにコストがかかる。
疲弊: 上記の維持コストを何らかの努力維持によって行われている場合に、時間とともにそれが取り崩されていく
定着: ある体制が一定期間維持されると、均衡点が定着し、変化しにくくなる。
持続をめぐる問題の背後にはフィードバックが存在する。
フィードバック
なにかを変更すると他の因子が影響を受ける。そして、その変化はたいていの場合未知で、完全には予測することができない。
システム思考によれば、弾力性がプラスかマイナスかで正のフィードバック・負のフィードバックとして観測される。上記の組み合わせによって加速度的に進行するループと、均衡維持に向かうループが生じうる。
ボトルネック転移
バリューチェーンのうちある問題が解決されたとき、トレードオフによって次の段階に問題が発生したり、あるいは組織としてフォーカスが移行したりする帰結として、次の問題が明らかになる。
枠組みの根本的な変化
例えば、上位の目的が変わったり、組織のドメイン転換が起きた結果、特定のOutcomeの追求自体の意義が変わる場合がある。
一旦のむすび
フレームワークが提供するのは、問題を系統的に分析し、戦略的な視点からアプローチを考えるための一つの方法論である。
仕事や取り組みの成果を生み出すための因子としてOutput、Quality、Leverageを抽出し、各要素がどのように結びついて成果に寄与していくかを考察した。このフレームワークは、多岐にわたる業務やプロジェクトにおいて、成果を最大化するための構造的なアプローチを提供する。また、動的な側面を考慮に入れることで、リアルタイムで変化する環境や状況に柔軟に対応し、持続可能な成果を生み出すための洞察を与えるだろう。
そして、これらの要因をどのようにコントロールするか、リスクテイクするかは戦略のあらわれ、あるいはそのものである。
しかし、これらの整理では複雑な人間関係・心理問題や外部環境の影響などのファクターは下部構造に隠蔽されている。分解して個別に対処したり相互作用を想定するのは一つのやり方に過ぎない。もしかしたら関係者の「やる気」「凝集性」がOutputの良化をもたらすかもしれない。
ここまで、デザインのポジショントークを棚上げして成果の発生状態を分解した。次の宿題として、変化への働きかけに関する効果的な方策を提起できるかチャレンジしたい。