ひとり仕事終わりに「くら寿司」へ寄る
曜日や時間帯も関係なく速やかにカウンター席へ案内してもらえるのが有難い
一方向へ流れるものをぼうっと眺めていると心がスーッとする。河川を眺めている時のような気持ちになれるから「回転寿司」が好きなのだと思う
頭の中にある日々の悶々とした悩み事にも。少しだけ流れのようなものを感じて、幾らか心に晴れ間が差すような気がするのだ
カウンター席は間隔が狭い。両隣に気をつけながら慎重に上着を脱ぐ。後ろにハンガーの用意もあるのかもしれないがよく分からないので背もたれへ掛ける
椅子の下に荷物を置くための天板がある。フックでもカゴでもなく直置きをする仕様で通勤用のシャカシャカした素材のバッグとの相性が悪く動作のたびにズリ落ちそうになる
過去に何回か床へ墜落させているので自分には「くら寿司専用バッグ」のほうが必要なのかもしれない
着席すると、今度はあがり用の湯呑みが頭上に設置された「ビッくらポン!」の脇にあることを思い出す。たとえ誰も見ていなくても、立ち座りを繰り返していることが恥ずかしい
後から席へ通された男性がさっそく右隣で「ビッくらポン!」への参加をアリと選択し、レーンから勢いよく取った2枚のフリー寿司に手をつける。いまだに特殊な皿の取り方に危惧するので羨ましい
わたしの記憶が正しければ。少し前まで「ビッくらポン!」は全員強制参加だったはずだ。いつも心配していた
ひとりで食事をする方の中には5枚に一度必ず訪れるガチャガチャの結果発表の時間に耐えかねて、つらい思いをしてる人も少なくないのではないかと
「あたり!が出ても声に出して喜べない人間の気持ちがわかりますか!?!」悲痛な叫びがカスタマーサポート
にこだまして成仏を願っている。それが現在の選択肢が生まれた由縁ではないかと想像する
基本一名客が通されるカウンター席には、食事中の楽しい談笑は無いのである。レーンと寿司、そして自分。たまに虚しく響き渡る「ビッくらポン!」だけの世界
その禅にも似た寿司時間を破り去る、圧倒的存在感を放つ人物がカウンター席には一定数存在する
自分の頭の中には注文ページをインストール済みなんです。そう言わんばかりの猛スピードでモニターをタップし、注文レーンに続々と寿司を供給する。運び込まれた寿司をすばやく机に降ろしたかと思えば、今度は業務用バキュームのように寿司を吸い込んでゆく
ここは緊急病棟か。はたまた掃除機のCMなのか。とにかく規格違いの一分一秒を争うようなプロの食べ吸いはアスリート同然の代物である
手に汗握る感動…その歴史的快挙を真横に感じながら。何も気にしていない体裁を取る
自分はあくまでもゆっくりと。吟味しながら寿司を食べ進めていく。これこそが「回転寿司」のいちばんの楽しみなのかもしれない
プロの方々については、親しみを込めて「くラー」そう呼ばせてもらう事にしている
そんなことを考えていたら。湯呑みに注いだお湯のレバーが押し込まれたまま。自分の机の上だけが、どんどん水浸しになっていた