3月9日。と聞けば一定の世代の人は自動的に"流れる季節の真ん中で…"とレミオロメンの名曲が脳内再生されるわけだが、私にとっては夫との結婚記念日だ。
2人とも特にレミオロメンのファンという訳ではなかった。なんとなくお互いの誕生日(12月と6月)の真ん中くらいだと1年のうちのお祝いごとが定期的にあるので嬉しいし、「サンキューの日」と覚えやすいから、という理由で決めた。そして4年前の今日、ド平日だったので0時過ぎに役所に婚姻届を出し、眠い目を擦りながら労働し、いつもと変わらない1日を過ごしたのだった。
今年の3/9は幸運にも土曜日で、記念日としてはうってつけだ。でもこの1週間、配偶者はほぼ毎日23時ごろまで仕事をして疲れ切っていたし、私もそんなに元気いっぱいではない。と言う訳で、今日は1日基本的には2人でゆったりと過ごし、夜にちょっといいディナーを食べる予定にしていた。
10時頃、のそのそと布団から出てお風呂に入る。交代で配偶者がお風呂に入っているうちにわたしは洗濯物を干して、身支度をする。12時から2人で近所のパーソナルジムの予約を入れていたので、ちょっとバタバタしつつ家を出た。
トレーニングを終えて、真っ先に「とにかくお腹空いたね、お昼食べてないし」と、近くでお昼を食べることにした。近くには古くから今も人の絶えない商店街があり、チェーン店はもちろん個人経営の飲食店も沢山ある。食べ物には困らない街だ。食いしん坊夫婦にとってはありがたいことこの上ない。
ただお店がありすぎていつも迷ってしまう。昨年の7月に越してきたばかりなのでまだ行っていないお店も沢山あるし、2人であのお店はどうだこっちはどうだと話しながら、今の2人の舌にぴったりの食べ物を探した。
そして入ったのは、いかにも昔から地元民に愛されていそうな、庶民的な雰囲気の喫茶店。いまどきのフォトジェニックでおしゃれなカフェとは程遠いが、一度行くとあまりの居心地の良さにハマってしまう。そんな不思議な魅力のあるお店だ。
置いてある漫画のラインナップもなんかいい。ここにコミケ昔話があるのがミスマッチで、ちょっと面白い。
わたしは手づくりハンバーグ定食(200g)を頼んだ。配偶者も同じハンバーグを注文していたが、そっちは300gだ。わたしが前に一度来た時はナポリタンスパゲッティを食べたので、今日は別のものを。まるまるとしたハンバーグが鉄板であつあつに熱せられて湯気が上がっている。あまりに食欲をそそられ、配偶者のものはまだ提供されていなかったが、一声かけて先にいただくことにした。
ハンバーグを一口大に切ると、また切り口から湯気が上がってくる。ふぅふぅと冷ましてから口に入れたが、それでも熱くてちょっと舌を火傷した。でも美味しい。ふわふわでジューシーで、なんだかほっとする味。こんなに丸々としているのに真ん中までちょうどよく火が入ってジューシーなのは、オーブンで焼いたりしているのだろうか。個人的には、専門店で食べるような粗挽きの肉肉しいハンバーグよりもこういうふわふわのハンバーグの方が好きだ。お店の人に失礼かもしれないと思って自分から言葉に出来なかったが、配偶者が「実家でよく食べてたタイプのハンバーグだよね」と言ってくれたので、「そうそう」と乗っかってしまった。家で作るタイプのハンバーグ、好きです。
実家のハンバーグの思い出なんかを話し、私だけ頼んだデザートを食べて大満足で店を出る。入店から退店までお客さんがいっぱいで、老若男女問わず居たが、みんななんだかお店に馴染んでいた。素敵なお店だ。もっと通って常連になりたいなと思う。他のお客さんが食べてるオムライスも美味しそうだったし、メニューを制覇したい。
その後買い物したり家の用事をちょっと済ませたりしてたらすぐに日が暮れて、いよいよディナー。なんか食べてばっかりだな。
行ったのは、本当にイタリアの街角にありそうな店構えの小さなイタリア料理店。引っ越してきてから気になってはいたが、普段使いするにはちょっと贅沢なお店だったので、なかなか行く機会が無かったのだ。前菜、パン、パスタ、お肉料理、ドルチェ、飲み物のコースを予約していた。
お店に入り、窓際の席を案内された。何ガラスというのだろう、溶かした流れをそのままに固めたような窓ガラスがアンティーク風で素敵だ。テーブルの天板もワインの木箱を再利用しているように思われた。
まず飲み物を注文するべくメニューを開くが、恥ずかしながら夫婦ともにお酒の知識が無い。とりあえず1杯目はスパークリングでしょ、とか言っていたら、お店の方が見かねて説明をしてくれた。スパークリングワインのページを開き、こちらのワイナリーには去年訪問しまして…と興味深い話を聞く。折角なのでそのワイナリーのスパークリングを頂くことにした。
間も無く、オーダーしたワインと共に前菜がサーブされた。お皿に13種もの色とりどりの前菜が並んでいる。わぁ、とつい声が出てしまう。美味しそうな食べ物がちょっとずつ沢山並んでいるのって好きだ。お店の方にまた一つずつ丁寧に説明をして頂きながら、ふんふんと聞き、味を想像して期待を高める。しかし食べ始めると半分くらい忘れてしまうので、こういう時本当は録音とかさせてもらった方がいいのかもとか思う。でもちょっと情緒が無いしなぁ。
まずはスパークリングワインで乾杯。ノンフィルターということで薄い琥珀色をしている。皮と種を一晩漬けただけでこの色になるそうだ。ワインだから勿論葡萄が原料なのだけど、どこかにリンゴのような風味を感じた。爽やかな酸味と少しこっくりした甘い香りがリンゴを思わせたのかも。
前菜は小さなカップに入っている発酵白菜のポタージュから頂く。発酵白菜って日本や中国、韓国とかアジア圏の食文化なのかと思っていたけど、イタリアとか欧米にもあるのだろうか。白菜のお漬物をポタージュにするなんて発想が無かったが、驚くほど美味しかった。古漬けの白菜を油で炒めたりすると結構美味しいから、脂肪分と発酵した白菜の相性がいいのかもしれない。
これは他の前菜も期待だわ、とどんどん食べ進めていく。ひとつ食べるごとにこれ美味しいよ、と、配偶者と言い合う。わたしが特にこれは美味しい!と思ったのが、無農薬のトマトを豚肉で巻いてクミンを散らし焼いたものと、八島レンコンといいう蓮根と自家製のサルシッチャを混ぜ込んだキッシュ。キッシュの方は特に、「この、ねっとり感とほくほく感のある、甘いお芋みたいなのは何…?!」と驚き、お店の人に「すみませんさっき説明して頂いたとは思うんですけど、このねっとりするようなほくっとするような野菜は何でしたでしょう…とても美味しくて…」と聞いてしまった。快くお話してくださり、八島さんという生産者のお名前がついた八島れんこんというものだと教えてくれた。「とってもおいしいですよね、家でも余ったものを料理に使うんですよ」と気さくに話してくれて嬉しくなる。どうやらシェフである男性とホールを仕切る女性の夫婦おふたりで切り盛りされているようだ。
飲み物の2杯目を注文する。メニューにはイタリアビールを紹介するページがあり、あまり馴染みが無かったので気になっていた。また説明を聞いて、わたしはオレンジピールなどで香りづけされたビールを頂くことにした。このビールもハチミツのような甘い香りとコクがあって美味しい。
前菜のあとは白子のペペロンチーノ、炭火で焼いたローストポーク、手打ちショートパスタのトマトソースと続いた。前菜を食べた時点でフォカッチャを食べ切っていたら、「パンはおかわり出来るのでお腹の具合見てお声かけください」と言って頂き、食いしん坊夫婦にはとてもありがたかった。
白子のペペロンチーノは、ペペロンチーノにも関わらず白子のクリーミーさでまるでクリームパスタのようだった。このあたりで全然お腹に余裕があったので2人分パンを追加してもらった。ローストポークは炭火で焼いてるだけに香ばしく、あらかじめ塗られているスパイスが効いていて美味しかった。
お肉を食べ切るころ、お店の方から「お腹の空き具合は如何ですか?」と聞かれ、「全然まだ入ります」と2人とも元気よく答える。その後、手打ちのショートパスタにシンプルなトマトソースを和えたものがサーブされた。このトマトは前菜と同様、小川ファームという農園の無農薬栽培のトマトとのこと。ショートパスタはコシがあると言ったらいいのか、食べ応えがあり小麦の味がして美味しいし、ソースはトマトの甘さが際立っていてたまらなく美味しく、スプーンで余ったソースをかきあつめて掬い食べた。
後になって思ったことだが、元のコースではパスタは1品の筈なので、これは弊夫婦があまりによく食べるのでサービスで出して下さったのではないだろうか…。だとしたら本当に有り難すぎる。というかすみません。
最後はドルチェと紅茶。さつまいものプリンと、ピスタチオのムース、手作りのクッキーと苺だ。ピスタチオのムースが特に香り高くて美味しい。苺と一緒に食べるのがすごく美味しかった。
紅茶を飲みながら夢見心地で余韻を楽しみ、お会計。レジ横のカゴにクッキーが入っていて、この売り上げは全額能登半島地震の寄付金にするとあったので、ついでにそれも1つだけ購入した。
冒頭で述べたとおり、定期的に記念日が来るようにしているので次はまた3ヶ月後、配偶者の誕生日だ。その時は何を食べようか。どうも記念日を何か美味しいものを食べる口実にしているが、正直自覚はある。
今後も記念日のたびに一緒に美味しいものを食べて、次は何食べようかと話して、そうして仲良く歳を取っていけたら。それが私たちにとってはいちばんいい夫婦生活かもしれないなと思った。