World Guidance

鈴谷渉
·
公開:2023/11/16

◆ヘルメス・トリスメギストス

一体誰がそれを紡いだのか、誰がそれを刻んだのか、それはいまだに分かっていない。しかしエメラルド・タブレットに刻まれた創世神話『トリスメギストス』には、こう書かれている。

「かつて神は、3人のヒトの祖——『ヘルメス』を生み出した。『カーニヴ』、『ハービヴ』、そして『オムニヴ』である。彼らは神の命令に従い、自分たちの食べ物に別々のものを選んだ。3人のヘルメスは違う食べ物を食べたため、食料のために争うことはなかった。我々ヒトが3種に分かれているのは、神が始祖たちに『そうあれ』と命じたからである。そして始祖たちは神との約束を守り、叡智を分け合い、互いに協力してこの世界を繁栄させた。ゆえにこの世界はこう呼ばれるのである——『ヘルメス・トリスメギストス』と。」

ヒトと知性

この世界の哺乳類は、その多くが知性を獲得した「ヒト(ヘルメス)」に進化した。

この世界におけるヒトは、その食性に応じて大きく3種類に分類される。肉食種の「カーニヴ」、草食種の「ハービヴ」雑食種の「オムニヴ」である。そこからさらにオオカミ族・ウサギ族・ヤギ・ネコ族といった、詳細な族分類がなされる。

この世界の哺乳類は「テオシン」と呼ばれる物質を体内で生成する。これは哺乳類を知性ある生命体へと進化させた物質であるとされている。高い知性を獲得するような進化をしなかった一部哺乳類も産生することができるため、より正確に述べるならば「動物のうち哺乳類のみが生み出す物質」である。

この世界の哺乳類は一定以上の大きさのものは全て知性を獲得しているが、一部の小型哺乳類は例外である。彼らもテオシンを体内で生成できるが、体長や脳の大きさゆえに知性を獲得するに至らなかったため、「ヒト」に進化しなかったと考えられている。これら「ヒト」に進化しなかった哺乳類のことを「非知性哺乳類(ノイマ)」と呼ぶ。

多くの哺乳類が知性を持ち、文化が発展したことで、「哺乳類の肉を食べることは禁忌である」という道徳観念が根付いた。これは世界各地の宗教や文化の性質にかかわらず見られる。ノイマに該当する種であっても「哺乳類」を食用するのは許されないことであるという考えはごく一般的である。

この世界に生きる「ヒト」にとっては、哺乳類という言葉は「ヒト」に等しい言葉とも言えるのかもしれない。

◆ヒト/ヘルメス(Hermes)

この世界においての知性種のこと。現実においての「人間」に相当する知能、文化形成能力を持つ。全て哺乳類から進化した存在である。

基本的な食性から大まかに分類して3種類に分けられる。肉食種を「カーニヴ」、草食種を「ハービヴ」、雑食種を「オムニヴ」と呼ぶ。しかしこれは慣用的なものであり、医学的・生物学的に厳密な区分ではない。また、ある地域ではカーニヴとして扱われる種が、別の土地ではオムニヴとして扱われる、といった事例もしばしば存在する。

ヒト(ヘルメス)は進化の過程で知性を得ただけでなく、総じて雑食化が進行している。肉食傾向の強い種は植物性物質への食性適応を、また草食傾向の強い種も一部の動物性物質への食性適応を果たしている。

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◆カーニヴ(carnive)

ヒトのうち、肉食種全体を指す一般的な名称。

イヌ族、ネコ族、オオカミ族、トラ族、ハイエナ族などが該当する。

本来の食性に基づき、畜産・漁業・狩猟を中心に生活している種族が多い。

植物性の食物においては大豆などの豆類や、水分と糖分の豊富な果実を食する傾向にある。しかし、中心となるのはあくまで肉や魚・虫といった動物性食品である。

宗教においてはベナンダンテ信仰などの精霊信仰や多神教を信仰する者が多いが、レゾン教の信仰者も一定数存在する。

太陽、琥珀、そして金を神聖視する傾向があり、古代においては黄金の瞳を持ったものは「善き賢者」の一族として扱われてきた。しかし今となっては廃れた考え方であり、人々の持つ姓名にその名残が見受けられるのみである。

アウルム(黄金、Aurum)という姓は金眼のカーニヴ、特にオオカミ族にとってはありふれた姓である。

※参考……carnivore(カーナヴォア/カーニヴォー(英語))

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◆ハービヴ(harbive)

ヒトのうち、草食種全体を指す一般的な名称。

ウシ族、ウサギ族、ヤギ族、シカ族、ウマ族、ヒツジ族などが該当する。

本来の食性に基づき、農耕や採集を中心に生活している種族が多い。基本的には植物のみを食料源としているが、大規模な飢饉などの時には一部の魚類や昆虫といった動物を食べる種族も存在している。

宗教においてはレゾン教を信奉するものが多数を占める。しかし種族や地域によっては古くからの土着の多神教やベナンダンテ信仰などの精霊信仰を尊ぶ者もおり、一概にハービヴ=レゾン教徒と呼ぶことはできない。

有蹄類、とくに偶蹄目に該当する種がもつ角は、しばしば岩や樹木と連想されることがあり、権力や偉大さなどの象徴として見られる場合がある。とりわけシカ族やヤギ族などの角は集落などの長を決める基準として用いられる例も少なくない。

コルヌ(角、Cornu)という姓は、有蹄類においてよく見られる姓である。また、フリートフット(俊足、Fleetfoot)などもハービヴでは一般的な姓である。

※参考……harbivore(ハーバヴォア/ハービヴォー(英語))

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◆オムニヴ(omnive)

ヒトのうち、雑食種全体を指す一般的な名称。

キツネ族、イノシシ族、クマ族、アライグマ族などが該当する。

カーニヴ・ハービヴのどちらとも共通する食性を持つ。そのため、食料確保の手段がカーニヴ・ハービヴよりも多彩な傾向にある。すなわち、カーニヴ的な手段(畜産・漁業・狩猟)も、ハービヴ的な手段(農耕や採集)も、どちらも生活に取り込んでいる種族が多い。

宗教においてもそれは同様で、信仰している宗教が最も多彩であるのもオムニヴである。ただし、比較的肉食に近い種族はベナンダンテ信仰を、草食に近い種族はレゾン教を信仰するという傾向はオムニヴにも当てはまっている。

※参考……omnivore(オムニヴォア/オムニヴォー(英語))

宗教

◆レゾン教

分類:普遍宗教、一神教

信者割合:ハービヴ50%、オムニヴ30%、カーニヴ20%

成立年:レゾン歴17年

創始者:レゾン(ハービヴ・ヤギ族の王)

信仰対象:レゾン

聖典:レゾン教典

母体:?

主な宗派:他宗教や戒律に厳格な宗派「誓言派(アンモビウム派)」と、比較的寛容な宗派「宥恕派(ヘレニウム派)」が存在する

聖地:?(レゾンの治めた国の跡地がある?)

発祥地:?(レゾンの治めた国の跡地?)

教義:生物の頂点、知性あるヒト(ヘルメス)であることに誇りと責任を持つこと

▼概要

月狼の世界にある宗教のひとつ。

ヤギと蚕が合わさったような見た目の神・レゾンを信仰対象とする。

「知性」「理性」を最も尊いものとし、進化したヒト(ヘルメス)こそが神に選ばれし生命だという観念を持つ。

動物的なものを嫌悪する風潮があり、特に尾は「獣」の象徴として忌むべきものであるとしている。このため、レゾン教徒の多くは衣服等によって自らの尾を隠す傾向がある。一部の熱心な教徒や神官、シスターなどの中には自らの尾を切断してしまうものもいる。

月狼症、及び月狼症患者を「おぞましき獣返りの呪い」として扱っており、疾患であることを一切認めていない。レゾン教の信仰が根強い地域ほど月狼症患者への差別がひどく、いまだ改善の兆しはない。またレゾン教徒は古くから月狼症患者に対し「解呪」と称して誤った治療を強要してきた。

▼信者割合

教徒はハービヴの割合が高く、50%程度。残りを30%はオムニヴ、20%がカーニヴ。肉食族の割合が低いのは、カーニヴや一部のオムニヴが動物の肉を主食とするためである。

蚕は聖獣(聖虫)のような扱いで、神僕(しんぼく)とも呼ばれる。

▼宗派

宗派は大きく分けて2つに分類される。

誓言派(せいげんは、アンモビウム派)は保守的な思考を持つ伝統的な派閥。特にハービヴの信仰者が多く、肉食を一切禁じている。尾を切断する儀礼が存在するのもこちらの宗派。

宗派の名前はレゾンの弟子であり側近でもあったとされる聖人アンモビウムに由来する。

宥恕派(ゆうじょは、ヘレニウム派)はより多くのヒトに布教する過程で生まれた派閥。土曜および日曜は肉を食べてもよい日(宥恕の日)とされており、オムニヴおよびカーニヴの信仰者が比較的多い。

宗派の名前は中世時代の説教師であるヘレニウムに由来する。中世よりも前からカーニヴやオムニヴの信者は少数ながら存在したが、本格的に増え始めたのはヘレニウムの活動以降のことである。

主神、および創始者にあたるレゾンについては別項を参照のこと。

▼タブー・禁忌(仮設定)

・「獣」(鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類などの、哺乳類以外の動物およびノイマ)を食べること(野菜などに混入した昆虫を誤って食べるなども不可?)

・人肉食(最重罪?)

・穢れ(罪)の除去には何が必要?

・血は不浄?

・肉は不浄?

・レゾン教は蚕を神聖視→養蚕業が盛ん?→余ったさなぎは食べていたかも?→聖なる食物としての「蚕」、「神賜」などと呼ばれた?(「聖なるパン」を参照)

・蝗害→神の試練という認識

(ユダヤ教を参考に考える)

レゾン教にとっての「食べていい動物」とは?→蚕(神が与えた僕であるから)、バッタ(恐慌を招く敵対者、もしくは神の試練。これを乗り越えた印としてバッタを食べることがある?)

▼関連人物

レゾン……創始者

アンモビウム……レゾンの側近・弟子

ヘレニウム……宥恕派の説教師

ハンクス・L……レゾン教研究者(神学者)

※参考 :おしら様(蚕の神)、ヴィーガニズム、キリスト教、ユダヤ教、レゾン(フランス語で「理性(raison)」)

◆ベナンダンテ信仰

分類:土着宗教、多神教

信者割合:

成立年:不明

創始者:なし

信仰対象:自然物、複数の神(精霊)

聖典:なし(複数の伝承古典など)

主な宗派:種族ごと・または集落ごとに差異あり

聖地:なし

発祥地:(少なくともオウルフォレスト・グリーンレイク・ロックウォールを含む)

教義:

▼概要

オオカミ族を始めとした、カーニヴ・オムニヴの者たちに浸透している思想。聖典をもつ宗教というより、民間伝承や風習などの集まり。

「ベナンダンテ」とは「神々(精霊)を知るもの」や「神々(精霊)と契るもの」という意味(現実の「ベナンダンディ」という語とは異なる)。すなわち、信仰者たち自身を指す。

自らの命をつないでくれる食物全てに感謝し、それらは全て「神(精霊)」であるという考え方を基本とする。植物、虫や魚・鳥など種類は問わず、自分たちの生活を支えるものは全て神である。人々を見守る神々がヒトを導き繁栄を与えるため、食物などの姿となって人々の前に現れてくれているのだという発想である。

その信仰の形から、食事における禁忌はほとんどない。とはいえ、哺乳類であるノイマを食用することはどちらかというと避けられる傾向にある。

衣食住に利用される対象に対する畏敬と感謝の念を持つことが重視される。畏敬と感謝の念を持っていればどんなものも使ってよいが、逆に言えば敬意のない利用は神々に対する不敬であるとされ、嫌われる行為である。

▼信仰対象

神々は大きく分けて4種ないし5種に分類できる。

空の神(鳥の神)……鳥および鳥の住処とされる空への信仰。ダチョウやニワトリは飛ばないが、これらの神もここに分類される。また、ノイマであるコウモリやムササビ・モモンガ等はこの世界においてかつて鳥の仲間だと思われていたため、ここに分類される。ロアス(roas)。

水の神(魚の神)……魚や水生生物、およびその住処である水への信仰。イムズ(imuz)。

地の神(土の神、虫の神)……植物を育て、虫たちの住処である(とされる)土への信仰。信徒の種族や地域によっては土の神と虫の神は別々に認識される場合もある。ヒーク(hic)、もしくはミシュ(mishu)。

木の神(植物の神)……果実を実らせ、作物を提供する植物への信仰。ジウク(jiuk)。

食事の前の挨拶に特定の文言を用いる。これも地域や種族などにより異なるが、概ね次のような意味となる。

「神々よ、我らを慈しみたもうた精霊たちよ、あなたがたの慈愛は我らの肉と血潮に刻まれり」

▼宗教儀式

ベナンダンテの祭りは豊穣と深く関わる。

晩秋に行われる祭り「ケノ・カティエ」は、北風の悪神(カティエ、またはカティエザク)のもたらす災害を退けるためにおこなわれる。

冬の到来により食料の調達が難しくなること、生活面での苦しみが増すことを軽減しようという思想から発生している。

祭りの手順はさまざまで、カティエを追い出す儀式を行う場合もあれば、あくまで神の一種であることを尊重し、捧げ物を与えることで鎮めようとする場合もある。

なお、「カティエ(カティエザク)」という語は「異邦の者」という意味の隠語として用いられることもある。ここで言う「異邦の者」は他種族や外国人・他宗教の者のことであるが、特に領地拡大や侵略を目的とした侵攻者を指す場合が多い。

タブー・禁忌

・神々(精霊)への感謝の念を怠ること。

・穢れ(罪)の概念のその他の内容は?

・穢れ(罪)の除去には何が必要?

・血は不浄?→不浄ではない。神の一部(信奉の対象)

・肉は不浄?→不浄ではない。神の一部(信奉の対象)

・蝗害→悪霊もしくは悪の神々の起こす嵐。バッタは悪神の使いかも。バッタ食べたらダメかもしれない、もしくは食べてもOK?

・蚕→レゾン教圏ほど重要産業になってない。食べ物扱いされることもあるがそれ以外の食品で動物性タンパク質は補えるので、蚕だけを特別視することはないかも。

(神道、日本神話などを参考に考える。)

※参考 :ベナンダンティ、アイヌ神話、アニミズム(精霊信仰)、ゾロアスター教、神道

ウー(uh)

巫(ふ)、または祈祷師。

一部のベナンダンテ信仰に見られる月狼症患者が神格化された存在。

このコミュニティにおいては月狼症患者は迫害対象ではなく、崇拝対象である。

シャーマニズム傾向を特に重んじるタイプのベナンダンテ信仰圏で存在が確認できる。

月狼症の症状(目の色の変化や月の元でのみ活動をすること、そして食人衝動からくる人肉食)がある種の信仰を生み出した結果、彼らはコミュニティ内で特別な地位を持つ存在として認識されるようになった。

※参考……巫女、イタコ、シャーマニズム

神話など(仮)

・全知全能の絶対神がいた

・絶対神は「世界」と3人のヒト(ヘルメス)を作った

・この3人のヘルメスはハービヴ、カーニヴ、オムニヴという名前(?)で、ハービヴはシカもしくはヤギ(大きな角のある偶蹄類)に似た姿、カーニヴはクロヒョウまたはライオン(大型のネコ科)に似た姿、オムニヴはクマ(大型の雑食動物)に似た姿であったとされる(現実のクマは肉食動物だが、月狼の世界および『トリスメギストス』においては雑食動物として扱われている)

・ヘルメスは神の命令に従って自分たちの食べ物に別々のものを選んだ

・3人のヘルメスは地上のそれぞれに国を持ち、それを治めた

・少なくとも3人の始祖の時代において彼らは争うことはなく、協力し合って生きていた

・しかし3人のヘルメスが天寿を全うした後の世界では争いが起きるようになった

・3種のヒトは分断し、さらに細かく国が分かれていった(この過程で固有種、すなわちネコやイヌといった「種族」が生まれていったとされている)

・数千年ののちにレゾンというハービヴの賢者が生まれる

・レゾンは始祖ハービヴの直系の子孫(最も濃い血統をもつ者)だとされた(後付け神話。神託や預言などの補強の逸話あり)

・レゾンは非常に知恵のあるヤギ族の青年で、生まれつき尾をもたなかった

・ヤギ族にとどまらず複数種のハービヴを率いる統率者となり、当時としては比較的大きな国を作った

・レゾンが尾を持たないことは単なる先天的特性によるものだが、これにこじつけて「尾を持たないもの」=賢者という考えがハービヴの中で広まるようになった

レゾンは知恵、純白、クワ、カイコなどと関連づけられる(どれもレゾンが重視したもの)

・レゾンの死後、側近だったアンモビウムがレゾンの遺志を継いで(?)レゾン教をつくった

・アンモビウムはレゾンに心酔しており、レゾンが死んだ後に喪に服する一環として自らの尾を切り落としている

・エメラルド・タブレットはレゾン教よりも数千年昔に生まれたものであり、本来は直接関係がない(というよりレゾン教側が「エメラルド・タブレット」の伝説『ヘルメス・トリスメギストス』に影響を受けている)

@zinn2602
一次創作の設定文章と個人の雑記。普段はmastodon(fedibird)にいます。 【プロフィール兼リンク集】 lit.link/swr2602