クワトロ「何をする気だ、アムロ!」
アムロ「そうだシャア! 奴にはアウドムラを無傷で手に入れたいと言う欲がある!
これは2005年『劇場版 機動戦士Ζガンダム』の1シーンのセリフ。ガンダムの授業をしたいわけではないので簡単に説明すると、アウドムラというのはガンダムの世界に4機しかない超大型輸送機。つまりアムロという人が「ははーん敵のパイロットは超大型輸送機を撃ち落としたいのではなく、奪い取って自分の軍隊のものにしたいのだな。要するにアイツは手柄を立てたいわけだ!」と見抜きそこから勝機を見出した、というシーン。
ちなみに元になった1985年放映のテレビシリーズでも同様のシーンがあるが、アムロのセリフでは「欲」について触れられていない。つまり「欲」の話は監督が2005年に言わせたかったセリフだということ。富野監督はこの頃から「乗り物(インフラ)と権力の結びつき」を見出していたたようで、2014年の『Gのレコンギスタ』でそれをさらに発展させている。地球と宇宙の間で人や物資を輸送する宇宙エレベーターや、金星からエネルギーを運ぶ巨大宇宙輸送船クレッセント・シップ、同じくエネルギーの輸送船でありながら作中の宗教における "御神体" として扱われているカシーバ・ミコシなど、多数の乗り物(インフラ)が資本主義的な権力として扱われ、それを複数の勢力が奪い合う展開が描かれている。
で、例によって話が脱線しているが、今日したいのはインフラの話ではなく、富野監督が上手いのはこういったインフラが存在した時に「人々にどのような "欲" が生まれるのか」を描ける人だということ。
最近私は「優れた創作者は人の欲を読むのが上手い」という仮説を立てている。例えば最近再び「笑い男」がSNS上で話題になった『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の神山監督は、未来の世界の技術を想像することだけでなく「その技術があると、人はどんな欲を抱くのか」ということを読むことが上手い人だと思う。電脳化と義体化が進んだ世界で、例えば難病患者は、投資家は、宗教2世は、不正を知った人物は、AIは——何を求め、何をしようとするのか?欲が見えるからこそ、実感のあるリアリティと時代を超越した普遍性が生まれる。以前話した「マンガの面白さ=解像度説」も人の欲を見る力があればこそ解像度の高い描写が生まれる、も言えるのでは。
何もこれはクリエイターの話だけでなく、マーケターも同じ。「欲を見る力」というのは「ベネフィットを見つける力」と同義である。モノとは本質的に「機能」ではなく人の「欲」にフィットしたから売れるのだ。
それこそ最近はビジネスの世界でもSFプロトタイピングがバズワード化しつつあるが、もし「未来はこんな技術が出てくるでしょうね!」だけを考えるのでは何の意味もない営みになってしまうだろう。
人の "欲" を見る力こそ、ビジネスに必要な本質的スキルではないだろうか。