チープは価値か?

俺の生活は質素だ。

趣味っていえば——ダイナマイトに火薬、そしてガソリン!

その3つの共通点は?……安いってこと。

マーケティングにおいて、商品の提供価値として「安価であること」を挙げてはならない。「うちの商品のウリは安さです!」とは口が裂けても言ってはならない。なので安いことを訴求するのではなく 「安価だから複数のバリエーションを買いやすいですよ!」など顧客の視点での価値に置き換える必要がある。その理由は単純だ。マーケティングは商品を安売りではなく、顧客に価値を認めてもらった上でお金を払ってもらうための営みだからだ。

消費者である私個人としても「安ければなんでもよかろう」的な悪い意味のコスパを考えた買い物は避けてきた。しかし、いよいよそうも言っていられない世の中になってきた。

X100VI シルバー・ブラック2台の製品画像

富士フィルムの高級コンパクトデジカメ・X100VIの価格は350,900円である。これは3年前に発売された前機種であるX100Vの価格である164,500円の倍以上だ。急激な円安、近年デジカメは高性能化に伴う高価格化が進んでいること、そしてインフルエンサーを中心にブームとなりプレミア的に価値が上昇している影響は理解できる。元に前機種であるX100Vは世界的なブームを巻き起こした結果、価格.COMの推移グラフを見るとX100VIの価格とほとんど同じ値段まで高騰している。

X100Vのここ2年間の販売価格のグラフ

が。これはいくらなんでもだろう。まったく同じものが時間を経て安くなるどころか、倍以上の価格になる状況を看過できる人間なんておるか!? おかしいだろ!? Apple製品も富士フィルムのカメラも、それどころか日常のスーパーの買い物すら信じられない価格に変わっていく…。

だから最近の私のブームは「チープ」になった。最近のチープな買い物をいくつか紹介する。

KOSS PortaPro、3APLUS Retro(第2世代)

KOSS Porta Pro

自分の中でチープブームの火付け役は5年ほど前に購入したKOSS Porta Proだった。最近はリモートの機会が増え、イヤフォンやオーバーイヤー型のヘッドフォンの装着感が煩わしく感じるようになった。だがPorta Proはとにかく軽いのが素晴らしい!AirPods Maxを使うのをやめて最近はPorta Proばかりを使うようになった。

ただ正直なところ、ワイヤレスな機種が欲しかった。Porta Pro Wirlessという機種もあるのだが現在は廃盤になっている。そこで買ったのが3APLUS Retro(第2世代)

3APLUS Retro(第2世代)の製品写真

はっきり言ってしまえばパチモンである。がこれがなかなかよくできているのだ。完全ワイヤレスを実現するためにPorta Proとは違う変形構造を新たに採用しており、コントローラーの操作感もいい(気に入らなかったのは、音量を最大音量にした時の警告音がうるさいことくらい)。音質はPorta Proには及ばないが、十分な音質だと思う。これがAmazonのタイムセールで5000円台で買えてしまう誘惑には勝てなかった。願わくばKOSSには同じ機構でPorta Pro Wirless2を作ってほしい。

CASIO STANDARD MENS F-91WC.

CASIO STANDARD MENS F-91WC.

チープといえばチープカシオ。これは海外販売モデルで、4色から選べる。悩んだ挙句オレンジを購入。仮に他の色が気になったとしてもこの価格ならいくらでも買い足せるだろう。Apple Watchの電池の持ちが悪くなってしまったため、次のApple Watch発表までの繋ぎとして購入したが満足度は高い。

LG 27UN880-B

個人用のPCモニターがほしかったので今年に入ってから中古で3万円台で購入。機種にそこまでこだわりはなく、一定のスペックのUSB-C接続可能なモニターであれば良かった。しかし中古とはいえこのスペックのものがこの値段で買えるならもうそれで十分じゃない?


最近格安コンパクトデジカメKodak FZ55が巷でブームになっているのも、多くの人がチープであることに魅力を見出すようになった結果ではないか。

ただ冒頭の件を繰り返すようだが、本来はチープであることに価値はない。Kodak FZ55だって「チープであるからこそエモい画質を楽しめる」というのが皆に支持される理由だ。

が、しかし。社会情勢がここまで変わると「安く手に入ること」自体が妙な価値を生んでしまうのも事実だろう。

@akirafukuoka
福岡陽(akirafukuka) NTTコミュニケーションズ デザインスタジオ KOEL 所属 ntt.com/lp/koel ブランドストラテジストとして「善いブランドを創る」ためブランド/ストーリーテリング/デザインを扱う仕事をしています。