JIS配列のように「独立した英数かなキー」があるUS配列キーボードがほしかったので用意した

昨年から執筆の時間を増やしたいと思い、コンパクトで打ちやすいキーボードを探していた。これまでApple純正キーボードを使ってきたが、せっかく買うならコンパクトで使いやすく静粛性が高く、そしてデザインの優れたキーボードが欲しい。ではどのキーボードを買うべきか?

いい感じのJIS配列キーボードの選択肢少なすぎ問題

Nuphyはいい。私だってNuphyの最新キーボードが使いたい。特にAir V2以降のデザインはより一層良くなった。実機を店頭でも確認している。

Nuphy Air60 V2

でもね、私は30年の時間を経てJIS配列の英数かなキーに慣らせられてしまった人間なんですよ。US配列におけるCntl+スペースの英数/かなトグル切り替えは脳のリソースを喰うため避けたい。「このキーを押したら絶対に英数入力になる」ようなステートレスな切り替えじゃなきゃ嫌なのだ。

実は前述のNuphyも以前はJIS配列キーボード(Nuphy F1)を発売しており私も使っていたのだが、当時はまだNuphyの技術力が低かったころの製品だからなのか耐久性が低かった。NuphyとしてもJIS配列版がほとんど売れなかったのか、2024年5月現在の商品ラインナップからJIS配列キーボードは姿を消している。世界市場において日本語・JISキーボードはマイノリティなのだ。

「じゃあUS配列のキーボードに、Karabiner Elements使ってCommandキー単押しを英数かなに割当てればいいじゃん?」…だがUSキーのCommandキーの位置と、JISキーボードの英数かなキーの位置が全然違う。とくにかなキーの位置の違いはかなり大きく、親指でかなり押しずらい位置になる。

また「Karabiner Elementsを使って英数かなに対応する」ということはすなわち「iPadでは使えない」ことを意味する。ソフト的にではなく、キーボード自体のキーアサインを直接書き換えられる製品が好ましいだろう。

改めて「私がほしいキーボード」の要件を整理すると3点になる。

  • 英数かなキーがある(JIS配列である、もしくはキーアサインを変えられる)

  • 独立した十字キーがあり、一般的な逆T字配列である

  • 60%サイズである

ではそれに該当するキーボードがあるかというと…

  • (1) JIS配列60%キーボード

    →HHKBが該当するがデザインが好みじゃないので却下。ロジクールのMX KEYSシリーズもなんかちょっと違う。Keychronは十字キーが横一列配置。日本メーカーのゲーミングキーボードはJIS配列のものが多いが独立した十字キーがない機種がほとんど。

  • (2) US配列だが「キーアサインが変更可能」かつ「英数かなの位置にキーがある」60%キーボード

    →これに該当するキーボードはほとんどない。が、唯一該当するキーボードを見つけた!

それがNiz Atom66である。

Niz Atom66

Niz Atom66

Niz Atom66はUS配列には珍しくスペースバーの左に4つ、右に3つキーが並んでいるキーボードだ。これならスペースバーの両隣のキーを置き換えることで、JIS配列の英数かなキーの位置をUS配列でも再現できる。

実はAtom66は数年前から希少な静電容量式キーボードということで注目が集まっており、価格も円安の影響か段々と高騰し始めている。というわけでチープブーム(以前の記事を参照)の私はメルカリで1万円台で売られていた個体を中古を購入。

さあキーアサインを変更変更しようとNizのWindows専用のAtom66キーアサインソフトを使ってみたのだが問題発生。Atom66はJIS配列特有のキー、つまり英数かなキーが登録できない!以前検索した際に「できました!」と言っている記事があったのだが…あれは勘違いだったのか。しょうがないので、まずスペースキーの左右のキーをPCでしか使わないApplicationキー/PrintScreenキーに置き換え。そしてMacにKarabiner Elementsをインストールし、Applicationキー/PrintScreenキーをそれぞれ英数キー/かなキーに認識するように設定!

結局Karabiner Elementsは必要になってしまったが、これで当初の狙いだった「JIS配列と同じ位置に英数/かなキーを "Commandキーをごにょごにょするのではない方法で" 配置する」は実現できた。これはスペースキー左に4つキーがあるタイプのキーボードでないと実現できないことだ。

配列変更に合わせキーキャップも変更した。

Atom66のキーキャップを交換した様子

キーキャップはAliExpressで購入。4.75uのスペースバーは他のルートで確保。BackspaceがDeleteになってたり、Shiftキーが2つ並んでいたりとまあまあおかしい感じではあるのだが、ともかくこれで「JIS配列のように "独立した英数かなキー" があるUS配列キーボード」は完成した。

実際にAtom66を使ってみて感じるのは、押下圧35gの軽さ。あまりに軽すぎて手を乗っけているだけで気づかず押しっぱなしになるともあるにはあるほど。そして静電容量式のため静粛性も高い。キーボードオタクではないが、間違いなく人生で一番いいキータッチのキーボードだ。

ちなみにHHKBは何度か使用したことがあるが、HHKBは押下圧45gなので35gのAtom66のタッチとは別物だと感じた。私は断然Atom66のほうがいいと感じる派。またAtom66の使用上のポイントなどはもし機会があれば別記事で深掘りしたい。

JIS配列キーボードはマイノリティである

そもそも私の悩みは「JIS配列キーボードの多様性のなさ」から生じたものだ。

HHKBはいい感じのデザインのキーボードを作ってほしい。Nuphyはもう一度JISキーボードを作ってほしい。NizもJISキーボードを作ってみませんか?そして自作キーボード界隈も分割キーボードを作るエネルギーをほんのちょっと割いてJISキーボードを作ろうとは思いませんか???!!!!

…と、あれこれ話したが最後は結局「Apple純正キーボードがよかった」という結論も大いにあり得る。最近各種サービスがパスキーに対応しはじめているので、指紋認証が使えるMagic Keyboardのメリットはぐんぐん上がってる。これでUSB-C対応したら…

結局、最新機能や日本語対応のようなサポートなども加味するとApple純正キーボードを超える選択肢はないのだ。そう思うと、大金持ちの大企業が日本語という世界の中のマイノリティに対応してくれているありがたさと、なんとも言えない悔しさを感じるのであった。


ここから追記:先日Twitterでこんな投稿を見つけた。

Nuphyから最新モデルのJIS配列キーボードが出る!?!?!? え??あ??? え??? あれっ、私がやってきたことは一体なんだったんだ……!?!?!? あの、苦労した意味、意味とか!!ここまで私が書いた文章の結論とか!!あの、いい感じの読後感を残すようなやつとか!!!

——私の心の中では「いや〜嬉しい、嬉しいな〜…」「Nuphyが収益が期待できる程度に日本のキーボード/ゲーミングキーボード市場が盛り上がっているんだな〜」「もっと早く出してほしかった」「でもJIS配列キーボードのリリース、本当に継続的にやってくれるんだろうか…?」「実際比べてみたらAtom66のほうがよかった、みたいなことにならないか…?」という気持ちがないまぜになりもやもやする。なのでNuphyはHalo65 V2のJIS配列版を早く出しましょうね〜〜〜。

@akirafukuoka
福岡陽(akirafukuka) NTTコミュニケーションズ デザインスタジオ KOEL 所属 ntt.com/lp/koel ブランドストラテジストとして「善いブランドを創る」ためブランド/ストーリーテリング/デザインを扱う仕事をしています。