前編はこちら→入院日記前編|あるさ (sizu.me)
朝食を食べ終えるとリハビリで歩く事になった。
翌日歩かされるというのはあちこちで聞いていた事があるが、まさか本当に翌日とは……しかし、癒着を防ぐためなので仕方がない。
身体を起こすのは本当に辛く、最初はコツが必要だった。両足を先に下して、手すりに掴まりながらゆっくりと身体を起こす。この時かなり痛みがあったので私の場合だが頭の中で「大丈夫、大丈夫、起きれる」と何故か考えながら身体を起こしていた。
まずは看護師さんと一緒にトイレまで歩く事に。病室がトイレから一番遠い部屋だったのでこれは良いリハビリになるなと思いながら歩いて行く。移動には問題が無かったので、尿管を取る事に。広い場所が良いという事で身障者トイレで管を抜いてもらった。これで残っているのは点滴とドレーンである。複数の看護師さんに「ドレーン抜いたらかなり楽になるって方多いんですよ」と、言っていた。ドレーンは医師でないと抜けないとのこと。
ゆっくりと歩きながら病室へ戻る。こまめに歩いてくださいねと言われたが身体を起こすまでがしんどいなあと思っていた。
手術後の採血で、貧血の値がかなり引くくなっていると言われて事前に取っていた自分の輸血用の血液を戻す事になった。が、ここで事件発生。点滴と同じ管を使っているのに、血が点滴のように落ちていかないのである。自分の血が凝固でもしているのだろうかと不安になるが、そこは問題無いらしい。看護師さんがわらわらと集まって来る。自分の血が私に戻って来るのを拒否しているように思ってしまう。取り敢えず様子見ようという事になり、私はお手洗いに向かうのだが、点滴の代わりに血が入ったパックをガラガラと引きずって腹からドレーンの赤い排液が飛び出しているこの状態。血が苦手な入院患者さんがもしいて、すれ違うような事があったら大丈夫だろうかと不安になってしまっていた。尚、輸血はいきなり落ちていって無事終わった。何故入って来なかったのか、原因は誰もわからない。
翌日、点滴も終わってドレーンが抜ける事になった。日曜日だったので外来は誰もいなく、私はちょっとテンションが上がっていた。休日出勤の先生が診察して、ドレーンを取ってくれたのだが、個人的にはこのドレーンを抜いた時が一瞬ではあるのだが一番痛かった。看護師さん達が言っていたように、身体は大分楽になってきた。リハビリがてら院内の散歩をしてもいいかと尋ねたら「今日は休みだから立ち入り禁止エリア以外ならどこでも移動して大丈夫、平日は外来の患者さんいる場所は長時間いないように」との事だったので無理しない程度にゆっくりと院内を散歩した。歩くと下から響くような痛みがあるのだが、少しずつ収まっていくといいなとか思いながら歩く。途中、外来で顔見知りになった看護師さんと偶然遭遇して、手術が無事に終わった事を報告すると喜んでくれた。
ドレーンを抜いてから、自分が回復していくのがより一層実感できた。少しずつ動く事が出来るようになっていく。痛みに耐えながらベッドから起き上がる時間も少しずつ短くなっていた。ある日、同室になった患者さんが入院当日手術、翌日退院だったらしいのだが、痛みを訴えて夜遅くに先生がやって来て色々処置をしているっぽかった。翌日退院できる状態ではあったらしいのだが、その人は「無理」と、言って退院が延びたらしい。痛みが強いのか、その人が痛みに弱い人なのかはわからない。私は痛みに強いというか鈍いので(私がちょっと痛いなあと思った時は検査の後車椅子出されたのが2回ある)痛いには痛いが我慢できる痛みだった。
入院中は自主的にリハビリを行うのと定期的に先生や看護師さんが来る以外は基本暇である。持ち込んでいたタブレットとSwitchは非常に役に立った。呪術前、一度先生に思い切り見られたのだが「入院中位しか思う存分遊べませんからね、沢山遊んでください!」と、言われたので点滴が終わった後(手の甲に針が刺さっていたのでちょっと抵抗があった)遠慮なく遊ぶ事にした。ただ、自分の性格上、未クリアのゲームを遊ぶと夢中になりすぎてしまうのでここは一度クリアしたゲームでありシステム上キリが良く中断できるオクトパストラベラーを中心に遊ぶ事にした。
前作とはちょっと違った遊び方をしようと思い、エンカウント半減と歩いてリーフで危険レベルの高い場所を歩き回っては戻りを繰り返し序盤で大金を稼いだ後、本来終盤で行く町へ向かって強力な武器防具を買い取ったり盗んだりしていた。
MMOであるドラクエ10はチャットで話しかけられると困る為にログインを非表示にする事を事前に知らせて日課と水やりだけで遊んでいたのだが、フレンドからお見舞いのお手紙が届いて泣きそうにもなった。
退院が近づいて来る。私はふと、スマホとペンを取り出してメモ帳に計算を始めた。入院費がどれくらいかかるか簡単に計算をしたくなったのである。限度額認定証があるので保険診療分は簡単に計算してわかるのだが、食事とオプションは保険外である。絶食の日もあったのでそれは抜かして……病衣やオプションはこれくらいで……あ、今回の手術に適応じゃない麻酔使うとか言っていたけどあれいくらかかるんだろう……あ、でもそれだと混合診療になるから病院持ち出しか?
いくらくらいになるんだろうなあと看護師さんが来ている時に話したら看護師さんが「概算でよければ用意できますよ? 大金持ち歩かないでって病院で決められているのもありますけど、退院の時迎えに来る方に用意してもらうのに聞いて来る方結構いますし」と、言ってくれた。お、それはありがたい。暇なときでかまわないのでと伝えて仮の請求書が届くのを待つ。
請求書を見て私は頭の中に「?」が浮かんだ。思ったより安い。特に食事代が。1日分は絶食だったのでそれはわかるのだがそれにしても安い。長期だと少し割引でもあるのだろうか……? 入院は自分の管轄では無いのでいくら考えても答えは出てこない。調べればわかるだろうが面倒だし安くなったのは良い事だと思う事にした。
やってきました退院の日。荷物をまとめていると看護補助員の方が顔を出して退院を喜んでくれた。良くしてくれた看護師さん達もやって来てくれて退院するのがちょっと寂しくなってしまったり(笑)看護師さんから「藍原さんに癒されてました」と、言われてつい照れてしまった。癒されるような事は全くしていないのだが……
流石に退院は家族にフォローをお願いしていて、母に迎えに来てもらい、ついて来た伯母2と一緒に当面の食料を買って帰宅。本当は実家で暫く過ごす予定だったのだが、退院後の再診まで間が空いていないのと、当分シャワー浴なのだが実家のシャワーが壊れてしまったので(湯舟に浸かってはいけない)自宅に帰る事に。母と買い物をしているといつもの癖で荷物を持とうとしたのだが、傷が痛んで母に止められてしまった。
久しぶりに自宅に戻り、暖房をつける。今日は寝ていなさいと言われていたのでベッドの上でゴロゴロ過ごした。
ああ、長かったようで短かった……
暫く眠り、目が覚めた時、私はある事を思い出した。
「保険請求しないと……!」
入院日記 終わり