地獄のメリーゴーランド 後編

前編👇

見つかったら連絡するので電話番号と名前を教えて欲しいという店員さんの配慮に感謝をして番号と名前を告げ、電話を切った。

とにもかくにも東京駅に戻って探すしかない。既に某国製ミサイルの軌道計算に加わっているかもしれないが、やれる事はやる。

ダメ元でアップル製品の位置を探せるアプリ「探す」で紛失したリュックに入っているMacbook Proを検索してみると、思った通り「位置情報が見つかりません」の表示。

確かネットに繋がったらデータを自動消去させる機能があったような。新幹線で開発していたデータはまだサーバーに上げていなかったはず。あぁ...。パスワードは掛かっているから最悪データが盗まれることは無い...はず。念のため全てのサービスのパスワードは変えておくべきか?新しいMacbook Proを買うと円安だから60万か...。iPad Proも買い直すとしたらペンも入れて80万?...。

絶望に足元から飲み込まれながら、何となくiPad Proの位置もアプリで確認すると「4分前」という表示と共にiPadの画像が東京駅に現れた。

カバンごと盗んだ奴がまだのうのうと東京駅でぶらついている?

犯人の近くまで行けばiPhoneから、盗まれたiPadやMacbookからアラーム音を鳴らすことができる。アラーム音発生と同時に後ろから腕を締め上げて押し倒し、背中に乗ったら髪を両手で掴んで顔面をよく冷えた床に塗り込めば制圧できるだろう。

待ちわびた中央線がホームに滑り込むと急いで乗り込み、車内で犯人制圧シミュレーションを繰り返す内に神田を抜けあっという間に再び東京駅にたどり着いた。

改めて携帯でiPadの位置を確認すると、まだ東京駅構内にいる。だが、運が悪いことに携帯の電池残量は20%。ゆっくり探してはいられない。

電車のドアが開くとまずは犯行現場、東京駅地下1階の親子丼屋に急いで向かう。電車内で何回も真剣に犯人制圧シミュレーションをしてはいたものの、正直、店員さんが実はちゃんとリュックを探しておらず、まだ机の下のフックにぶら下がっているというオチに期待していた。

親子丼屋の前に着き、つい先程まで座っていた席をガラス越しに見ると男性サラリーマンが座って足元に黒い通勤カバンを置いていた。もう一歩ガラスに近づいて神に祈る気持ちで机の下のフックを覗き込むと、そこには何も掛かっていなかった。

iPhoneに映るiPadの表示によればこの辺のはずだが、正確には分からない。「探す」アプリのiPad詳細情報欄にある「サウンドを再生」ボタンを押して耳を澄ます。

.....

何も聞こえてこない。ダメか。

お店は空いていて男性客1人しかおらず、見つかっているなら電話をくれているはず。ダメ元で再びiPadのサウンド再生ボタンを押しながら店内に入ると店の奥から若い女性が出てきた。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「いや、先ほどカバンを忘れたと電話したものですが...」

「あー、はいはい」

この女性が電話の相手だったようで笑顔を見せるとレジの後ろに歩いていった。

まさか?

後ろをオロオロとついて行くと水色のプラスチックのカゴに入った黒いリュックを指差して「こちらですか?」と女神は言った。

「それです!!」

良かった!良かった!本当に良かった!心から神様に感謝した。久しぶりにMacBook Proのずっしりとした重みを背中に感じながら、今日はもう家に着くまで絶対下ろさないと誓い再び中央線のホームに向かった。

@ataka
できるだけしずかにするので、仲良くしてください