2024/04/12――一本満足一本で満足する

atoraku
·

いま、ぼんやり見ていたテレビでトヨタのCMがかかっていて、トヨタの社長がタイに行っていた。「タイの方々に「コップンクラップ」ですね~!」と言う。

友人とタイ料理屋から出るときにお店の方が言ってくださった言葉がわからず、だいたいそういうときに言うよな~という言葉を調べて日記に記しておいたのだが、今日トヨタのCMを見たとき、あれは「コップンクラップ」だった!と思う。日記に書き写したときその記憶は出てこなかったのに、今日そう確信できたのは、たぶん音として聞いたからだと思う。「クラップ」の部分は発音としては「カー」に近い、と聞こえる。それでも「コップンカー」は女性語で「コップンクラップ」は男性語という厳密な違いがあり、お見送りしてくれたお店の方は男性の方だった(と見えた)ので、「コップンカー」とはたぶん書けない。ともかくわかってよかったし、お気に入りの店なのでまた行きたい。ありがとう、トヨタのCM、コップンクラップ。

大学初日。朝は昨日が遅かったので8時半に起きた。トラつばのリアタイ記録はわずか4日でストップした。仕方ないのでお昼の分を録画して家を出る。引きつづき通学では音楽を聴いていたけどまだ目の奥のあたりがぼんやりしていたので、いけいけな曲からアンビエントに切り替えて(ブライアン・イーノの『Ambient 1 : Music for Airports』)ずっと目を閉じていた。昨日の映画のせいか初日の登校にかかるプレッシャーのせいか、目も耳も張りつめ、情報の拾い方に偏差が出る。不快な情報が刺さりやすかったような気がするのと、頭のなかにうまく言葉が形成されていなかった気がする。ともかくそんな状態で大学に到着した。初日とはいえ今日は授業はなく、部室とかお友達とか教授とかにちょっと挨拶しようかなと思って来た。だからなにもすることはない。戸山の丘で座る。

風にゆれている草木を眺めていると、朝はいいものだな、とか思う。草木は草木であるというだけで見てて飽きない。11時くらいになっていたので、きっとこの不調も小腹が空いているからだろう、高校の友人はどうしてもお昼を食べないといらいらしてしまうと言っていた、などと思いだして、一本満足バーを食べはじめる。食べているときはたしかに、調子が悪い感じはしないな、フラットだ、と思っていたのだが、これは咀嚼に気が紛れていただけかもしれない。一本満足バーというのはよくよく考えるとすごい代物で、砕いたナッツとか乾燥させたレーズンとかを不揃いに寄せ集めてチョコで固めている。噛むのが恐ろしく大変で、岩石の多い地層をそのまま切り取って食べているみたいな妄想をする。ゴリ、ゴリ、ゴリ、ゴリ……バー後半はなんだか気持ち的に「遠い」感じがした。中学受験のために塾でお昼ご飯を食べることが多くなった子どものころよりも、いまのほうが「満足」している。昔は一本満足一本で満足しなかった。雨が降ってきて、草木は揺れなくなってしまった。でも雨の音はよかった。

寒くて室内に移動したくなる。前では新入生のグループが、学食とかってどこなんだろう、と言っていた。大隈ガーデンハウス?グランド坂食堂ってのもあるよ? わたしは、猛烈に、戸山のだったらあそこにありますよ、と丘から見えるカフェテリアを指さして言いたかった。それらに行くのは遠すぎる…!寒いし、たぶんどう頑張ってもカフェテには辿りつけるし…!でも、自分から新入生に声はかけられない。戸山カフェテリアってのもある、とひとりが言ったところで安堵して席を立ち、屋内に向かった。スタバの前の匂いはメロンとコーヒーが合わさってて、なんて言ったらよいのか、ちょっときもかった。

33号館のなかのベンチみたいな共用スペースに座る。ベンチはいくつかあって、それぞれ3人掛けのものが適度な間隔で置かれている。2限が終わるまえだったからかなり空いていて、そのうちのひとつの、3つあるうちの真ん中の席にひとりで座っていた。しばらくしてお昼の時間になり、右隣のベンチに座ってきた男子(だと思う)ふたりが、いまのうちに食っちゃおうぜ~とお昼を食べだした。わたしは津村記久子『水車小屋のネネ』を読んでいたのだが、しばらくすると、彼らのベンチの左端に座っていたひとが、食べ終わったおにぎりの袋を彼の左隣の席すなわちわたしのベンチの右の席にポイ、と置いた。置いてからふたたび彼は彼の友人に向き直ってこちらからは見えないなにかを食いはじめようとする。平然と行われるとなんの感情も出なくなってしまうのだが、いま、彼は、わたしのベンチにおにぎりのゴミを置いた。いや、どうするつもりなんだろう。食べ終わったらさすがに回収するよな、というか次の食べ物に持ち変えて袋を開けるときのゴミの置き場に困っただけで、次のおにぎりかパンかなにかを食べるときには回収するよな?と困惑しつつ、視線は本に落としたまま待機する。結局食べ終わるまではそこに置いたままだった。

席が分かれているとはいえ誰かが使っているベンチにゴミをふっと置いておくなんて、わたしにとっては信じられない感覚なのだが、「わたしのベンチ」と書いたわたしの領土感覚と彼の領土感覚はぜんぜん違うのかもしれない。そもそも共用スペースだから、わたしもそこを自分用の場所だと訴えるつもりはない。ただ、ちょっとお邪魔するにも、少なくとも「お邪魔してますすみません」と伝えるためにおにぎりのゴミに身体と目を向けるくらいしたほうがいいのではないか。これは、一旦ですから。一旦置かせてもらってます。用いる範囲も最小限にさせていただきましたんで。もういま、いま回収するんで。すみません。みたいな。わたしが真ん中に座っているベンチの右の席は、たしかにわたしの席ではないけれど、それにしても佇まいがふてぶてしすぎやしませんか。そう思った。

なんの話だろう。

そのあと先輩に会い、めっちゃ楽しくお話させてもらったり、部室に顔を出して久しぶりに会う人やはじめての方と喋ったりして、夕方くらいには帰った。帰ったあとはほとんどなにもしなかった。4年生だし大学は慣れてるものだと思っていたけれど、いやいや、疲れた。