寄贈のすすめ ──作った本を図書館に置いてもらおう

Dr.ギャップ
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公開:2024/6/8

 プライド月間の連載で「クワロマンティック/アロマンティック/アセクシュアルの本が少ない」という言及をしました。この「少ない」は、国立国会図書館サーチという「国立国会図書館および全国の大手図書館の本などが一括で調べられる検索機能」で検索した結果に対する所感なのですが、この検索には引っかからないけどあるよ!という本もあるはずです。具体的には、商業出版物は検索できる(国立国会図書館にほぼ確実に本がある)はずなので、自費出版の本の中に見つけられていないものがある可能性があります。

 自費出版(同人誌や私家版と呼ぶことも)の本は、たとえば図書館の蔵書検索やネット書店の検索に引っかかってこないこともあり、ジャンルを問わず「あることがわからない」ということが起こりやすいのではないかと思います。作者の側からすると「本はあるのに知ってもらえない」ことになります。で、その解消のために作者が取れる手段として、【図書館への寄贈】というものがありますよという話を以下ではしています。

 主に自分で本を作る/作ったことがある人向けの記事です。今よりももっともっと遠くまで本を届けたい、という方の参考になれば嬉しいです。

寄贈って何?

図書館に対して無償で資料(本や雑誌など)を提供すること。

図書館に本があるとここが嬉しい!

●販売用の在庫がなくなった後も、読者が本にアクセスできるようになる

販売在庫がなくなった後も「ここの図書館で手に取っていただけます」という案内ができるようになります。自分は共有結晶という同人サークルさんとその本が大好きなのですが、共有結晶さんは頒布物を国立国会図書館に納本(寄贈)しており、またそのことをTwitterアカウントのプロフィール欄でお知らせしてくださっています。そのおかげで、自分は存在を知ったときには完売済みだった『共有結晶』創刊号を国立国会図書館に行って読むことができました。

また図書館は利用者個人に本を貸し出すだけでなく、図書館同士で本を貸し借りする(そして相手の図書館の利用者に使ってもらう)仕組みを持っています。なので大袈裟に言うと、どこかの図書館一つに一冊寄贈すれば、全国の図書館でその一冊を読んでもらえるようになります。

●本を見つけてもらいやすくなる

寄贈先図書館の蔵書検索に本が登録されることで、その本の存在が見つかりやすくなります。図書館の蔵書検索では、複数の図書館をまたいだ検索(都道府県内にある図書館の蔵書を一括検索したり、国立国会図書館サーチで日本全国の主だった図書館の本をまとめて調べたり)システムがあるので、一つの図書館にあるだけでもいろんな検索で引っかかるようになります。

寄贈のここに注意

寄贈はあくまで「無償で」「提供すること」です。本を買い取ってもらえるわけではありませんし、寄贈=提供した本が絶対に図書館の本になるとは限りません。多くの図書館は「どんな本を集めてこの図書館に置くか」という方針をあらかじめ定めており、その方針に合わない場合などは寄贈しても図書館に受け入れされないこともあります。

そして「寄贈されたが図書館で受け入れなかった本」は、図書館の判断で廃棄などされる場合もあります。もし寄贈したら受け入れてもらえる見込みがあるか、受け入れてもらえなかった本はどうなるか、問い合わせなどで個別に確認したうえで、寄贈をするかどうか判断するのが良いと思います。

寄贈先図書館の例

寄贈のために必要な手続きや寄贈の受け入れ基準は図書館によって様々です。なので、寄贈をしようと思ったら「この図書館に置いてほしいな」という図書館を見つけて問い合わせをするか、寄贈者向けの案内がウェブサイトなどにないか確認するのが手っ取り早いと思います。

図書館によって寄贈受け入れの規準や受け入れ後の取り扱いが違うことの例として、いくつか図書館を見てみましょう。

国立国会図書館

身近な図書館とは言いづらい部分もありますが、「図書館同士で本を貸し借りする」の最後の砦を担っているので、どうしてもこの本が読みたい!という読者が近所の図書館に相談すれば、その図書館の職員さんが国立国会図書館にあるのを見つけて取り寄せる、ということが可能になります。あと個人的に「このテーマでどんな本があるか(どこにあるかは問わない)」を探すときには国立国会図書館サーチをよく使うし、そういう人は他にもいるんじゃないかな……と思います。なので国立国会図書館サーチに登録されるのは本のPR面で大きいはず。

※国立国会図書館では「納本(自分が発行した本を提供する)」と「寄贈(それ以外の場合)」が区別されているので注意してください。また厳密には、国立国会図書館への納本は国立国会図書館法によって定められた義務となっています。詳細は国立国会図書館ウェブサイトでご確認ください。

■専門図書館

いわゆる町の図書館とは別に、特定のテーマに特化した図書館があります。そういう図書館を「専門図書館」と呼びます。寄贈する本のテーマに合った専門図書館があれば、受け入れてもらえる可能性が高く、またその図書館の利用者層と本の読者層がマッチするはずです。

たとえば性的指向や恋愛指向に関する本、短歌の本を寄贈したいなと思ったらこんな図書館が候補になるかなと思います。

名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ

  • 収集条件を満たす図書類の寄贈を受け付けている。収集条件はウェブサイトで公開されている。

  • ウェブ上で蔵書検索が可能。

  • 蔵書検索に関しては名古屋大学図書館の分館扱いのようなので、国立国会図書館サーチや連携データベースで検索可能になるはず。

プライドハウス東京

  • 資料受贈ガイドラインに沿って寄贈を受け入れている。ガイドラインはウェブサイトで公開されている。

  • 資料は貸出非対応(館内閲覧のみ)

  • ウェブでの蔵書検索はできないが、「所蔵本に関する情報やデータベースの公開準備も進めています」とのこと。

日本現代詩歌文学館

短歌図書館 大和文庫(古今伝授の里フィールドミュージアム内)

  • 全国の歌人から寄贈を受けた歌集や結社誌などを所蔵している

  • ウェブ上での蔵書検索はできない

  • ウェブサイトに寄贈者向けの案内ページはない

寄贈者向けの案内ページなどは公開されていないのですが、知人が私家版歌集を寄贈したと言っていたので受け入れはしてくれているはずです。

■どんな専門図書館があるか調べるには……

国立国会図書館「業界紙・専門紙を所蔵する図書館(専門図書館等)を調べるには」

各種検索エンジンで「図書館+(寄贈したい本のテーマ)」で検索してみるのもありだと思います。あとは近所の図書館で「こういう本を寄贈したいんだけど、いい図書館ないかな?」と相談したら調べてくれるかも。

●地域の図書館

いわゆる公共図書館、都道府県立図書館や市町村立図書館も寄贈を受けつけているところが多いと思います。特にその地域に関わる内容だったり、作者の出身地だったりする場合は、「郷土資料」という扱いになるかもしれません。

ちなみにあくまで推測混じりですが、図書館の規模が小さければ小さいほど「図書館に本を何冊置けるか」の余裕が小さくなるので、新しく受け入れる本を厳選することになる=寄贈を受け入れてもらうハードルが高くなるのでは、と思います。このあたりも参考にしていただきつつ、そしてなにより迷ったり不安になったらその図書館に直接確認をして、寄贈先図書館を探してみてください。

※記事の公開後、2024年6月9日および7月3日に一部内容をあらためました。

@dr_gaap
短歌と読書と二次創作と旅行と美味しいものが好き。いま一番ハマっているのはアプリゲーム《ディズニー ツイステッドワンダーランド》です。短歌で楽しいことをするのも好き。クワロマンティックでアロマンティックでアセクシュアルです。 感想などいただけたら嬉しいです。→wavebox.me/wave/94ufrrxytf5hliop