性別欄に言いたいこと

Dr.ギャップ
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公開:2025/10/4
  • どの「性別」の話ですか

  • 「男」「女」だけじゃなく「その他」などの選択肢を作ってください

  • 本当に回答必須じゃないとだめですか


国勢調査にネット回答したのですが、性別の選択肢が男か女かしかなくてびっくりしました。回答後にアンケートがあったので改善を求める意見を送ってきましたが、これも機会ということでどうして性別欄が男女だけだと不十分と考えるのか自分なりの表明をあらためてしておこうと思いました。

性別欄の在り方にモヤっとしている方だけでなく、統計調査・アンケート・会員登録のフォーマットなどを作ったりしている方にも読んでもらえたら嬉しいです。

どの「性別」の話ですか

そもそも「性別」には複数の位相があり、「あなたの性別は?」という問いには「どの性別の話ですか?」という問い直しが発生する、と考えます。あるいは日常会話なら(そんな質問は不躾にもほどがありますが)、「あなたの思うあなたの性別(=性自認)は?」と自分は捉えるかもしれませんが、性別欄は「それじゃなさそうだ」と感じる場合も多いです。

〈出生時に割り当てられた性〉

生まれたときに判断されて戸籍に登録された性。

〈法的に登録されている性〉

現在の戸籍に登録されている性。おおよそ〈出生時に割り当てられた性〉と同一の場合が多いが、そこから変更されることもある。

〈身体の性的特徴〉

胸の膨らみやヒゲの有無、外性器や内性器の在り方など。日常生活で外から見て分かるものもあれば、そうではないものもある。

〈自認する性〉

本人が自分の性をどう捉えているか。

〈性表現〉

ファッションや言葉遣いなど、その人が自分の性をどのように表しているか。

※これはあくまで自分がどう把握しているかというざっくりしたメモ程度の内容です。また、この他にもいろいろな位相があり得る……というより、性について考える際に導入すると便利な位相がいろいろあると思います。

* 性の位相分けについて、ネットで読めるものとしては以下の記事が丁寧かつ自分の把握や感覚とも近いです。

高井ゆと里「『心の性』と『身体の性』をやめるべき理由」『ゆと里スペース』

別の記事で整理した、自分の思う性別の位相たちのうちの一部です。必ずしもこれらのみで性別が説明できるというわけではなくて、他の位相から性別を考えることも可能であり、また有効な場面があると思います。

ただ、これらの性別どうしが一致する場合、複数の位相があることを意識せずに「性別」という一つの単語・概念で事足りるのだろうとも思います。だからこそ性別欄のほとんどは「あなたの性別のうち○○の部分について回答してください」という注釈を持たずに成り立っているのではないでしょうか。実際は、「あなたの法的に登録されている性を教えてください」と「あなたの性自認を教えてください」と「あなたの生活上の性別を教えてください」では回答が異なる場合もあるのに。

そして実際、質問のシーンによって、「性別」とひとくくりにされているもののうちどれを答えてほしいのかは異なるはずです。たとえば病院の問診票で、宿泊施設の予約で、ショッピングサイトの会員登録で、漫画の読者ハガキで、国勢調査で、それぞれ答えてほしい「性別」があるはずではないでしょうか。だったら性別欄にその説明を添えてほしいです。

自分は性自認も、法的に登録されている性も、生活上の性別も女なので、「あなたの性別は?」という大雑把な質問でも回答はできます。「あなたの性別のうち○○の部分について回答してください」の○○がなんであれ回答が変わることが(ほぼ)ないからです。

ただ、人の情報をそんな大雑把な態度で得ようとするなと思いますし、正確な情報でなくて構わないというなら回答は任意にしてほしいと強く思います(「本当に回答必須じゃないとだめですか」の見出しでもあらためて説明しますが、自分はそもそも基本的に性別について回答したくないです)

「男」「女」だけじゃなく「その他」などの選択肢を作ってください

今の日本の戸籍の性別欄には男女どちらかしか記載できず、どちらかは必ず記載されるので、法的に登録されている性は男女の二者択一になります(それでいいのかという話はありますが)。しかし一方で、身体の性的特徴・自認する性・性表現はいずれも「男/女」の二者択一で説明できるとは限りません。

※ここでは詳しい説明は割愛しますが、身体の性的特徴に関しては「性分化疾患」、性自認に関しては「ノンバイナリー」といった言葉で調べてみてください。

つまりその性別欄が訊きたい性別の位相によっては、「男」と「女」だけでは選択肢が不十分なケースがあります。どんな選択肢があれば十分なのかはケースバイケースでしょうが、少なくとも「その他」はあってしかるべきだと思います。

なお「無回答」という選択肢も見たことがありますが、個人的にはあまり気分はよくありません。「無回答」は男女と違ってその人の性別を問うものではないので並びがおかしいのではというのもありますし、また男女以外の選択肢がない状態で「無回答」だけあるのは、「男女以外の回答は求めていません」ということか?と思って腹が立つこともあります。男女の数だけが知りたいという場合も、「そうではない」人が回答者になる可能性があるのであれば、「その他」の選択肢を用意してほしいです。

本当に回答必須じゃないとだめですか

一方で回答しないことを選べること自体はありがたく思っています。設問自体が任意回答の場合、自分は性別を回答しないことがほとんどです。

自分はいわゆるシスジェンダーで、性別の様々な位相のうち(特に各種性別欄で回答を求められていると思われる)法的に登録されている性・自認する性・生活上の性はいずれも女です。設問からどの性別を問われているか分からなかったとしても、「女」というのがおおよそ求められている情報にあたるだろうという判断ができます。でも「無回答」を選ぶのは、そもそも性別を回答したくないからです。

※医療サービスを受ける場合や宿泊施設の利用時など、その必要性がわかる場合は回答しています。

性別の扱われ方が気軽すぎる、と感じることがあります。会員登録に本当にどうしても必要な情報ですか。アンケートやオプション的な性質なのに必須にしていませんか。任意回答じゃだめですか。自分にとっては割と屈託のある部分なのに、「性別なんて当たり前のものだし気軽に答えてよ」と言われているような気がしてモヤつくことがあります。気軽に聞いてくれるよなあ! 気軽には答えられないのに!

どうしても必要な情報だからというのなら、その必要性をきちんと示してほしいと思います。また話が遡りますが、そんなに必要なら「どの性別についての情報が必要か」も定まっているはずで、その説明もいっそう必要なはずです。

男女以外の選択肢を設けて回答者の実態に沿った形にしていくことは必須ですが、一方でそもそも「どうしても絶対に必要というわけではないなら回答は任意にする」という振る舞いが一般化されてほしいなと思います(性別に限らず)。一つ前の見出しに戻りますが、「無回答」の選択肢を用意するくらいなら設問自体を任意回答にしてください、と思います。


以上、自分の思う性別欄に言いたいことでした。

この文章を読んでくださった方のなかに、もし性別欄を扱う、あるいはそれらへ修正の提案をしたりできたりする立場の人がいれば、本当に必要なのか、回答は必須か任意か、選択肢として何が用意されているか、どの「性別」を問うものでそれが回答者に説明されているか、必要な理由が回答者に説明されているか、確認してみてくれませんか。

自分自身も仕事で名簿のようなものを扱うので思うのですが、性別欄は無から生えてくるものではないはずです。誰かが作って、場合によっては他の人がチェックして、実際に使うことを決定して、ようやく回答者の手元に届くはずです。そうしたなかの誰か一人でも「選択肢が男女だけじゃ不十分ですよね」、「回答は任意で良くないですか」など声をあげてくれたら、そうした声が回答者から出てきたときに受けとめて次回につなげてくれたら、そうして今よりもマシな性別欄が増えたら、すごく嬉しいです。

@dr_gaap
短歌と読書と二次創作と旅行と美味しいものが好き。いま一番ハマっているのはアプリゲーム《ディズニー ツイステッドワンダーランド》です。短歌で楽しいことをするのも好き。クワロマンティックでアロマンティックでアセクシュアルです。 感想などいただけたら嬉しいです。→wavebox.me/wave/94ufrrxytf5hliop