「瓶詰地獄」についての空論その2

遊星Yu-sei
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公開:2025/11/11

 興奮冷めやらぬまま「瓶詰地獄」の記事を書いてから、数日経ちました。その前後で「鼠(著/堀辰雄)」を読みました。言っちゃ何ですが、好みは少年達の登場する「鼠」の方です。「瓶詰地獄」は好きなジャンルの範疇ではありますし、好きか嫌いかの選択肢なら「好き」を選びます。でもそういう次元じゃない。ざらっと心臓を撫でられるような感覚があり、読者が試されるような作品です。

見落としたこと(本文考察の追記)

 「瓶詰地獄」についての空論その1で太郎とアヤ子が相思相愛という結論に至ったのはホノジロトヲジさんのイラスト(乙女の本棚「瓶詰地獄」p.58-59)を眺めていると、初読の狂人太郎のイメージと異なり、二人そろって安らかに見えたからです。どう見ても心中の絵ですし。やや苦しそうではあるけど、死によって解放されたような。

 イラストにどれだけ助けられたことか。まず、美麗。古典小説への出会いを促し、結末まで導いてくれる。ただ上手いだけじゃない。形にする以上、他より多くのことを考えているはず。乙女の本棚は、小説とイラストが同じくらい魅力的で素敵な企画です。

松とパイナプル

 絵の中にヒントがある気がしたので、考察にキリをつけるつもりでじっくり眺めました。作中に登場しない柘榴や林檎の絵があります。小さな赤い花が重要そうだけど何の花かまでわからない。柘榴の花? それとも、単に視点誘導のためか。「松」がなー、日本の話ですが洋風なので、初読の時点で違和感ありありの松。でも海には松があって不思議じゃないのかも?

 解読できそうなものもあれば、ないものもある。アダムとエバがモチーフなのは言わずもがなですが、漠然と見るのと、モチーフを意識して見るのとでは違います。でも、意識し過ぎて盲目的になるのはいけない。

 そこで長野まゆみさんの名言。「夏至南風」のあとがきです。

  • 虚構の世界である以上、意味合いという必然性は無視できない。

  • 意識しつつ、さも何事もなさそうに書き流す。

 引用2行で伝わる気がしませんね。作家の姿勢について少し書いてます。興味がある方は「夏至南風」のあとがきをご覧ください。もちろん本編も! 作家のみんながみんな、作品内に配置したものに意味を持たせているとは思えないけれど、夢野はそういうことしそう。ものすごくしそう。

 最初から「パイナプル」が目につきました。「パイナップル」表記じゃないせい。でも変に浮いてみえました。いや、やっぱり「ッ」抜けのせいか……。試しに検索。果物言葉とかある? 由来か伝説かもしれない。期待しつつパイナップルを検索しました。植物学的なことしか出てこない。が!

 植物名としてアナナスと呼ぶこともあり、果実や可食部のみパイナップルと呼称し区別することもある。植物学名のAnanasは、外見が亀の甲羅のように見えるところから名付けられた。「パイナップル」(pineapple)という名前は、本来は松 (pine) の果実 (apple) 、すなわち「松かさ」(松ぼっくり)を指した。これが18世紀ごろに、似た外見をもつ本種の果実に転用され今に至る。【引用元:パイナップル - Wikipedia

 で、ぞわっとなりました。禁断の果実が「林檎」かどうかはさておき、林檎が隠れていて興奮しました。メタファーとして機能する。しかも亀も関係するのか。後出のウミガメは、神聖の象徴や浦島太郎の善悪に通じるかもと考えていましたが、「ウミガメ=林檎」だったら、その卵を焼いて食べる意味とは……無闇矢鱈と意味を見出すのは愚かですので、答えは夢野の胸の内にて。

 あと、バナナが禁断の果実という仮説もあるそうです。イメージと違うって思いますが、こういうのが盲点かもね。バナナは主食になるそうです。二人の糧になったことでしょう。

罪とは

 検索のアルゴリズムと読んだ数のせいと思いますが、私の目に触れた考察サイトは手紙の謎解きに関するものばかりでした。彼らは謎解きの向こうの景色を見て、どう思ったのか。

 楽園モチーフなどの執筆関係、テーマの罪についても少し考えました。登場人物の心理を考えると、太郎がアヤ子を襲った解釈はやっぱないな。太郎は狂うくらい悩んでますが、彼には主体的な行動が欠けてる気がするんです。主体性というか遂行力のような。少しでもアヤ子に拒否されたら、たぶん実行できないのではないかな。大磐の例がありますが、あれは阻止する行動で、「する」と「させない」は違うような気がします。あと、書く側だったら、強姦だと罪の的がぶれる。バランスも悪い。聖書の物語を考慮すると、さらに考えにくい。

 インセスト・タブーも掘り下げたかったのですが、丁寧な説明がいるのでやめました。果たしてその罪は、本当に罪なのか。現代日本ではアウトだってわかりますよ? でも社会次第で、それか、社会なんて構築できないほど人間がいなかったら状況は異なります。

 夢野はなぜこの作品を書いたんだろう。心中モノが好き! 実験したかった! なら、はいはいで済みますが。作者の内面を探ると研究になるので深掘りはやめで。

@flowercottton
一次創作の字書き。たまに絵も描く。flowercottton.jimdofree.com