悪夢を見た。
よく晴れた荒野、ひび割れた地面に鶯色をしたスーツの男性が何人も「生えて」いる。地面から、胸や腹より上だけが見えている。夢の中の私は、彼らが何かのために犠牲になったと感じていた。彼らは生きているのか死んでいるのか。私はこれからこの場所を調査しなければならない。最終的にはここを含む四つの宇宙を調査することが私のミッションだった。隣の宇宙には闇のイバラに似た木が生えているはずだ。あまりの光景とミッションのハードさに立ち尽くすしかなかった。
確実にこのゲームに影響された夢だった。
Loop 7
苦しそうなうめき声と共に目が覚めた。
どうやら、太陽の爆発ではなく自損事故などが死因になったときは、次のループで苦しそうに起きるものらしい。以前のループで間欠泉に飛び込んだときも、あれが自損事故扱いだったのだろう。
前回の記録にも書いたように、Hearthianの価値観は私の価値観とは異なるように感じている。
行方不明になったFeldsparに対して「いなくなってしまった」とは言うが、どこをどのくらい探したのか言及する者がいない。シグナルスコープで仲間の楽器の音を聴き生存を確認できて安心したようなことを言うが、死活監視のような仕組みを導入しようとした形跡がない。ゲームの都合と言ってしまうこともできるかもしれないが、もしかするとこのあたりは博物館館長が担っている可能性もある。もう一度博物館に行く必要があると考えた。
(おそらく)メインミッションであるNomaiの情報を捜索・分析するにしても、他者理解の前には自己理解を深めておいた方が良い。それに、闇雲に宇宙を回って調査するよりも、現時点で明らかに存在する行方不明者を捜索し、その道中でNomaiの痕跡と次に繋がる情報を蓄積する方が効率が良いはずだ。
自分の中での言い訳が立ったので、このループでは、まず博物館に行ってHearthian的義務教育(の概念があるがどうかは知らないが)の再履修をすることに決めた。時間が残っていれば闇のイバラ天体に向かう。博物館の展示物を、もう一度隅から隅まで見直すことにした。
何これ!!こんなのがあるなんて知らなかった!
博物館に展示されている石板は、私が持っているツールで記録の翻訳をすることができた。義務教育をやり直してよかった。最初からこれを知っていれば、私の旅路はまた違ったものになっていたかもしれない。今の私は、うっかりハーモニカの音に固執したばかりに、いまだ母星の地表を彷徨っている。しかし後悔はしていない。
石板に記録された文章は、Nomaiがアトルロック(木の炉辺に対する月)に何らかの施設を建設し、それを調整することによって何かを捜索しようとしているように見えた。記録の文言には明らかに男言葉・女言葉が使われているが、Nomaiの語句・文法には性差があり、そこまで解析が進んでいるということだろうか。もしそうでなければ大きなネタバレである。近い将来、性差がわかる形で、この記録の登場人物ないし記録を行った第三者に出会う可能性がある。
博物館館長Hornfelsからは、Feldsparが優秀なパイロットであったこと以外、あらたな情報は得られなかった。
以前の記録で書いたことの誤りや補足情報も明らかになった。
NomaiとHearthianは遺伝子的な繋がりがないと書いたことがあるが、解剖学的構造に相違があると記載されているだけだった。直系の子孫でなくとも共通祖先がいる可能性は残っている。
我々が使用している技術は、やはり先達が宇宙から持ち帰ったNomaiの技術だった。偵察機ランチャーで飛ばす機体はリトル・スカウトと呼ばれていた。そうなると「偵察機ランチャーを発射する」という表現が正しいのかよくわからなくなってしまうが、便宜上今後もこの表現を使用することにする。
博物館の太陽系のモデルにおいて、太陽の間近に衛星があったように見えたのは、モデル上でも太陽が膨張していたことによるものだった。おそらく、宇宙船で見たマップ上で「侵入者」の軌道が太陽に埋もれていたのもこれが理由だったのだろう。また、太陽系のいちばん外周に軌道傾斜角がほぼ直角の天体を見つけた。赤くほのかに光っている。名前はまだ付いていないようだ。この天体が彗星などではないとしたら、一般的に言われている銀河の成り立ちを考えると存在が不自然なように思う。
同じく博物館にあった、観測するたびに位置が変化するシュレディンガーの石的なものを冷やかしたのち(石が乗っている台座に自分も飛び乗るなどの迷惑行為をはたらいた。石の挙動がバグりそうになった)、闇のイバラ天体に向かうために宇宙船に乗り込んだ。
自動操縦機能をONにしておいて良かった。まもなく闇のイバラに着陸できそうなところで、膨張した太陽が迫ってきた。ちょっと待ってあと少し……
INFO: END - Loop 7 of Outer Wilds Ventures
Loop 8 - 9
あと少しで闇のイバラに着陸できそうだった。今回は目覚めの直後から宇宙船に直行した。
自動操縦に頼り闇のイバラに近づいた。偵察機ランチャーを飛ばしてみるが、スナップショットを見る暇もなく自分自身が天体の中に吸い込まれていく。
闇のイバラの中心部は、白い霧が満ちた空洞になっていた。中に赤や白の灯りが見えた。あれらを目指していけば良いのか?何もせずとも自然に吸い込まれていくので、辺りをぼんやり見物していた。
突然目の前に大きな魚が現れた。博物館で見た魚だ!さっそく義務教育再履修の効果が出ている。互い違いに鋭く長い歯が生えたアンコウのような生物。博物館にあった個体はHearthianの頭よりひとまわり大きいくらいのサイズだったが、目の前にいるこれは宇宙船を丸飲みできるほど巨大だ。逃げられない。逆噴射も効かない。ここまで来たのに謎魚に丸飲みにされるなんて悔しい。
INFO: END - Loop 8 of Outer Wilds Ventures
INFO: START - Loop 9 of Outer Wilds Ventures
目覚める時の呻き声が新しいパターンになった気がした。あまりに悔しいので今回も宇宙船に直行する。前回と同じく闇のイバラ天体に向かった。
今回は、天体の中心部に、さらに中に入れそうな種に似たものを発見した。しかし操作がうまくいかず、種の中には入れなかった。天体の中心部を目指して進んでいたはずなのに、何故か外に出てしまった。迷っていつのまにか逆方向に進んでいたらしい。天体の中の灯りはアンコウ(仮)の発光器だとわかったので、なるべく避けて進む……避けていたつもりだったのだが、当たってしまった。敵性生物に対抗するための武器が欲しい。これからはこういう即死ループが増えていくのだろう。次のループでもう一度だけ闇のイバラに挑戦して、ダメだったら他の天体に調査対象を移そうと思った。
私は再度、宇宙船ごとアンコウ(仮)に飲み込まれた。視界が暗くなった。
INFO: END - Loop 9 of Outer Wilds Ventures.