『ようこそ 映画音響の世界へ』

はいファイ
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Blueskyで、『ようこそ 映画音響の世界へ』のネトフリ配信が2/29までだよというポストが流れてきて、うわっ、となった。ネトフリのマイリストには、見たいものをとりあえずポコポコ放り込んでおり収拾がつかなくなっているのだが、その中でも優先度高めに見たいものというのがいくつかあり(優先順位付けとかは出来ないので結局覚えていられない)これもそのうちの一つだった。

せっかく契約してるのだからどんどん観て消化すればいいのだが、映像作品を見るという時間はなぜかつい後回しにしてしまう。音楽のサブスクより高い料金を払っているのに、音楽より圧倒的に少ない時間しか接していない。それでも、観たいと思った時にすぐ見れるというその権利を保持するために払い続けているという感じがある。別にそれでいいさ、たとえ月に1本しか観なかったとしても映画館に行くより安い。ので、その権利を行使して、うわっとなった本日即日、慌てて視聴しました。

『ようこそ 映画音響の世界へ』は、まさにその映画館で本領を発揮する仕事をされている人々の、歴史と仕事内容を紐解くドキュメンタリーだ。サイレント映画の時代から、トーキー、モノラルからステレオやサラウンドへ、音楽の実験的手法の導入による革新、音響担当が冷遇されていたエピソード、テープ編集からデジタル編集へ、そして映画に命を吹き込む様々な音響の役割…。

それぞれを深掘りしているというよりは思ったよりあっさりではあったが、そこは『ようこそ』の名の通りでもある。それでも、解説やインタビューを通しながら、ドキュメンタリー自体も音響を持った映像作品として、分かりやすく音の変化による臨場感を再現してみせたりしていて面白く、耳が研ぎ澄まされていくようだった。映画にとって音響が大切であることなんてもちろん分かっていたつもりだったが、つい、初見の映画だとまず映像の驚きや物語を追うことに集中してしまい、またその音響が自然に映像に馴染んでいればいるほど、音響自体に興奮するということを忘れてしまいがちだったりする。本当は映画を観てドキドキしたり感動したりしている時の多くは、音響によるものなのに。こういうドキュメンタリーを観ることで、その忘れがちな、頭の中で一つにまとまりがちな興奮を、良い意味で分解しながら鑑賞することができる。できるようになりたい。それは、映像に含まれる細かな部分、深層的にサブリミナルに視聴者に与えようとしている工夫の端々を捉えることであり、感動のきめ細かさをより豊かにすることに繋がる、はずだ。

インタビューの中で、「映像と音がハマる瞬間が最高」「鳥肌が立ったら成功」と嬉しそうに語られている。それは、僕も一応映像に触っている人間としてとても分かる。音ハメは気持ちがいい。それはダンスをしたり見たりする気持ちよさとも近い。自分の場合はどちらかというと既にある音楽に映像をハメていくということの経験のほうが多いが(音楽は作れないので)、試行錯誤しながら再生してみて「おおっ…」となった瞬間のほのかな喜びが、一番楽しいかもしれない。映画音楽なんて、これの最上級にダイナミックなバージョンだろうと思う。とにかく様々な音響、音楽、SE、環境音が立体的に重なり合いながら、時にそれらを抑えながら、鳥肌の連続で映画のエモーションを確定させていく。それの完成バージョンはなんと映画館という大音量の高級設備で再生されるのだから、そりゃあ最高だろうなと思う。

映画会社の上層部から「音なんてどうでもいいんだ」なんて冷遇されていた長き時代から、やっと今この時代になって、ついに映画館の音の時代が来たという気もしている。IMAXが普及して以降、Dolbyアトモス、爆音や極音上映といった謳い文句が流行るようになり、僕が先日訪れた109シネマズプレミアム新宿なんて、坂本龍一音響監修であることが一番の目玉かのようになり、実際にその音響は一つの完成形かのような素晴らしさだった。サブスクが普及して、映画館のチケットも値段が上がり、映画は家で見るものが基本のようになった時代で、それでも映画館に来ないと体験できないものとしての、大スクリーンと大音響。特にその包まれるような音、襲われるような音、腹に響く音の迫力は、決して家では味わえない。そのことにやっと、観客側も、映画会社も映画館も、共通の認識として持ち合わせられる時代になったんだなあと思うし、何ならもう映画を観に行く目的としては、「映像を見ること」以上に「音を体感しにいく」ことのほうが価値を食ってしまっているのではないかとさえ思う(なんとなくその契機となったのが、ボヘミアン・ラプソディの大ヒットにあったような気がする。みんなその時、「違いが分かった」)。

そんなわけで、映画館で映画を見たくなるし、そうじゃなくてもネトフリでだって音響はたくさん楽しめる、だからもっと目と耳を開いて楽しんでいかなきゃいかんなあ、爆発音とか、と思いました。少年時代に爆発音ばっかり集めてたという音響デザイナーの人が出てました。ハリウッドって一体どんな音フェチが集まってるんだろう。