第24週「女三人あれば身代が潰れる?」
女の子が3人あれば、その嫁入り支度で財産を使い果たすことをいう。
今週は過去最高に情報密度の濃い週だったんじゃないかな〜。まず大まかには残り三週間でこれをやりますよ〜という3本のストーリーラインが走り出した。①尊属殺人違憲問題、②少年法改正問題、③桂場の推し進める「強い司法」、それぞれ整理して考えてみたいです。
まず、よねたちが引き受けた、斧ヶ岳美位子さんの殺人事件。暗がりの部屋の中で美位子さんが恐らく父親を絞め殺したあとと思われるワンシーン、これを朝ドラで描くのがまずすごいな…と思った。そもそも朝ドラ、殺人事件とか出てこないからね…。よねたちは尊属殺人は憲法14条違反、殺人罪も正当防衛もしくは緊急避難を主張するつもりだと寅子に告げる。
尊属殺人は剛健であるという最高裁判断が下されたのが第14週だった。反対に回った穂高教授が「道徳は道徳。法は法である。今の尊属殺の規定は明らかな憲法違反である。」と意見書を書き記した。そのころの寅子は家裁の仕事で忙しくて本件とは直接関係なかったのだけど、「おかしいと声を上げた人の声はけして消えない。その声がいつか誰かの力になる日がきっと来る。」ときっぱりと言ったことがこの終盤へ繋がってくる。
この件はほぼ史実どおりなので違憲判決が出ることはわかっているのだけど、ドラマではこのときの最高裁の長官が穂高チルドレンである桂場だというのが胸熱だよな〜と思う。また、よねにとっても美位子さんの境遇は他人事ではない。自分を売ろうとした親から逃げ出し幸運にもサバイブできたよねが、逃げられなかった美位子さんに手を差し伸べる。「こんな理不尽が許されてたまるか」――よねが怒り続けてくれることはこの物語の希望だと思った。
一審は違憲判決が出たことがが新聞記事だけで伝えられたけど、おそらくは最高裁の場がクライマックス的に描かれるのだと思う。よねと桂場、立場はまったく違えど、それぞれ個人的にこの事件にかける想いがある。最終口頭弁論が今から楽しみです。
こちらは実際に尊属殺人の違憲判決をもぎとった大貫正一弁護士のインタビュー。ネタバレでもあるので気になる方はドラマが終わってからでもぜひ読んでください。すばらしい記事なので。
また原爆裁判でも実際に裁判官として関わり判決文を書かれた高桑昭氏もまだご存命で、こうして歴史を証言してくださってる。ついに『虎に翼』の世界が現代にしっかり繋がってきたな〜と胸いっぱいです。
そして少年法改正問題。
少年による悪質な事件が目立ち、かつ学生運動の暴力化への世間の非難を受け、内閣府はやや強引に少年法改正の議論を持ち込み、東京家裁所長であるライアン、少年部部長である寅子はもちろん、病床にある多岐川までも激怒させる。
しばらく前に電書で買っておいた『家庭裁判所物語』(清永聡)を土曜日に読んだのだけどタイミングがよかった。今週描かれた少年法改正問題のバックグラウンドが本書を読むことでよく見えた気がする。
宇田川(ドラマでは多岐川)のつくった家裁の理念が福祉に寄りすぎていて裁判所の仕事から離れているという周囲からの懸念、戦前はあった「先議権」を奪われた検察の不満もあった。時代も悪かった。同じ抗議活動をし一緒に逮捕された大学生でも20歳で線引かれ、19歳未満は家裁で手厚い保護を受けて社会に復帰していくのに対し、20歳以上は何ヶ月も勾留されたあげく前科がついた。各方面から矢が飛んでくる状態の家裁と少年法。寅子とライアンらがどう乗り切っていくのか楽しみです!
そして病身ながら少年法改正への抗議文ならぬ意見書を書いた多岐川、最後まで本当に最高でした!家裁初期メンバーが集まったのも、家裁とは多岐川の精神そのものだったからだろうなぁと思う。多岐川さんのモデルの宇田川さんは実際にはご自身の家族がいらっしゃったようなのだけど、ドラマの多岐川さんはずっと独身で、戦後の混乱期を抜けても汐見夫婦を同居させてて、ステップファミリーみたいになってたのもしみじみよかったなって思います。
そして桂場問題。ここはドラマ内で描かれたことだけをベースに考えてみます。
遡れば帝銀事件があった。政治家からのあからさまな圧力に屈しなかった桂場は冷遇された。
そして原爆裁判があった。判決は国が望む通り原告の請求棄却だったが、判決文では原爆投下は国際法違反であること、被爆者救済は政府の仕事であることを明言し、こんなことも言わなきゃわからないのかとばかりに「政治の貧困」を嘆いた(判決文作成にはもちろん桂場は関わってないが、事前にチェックしただろうし、その様子はシナリオにはあった)。
さらに公害訴訟。被害住民優先のため、原告側に被告過失の証明を求めるのではなく、企業側に過失がないことを証明させるよう方針を定め、一気に原告勝訴の流れに傾いていく。大企業と深くつながる政治家たちは面白くなかっただろう。
寅子が「桂場さんらしくない気がして…」と懸念するように、やや強引とも言える手法で「強い司法」を打ち立てていく桂場本人と、裁判所そのものに対して、一部の政治家たちが反感を強めていくだろうことは明らかだった。その「強い司法」に対してのバックラッシュがこれから起きるのか、少年法改正の動きもその一環のようにも思える。
桂場のモデルとなった石田和外氏は実際かなりの保守派で政権党の政治家ともつながりは強かったそうで、どちらかというと法務省や検察庁に対しての強権だったようなのだけど、ドラマとしては「桂場vs政治家(政府)」という構図なのかな〜と今のところ理解してる。
よねたちが挑む尊属殺人違憲裁判、寅子たちが闘う少年法改正、桂場の信じる「強い司法」、同時進行するこの3つのストーリーラインは桂場という共通項をもって絡み合って進んでいくんだろうなと思う。終盤も最終盤に来てこの構成よ……!正直これだけでもかなり密なのに、さらに家族その他の問題も手を緩めない脚本。
まず優未の中退問題。わたしは正直初見ではあまりピンとこなかった。というのも優未がどういう気持ちで研究の道に進もうと思ったのか、どういう未来を描いていたのかわからなかったからだ。だけどTLを見ていると女性研究者の方々がすごくこのシーンに共感を示してらして、この時代、しかも理系で、研究職を続けることの困難を想像し、考えさせられた。このドラマは時々視聴者に向かってこういうボールの投げ方をする。「男女関係なく機会は訪れるはず」と航一は言ったけど、エリート男性の航一には言われたくないよな!「手にするものがなければこれまで熱中して学んできたことは無駄になるの?」「私は努力した末に何も手に入らなかったとしても立派に生きている人たちを知っています」弁護士になった寅子の当時のスピーチ、スタートラインにすら立てなかった女性たちを思う言葉ともつながる言葉だった。また先週削られた梅子さんのセリフに呼応するものでもあったと思う。
のどかの結婚問題。結婚のために「まとも」になる、というのもおかしな考えだし、いわゆる芸術系の仕事への差別だよな〜。親に結婚の承諾を求めない、というのも斬新でよかった。お相手の吉川さんも髪切ってない時点でそもそも就職する気ないのかな?とは思ったけど😂 ただこの時代、銀行員であっても女性が定年まで働くというのがむずかしいはずなので、そのあたりも今後描かれるといいかなと思ってる。正月は女性行員は振り袖でずらーっと並んで、みたいなセクハラどまんなか行事に今あえてスポットを当てたのもよかったですね。なかったことにはしねえぞという気概を感じる😂
そしてヒャンちゃん!「声を上げた記憶は自分の芯になる」明律大法学部の女子の募集停止を知ったときに誰より激怒して抗議しに行った若き日のヒャンちゃんを思い出したよ…😭 あのときだって朝鮮人である自分は弁護士になれないのをわかってて、それでも若い世代のために怒ってくれてたんだよね。「薫の前でチェ・ヒャンスクを取り戻してみたい」……チェ・ヒャンスクから崔香淑、そして汐見恭子へと、名前も出自も隠して生きることを選ばざるを得なかった彼女の半生を思い返して、号泣しました。そしてお兄さんのユンチョルさんも無事でよかった!韓国は終戦後も朝鮮戦争があったし、劇中の1970年も絶賛軍事政権下で色々大変だっただろうなと思う。だからヒャンちゃんと再会できたこと、姪っ子の薫ちゃんと会えたこともほんとうに嬉しかっただろうな。そしてそれを見届けてくれた多岐川さんもほんとありがとう…😭
あと司法の女性差別問題。中山先輩に「(泣くの)早いです」と突っ込んだよねも早々に「(怒るの)早い」って寅子に突っ込まれるの笑ったし、女子部からの長い歴史を感じてじーんとしてしまったのだけど、実際、日本婦人法律家協会副会長として三淵嘉子さん(寅子)はたびたび要望書や真相究明を申し入れていたそう。所属する組織の中で声を上げるってほんとうに勇気のいることだからすごいと思う。こうして正論で抗議できる女性がいる司法の場でもこうなのだから、他の業界はどれほどひどかったんでしょうね……。女性は事実的に裁判官としての適格に欠ける理由として劇中で挙げられたのが、出産休暇をとるために男性の裁判官に仕事がしわ寄せされるとか、厳しい現場に不向きとかだったのが、2018年に発覚した医学部入試女性差別問題の際にそれを正当化しようと出てきた言説とまるっきり一緒だったので、あらためて激怒しました。
のどかの職場での扱われ方とか、司法の女性差別問題とか、『虎に翼』はわたしたちの「共通の記憶」を埋め込むことによって、物語を他人事にしない、「わたしの話」を語らせてしまう力を持ったのじゃないかなと感じてる。フィクションとノンフィクションの境目にありがちな朝ドラにはこんな可能性があったんだと、気づかせてくれた作品。このことはまた改めて語りたいなと思う。
今週はほんとうにエピソードが小刻みだったのだけど、話の構成がだんだん複雑になっていくの、人生だなぁとも感じた。若いころは家と学校の往復でシンプルな世界だけど、社会に出たり結婚したり親になったりするとまたそれぞれに人間関係ができて、それまで気づかなかった世界や社会の問題に気付いたりして視界が何層にも重なっていく。とくに裁判所は社会と連動しているので裁判官である寅子は世相と無縁ではいられない。
また、今週は特にニュース映像多かったけど、学生運動も反戦運動も公害裁判も今となっては知らない世代も多いので、当時の市民活動を実際のニュース映像使って朝ドラという枠で見せてくれるのとてもいいなと思う。文字だけでは伝わりづらい、当時の社会の空気が見える。
水俣病の患者さんが公害裁判当時の映像が出たことを喜んでらっしゃるというポストも見かけた。やっぱり今まであまりに語られなさすぎた、すぽっと抜け落ちた昭和の負の歴史をこのドラマは拾っていく。その描き方は不十分とか、詰め込みすぎという批判は、そもそも描かれてこなかった、ほぼゼロだったという事実を前にしたら何の意味もないと思う。たとえ不十分でも描かないより描いたほうがいい。そんな制作の姿勢を応援します!
予告はいろいろ不穏なのに、一番最後の桂場腕組膝枕に全部持っていかれました😂 あと二週間で終わるのか!?とここへきてトップギアな朝ドラ、最後まで毎朝が楽しみです!
23週シナリオふりかえり
雲野先生「私はおにぎりが大好きなんだ」はシナリオにありません😂
とどよねが広島に行って被爆者たちから話を聞いたエピソードがある
原爆裁判第一回公判、第二週の女子部時代のとらよねが裁判傍聴してるシーンは一瞬でもシナリオ通り入れてほしかったな…
寅子、汐見、漆間の戦争加害、戦争加担についての議論、ここは入れてほしかったとかじゃなく、削っちゃダメなとこだったんじゃないかなぁ…
先週の感想で書いたよねとら連携プレー、やっぱりシナリオでは日を跨いでないのでわかりやすい
航一は怒ることが苦手と聞いて寅子、「そんな人もいるのね」とびっくりしてる😂 怒り続けた人生だもんな…
竹もとで梅子さんと百合さんの認知症について話すシーン、シナリオめっちゃいいのにほとんどカットされてて悲しいなぁ。「なるべく穏やかに過ごさせてあげたい」というトラコに大庭の嫁としてたくさんの人を看取ってきた梅子が「それができるのはお金と家族の理解がある一握りの人だけ」とはっきり言うの、ほんとにそうなんだよなー。特にこの当時は老人ホームもほとんどなく、介護はすべて家族が担うのが当然だったんだもんね…。寅子が恵まれた人であるという指摘、大事だと思う。あと「何もなし得ず年老いていく…」という梅子さんの言葉に寅子が反発するの、今週の寅子の航一さんへのセリフにつながるのでどうにか入れられなかったか…と思ってしまうけど、作ってる人が一番そう思ってますよね…
店を閉めることを寅子に話してる道男、突然梅子に話しかけられて「!? んだ、このおばあちゃん」とびっくりしてるの、失礼だけどよく考えると梅子さんもかなりお年なんだよな〜と改めて気付かされた。
原爆裁判の判決読み上げのシーン、シナリオでは回想として寅子が事前に判決文を読みあげるシーンが順番に差し込まれる。シナリオのイメージとしては塩見と寅子が順番に読み上げるかんじ。これはこれで見たかったなー。ドラマもよかったけどね。
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