『虎に翼』第1週ふりかえり

hinata625141
·

第1週「女賢しくて牛売り損なう?」

もうすでに何度か日記で書いてますが、4月から始まった朝ドラ『虎に翼』にドハマリしてます!わたしはもとから朝ドラを見る人なのですが、とらつばは普段朝ドラ見てない人も初回の評判を聞きつけ見てる気配がするのが新鮮です(朝ドラって初週からこんなに話題になることないので)。初回の憲法第十四条を読み上げるあのアバンは本当によかった…!


主人公・猪爪寅子のモデルは日本で初めて女性裁判官となった三淵嘉子さん。その前情報だけでフェミニズムな物語になるのではないかな〜と淡く期待してたのだけど、第一週のテーマがいきなり「結婚」で、女は若いうちにさっさと結婚すべきという世間の強い圧力と、結婚すれば法律上は妻は「無能力者」扱いされるという公然の性差別がむき出しで描かれたのでちょっとおどろいた。

もやもやするのは結婚そのものでなく婚姻制度だ、と寅子が気づくように社会システムそのものが差別を生んでいるのだという冷静でロジカルな視点もあれば、女の口をずっと塞いできたのは男だろ、と溜め込んだ怒りが爆発することもある。その怒りが「感情的」というワードで反撃されるのも現代ではお約束。女性が生きづらい社会をロジカルにも感情的にも捉える脚本のバランスがとても良いなぁと思う。一方でコミカルな場面も多くてドラマ全体で見れば軽やかなのもいい。


また、『虎に翼』は過去のフェミニズムドラマへのリスペクトがつよく感じられる。例えば第一週でトラコの前に立ちはだかった母親・はるを演じるのが石田ゆり子さん。『逃げるは恥だが役に立つ』というおそらくは日本のフェミニズムドラマの転換点に立つこのドラマでアラフィフで未婚なキャリアウーマン・ゆりちゃんを演じた人。「自分に呪いをかけないで」と若い女の子にやさしく語りかけるシーンは名場面としてたくさんの人に記憶されてるはず。そんなゆりちゃんを演じた石田さんが本作では、「頭のいい女が確実に幸せになるには、頭の悪い女のふりをするしかない」と旧来的に娘を諭しながらも、他人が娘の道を阻もうとすると一転、ぶちギレて最後は自分の手で娘に六法全書を買い与える、という展開があまりに胸熱すぎた。

そしてナレーションの尾野真千子といえば朝ドラ『カーネーション』のヒロイン糸子だ。彼女はわたしが見た朝ドラヒロインの中でいちばんの「わきまえない女」。戦前の時代に家長である父親に歯向かい子育てもおざなりに洋裁とデザインの仕事に邁進するヒロイン。この朝ドラは日本では和服から洋服へという大転換期と戦争の混乱のなかで、動きやすい服を着る、好きな服を着る、というファッションを通した女性の解放を見つめたドラマでもあった。

寅子は母はるに「なんでも思ったことを口にするんじゃありません」と小言を言われるシーンがあるが、寅子はそれでも口には出さない思いがたくさんある。心の中はもっともっと多弁だ。「なんで女だけニコニコまわりの顔色伺って生きなきゃいけないんだ?なんでこんなに面倒なんだ?」女を小馬鹿にしたような歌詞のヒット曲を寅子は熱唱しながら心の中で思うそんな台詞を、かつてのわきまえないヒロインであったオノマチが代弁したのにはグッとくるものがあった。

ゆりちゃんが、はるさんが、そして糸子が、寅子の背中をそっと押してくれているような気がする。

ちなみに『カーネーション』の糸子のモデルである小篠綾子さんは1913年生まれ、『虎に翼』の寅子のモデルである三淵嘉子さんは1914年生まれなのでほぼ同じ時代を生きていることになる。そのことも折りにふれ思い出しそう。


あと今週気になったのは一瞬映った寅子の本棚。

当時のベストセラー『放浪記』があった。著者の林芙美子は1903年生まれなので寅子より10歳くらい年上だけど、同じ東京で同じ時代を生きている。だけど寅子はかなりお嬢さんなので『放浪記』で描かれる貧しい労働者たちの日常はまるで別世界のように感じられたんじゃないだろうか。当時女学校に通うようなお嬢さんたちの間では『放浪記』がどんなふうに読まれていたのか知りたくなった。

そしてモーパッサンの『女の一生』もあった。これも名作だけどわたしは数年前に読んだばかりなので記憶に新しい。あらすじを簡単に説明すると、箱入り娘のお嬢さんが結婚してみたら夫は超モラハラ浮気野郎で結婚生活は最悪で唯一の希望である息子を溺愛してたら息子もしょうもない男に育ってしまったという救いのない物語なんだけど、わたしはけっこう面白く読めた。いや面白い話ではないんだけど、まず離婚できない、そして女性は財産を相続できない時代における結婚は、夫ガチャそのもの。自己決定権を奪われた女性のゆきばのない息苦しさは現代にもつながるものがあって胸が詰まる思いがした。

寅子の家庭は父も兄も威張っておらず家父長的な雰囲気がないので、むしろ母のほうが強いと寅子は思ってたのかもしれないけど、家庭の外には『女の一生』と地続きの社会があることに寅子は気付いたんじゃないか。そんなことを思った。


そしてドラマの中ではいわゆる背景的に配置される名もなき人たちに少し目が留まるような演出も、それぞれの人生がある、という意図を感じてとてもよかった。もともとわたしは「モブ」という言葉があまり好きではなく使わないようにしているので、その意図にすごく共感してしまった。ちなみに他のドラマや映画でこんな演出を見たことがないのだけどなにか先例はあったんだろうか。とても素敵なアイディアだと思った。

あとオープンセットが多くて奥行きのある映像が贅沢だとか(朝ドラはコントみたいなセットのときもあるんですよ!笑)、音楽が素敵だなぁと思ったら大好きだった夜ドラ『あなたのブツが、ここに』も担当されていた森優太さんだったとか、なんかいろいろ語りたいことがたくさんある。

できたら毎週レビュー書けたらいいなぁと思ってます!


↓三淵嘉子さんとベアテ・シロタさんと黒柳徹子さんの話

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。