今回の『光る君へ』紀行は奈良の金峯山寺だった。そこで、以前、金峯山寺に行った時のことを思い出した。
ある年、奈良へ一人旅をした。奈良へ旅行する時は新幹線で新大阪まで行く場合と京都まで行く場合とがあるが、この時は新幹線で京都駅まで行き、新幹線を降りると乗り換えのため近鉄の改札に向かった。改札の近くには、金峯山寺の秘仏本尊金剛蔵王大権現御開帳の大きなポスターが貼ってあった。当初は大和西大寺で降りるつもりだったのだが、そのポスターを見ると、これは行っておいた方がいいとすぐに行き先を変更して吉野に向かうことにした。一人旅はこういう時、自分の意思と都合で即断できるのがいい。
橿原神宮前駅のホームで乗り換えのために吉野行きの電車を待っていた。すると、職場から電話がかかってきた。急に現実に引き戻されて少し興ざめしてしまったが、幸い大した用件ではなくすぐに通話は終わった。吉野駅で降り、すぐ近くの吉野ロープウェイ千本口駅からロープウェイに乗る。吉野に行こうと思った理由の一つがこのロープウェイに乗りたかったというのもあった。紅葉のシーズンにはまだ早かったが、週末というのもありロープウェイのゴンドラ内はとても混雑していた。風なのか仕様なのか、時々ふわっとするような揺れを感じて少し怖かった。吉野山駅に近付くにつれ、今度は山の木々の枝がゴンドラのガラス面をしきりに打ち付けてくる。窓際に立っていると、こちらまで直に枝に打ち付けられているような感覚になって何度も首や肩をすくめていた。