熱狂は、状態ではなく伝播するものだった
先日あるイベントで、自己開示をする場面がありました。
「あなたの特異性は何ですか」と聞かれた際、特異性という言葉にはあまりピンとこなかったので、自分が大事にしていることに読み替えて話し始めました。
そのとき、考えるより先に口から出たのが熱狂という言葉でした。
個人の熱狂をつくる。それをチームの熱狂につなげる。組織や会社を熱狂させる。そこに留まらず、業界や国を熱狂させたい。そういうことを常に大事にしている、と。
話しながら、自分でも驚くくらい腹落ちしていました。用意していた言葉ではありません。準備していたら、たぶんもっと整った言い方をして、もっと薄い内容になっていたと思います。
これまで、熱狂を状態だと思っていた
僕はもともと、人生に熱狂している人が溢れている世界の実現、というVisionを掲げています。何度も書いてきたし、人に話してきた言葉です。
ただ、この表現には抜けていたものがありました。
熱狂している人が溢れている、というのは到達点の描写でしかありません。そこにどうやって至るのかが入っていない。だから、いい話ではあるけれど、明日の自分の行動には接続しませんでした。
あの日、口から出た言葉には、そこが入っていました。
個人からチームへ。チームから組織へ。組織から業界へ。業界から国へ。
熱狂は、誰か一人の内側で完結する状態ではなくて、伝わっていくものでした。そして、その連鎖のどこに自分が立つのかというと、起点です。人事として、まず目の前の一人に火をつける。
僕がずっと大事にしてきたけれど言葉にできていなかったものは、これだったと思います。
だから、採用だけでは届かない
この構造が見えたとき、もう一つ分かったことがあります。
なぜ僕が、採用と人材開発の両方をやりたいと言い続けているのか。
これまでは、どこでも食べていけるスキルを身につけるためだと説明していました。採用しかできない人事より、採用も人材開発もできる人事のほうが、どんな環境でも通用する。家族を守るために、その力が要る。これは今でも本心です。
でも、熱狂の構造から考えると、まったく別の理由が立ちます。
採用は、入口をつくる仕事です。誰かがこの会社で働きたいと思った瞬間、そこには確かに熱狂の火種があります。選考の中で目が変わっていく候補者を見るのは、この仕事のいちばん好きな瞬間です。
でも、入社した人がその熱を保ち続けられるかどうかは、入った後の話です。役割が与えられ、信頼され、貢献している実感が持てるか。それは人材開発や組織開発の領域で決まります。
つまり、採用だけでは熱狂は生み出せない。火はつけられても、燃やし続けられない。
僕が採用から活躍までを一つながりで設計することにこだわるのは、市場価値のためだけではありませんでした。熱狂を生み出すという目的から逆算したときに、それが必要条件だったからです。
同じ結論に、まったく別の根拠が2本立ちました。この2本目が、今回見つかったものです。
一度だけ、その形が揃ったことがある
以前、エンジニア組織の中に人事機能を置く仕事をしたことがあります。開発組織に異動して、DevHRという役割を立ち上げました。
採用と組織づくりを同時に持つ。CTOやEMといった開発組織の責任者と日常的に、組織をどうしたいかという話をしながら、その場で打ち手を決めていく。
あのときの感覚は、今も鮮明に残っています。
採用の場で候補者に語る組織の話が、自分が実際につくっている組織の話になる。逆に、組織の課題が見えているから、どういう人を採るべきかが分かる。分断されていないというのは、そういうことでした。
もちろん、うまくいかなかったことも山ほどあります。変えたかった構造で、最後まで動かせなかったものもあります。でも、役割の設計そのものは間違っていなかったと思っています。
自分がいちばん力を出せる形が何なのかを、あのとき体で覚えました。
自分の手が届く範囲と、届かない範囲
一方で、線を引いておきたいことがあります。
個人やチームや組織に熱狂を生み出すことは、僕の手が届く範囲です。人事という職種の中で、責任を持ってやれることです。
でも、業界や国が熱狂するかどうかは、僕一人ではどうにもなりません。会社が成長して、その産業が伸びて、結果としてそうなる。僕の仕事はその一部を担うだけです。
それでも僕が業界や国を見ているのは、家族のためです。
家族を守るという目的をたどっていくと、僕が住む日本が安心安全であることに行き着きます。日本が安全であるには、海外と良好に連携できる必要がある。連携してもらうには、日本には価値があると思ってもらう必要がある。そのためには、外に価値を届けて稼ぐ産業を伸ばさなければならない。
ウクライナで起きた戦争を見て以来、この危機感はずっとリアルなものとしてあります。日本もまた、大国に囲まれた地理的条件のなかにあります。当たり前にある幸せは、何かのきっかけで崩れうる。その不安定さを、二人の子どもの世代、さらにその先の世代にまで引き継がせたくありません。
だから僕は、日本の安心安全につながる領域に関心があります。食、観光、地方、エンタメ、サブカル、エンジニアリング、宇宙。そして国防。
僕は性格的に政治家にはなれません。だから、民間から日本をよくしていく道を選ぶしかない。そう思っています。
ドメインは、熱狂の条件ではなかった
もう一つ、考えが変わったことがあります。
僕は長いあいだ、自分が興味を持てるドメインでなければ力が出せないと思っていました。適性検査でも、興味関心との一致がモチベーションの絶対条件だという結果が3回連続で出ています。だから、ドメインは熱狂の必要条件だと考えていました。
でも、実際はそうではありませんでした。
組織の状態を見て、ここは採用で解くべきか、それともメンバーのコンディションを整えるほうが先か。そういうやり取りをしているとき、僕は率直に楽しいと感じます。それは、扱っている事業が何であっても変わりませんでした。
人と組織に向き合うこと自体への熱中は、僕の中で固定されています。会社が変わっても、ドメインが変わっても、ここは動きません。
だからドメインは、熱狂が成立するための条件ではありません。熱狂の度合いを上げるものです。
日本の安心安全につながる仕事だと感じられれば、僕の熱狂は間違いなく一段上がります。でも、それがなくても下限は割りません。
この区別ができたことが、今回いちばん大きな収穫でした。条件だと思っていたものは、度合いを上げるものだった。
熱狂の起点に立ち続ける
僕が大事にしているのは、人事として、まず目の前の一人に熱狂を生み出す。それがチームに伝わり、組織に伝わっていく。そこまでが自分の責任範囲です。
その先、業界や国にまで熱が伝わっていくとしたら、それは自分の手だけで起こせることではありません。それでも、そこを見ながら仕事をしたいと思っています。
そのために必要なのが、採用から活躍までを一つながりで設計できる役割であり、火を絶やさない仕組みをつくることです。
まだ全然できていません。人材開発も組織開発も、正直に言えば未知の部分が多くあります。だからこそ、この領域に強い人たちとちゃんと話して学びたいと思っています。
人材開発をつくっている人、採用広報を仕掛けている人、地方で人事をやっている人、地方の企業や自治体と向き合っている人。うまくいったことも、失敗したことも含めて、ぜひ教えてください。
僕は、努力した者が全て報われるとは限らない、しかし成功した者は皆すべからく努力している、という言葉が好きです。そして、人は必要な時に必要な人と会う、とも思っています。
この記事を読んで何か引っかかった方がいたら、ぜひ話しましょう。