抜歯は無事済んだのだが、それだけでは終わらなかった。翌日消毒があったのだ。虫歯の抜歯は軽いからそんなものはないだろう。そう勝手に思い込んでいたのでびっくりした。
ともかく予約に合わせて予定を調整した。普段予定を詰めるほうなので、いきなり変更があると慌ててしまう。その時間帯は比較的バスが多いからどうにかなるだろう、とやはり勝手に思っていた。抜歯の翌日、予約の1時間前に、小さなバッグに財布とハンカチを入れてバス停に向かった。
花の絵で飾られている赤いバスに乗ったところで気がついた。このバスは某センターの前を通るのだ。もう少し早く出て、そこで期日前投票を済ませてから歯医者に向かっても良かった。でも時間はぎりぎりだし、投票に手間取って歯医者の予約に遅れては本末転倒である。まあいいかと思い直し、いつものバス停でバスを降りて少し歩いた。いつもの横断歩道を渡り損ねて普段使わない小道を通る。昔よく行っていた、コーヒーを出してくれる古本屋さんの前を通った。今は営業は不定期らしい。次の営業日が書かれたボードがドアに下げてあったのでメモをした。
歯医者には予約の10分前に着いた。抜歯後の状態はかなりいいようだった。痛みも腫れもあまりない。あっけなく消毒を終え、支払いを済ませてバス停に向かう。ちょうど来たバスに飛び乗ると中はがら空きだ。田舎のバスなんて通学時間以外はほとんど人が乗っていないものだが、自分だけというのは珍しい。
思いがけず空いてしまった時間をどう過ごそうかと考えていると、バスが交差点であらぬ方向に曲がりだした。乗るバスを間違えたのだ。シートに座ったまま狼狽えているうちにバスは小さな町の大通りをぐるっと巡り、期日前投票をやっている某センター前に停まった。何も考えられずにスマホで運賃を払ってバスを降りた。病院に行くから保険証代わりのマイナンバーカードも持っている。引き寄せられるように自動ドアを抜けて中に入った。
センターは古い施設を利用した役所の別館だ。子供向けの小さな図書館に託児施設、それに広々としたホールがあって、絵の展覧会や健康診断や講演会に使われている。そのホールが今は投票所になっているのだった。立ち会う人はみんなにこやかである。なんだか怪しい団体の勧誘のみたいだと思ったが、無愛想にすれば役人は生意気だと叩かれ、笑顔を向ければ怪しまれるのは気の毒だなと反省した。
投票は簡単だった。マイナンバーカードもいらなかったのでびっくりした。センターから出るとまた歩いて最寄りのバス停に着いた。次のバスまで15分ほど時間がある。そいえば道を渡ったところに本屋さんがあったっけ。そこで前から欲しかった文庫本を1冊買う。町の本屋さんがかけてくれる紙のカバーが好きだ、と店員さんに言うと柄違いのものを数枚おまけにつけてくれた。嬉しい。
普段は手帳に細かく予定を書き込んでチェックマークを入れてゆくのが好きだけれど、行き当たりばったりの日もたまにはいい。
2026/02/04
Kohana