究極の選択

kohana
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公開:2026/1/29

口の中に変なものがある。

気がついたのは4日前だ。場所は舌の裏側の付け根の真ん中あたりである。小さくつるんとしてとがっている。舌の先で触れると堅い。色は口の中のほかの部分と同じで痛みはない。

調べたところ、ちょうどそのあたりに舌下小丘という器官がある。それだろうか。しかしなぜこんなに目立つのだろう。それに、ふたつあるはずなのにもう片方は見えない。悪いものではなさそうだが気になる。今度クリニックで診てもらおう。ああまた心配が増えてしまった。

今、自分はいくつか不安を抱えている。たとえばネット回線の支払いだ。トラブルで1ヶ月分だけ支払いが遅れたのだが、払った後も延々督促が来る。督促のSMSで支払い完了のメッセージが過去に流れてしまう。サイトの表示でもサポートに確認しても支払い済みになっているのに、「行き違いの際は破棄してください」と但し書きをつければいくらでも督促していいと思っているようだ。気がつかない人やそもそも払う気のない人がいるせいなのかもしれないが、払った側としては気が気ではない。

昨日書いたトイレの件もちょっと不安だ。大で流して便器が水でいっぱいになり、あふれ出しやしないだろうか。そうしたら掃除はどうしたらいいんだろう。一応ハイターがあったっけ。そうそう、そういえばほかにも‥‥と、暇になると複数の悩みをいじり回している。そして喫緊の課題を忘れている。

抜歯だ。

自分は来月初めに歯を抜くことになっている。神経のない虫歯だが、根っこしか残っていないという簡単なのか難しいのかわからない抜歯である。口の中のへんなものは気になるが、ほかの件はただの気にしすぎだ。つまり自分は一番不安なことから目を背けるために、比較的どうでもいい不安にしがみついているのだ。時間と労力の無駄である。

実は自分は過去に不安障害を経験し、所謂認知行動療法で寛解させている。またあんな状態は経験したくないと思う。そうだ、ストレスで心の病気になるくらいならトイレから汚水があふれる方がずっとましだ。と一瞬層開き直るがやっぱり両方嫌だ。

そんなことを考えながら夕方道を歩いていると、古い塀に選挙戦ポスターが張り出されていた。今住んでいる処は田舎である。田舎は候補者が少ない。今回はたったふたりだけだ。失礼になるので具体的な名前を挙げるのは控えるが、個人的な印象としては腐ったドリアンと腐ったバナナの対決である。

究極の選択かあ、と思いながら家に帰り、ワインを飲んでスナック菓子を食べた。抜歯をするとしばらくアルコールと堅いものは口にできないからだ。投票日は抜歯の数日後である。

2026年1月29日

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。