<『全国手をつなぐ育成会連合会』の意見書公開>
本題に入る前に。
8月19日付けで『全国手をつなぐ育成会連合会』が、『「みいちゃんと山田さん」アニメ化に対する意見書』を公開した事が話題になっていた。福祉関係者だと『手をつなぐ親の会』という、以前の組織名の方が馴染みがあるという方も多いかもしれない。実際に組織の立ち上げに関わった方は障がい児の親であり、我が子のための活動がその出発点だった。
今回の意見書を受けて、『みい山』のアニメ化に賛成する立場の方々から「圧力団体が介入してきた」かの様な意見が散見されるが、今回の意見書ではアニメ化それ自体には反対していない。(これは自分も同じ立場)むしろかつての『親の会』の名称通り、知的障がい者の家族として出版社やアニメの製作委員会側に説明を求めるもので、自分たちの家族に直接影響があるかもしれない問題について意見を述べるのは至極真っ当な事だと思う。
『みい山』の功績として言われる事が多い「障がい者を扱った原作漫画が累計発行部数280万部を超え、アニメ化もされる事は話題性があり、障害福祉の問題も周知されるのだから良い事だ」というものがあるのだけれど、一方で『全国手をつなぐ育成会連合会』は毎月『手をつなぐ』という情報誌を発行していて、1952年の創刊からその活動はずっと続いているし、表紙も知的障がい者が描いたものが使われている。こうした地道で穏当な活動が注目される事無く、『みい山』の様な漫画にだけ読者が集まるというのは、自分たち一般の読者側の問題なのではないかとも思う。これは今回の『みい山』アニメ化に関する炎上の時に、「『みい山』以外にも障がい者をテーマにした漫画等があるのだから、むしろ他の作品の方が読まれて欲しいし、話題にして欲しい」という意見があったものの、残念ながら炎上騒動を超える様な動きにはならなかった事とも繋がる。
よりエンタメで、より刺激が強く、ネットミーム等のネタにもしやすい漫画。
そういう表現だけが『バズる』事が、果たして社会問題を解決する上でプラスになると言えるのだろうか。むしろこれまで地道に続けられて来た発信をかき消す様な大声になっていないか。本当に問われるべきのはそこだろう。
この前提が、今回の2巻感想にも直接繋がる。
自分の様な福祉関係者が書く感想だと、どうしても「『みい山』の問題点を指摘して行く」という様な内容になりがちなのだけれど、当然全部が全部問題ばかりではない訳で、それがこの2巻ではよく現れていると思う。それは『ニナちゃん』周りのエピソードの丁寧さだ。
自分の勝手な推測だけれど、作者は本当は「かつて夜職だったわたしたちの実体験」の様な丁寧なエピソードの積み重ねをもっと描きたかったのではないかと思う。『100日後に死ぬワニ』の様に、『みいちゃんの死』を読者を牽引するためのフックにしてしまったせいで、どうしてもそちらを本筋にするしかなかったのだろうけれど、特に1巻から2巻にかけて、キャバクラで働く女性たち個人の物語を拾って行く場面等を読むと、そう感じる。
ニナちゃんについては、巻末で『ニナちゃん36歳』という「その後」の物語があり、その中で彼女の直属の上司が『水商売やってたなんて話 他の人には あんまり言わない方がいいいよー 私は別にいいけどさあ』と言う。そして続けて、
『女の子が殺される殺人事件とかあってもさ 被害者がキャバ嬢とか風俗嬢とかだと 「ああ そういう子ね」って下に見られて命まで軽く扱われる・・・』
『腹が立つけど世間の「水商売してる女の子」への目線って そんなもん なんだよね』
という台詞が続く。
作者が本当に描きたい事って、明らかにこっちだったんじゃないか、と思う。
作者自身が夜職だったかどうかは脇に置くとして、少なくとも作者が知る人や取材対象の中には夜職だった女性がいた。その中にはトラブルに巻き込まれて命を落としてしまった人もいて、そしてその死は軽い扱いを受けていた。きっと作者はその事が嫌だったし、許せなかった。
そう考える時、どう考えても本筋になり得るのは「みいちゃんを殺したのは誰でしょう?」とか、「夜職や障がい者を題材にした露悪エンタメ」じゃなくて、『「水商売してる女の子」の命や存在が軽く扱われる現実への憤り』の方だったんじゃないか。夜職だからという偏見で見られて、「私たちはここにいて、ちゃんと生きていたんだ」という自分たちの『存在』が認められなかった事に対するわだかまりの方だったんじゃないか。そう自分は思う。
だったら、そこをメインテーマにできなかったのは何でなんだよ、というと、それは自分たち読者側の問題なんじゃないかと思う。
<『ドパガキ』化する読者たち>
最近、『ドパガキ』という言葉を聞く様になった。
Wikipediaによれば、『ショート動画やゲームなどの刺激の強いコンテンツに慣れて、常に強い刺激を求めるようになり、集中力が続かなくなる若年層を揶揄するインターネットスラング』『「ドーパミン中毒のガキ」の略称である』という。
これ、『ガキ』って付いているからデジタルネイティブ的な若者を思い浮かべるけれど、もっと前からこの問題はあって、中高年だってこれまで十分『ドパガキ』してただろ、と自分は思う。それはSNS等の普及に伴って、漫画の表現そのものが『即オチ2コマ』化して来ている事とも関係している。
『即オチ2コマ』って、元々は『即堕ち2コマ』だった様に、主にポルノの文脈で「キャラクターが誘惑や快楽に抵抗できずに堕ちる展開を限界まで圧縮した表現」の事を指していた。よく言われる「起承転結の『承、転』が無くて『起、結』だけ」という奴で、本当に2コマで終わる、イラスト2枚の漫画もある。『X(旧Twitter)』とかだと、更に簡単にそれができる。ひとつめのポストに1コマ目を貼って、続きを次のポストに繋げておけばプレビューが稼げるから。1ページの中でコマ割りもしなくていい。イラストが描ければコマ割りができなくても漫画になる。そして読者は簡単に読めるし、文脈を理解するとか、面倒な前提が何も無くなる。
結果、何が起きたか。
2コマ漫画であれば「1コマ目で続きが気になってクリックしたくなる様な『派手な刺激』を入れて、読者をひっかける」という事だし、普通の漫画でも「読者を途中で飽きさせないために、定期的に『派手な刺激』を入れて途中離脱させない様にする」という事だ。もっと古くは「週刊漫画の連載で、次の週まで読者をどう引っ張るか」という物語の『引き』の作り方としてそれはあった。でも今はもうSNS等のデジタルメディア上では「週刊漫画の引き」みたいな気の長い話ではなく、「次のコマへの引き」「次の1タップ(クリック)への引き」みたいな短いスパンにそれが仕込まれる様になったし、その『刺激』の内容も、どんどん酷いものが出てきている。
『みいちゃんは 近親相姦の結果 生まれた子供 だったのだ』とか。
分かるだろうか。
自分は先に『ニナちゃん36歳』を褒めた。「むしろこっちが作者が描きたい事だったんじゃないか」とも言った。でも、ドパガキ化した読者にとってもっと強い刺激がこうやってブチ込まれれば、それが切り抜かれ無断転載されネタにされネットミームにされ拡散され、ドパガキの頭の中にはこっちしか残らないんだよ。で、「みいちゃんはヤベー奴だし、その両親はもっとヤベー奴だ」「障がい者に子どもなんか作らせるからこんな事になるんだよ」っていう身も蓋もないネタの方が独り歩きして、作者が描きたかった(であろう)丁寧な物語の積み重ねの方は吹き飛ばされてしまう。
SNSだけじゃない。YouTubeだろうがTikTokだろうがネット広告だろうが何だろうが、ドパガキを狙うメディアは『どうやって1タップさせるか』『どうやってバズらせるか』しか考えていない。より多くのインプレッションを稼ぎたければ課金しろとか、稼いだインプレに応じて報酬を払うとか、中身のない『ドパガキを釣るテクニックの煮凝り』みたいなものを平然と『コンテンツです』『作品です』って言って出してくる。それで、そのメディアの中で生き残るために、コンテンツ制作者はもっと『派手な刺激』で視聴者を釣り上げようとするから、限られた視聴者数を奪い合い続ける中で、このどうしようもない負の連鎖はどこまでも続いて行くし、市販薬のオーバードーズ(OD)で満足できなくなった客層に麻薬を売り付けるみたいな事が平然と行われる。
個人的に嫌な表現としてひとつ挙げるなら、Xで「リポストしてくれたら〇〇します。いいねしてくれたら〇〇します」みたいなネタで描かれたイラストなんかがあって、それって元々は『ポルノ系の売り方』だったんだよね。「いいねの回数が一定数超えたら脱ぎます」みたいな。でもそれは全年齢にも下りて来て、障害福祉系の番組を揶揄する『感動ポルノ』っていう言葉があるけれど、こっちは『感情ポルノ』なんだろうなと思う。
たとえば「かわいそうな女の子のイラスト」に「いいねの数に応じて、次のイラストで衣類や食べ物をあげます」みたいなコメントを付けて投稿者が投げると、感情を刺激された視聴者が反応してくれるみたいな、人の心をそこらのドブに捨てて来たみたいなテクニックによる釣り。そんな『感情ポルノ』が横行している。そこにAIイラストで「投稿者の労力なくイラストを量産できる環境」が加わって、「単にインプレ稼ぎのために生み出された名前もないキャラクターが即オチ2コマで消費されて行く地獄」が生まれてるし、それに慣れ切ったドパガキを相手に漫画を読ませなきゃならない既存の出版社も地獄だと思う。
そういう『どうしようもなさ』にある程度乗っからないとインプレが稼げないという前提の上で、ネット連載の漫画のプロモーションも行われるし、そこで280万部という数で成功してみせた『みい山』もその毒を一緒に飲んでいるという部分はあると思う。次回に回すけれど、『コレ』がマガポケの広告なんだから。(酷すぎてスクショした画像)
