キーボード#1アドヴェントカレンダー19日の記事になります。
昨日は、五月雨さんの「2024の設計まとめ(キーボード #1 Advent Calendar 2024)」でした。今年だけで8台ものキーボードを設計されていて、すごいなという感想と、私と同じQAZレイアウト推進派という印象がありますね。また、LEDの不具合についてのことやロータリーエンコーダのチャタリング防止のことなど、技術的なことを丁寧に解決されていて、尊敬します。オフラインイベントでもお話しさせていただいたことがあり、とても素敵な方です。
さて、今日は私の番ですね。
2024年も間も無く終わりますね。今年、自分が設計したキーボードの確認も兼ねて、紹介する形で振り返りたいと思います。
1つ目は、
年明けにマクロパッドを作りました。coolpad29です。これはジョイスティックの実験機として設計しました。この後、ckb4というロウスタッガードのQAZレイアウトにジョイスティックを付けるための練習を兼ねて、マクロパッドを作りました。実際使う場面があまり思いつかず、動作確認だけで終わっています。余剰基板は、キーケットとboothで頒布している、私のキーボードの購入者に向けて、サンキューカードの形で、配布しました。
2つ目は
ckb4になります。前年秋に、HHKB Studioが発表されて、ジョイスティックが内蔵されたのを見て、影響を受けました。QAZレイアウトにジョイスティック、ロータリーエンコーダをつけておけば、「これ1つで全部できる!」と思いました。その意気込みはよかったのですが、仕事場で置いて使う分には、あまり問題なかったです。しかし、出先で使うことを考えるとケーブルが邪魔でした。ckb4を作ったことが、次のキーボードでケーブルレス(つまり、無線接続)に舵を取る契機となりました。
ジョイスティックは、これです。
ckb4はまだ、在庫を抱えています。興味のある方は、こちらへ。
3つ目は、
cool836qalble2です。ckb4でケーブルが邪魔だったので、Bluetooth接続できるcool836qalbleに(QAZ系アリス配列)、ジョイスティックをつけてみました。ジョイスティックといっても、上下左右及び押すという動作の5ボタンスイッチです。
軽快にカーソルを操作するには難しく、微妙な機能でした。それでも、ckb4の弱点であるケーブルの有無を解消することには成功しました。しかしアリスレイアウトゆえ、ちょっと大きく感じるのが持ち歩きについての難点でした。End gameはまだ先にありました。
4つ目は、
cool939という、QAZレイアウトの39キー分割キーボードの改良版である、cool939v2です。cool939は、cool936という36キーの分割キーボードのデザイン変更としたものでした。キーケットで1点だけ頒布したものです。v2は左側最下段のキーの並び方を変えたものです。私の趣向が3分割スペースキーから、2分割スペースキーに変更にしたので、修正しました。また、MCUボードをpro microから、pro micro RP2040に変えました。この修正により容量が多くなり、vial対応のファームウェアにアップデートできました。vialによってキーマップの幅が広がり、使い勝手はよくなりました。今も仕事場でトラックボールマウスと組み合わせて使っています。ただ、有線接続なのが悩みでした。分割なので、出先に持って行く時、ケーブルがあること、それを繋げることが不満でした。でも、アクリル積層で作ったデザインはきれいで、同じことをもう1回試そうと思わないほど、満足しています。
5つ目は、
ckb4uraです。これはckb4の基板を設計するとき、ジョイスティックがうまく機能しないことを考え、PIM447trackballも取り付けられるように回路を組んでおいたものです。ckb4の派生機種です。まあ、トラックボールの動作確認した程度で、それ以上、使用せず、部屋の隅にあります。PIM447の入手性を考えると、AZ1UBALLを採用するのが妥当なのですが、ジョイスティックのカイロと重ねると、どうしても無理なため、PIM447を採用しました。もし、ジョイスティックと選択制にしないのであれば、AZ1UBALLを採用します。今のところは、ケーブルレスにならないので、このままです。
6つ目は、
自作キーボード単体ではないのですが、cyberdeck001のキーボードです。このキーボードは、先ほどのckb4uraなので、基板はそのままckb4で、ケースの拡張という形で、ラズパイ4とモニター、バッテリを収納する部分を作りました。「サイバーデッキというものをやってみたいな」という厨二病的な思いで作りました。また、機会があれば、cyberdeck002を作ってみたいと思います。一応、ラズパイゼロ2を買ってあるので、あとはタイミングですね。
7つ目は、
ckb6という、オーソリニアでckb4みたいなことをしたものです。ckb4からのケースデザインは、古いキーボードについて知識はないのですが、多分、IBM Model Fというキーボードをイメージしたものです。海外にも似たようなデザインの自作キーボードを作る人がいて、その一つにオーソリニアもありました。そのあたりの影響から、なんとなく、きっちりと詰まったオーソリニアのキーボードを作ってみたかったので設計しました。いつも動機は不純ですね。完成したところ、このきっちりとキーが詰まった感が、逆に苦手に感じました。このあと、cool640lpなどで、間に1列空きがあるのは、このckb6のアンチテーゼなのかなと思います。これも設計して完成してみたけど、部屋の隅にあります。
8つ目は、
cool536lcbleです。昨年、cool536lcを作ったところ、とても好評で、私の設計したキーボードの中でも、多く頒布することができました。そのBluetooth接続版を昨年から作っていたのですが、キーレイアウト左右の一番内側1列の配置が気に入らず、なかなか頒布するまでのものに至りませんでした。わずかに手前に下げる位置にして、自分の人差し指が問題なく打鍵できると感じたので、完成に至りました。電源スイッチを手前に置いたデザインも気に入っています。どこでもサッと使えるケーブルレスはいいのですが、やや高さのあるケースが難点なのと、この頃から、「私はカラムスタッガードに向いていないのかな」と思うようになり、部屋の隅に置かれています。一応、金属ケースに挑戦しようと思い、2つほど作りました。1つ目はトップケースがやや大きくなり、ちょっと失敗です。2つ目は塗料によって少し厚みが出ることを考慮せず、トップケースとボトムケースが間隔なくはまってしまい、もう開きません。金属の塊となりました。この2回の失敗で、ちょっと予算的に厳しいと思い、頓挫しています。金属ケースのキーボードを販売する方々の熱意と覚悟に、ただ慄くばかりです。
cool536lcbleには、geonworksのキーボードで採用されているガスケットマウントのtadpoleを用いています。tadpoleは、それ自体はあまり高いと思いませんが、小さな袋(200個入り)に対して送料が5000円ぐらいかかるので、気軽に購入できないことが難点です。似たものをネットで探していますが、見つかりません。
cool536lcbleはまだ頒布しています。こちらへどうぞ。
9つ目は、
ckb3と名付けた、自分の中で30%ロウスタッガードの頂点としたキーボードです。実際には頂点にならず、お蔵入りに近い状態です。先ほどのtadpoleを用いて、ガスケットマウントにしました。なるべく、一般的なキーボードのキーキャップセットに対応するよう、得意のQAZレイアウトを外しました。なんか出来上がってみると、leftoverという、別の方のキーボードに近い感じがして、自分の発想の貧困さにショックを感じました。BLE Micro Proを採用してBT接続にしてあります。ガスケットマウントにするためのケースが大きく、厚みもあり、持ち歩く気持ちになりませんでした。一応、右手前にロータリーエンコーダをつけることもできますが、私の運指では、邪魔なものでした。別の形で昇華させたいものです。
10こ目は(「10つ」は変なので、ここから「何こ」を採用します)、
cool336です。これはckb3とほぼ同時期に、余っているISOエンターやロングスペースバーを活用したキーボードを思って設計しました。私の中では、力を抜いて設計したものなのですが、出来上がってみたら、ckb3よりも気に入ってしまいました。こういうことが、これまでも何度もあります。cool336はRP2040-Zeroを採用しています。RP2040系ボードはpro microに比べて、容量という一点を考えると、使い勝手がよいです。さらにRP2040-ZeroはTalpkeyboardさんで420円と破格なので、本当に使いやすいMCUボードと思います。そのあたりのことは、昨年9月に出した、自作キーボードに関する本(電子版のみ)でも、取り上げています。cool336のキーレイアウトは、QAZレイアウトでISOエンターを含むレイアウトを考えたものです。QAZレイアウトとは自作キーボードをし始めてから、付き合いが長いです。最初はキー数が少なくて不便かなと思っていました。ただ、現在はvialで編集できるタップダンスやコンボなどの機能を使えば、問題ないと感じています。コンパクトにまとめるには、QAZレイアウトは最高です。
cool336はこちらで頒布しています。
RP2040-Zero利用の自作キーボードについての本は、こちらです。
11こ目は、
cool336のBT接続版のcool336bleです。こちらはRP2040-ZeroからBLE Micro Proに載せ替えて、電池収納スペースを配置して、ケーブルレスのキーボードです。nomu30に憧れて、あのようなコンパクトながら、必要最低限なキーレイアウトのキーボードを作ってみたいという初心を思い出すことができました。ケーブルレスで、サッと取り出してスマホと繋いで、文章が入力できるという点は、これが私の最強なのかもしれません。この文章も、ここまでcool336bleとiPadを使い、ファミレスで書いています。
cool336bleは、こちらで頒布しています。
12こ目は、
cool640lpです。9月のキーボードフリーマーケット(キーフリ)で、来場者から「オーソリニアのキーボードが欲しい。分割なら、なおよい」的な話がありました。
なんとなく興味があったロープロファイルのスイッチを使ってみたいと思い、オーソリニアかつケーブルレスで設計しました。choc v2スイッチソケットはその構造から、BLE Micro Proを被せて配置することが難しいです。そのため、あえて中央部に配置して、横11Uの方が使い勝手がいいかなと思ったレイアウトです。このキーボードを見た妻の感想は「(薄っ)ペラいなぁ」だったので、通称「ぺらい」と名付けてます(辞書登録もしました)。
実際、cool336bleよりも薄く、小さいので、持ち歩く時には、とてもよいです。設計する割には、オーソリニアもあまり使わないと思ったのですが、このコンパクトさによって、cool640lpは持ち歩きのバッグに入ることがあります。cool640lpの設計で、キーフリの話の前半部分はクリアしたと思いました。
cool640lpはこちらで頒布しています。
13こ目は、
cool642です。これは設計上、cool640lpの基板をBLE Micro Proを含む形で切断した右側と、左側で成り立っています。前述のキーフリの話の後半部分をクリアするために、前段階としてcool640lpを設計して、それを活用する形でcool642を設計しました。cool640lpとのキーレイアウトの違いは、内側のキーを1Uにしたことです。結果として、全て1Uとなり、キーキャップが選びやすいと思います。これもBT接続なので、ケーブルレスで使用できます。購入者から「エンドゲームになります」とメッセージをもらったことが、とても嬉しかったです。実際、cool336bleやcool640lpと違い、分割なので、腕を広げて使うことができ、長時間の使用も楽です。cool640lp同様に、薄いので持ち歩きにも適しています。なんの不満もないオーソリニアの分割キーボードです。キーキャップはTaiHao ThinsというTalp keyboardsさんで扱っている、きれいなキーキャップが使えます。
cool642はこちらで頒布しています。
14こ目は、
tacash36です。これは、cool336やcool336bleを作った時に、「キーキャップが探しが難しいな」と思いました。そのために、以下のような記事を書きました。
「一般的なキーキャップセット、Base setだけで、cool336bleみたいなキーボードを作ろう」と思い、設計しました。横幅が大きくなり、その時、私が持っている3Dプリンターではボトムプレートまでしか印刷できませんでした。側壁をつけてケース状にしようとすると、印刷範囲の大きさを超えてしまいます。そのため、スイッチプレート、ボトムプレートという構成にしました。キーフリで頒布しました。cool336やcool336bleを見て、キーキャップを悩む人に、tacash36はよかったようです。名前の由来は左1列のキーキャップが「Tab」「Capslock」「 Shift」キーを使うことから、その頭2文字を繋げたものになります。cool336bleと構造がほぼ同じなので、同じ名前になってしまうので、苦肉の策として名付けました。
15こ目は、
End gameとして作ったcool937です。自分の中で36〜39キーぐらいのロウスタッガード、分割、ケーブルレスは目標でした。cool939v2はケーブルレスを除けば、十分満足いくキーボードです。ただ、外で使う時、左右を繋ぐTRRSケーブル、スマホやタブレットと繋ぐためのUSBケーブルという2つの作業が面倒でした。しかし、自分の中でcool939v2を無線化するのは、とても困難と思っていました。アクリル積層で綺麗に作った分、そのデザインを崩すのが難しかったです。そのため、このコンセプトのキーボードは思いつく旅に、諦めていました。
娘を学校へ送って行った帰りに朝マックをしました。その時持っていたcool642を見て、なんとなく、このケースの大きさに、ロウスタッガードのキーが収まると思いました。ロウスタッガードの分割キーボードでは、左右中心部のの凹凸を綺麗にハマるのが美しいと思います。実際、自分でもそういうデザインで何個かキーボードを作っています。cool939v2もそうなのですが、無理に凹凸をハメる必要はないと考えるようになりました。「あれは設計者のエゴ(「私はきれいにくっつくように設計したよ、いえ〜い」)かな」と思います(少なくとも、私はそんな気分で、当時、分割キーボードを設計していました)。実際、分割キーボードを一体にして使うことはあるのでしょうか、ないです。だって、一体にして使えば、肩が窮屈に感じます。だから分割キーボードを選んでいるのです。ということは、一体にしたときに、凹凸がきれいにハマる意味はありません。そんなこと考えたら、cool937のデザインが決まりました。
凹凸をきれいに一体にする必要はないのです。ただ、私は膝の上でキーボードを使うことがあります。その時、分割であると、左右の太ももに、それぞれを置くこととなり、不安定な状態で入力することとなります。それを解消するために、時には一体にすることを考えました。キーボード左右部が面するところに、磁石を埋め込みました。磁石を4箇所付けることで、一体になり、膝の上でも問題なく入力ができます。そして、キーは中心に1.5Uほどの間隔ができて、窮屈さを感じなく打鍵できます。
構造としては、cool642と同じように、ロープロファイルのキーキャップ、Choc V2スイッチを使うものにして、薄さを目指しました。しかし、BLE Micro ProはChoc V2スイッチソケットとの組み合わせが難しく、結果として、手前に空きスペースを設けて、配置しました。そのため、期待したほど、薄さが望めませんでした。現在のEnd gameですが、もしかしたらCherry MXスイッチのロープロファイルを使い、BLE Micro Proの配置を1行目に移し、さらに電池関係の配置も1行目にすることで、厚みを減らすことができるかなと考えています。ただ、先日、届いた、gateronのロープロスイッチは、私が設計した薄めのスイッチプレートでも、キーキャップが当たるようで、課題が残っています。もう少し検討してから、cool937の改良版を設計しようと思っています。これでは、End gameになりませんね。
16こ目は、
cool642の有線版となる、cool636です。
多分、この記事が出る頃に、基板が届くと思っていたのですが、まだ届いていません。基板の設計はcool642とほぼ同じなので、失敗はないと思います。スイッチプレートもボトムケースもcool642と同じなので、TRRSケーブルを差し込む口を追加する修正だけですね。0から作るわけではないので、今年中に完成すると思いますので、ここで紹介します。
cool642は無線接続を旨としているのですが、念のためとして、有線接続できるよう設計しました。cool642の購入者の1人が実際に、有線接続で使用してくださりました。有線接続は念の為の仕様でした。実際に使用してもらったことにより、TRRSジャックの配置場所とUSBケーブルが緩衝することがわかりました。その解決として、コンセプトが変わってしまうのですが、cool642の改良版として、cool636を用意しました。これは、スイッチプレートによって、36〜42キーを選べるようにしています。ごく少数の使用者を対象としています。3Dプリンタのおかげと思います。
今年は、16このキーボードを設計し、1冊の自作キーボードに関する本を執筆しました。3月のキーケット、5月と11月の天キー、9月のキーフリと、適度な間隔でオフラインイベントがありました。それぞれに参加する時に、新しいキーボードを見せたいという気持ちがあったため、設計に励んだのかなと思います。また、イベントの際、他の方の設計を直接、触れることができることや参加者とのお話がよい刺激になったと思います。
年末年始は来年3月のキーケットに向けて、2つほどオーソリニアのキーボードを設計しようと思っています。あと、全くわかっていないZMK_firmwareを勉強しています。すでに作成されたキーボードの情報を手掛かりに、わずかですが前に進むことができそうです。皆さんの知見によって、楽しめそうです。
まとまりませんが、自分の1年間の総括について、このあたりで失礼します。
明日は、kushima8さんの記事「頒布する際に気を付けるべきこと もしくは今年の振り返り」になります。色々なイベントで頒布されているので、そのあたりの経験を知ることができるのかな、とても楽しみです。
この記事は最後まで、iPadとcool336bleで仕上げました。