艦これに捧げた11年

しお
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公開:2024/9/28

2013年9月28日に『艦隊これくしょん -艦これ-』を始めて、今年で11年になる。

平時も毎日プレイしているが、特にこの8月下旬から9月下旬までの約1ヶ月間はイベント攻略期間のため、ほぼ全ての可処分時間を艦これに費やした。平日は仕事から帰って寝落ちするまで、3連休を含む週末もほぼ全てプレイ時間に充て、それ以外も毎日ずっと艦これのことを考えて過ごした。

この1ヶ月、そして11年という年月について、もうとっくに客観視することができなくなっている。しかし後悔は全くない、そんな話をしたい。


艦これは、プレイヤーが艦隊の「提督」となり「艦娘」たちを育てて敵を倒す育成シミュレーション型のブラウザゲームだ。以前にも触れたことがあるので、良ければ併せて参照してほしい。

ゲーム内では1年に3~4回、各1~2か月かけたイベントが開催される。期間中にだけ設置される限定マップの最奥部に強大なボスが待ち受けていて、クリアすれば新しいキャラクターや強い装備を手に入れることができ、自身の艦隊をより強化することができるというものだ。

このイベント攻略に、笑っちゃうほど時間が掛かる。

艦これは「人事を尽くして天命を待つ」、言ってしまえば運ゲーである。提督の仕事は、勝率を0.1%でも上げるために準備を重ね、試行回数で運ゲーを制することだ。イベントを進めていけば1回の出撃準備に2時間かかる場面もざらにある。入念に準備をして送り出した艦隊が10分足らずでぼろぼろに負けて帰ってくる、装備を見直したりコンディションを整える、再び戦場に送り出す。うまくかみ合ってボスを倒せるまで、これを何十回も繰り返す。

今回は過去を鑑みても指折りの高難易度イベントであり、クリアまでに約1ヶ月掛かってしまった。攻略サイト以外の編成を試したり、シミュレーションツールを使ったり、コンバート改装や運改修を急遽実施したり、勲章を割って装備改修を一気に進めたり、貯め込んだアイテムを惜しみなく消費したり、できることを片っ端からやった。攻略情報を見ながらの後追いでもこの有様なので、先行勢の方々にはいつも頭が上がらない。

提督側でも難易度を4段階から選べるが、低難易度では強い装備品がもらえない→今後の攻略が難しくなるループに陥ってしまうので、なるべく最高難度でのクリアを目指したい。そして何より、いつも頑張ってくれる艦娘たちに甲種勲章を手にしてもらいたい。これが11年続けてきた平凡な提督のモチベーションであり、ささやかな意地だ。

しかし今回、久々に終わりの見えない日々が続いて少し弱気になってしまった。柔軟に難易度を下げて攻略する提督もいれば、最高難度でのクリアを諦めると同時に引退する提督もいる。10年一緒に戦ってきたKも昨年、粘って粘ってクリアが間に合わなかったことをきっかけに綺麗さっぱり引退してしまった。一部の提督にとってイベントはそれくらい重い存在だ。難易度を選べるようになった過去31回の中で、私は最高難度を2度諦めた。だから完璧にこだわる必要はないと言えるが、同時にこれ以上諦めたくないという気持ちもある。

このささやかな意地のために、いつまで時間と体力を使えるだろう。


コンテンツが溢れる世の中で、ユーザーの可処分時間は常に奪い合いだ。そんな中で艦これが何万人ものアクティブユーザーを維持しているのは、提督である自分から見ても不思議なくらいすごいことだ。

刺激的な対戦要素も、読み応えあるストーリーも、美麗なグラフィックも、隅々まで作り込まれたフィールドも、上達を実感できるアクションも、判断を迫られるコマンドバトルも、時間のかかる演出をスキップする機能もない。イベントとその準備には膨大な時間が掛かるし、新艦娘や新装備を逃せば年単位で手に入らない。課金で解決できないことばかりの設計が美点であり、同時に人によっては欠点でもある。

そんなゲームを多くの人が続けているのは、ひとえに艦娘への愛着と、難しいながらも掛けた時間の分だけリターンのあるゲームバランスゆえだろう。長い時間をかけて艦娘を育ててきたからこそ、提督それぞれの形の愛着がある。長い時間をかけてイベントに挑むからこそ、試行錯誤の末に突破した達成感の虜になる。

うちの子たちならやれる、突破できるはずだ、なぜ勝てないんだろう、何が足りないんだろう、この方法ならどうか、時間がない、資材もない、頼む次こそボスに一撃当ててくれ……! そんなヒリヒリした祈るような戦いを乗り越え、みんなよく頑張ったとねぎらい、提督に至らないことがあれば反省して、また次の挑戦に向けた準備の日々が始まる。その繰り返しでここまで来た。


艦これに捧げた11年を思う。

毎日の演習と遠征と任務。定期的に運と実力と試行回数を試されるイベント攻略。後にも先にもひとつのゲームにこれほどの時間を費やすことは無いだろう。

ゲーム外でも様々な公式リアルイベントに参加してきた。片道14時間かけて佐世保に駆け付けた。呉で市長や呉氏にペンライトを振った。大湊のローソンまで遊びに行った。深海サーカスを見てぼろ泣きした。アイスショーで伊藤みどりさんらの熱演に胸を打たれた。オーケストラやジャズコンサートに足を運んだ。Toshlさん、広瀬香美さん、米良美一さんの歌声を浴びた。秋刀魚やカレーをお腹いっぱいたべた。人生で縁のなかったゲームセンターに通い詰めた。富士急に1ヶ月で5回も遊びに行った。読売ランドでバンジージャンプに挑戦した。八景島シーパラダイスで綺麗な夕日を見た。声優さん、遊撃部隊の方々、全国から集まった提督のみんなと何度も何度も歌って踊った。

公式と関係のない機会でも、横須賀・舞鶴・神戸など各地の慰霊碑や資料館を訪れるようになった。記念艦「三笠」や日本郵船「氷川丸」を見学したり、軍港クルーズに参加したり、砲台跡や観測所跡を巡った。旧大戦に関する書籍を読んだり戦争映画を見るようにもなった。海や港を見るとそこに艦娘の気配を感じる体質になった。同人イベントにも多数参加して知り合いもたくさんできた。

思い返してみれば、艦これをやっていなければ行かなかった場所、知らなかったこと、出会えなかった人ばかりだ。艦これのない人生もきっと楽しいものだっただろうけれど、私の人生には艦これがあって良かった。

 

こんな風に書いているとなんだか引退したような気持ちになってきたけれど、全然そんなことはなくて、今も遠征の送り迎えをしてマンスリー任務をこなしている。

今回の高難易度イベントで苦労したからこそ、尽きてしまった資材を回復させ装備を強化して不足を補い、次回に備える気持ちが改めて湧いてきた。コロナ禍以降に足が遠のいてしまっていたリアルイベントにもまた遊びに行きたい。

ゲームとしてのサービスが終わらない限り、そして自分の意地とリソースが続く限りは、提督としての生活を続けていこうと思う。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。自己紹介代わりの記事リンク集はこちら→ sizu.me/m_shiroh/posts/kk0dbd40xv71