BEYOOOOONDSの舞台公演が千秋楽を迎え、舞台の上で別人として生きたメンバーたちが日常へ戻ってきた。各々が演じた役との別れを惜しむ姿を見て、ある役者を思い出した。
昔通っていた大学に学生劇団があり、在学中はよく公演を観に行った。敷地の外れにある狭くて暗い見世物小屋みたいな劇場で、積み上げられたマットやぼろきれのクッションを客席代わりにした小さな興行。学生劇団らしい粗削りさと尖った脚本や演出が好きだったのもあるが、ひときわ目を惹く役者が一人いて、思えば途中からはその姿を見ることが一番の楽しみだった。
その役者は舞台の上で、特別なスポットライトでも当たっているかのように輝いた。
一言発すればそこに世界が広がって、主役だろうと端役だろうとその一挙手一投足に視線が釘付けになった。
裏方をしていた知人に聞くと、大学生になってから演劇を始めた未経験者だという。舞台に立つために生まれてくるような人は本当にいるのだと知った。
彼が同じ学科の同学年だと気づいたのはかなり経ってから。役作りで染めた髪が学内で目立つ時期もあったが、本人は言ってしまえばたいへん地味でおとなしく、舞台映えする上背を小さく丸めて静かに日常を過ごしている男子学生だった。何かの授業で同じ作業グループになったとき、一度だけ「劇団〇〇の役者さんですよね」と話しかけたことがある。先日の公演が良かったことを伝えると、言葉少なにお礼を述べて気恥ずかしそうに笑った。舞台上の堂々とした姿とはまるで違って、そして素敵な人だった。
次の公演もその次の公演も、彼はそれぞれ全くの別人として舞台に立っていた。眩しかった。小さな劇場の手を伸ばせば届きそうな場所で、役者は駆け、叫び、歌い、役として別世界を生きている。公演期間を全力で生き抜き、終演や千秋楽を迎えれば役に別れを告げ日常に戻っていく。それはどれほど強く鮮烈な経験なのだろう。
自分に演技が出来るとは思わないし、劇団の門戸を叩く気概なんてなおさら無いので、きっとこの身で体感する日は来ない。けれどその眩しさに当てられるたび胸がぎゅっとなる、この感覚の遥か延長線上にはよく似た感情があるのかもしれない。