『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』が良かった

しお
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『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』を読んだ。現在アニメ放送中の『ダンジョン飯』の原作者である九井諒子先生が描いてきたラクガキをまとめた本だ。

ダンジョン飯のキャラクターや世界観を掘り下げるものがメインだが、過去の短編集の登場人物やデビュー前の日常スケッチまで幅広く贅沢に収録されている。大半は単品でもカット作品として成立するクオリティのカラーイラストと1p漫画だが、世に出す予定ではなかったであろう低解像度のモノクロのラクガキもあり、とにかくボリュームがすごい。

そしてなにより、絵、うめ~~~!!!

人間、人間に似た形質を持つ種族、全く異なる形質を持つ種族、生物、虫、魔物、植物、自然物、人工物、多彩なそれらの関係性……絵に描き起こせる全てのものに等しく愛情を注いでいることが伝わってくる。あれだけのクオリティで本編を連載しながら合間にこれを描いていたのか。

特に圧巻だったのは、キャラクターの個性を保ったまま種族(エルフ、オーク、ノームなど)を描き分けるページと、種族ごとに多彩な名もなきキャラクターを描き連ねるページ。あとプレゼント交換会。引き出しの多さ、筆致の制御力、キャラクター造形、ついでに笑いのセンスまで何もかも卓越している。この人に描けないものなんてないんじゃないか。

後半に収録されている、ロールキャベツの手順を描いてみて作る手間と食べたさを比べたかったのかも~的なラクガキも良かった。だって常人ならあれ描く間にロールキャベツ作っちゃうもんな。そういうテイでもなんでもなくて本当に自然と手が動いてしまうタイプの人なんだってことはここまでのページが物語っている。

ちょっと横道に逸れて自分の話だが、日常のちょっと嬉しい出来事を絵に描いてTwitterに流したら賛否両論巻き起こしてバズってしまったことがある。そうなるとクソリプが多数飛んでくるのが常だが、その中に「こんなどうでもいいこと、なんでわざわざ絵に描くんだ? 気持ち悪い」というものがあった。攻撃的な文脈だが私は「どうでもいいことをわざわざ絵に描く人」と認定されてちょっと喜んだ。そういう側の人間でない自覚と、そういう側の人間への憧れがいつもあって、ロールキャベツの手順を見ながらそんなことを思い出した。

この本を自分で読む前に偶然ある人の感想を拝見していて、それがすごくよかったので特に痺れた箇所を引用させていただきます。

ーー 小さい頃から絵を描くのが好きで、大人になるまで好きで、絵を描く仕事の合間に絵を描いて、好きが果てしなくて怖いぜ。眩しくて見ていられない。

本を読む前から「そう、九井先生ってそうだよな」と勝手に思っていたけど、実際に読んでみたら別の感想文が書けないくらいこの方と同じ気持ちになった。九井先生、絵を描くのが好きすぎる。好きこそものの上手なれとか、好きな気持ちこそが才能だとかは、こういう人のためにある言葉なのだ。

ダンジョン飯が好きな人には当然おすすめ、読んでなくとも絵のうまいひとのラクガキを見るのが好きな人にもおすすめ。創作意欲が刺激される……というよりは、なんだかカイロでじんわりあたためられるような気持ちになる。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。