2025年夏の旅行と自分の先祖のはなし

篠原あいり
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公開:2025/8/29

もう少し生きてみることにして少し経ってから、島根方面へ旅行をすることになった。何度かいろんなところで書いているが、わたくしの初めての一人旅の行き先は島根県だった。「王録」という島根の日本酒が世界一おいしいと思っているし、出雲そばや古事記や石見神楽がすごく好きなので、確実に楽しめるだろう、という感じで二年前の夏になんの気なしに行ったのだが、旅行から帰ってから、わたくしの父方のひいひいじいさんは島根の出身だということを知った。しかもひいひいじいさんは宮大工で、出雲大社にも関係しているとのことだった。えーっ!と流石に驚いた。一人旅で真っ先に向かったのは出雲大社だった。こーんな立派な神社、どーんな人が作らはるんやろうねえーなんてお参りしながら思っていたのだが、まさか自分の先祖が携わっていたなんて。昨年その話を教えてくれた祖父が他界したのをきっかけに、なんとなく自分にまつわるルーツを知りたくなったのもあって、島根へまた足を運ぶことにした。

せっかくの休職期間なので、島根だけでなくもう少し遠くにも足を運びたいとなり、2泊3日の旅行を計画した。旅程としてはこんな感じ。

1日目:朝早くに京都から車で出発。鳥取県を経由して島根県へ。出雲大社にお参りして、出雲そばを食べる。道の駅などに寄り道しつつ、島根県の旅館へ宿泊。

2日目:島根県を出発。広島県に向かい、フェリーに乗って宮島の厳島神社を目指す。広島風のお好み焼きを食べて、しまなみ海道を経由して徳島県の旅館へ宿泊。

3日目:徳島県から淡路島を経由して京都へ帰る。特に予定は決めていない自由日。

予定を決めて旅館を予約するのと同時期くらいに、ダメ元で出雲大社に問い合わせをしてみた。自分の先祖が宮大工であること。その先祖は島根の松江出身であること。出雲大社になんらかの形で関わっていたらしいこと。出雲大社以外には伊勢神宮にも関係があったことが分かっていること。その後、新しい神社の建設のために京都へ越して、今の自分たちのルーツに繋がっているということ。そのうえで、島根や三重あちこちの神社の大工仕事を任されることはあるのだろうか、ということと、その先祖について何か分かるような資料は残っていないか、ということをメールフォームに入力し、送信した。

失業保険の申請をしたり、転職エージェントと面談をしたりしているうちに、あっという間に旅行する日が近づいた。二日後にはいよいよ出雲大社へ行くという時、電話がかかってきた。出雲大社の社務所からだった。「ご連絡をいただいてから資料を探していたのですが、ようやく篠原さんと同じ苗字の職人に関する記述を見つけました。もしこちらへいらっしゃるようでしたら、資料のコピーをお渡しして少しお話しできればと思います。お待ちしております」と言われ、半ば呆然としながらひたすらお礼を言った。ちょうど出先での電話だったので、慌ててお礼の菓子折りを買う。家に帰って荷造りをしているうちに、だんだんドキドキが止まらなくなってきた。あまり眠れない二日間を過ごし、旅行の当日になった。

出雲大社に掲揚してある大きな日本国旗

早朝コンビニで買ったおにぎりを食べたり、途中で寄った鳥取県のSAで買った白バラ牛乳のクリームパンを食べたりして、あっという間に島根県に到着。社務所へ行くと、電話をくださった方は席を外しているとのことだったので、戻られるまでお参りをしたり、近年発掘されたとんでもなく大きな心柱を観たりした。二年前に来たときも思ったが、出雲大社に掲揚してある国旗、デカすぎて面白いんだよな。写真では伝わりにくいのが悔しいが。

そうこうしているうちに時間になったので、社務所へ向かう。玄関からすぐの部屋に通され、席につくと、江戸時代の資料を活字に起こしたコピー用紙を渡された。読むと、簾や金細工の職人として篠原という人が出雲大社の建て替えの際に携わった、と書いてある。出雲大社の方の話によると、出雲大社は60年に一度建て替えが行われているが、その際の細かい資料は火事で喪失してしまっており、今回の資料は携わった大工が所持していたので燃えずに残った唯一のものとのことだった。資料に出てくる「篠原」という名前の人物はこの人だけで、おそらくこの人物より前の代の人々も簾や金細工の職人だったが、途中でそういった装飾品の職人から宮大工に転職すること自体は珍しいことではないと思われる、と教えていただいた。また、伊勢神宮は出雲大社よりも社の数が膨大で、建て替えの頻度も高いので、全国からたくさんの宮大工が招集されるのが通例、とのことだった。なので、確証はないが、この資料の金細工職人の「篠原」さんは、ひいひいじいさんの更に先祖である可能性がある、ということを、丁寧にお話しいただいた。一ヶ月近く、資料を片っ端から探してくださったことを心から感謝し、お礼の菓子折りをお渡しする。また来てくださいね、と言っていただいたので、絶対にまた来ます、と返事をして出雲大社を後にした。

出雲大社の大きな注連縄

なんだかぼーっとした心持ちで、出雲そばを食べる。ご先祖も出雲そばを食べたかなあ。王録は江戸時代からある蔵元らしいけど、ご先祖も飲んだかなあ。石見神楽を観たりしたかなあ。どんな言葉を喋っていたのかなあ。どんな気持ちで京都へ引っ越してきたのかなあ。そんなことを考えながら、ビールを飲み、そばをたぐった。ものすごくおいしかった。

出雲そば。生卵がトッピングしてある

二日目。ずっと憧れだった厳島神社へ向かう。わたくしは京都の海のないところに住んでいるので、海に対する憧れがとんでもなく強い。なので今回の旅は島根の海、広島の海、徳島の海を堪能するためにスケジュールを組んだ。途中、休憩のために宮島SAで降りて、宮島コロッケを食べる。ピクミンのイベントがやっていたので少し眺める。ピクミンは全然詳しくないが、めちゃめちゃかわいい。

宮島SAのピクミンテラスに飾ってあった大きなピクミンたちのオブジェ
もみじ饅頭を運ぶピクミンたちのオブジェ

フェリーに乗って厳島神社へ向かう。フェリーに乗ると遠くに大きな鳥居が見えてテンションが自然と上がる。潮風が気持ちいい。

宮島行きのフェリー
入道雲を背景に建つ厳島神社
厳島神社の鳥居のアップ

出雲大社もそうだけど、よ〜〜〜〜くこんなもの建てたわねえ!と感心することしかできない。道中少し曇っていたので天気が心配だったが、宮島に降り立つと見事な晴れ模様で、日差しが痛いくらいだった。でも湿気が全然ないので、京都よりは涼しい。日焼け止めをたっぷり塗ったが流石に少し焼けた。フェリー乗り場から厳島神社までは思っていたよりも距離があり、京都よりも涼しいとはいえ暑いものは暑いので、帰り道は結構フラフラになってしまった。行きがけに目星をつけていた店で、広島風のお好み焼きを食べた。汗をたくさんたくさんかいた体に、甘酸っぱいソースの味がしみる。嬉しい気持ちになる。

広島風のお好み焼き

お好み焼きを食べたあと、しまなみ海道を車で走って、徳島県へ向かう。徳島県はひいひいじいさんが京都へ越す前に少しの間住んでいたらしい。その住所は戸籍で分かるので、今度はそこにも行ってみたい。阿波おどりも興味があるからそれも観たいなあ。

しかしまあ、しまなみ海道を走り、橋から広い海を眺めながらカーステレオで聴く「サマーヌード」のたまらないこと!今回の旅の目的は出雲大社、厳島神社、そして海を見ながら聴くサマーヌード。最高。最高最高。生きててよかった〜!

ただ、徳島県へさしかかった辺りで雨が降り出した。SNSで知ったが、その頃京都では歴史的な大雨が降って大変だったらしい。徳島の雨はすぐ止んだが、次の日の天気が少し心配になるような雰囲気だった。これはどこにも立ち寄らずに京都へまっすぐ帰ることになるかもなあ、と思っていたが、次の日、予想に反してものすごく晴れた。この感じなら渦潮とか見られるんちゃう?と軽い気持ちで調べてみると、渦潮の上を歩くことができる遊歩道と、渦潮を間近に見られる「観潮船」があると分かったので寄ることにする。本当にたまたまだったが、ちょうど船に乗る時間はその日一番の渦が見られる時間帯だった。ラッキー。どんなんかな〜と軽い気持ちで船に乗った。ら、とんでもない。

徳島の大きな渦潮と遊覧船
渦を巻いている徳島の海

思っていたよりも渦潮ってずっとずっとずっと大きい!カナダ、イタリアと並んで徳島は三大潮流のひとつらしいが、こんなに大きな渦潮が見られるのは徳島だけらしい。渦潮の説明が流れる船内のナレーションをバックに、阿波おどりの軽快な鳴り物のリズムが響くのが心地良い。渦潮に飲み込まれないように小型船を操縦する人の技術の物凄さにも感動する。渦潮を右に左に眺められるように、ハンドルを細かく切っている。一歩間違うと簡単に転覆する、というくらい船は揺れる。

大きな橋と大きな渦潮

特に下調べせずに見に来たけど、めっちゃくちゃ楽しかった。人生で一、二を争うくらい興奮した。ひいひいじさんも徳島にいた頃、渦潮を眺めたりしただろうか。そう考えながら船を降りた。その後、淡路島を経由して、京都へ帰る。淡路島のSAで食べた藻塩のソフトクリームがおいしかった。家に着いてからとんでもなく疲れていることが分かったが、頑張って荷解きをして洗濯をしてお風呂に入って、お土産のくるみゆべしを食べてお酒を少し飲んで、寝た。生きていてよかったなあと思った。心から思った。

二年前に島根へ旅行した日、金曜ロードショーで『もののけ姫』をやっていたのでホテルで観た。たたら場があった土地でこの作品を観られるのは何か縁のようなものを感じた。ちょうど今も『もののけ姫』が放送されているので、観ながらブログを書いている。さっき「だまれ小僧!」のシーンが終わったあたり。島根への旅行から帰った週に、島根へ旅行へ行った年ぶりに『もののけ姫』が放送されているのは、本当にいよいよ、何かを感じる。こういう縁のことや先祖のことを考えると、もう少し生きてみよう、とやっぱり思うのだった。

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派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング vir.jp/matsugemoyasu