今年の7月、自殺を考えていたけどやめたという話をここに書きました。
たくさんの方に読んでもらって、たくさんの反響をもらいました。あの時に声をかけてくれた人、気にかけてくれた人、みなさん等しくありがとうございました。
しかし、この時に買ったロープは実は手元にまだあって、何かあってもなくても、いつでも死ねるようにしていたのでした。
みなさんを裏切るようなことなので、この数ヶ月間、ずっと苦しみながらも、でも、どうしても捨てられませんでした。
時は今から少し遡り、死ぬのをやめた数日後のことです。思い立って、ずっと詠めなかった短歌を作ってみようとなり、結果、2時間で47首詠むことができました。
ただ、それらの歌を読み返すとつらい記憶が蘇り、泣いたりパニックになったりするので、今日まで放っておきました。なんとなく平気になった気がしたので、いまさっき読み返したら、あはは、思い詰めちゃって、大変なやつ、と笑えたので、そこに3首足し、50首のまとまりにして公開することにしました。この記事を公開した後、ロープを捨てます。本当にごめんなさい。もうロープを買ったりはしません。
どれが7月に詠んだ47首で、どれがさっき詠んだ3首かはあえて伏せておきます。もしこれかな、と思った人がいたら、こっそり教えてください。
もうすぐ新しい年が来ます。読んでくれて、どうもありがとう。これからも、どうかよろしくお願いします。
2025年12月12日 雪の降る京都より 篠原あいり
僕は死んだら季語になりたい
目薬がしみる角膜 遠雷は君の街でも遠雷だろう
毒薬と信じて買った小瓶からざらざらと出し噛む糖衣錠
湿り気をおびたじゅうたんふみしめてはだしのぼくのふかづめのゆび
首吊りで死んだ人たち全員がロープの結び方知っている
ハンニバル博士が赤い肝臓を食べているとき剥いたオレンジ
鏡にはヒビが入ってすぐ割れた花いちもんめが嫌いでした
愛情は固体や気体ではなくて液体だからこびりついてる
会いたいと君が書いたという手紙(宛先不明)蝿が死んでる
ピストルの使い方知る昼頃に君はひとりでバスに乗り来る
カプセルを爪で押し出す 確実なことがほしくて舌打ちをする
牛乳を煮詰めて泡ができて消え火を止めようか迷う夕暮れ
思ってたよりも涙がしょっぱくて赤から青になるリトマス紙
メスというだけでがっかりされるカブトムシでなくてヒトであっても
祈るのをやめてください一人では信じられないなら今すぐに
泣きそうで泣けない時にうたう歌 あなたはそれを災いと呼べ
いま月が綺麗だなんて知らなくて連絡先をひとつ消してた
僕だけが正気の街で人々がマッチを擦れどパレードはゆく
死ねという君の叫びがアーメンと言う唇の形より好き
蟹たちの甲羅を割って内臓を啜るあなたが守る縄張り
幽霊がキッチンに立ち泣いている 冷蔵庫では肉が冷えてる
こんなにも頭痛が酷いような日に君の後ろの空だけ青い
墓場には知らない人のお供えがしてある俺も間もなく入る
コンタクトレンズが乾きかぴかぴの死骸になったので捨てている
生白い肌の歯型が葬列に見える わたしの太腿を噛む
射精した後にパンクの自転車を修理に出して書いている遺書
もし僕が爆死をしたら落ちている耳のピアスで気づいてほしい
誰だってよかったという容疑者のニュースを聞いて入れるスイッチ
カミソリが錆びているので仕方なく別の日にするつつじの季節
坂道がずうっとずっと終わらない夢を見ている人、人の群れ
豚肉に胡椒ふりかけ、とんかつは、死体なのだと聞かされている
腹痛を訴えている教室の窓から見える山火事の色
この色が血の色だって知っている君から聞いたことのない声
映像の世紀みたいにナレーションつけて立派な人生である
シロナガスクジラが僕と君以外全員の名を呼んで泳いだ
セーブせず進めたゲーム 人類が滅亡をする選択をする
害獣を殺してあげる役割の人が飲んでた水の味かな
海なんて見えない街に住んでいる 歯茎から血が出続けている
何回も何回も来る足音も立てず始まる 戦争が在る
会社には行けない朝に横になりじっと見ているゴッド・ファーザー
現実が知らん顔して君のこと滅多刺しするのをただ見てた
なんだって舐める髭でも靴の先でも涙でも血でも床でも
明け方の悲鳴、銃声、くら寿司のCMの音ノイズキャンセル
許すとか許さないとか伝えたいことがないとか、下手くそでいる
見たことのない手話使う女の子 ガスのにおいで報知器は鳴る
でたらめに歌えよカモナマイハウスSuicaのチャージ残り少なし
十五歳だった僕には切り傷はもったいなくて開く教科書
あしたには賞味期限が切れそうな卵を割って早く来てくれ
歩道橋から見下ろして「さよなら」とダイナマイトを投げる週末
この星で生きてたことをおおげさに僕に知らせておくれ喘鳴