何度か読んでる「日記シリーズ」

キリンビールで定年近くまで働いて早期退職し、その後のセカンドキャリアとして57~65歳までディズニーキャストを勤めた方による本
さまざまに出版されているディズニー本に対していくつか違和感を覚えたことが本書を執筆した理由だという
ディズニー本と言っても基本的に清掃スタッフとしての話なのでわりと普遍的に感じる。ディズニーに興味が深い人ならさまざまなエピソードから細かく感じ入るところはありそう
以前読んだ日記シリーズに比べるとやっぱり本業ではないぶん「仕事=人生」といった切実さは薄く、余生としてのセカンドキャリアという立場や夢の国で働くということから労働環境や人間関係に少し余裕が感じられる
仕事において客に奉仕するキャスト対ゲストという関係、同僚との間で生じるキャスト対キャストという関係、さらにはゲスト対ゲストで生じるトラブルなどにおいてさまざまに理不尽に感じる人に出会うこともある。けど、笑顔を絶やさない職場であることや年齢的に上の立場であることもあり、苛立つこと無く見つめているような感じがあった
著者はキリンビールで転勤族だったので高知県以外の全都道府県に行ったことがあるという。そうした経験からゲストを案内する際にも「今日はどちらから来ましたか」という雑談で盛り上げたりできるのでなかなか若い人にはできない人材力を感じた
一方で、そうした能力の差があっても平たく言えばただのバイトでしかない。ゆえに若くても人生経験豊富でもみんな立場は変わらない(グレードで若干の違いはある)。従業員の75%はバイトで賄われているらしい
ディズニー好きの人たちが働くのでやりがい搾取な側面も強く、いくら夢の国といってもそれだけでは生活は難しい
本書ではそのへん金銭収入的な事情を具体的に語り、若手の同僚たちの人生キャリアを心配して積極的に一般企業へ正社員としての就活をするように勧めていた
そうした中で、同僚の20歳女性が「著者から馬鹿にされている」と上長に訴えるエピソードが描かれていたのが気になった
著者本人には原因に思い当たることがなく、上長からも詳しく教えられなかったのでそれ以上のことは分からないという
このへん自分の勝手な推察でしかないけど、年齢や性のギャップが大きいので前時代的な昭和のデリカシーの無さを無自覚に発揮して軋轢を生んだんじゃないかなと感じる
本にとって著者という立場は主観的で正義でありその書きぶりから著者に瑕疵は無い、あるいは擁護されるべきと思えてしまう。けれど、おそらくはこの問題認識の無さこそが問題なのだろうなと感じてしまう
以前読んだ銀行員の日記シリーズでも後半において若手社員とのすれ違いを理不尽に感じるエピソードがあった
そうした語り手自身が気づくことのできない語り手に対する信頼できなさがスリリングに感じるし、自分も主観ではそれが自覚できてないんだろうなという危惧を抱いてしまう