軒下の宝石

半井ユキヤ
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公開:2023/12/4

 本日午前中、とうとう柿を干した。「待ってろ」などと言いながら、丸一日待たせてしまった。長時間待たされた柿に山に帰られても私は文句は言えない。本当にすまないと思っている。

 それから程なくして、泊まりがけで仕事だった配偶者が帰宅した。入浴を済ませ、昨日届いた新しい電気シェーバーをいそいそと開封し、古い方のシェーバーを処分するためかきれいにしていたのだが、部品を干そうとして勝手口を開けた彼は「おわっ」と声を上げた。それはそうだろう、殺風景な軒下に突然でかい柿が現れぶら下がっているのである。

 と、思ったのだが、彼が驚いたのは違う理由だった。

「柿落ちとるぞ」

 そのとき私は、配偶者が職場で装着するものの修繕をしようと、小学五年生の頃から使っている裁縫箱を引っ張り出し針に糸を通していた。「小学生の頃から使っている裁縫箱未だに現役」。あるあるですね。

 それはともかく、配偶者から聞いた衝撃の言葉に、私は針を針山に刺して安全を確保してから、急いで勝手口へと向かい、ドアを開けた。

「ギャア!」

 思わず喚いた。ご近所にちょっと響いてちょっと恥ずかしかった。でもまぁ、こんな時間に自宅にいる人は少なかろう。裏口だし多分姿も見られていないから、半井さんちの奥さんが奇声を上げたとはバレていないはずだ。大丈夫だ。

 私が目の当たりにしたのは、二つある柿のちょっと大きい方(写真右)が落下している図であった。深く考えずに古紙を縛る紙紐を使用していたため、ちょっと濡れたところが水を吸って切れてしまったのだ。熟れて柔らかくなっていた柿は、その自重でコンクリートにきれいに着地し先端が潰れてしまっていた。

 しかし私は諦めなかった。幸いにも勝手口のコンクリートはきれいなものだったので、落ちた柿を引き上げ、ビニール紐を戸棚の奥から引っ張り出して結び直し、再度沸騰した熱湯で煮沸消毒し、もう一つの柿の隣にぶら下げた。ゲットコトナキというやつである。本当にそうだろうか。そういうことにしておこう。大丈夫だ。

 それそのようにして、私の初めての干し柿作りは始まった。初めてなのに初っ端からこんなで大丈夫か。大丈夫であってほしい。あわよくばおいしくできてほしい。おいしくできたら来年も作ろうというモチベーションに繋がる。

 私と柿の戦いはこれからだ――!!

 いや、戦わんでいい。仲良くしよう。

@nakyukya
まったくここはしずかなインターネッツでつね