義母が何を言っているのか半分くらいわからない件

半井ユキヤ
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 結婚してまあまあ経つ。つまり配偶者の親御さんともまあまあな期間姻族の縁を結んでいただいているのだが、交際していた頃のほとんどの時間がいわゆる『遠距離』というやつであり、結婚しても転勤族で居住地を転々としていたので、顔を合わせることがあまりなかった。近年やっと住処を定めて、同じ市内に住むようにはなったものの、用事がなければ会うこともないし電話もしない、メッセージも送らない。うちには子どもがいないので尚更である。

 そんな中、先述の通り、少し前に義父が逝った。そのため、葬儀や諸手続の関係でここ一ヶ月くらい義母と会う回数が少し増えた。とはいえ葬儀は本当に最低限であったし、義父は遺したものも少なかったのであまり手間はないようだし、息子の嫁なんていう関係ありそうでほぼない私がいなくても手続きは何の問題なくできるのだが、後学のためにできるだけ同席させてもらっているのだ。

 移動する車の中で、一仕事終えた配偶者の実家のリビングで、義母はいろんな話をする。

 恐らく、義母はさほどお喋りな人ではない。普通だと思う。

 ただ、息子夫婦と三人で、長時間の沈黙はさすがに気まずいのだろう。配偶者も多弁な方ではないし、私も話をするよりも聞く方が多い人間だ。

 それで彼女は話をするのだが――正直、何を言っているのかよくわからない。

 Aの話をしていたかと思ったらその話題が終わらないうちにAとは何の関係もないBの話をし始め、いきなりこれまた無関係のCの話をぶっ込む。

 本当に、流れるように、喋りながらシームレスに話題を変えてしまうのだ。身内ということで慣れているはずの息子さん=私の配偶者でさえ突然の話題の方向転換に混乱し、ときどき「一体何の話をしとるんや」と突っ込むこともある。しかもそれをきつくはないとはいえ方言で喋る。そしてたびたび混ざる謎の「ほんまかなんわ~」。いや別にかなわなくはないだろ今の。どこにかなわん要素があったんだ。

 義母の話を聞くとき、私はいつも心の中で思っている。

 「なんて?」

 ハハハと愛想笑いを浮かべながら。

 要領を得ない、ほんまかなわん話を、私は今日も聞いてきた。彼女の入れてくれたおいしいコーヒーを飲みながら。

 彼女と姻族である間、私は彼女の話がわからないままなのだろう。これまで何度聞いてもわからなかったものが、急に「ヘウレーカ!」なんてなるわけがない。何しろ方言はともかくとして、ちょくちょく話の中に突然出てくる義母の親戚であろう何々ちゃんとその旦那さんなんて、私は全然知らないのだ。

 多分、ずっと、ずっと、わからない。

 半分くらい。

 

@nakyukya
まったくここはしずかなインターネッツでつね