はじめに
こんにちは、nobuchanです。
こちらは「よいこのイノベーション」は存在するか?シリーズの第3回になります。
第2回では、イノベーションのコンテクストたる愛と反逆について論じました。
第3回では、無意識下にある型を破りイノベーションと言う言葉を身体化するためのヒントについて論じたいと思います。
守破離の精神
さて、知らない間に型を授けられその中に生きている我々が、人間性を取り戻し、イノベーションなどという強い言葉を身体化するにはどうすればいいのでしょうか?
日本に古くから伝わる「守破離」の精神が1つ大きなヒントになると私は考えます。つまり型を「守」り、そのうちに型を「破」り、やがては型そのものから「離」れ、自らの新たな型を創発していく。おそらくみなさんにもそうした体験があると思います。
私の体験を例にとると、私はある案件で数理最適化という技術と、それを使った業務のモデリング方法を学ぶ必要が生じました。とはいえ私には数理最適化に関する知識がなかったため、最初は同僚のMさんが作ってくれた最適化モデルをひたすら読み込み、コード1つ1つの意味を理解し、それをトレースするしかありませんでした(「守」のフェーズ)。そんな期間がしばらく経つと、次は最適化モデルに工夫を加えたくなってきました。しかし、まだそれを独力でやり切ることはできず、Mさんに協力を仰ぎつつモデルの一部に自分なりの改善を加えました(「破」のフェーズ)。それが過ぎると、最適化モデルの改造・改善だけでなく、全く別の業務の最適化モデルをイチから独力で作るという、自分なりの考え方、モデリングの「型」を編み出すことに成功し、今ではその型を社内教育で披露するなどというような立場にもなることができました(「離」のフェーズ)。
この経験から私は、守破離という言葉を身体化することができたと感じています。また、型を授かるときはその型を自身の意識化に置き、常に型を超えていく精神を持つことが肝要であることも学ぶことができました。
効率の先にイノベーションはない
イノベーションという言葉を身体化するためにはもう1つ、「効率の超越」が必要と考えられます。コンサルらしくない言い方ですが、効率厨にイノベーションは訪れないでしょう。私はカーデザイナーになった2人の友人の在学中の営みを見てそう思うようになりました。
カーデザインにとって、スケッチの第一歩はまず1本の線を引くことから始まります。自動車を特徴づける1本の線(キャラクターライン)を何千、何万、それ以上引き続けるのです。やがて満足できる線が引け、ディテールに進むのですが、そこでもまた無数のパターンを試すのです。彼らは在学中に一体何本の線を引いたのか?考えただけで気が遠くなってしまいます。
カーデザイナーは「プロダクトデザイナーの王」であると、大学在学中お世話になった先生はのたまいましたが、どんな分野でも一流と目される人は、効率を超越して可能性を模索している人なのかもしれません。
また、東大卒プロゲーマーのときどさんの著書「東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にはかなわない」の中にも同様の趣旨の記述が見られます。ここでは詳しく論じませんが、ときどさんの著書はイノベーションのヒントとなるような多くの示唆に富んでいますので、ご一読されることを強くお勧めします。
「チェスト」=「知恵捨て」?
では、どうすれば効率を超越し、その先に達するための精神性を手に入れられるのでしょうか?ここではそのヒントとして、薩摩弁の「チェスト」という言葉を紹介したいと思います。「チェスト」の語源は不明らしいのですが、「知恵捨て」が訛って「チェスト」になったという説があります。示現流の思想を見るに、妙な説得力があります。
ここで、再度数理最適化技術を扱った案件での体験をご紹介します。
ある日、最適化モデルのモデリングがうまく進み、定時にはその時点で十分な性能・精度を確保できました。そこで切り上げてもよかったのですが、どこか気に入らないところがあった私は、考えうるモデルのパターンをひたすら実験していきました。「これを試したら帰る」と何度も考えるのですが、試すごとに新しく試したいネタが浮かび上がり、後ろ髪を引きます。結局分析結果に満足して帰宅したのは翌日の明け方でした。
こうした知恵を捨てたやり方は何の成果も得られないことも多いのですが、極まれに劇的に素晴らしい結果を生み出します。私の行為はまだイノベーションに昇華できているとは言えませんが、あらゆる逡巡を捨て、狂奔に身を委ねたとき、イノベーションの扉が開くのかもしれません。
さて、第3回はここまでにしたいと思います。
第4回では、イノベーションを生み出す武器としての思考の先鋭化と内省の大切さについて論じたいと思います。
次回でシリーズ完結となりますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。