[往復書簡] 行く春を惜しむ窓辺

フジイさんへ

お手紙ありがとうございました。『さびしさについて』を読みはじめられたとのこと。一気に読んでしまわずにとっておいたというくだりも含めて「わかるー」と嬉しくなりました。いっしょに購入された『大阪』も気になるし、フジイさんが今住んでいる街についてどう感じておられるのかもすごく興味があります。フジイさんと大阪といえば、先日ブルースカイに投稿されていた阪急電車の車窓風景がまっさきに思い浮かぶのですが、わたしはあの動画がとても好きです。きっとそのお話も聞けるのではないかと楽しみにしています。

フジイさんと往復書簡をはじめてみて、わたしたちにはたくさんの違いがあるけれど、小さな共通点も同じくらいあるなぁと感じています。そして、違うままのわたしたちでやり取りできることがとても心地よく、感動すらおぼえています。ほかのひとともそうあれたらいいのにと思う。そのためのヒントが、この往復書簡という試みのなかにひそんでいる気がしています。


第4週の『虎に翼』はグッとくるシーンが多くて、朝から号泣してしまう日が続きました。そのたびに「わたしはなぜ、涙を流しているんだろう」と問いかけてみたのですが、理由は実にさまざまでした。自分自身と重ねて共感したり、セリフに心を揺さぶられたり。はっきりと言語化できないことも多いけれど、考えているうちに感情の輪郭や色合いがみえてくることもあって、毎日いろんな発見をしています。

特に印象に残っているシーンは、轟さんが「俺が漢らしさと思っていたものは、そもそも、漢とは無縁のものだったのかもしれんな」といったところです。轟さんにも、轟さんにこれをいわせた制作陣にも胸を打たれました。ほんとうにすごいドラマです。

わたしには苦手なことやできないことがたくさんありますが、だからこそ心がけていることがいくつかあって、そのひとつが「素直であること」なんです。自分に対しても他人に対してもできるだけ素直でありたい。いうなれば、それがわたしにとっての美徳なのかもしれません。いつのまにか寅子たちを好きになっていたことや、自分が正しいと信じていた価値観への疑問を、戸惑いながらもまっすぐに認める轟さんの姿をみて、ますますその思いが強くなりました。


わたしが好きなK-POPアイドルに(G)-IDLEというグループがいます。彼女たちは振り付けも含め、セルフプロデュースで音楽を作っているめずらしいアイドルです。近年はジェンダーロールからの解放や家父長制への抵抗など、フェミニズム的なメッセージをわかりやすく伝えていることでも注目されています。わたしはそういう彼女たちの音楽をかっこいいと思っているし大好きなのですが、その一方で若いひとたちをリードする役割を期待されすぎじゃないか、ほんとうは別のことを歌いたいときだってあるんじゃないかと思ったことがありました。フジイさんがプログラマーの方に抱いた申し訳なさや、自分自身への違和感について想像したとき、ふと思い出したのはそのことでした。

米津玄師さんの「神聖視するのも卑下するのも根っこは一緒な気がする」という言葉を反芻しながらあらためて考えてみると、彼女たちは誰かの思いを代弁しているのではなく、自分も含めた女性が直面している問題や葛藤を「自分ごと」として音楽にしているように思えてきました。と同時に、彼女たちに(たとえそれがいい意味であっても)レッテルを貼り、役割を期待していたのは、ほかでもない自分自身だったのかもしれないと思いました。

才能あふれるすごいひとも平凡なわたしもひとりの人間で、迷ったり悩んだり傷ついたりしながらいろんな顔を持って生きている。これから先は、誰に対しても、なにを思うときも、そこからスタートしてみようと思います。うまく言えないけれど、フジイさんのお手紙を読んでそんなことを考えました。


さて、今年の結婚記念日はいつにもまして普通の1日でした。ちゃんとお祝いしてそうと思ってもらえてすごく嬉しかったので、今年こそはちゃんとしようと思ったんですよ。ほんとうに。でも、夫の帰りが遅くなったり、翌朝早起きしなければならない用事が入ったりして、結局その日は会話もそこそこに寝てしまいました。

これまでも食事とか、プレゼントとか、旅行とか、記念日めいたことは一切せず、「今年で何回目だっけ?」「えーっと」みたいな会話をしてなんとなく終わっていたんです。そんな感じなので、フジイさんたちの会話やその場の空気も想像がつき、思わず声をあげて笑っちゃいました。

節目をきちんと祝うのもいいなぁと思う一方で、特別な何かがなくても「また1年よろしくね」と思えればいいし、毎日のちょっとした場面で感謝や愛情を伝えていけたらそれで十分かなとも思います。あらためて、お祝いをありがとうございました。


行く春を惜しむ窓辺にbluesky

フジイさんはときどき短歌や俳句を詠んで、文章や写真のあいだにふわっと置いておかれるでしょう。あれすごくいいなぁと思っていて、藤棚とブルースカイの写真に添えられていた句を見つけたときも「お!」と小さく声をあげて喜びました。これからはわたしもときどき歌を詠み、お手紙のどこかに添えてみようと思います。うまくやれるかどうかより、やってみようと思う気持ちのほうを大事にしたい。今はそういう時期のようです。

世間はゴールデンウィークまっただなかですが、フジイさんはいかがですか?わたしと夫は暦どおりで、谷間の平日は仕事です。いつもより忙しくなりそうで少々うんざりしていますが、なんとか無事に乗り切って、後半の連休ではたまっている積読本を読んだり、気になるところの修繕や掃除をしたりしてのんびり過ごしたいです。フジイさんもよい休息がとれますように。

では、今日はこのへんで。

@nyankojitsu
うた子でございます