スーパーカブと箱根

s81
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原付は高速道路を走れない。

私の愛車、スーパーカブ、c125も種別としては「原付二種」。小型オートマ二輪の免許で乗れる、ちいさな、スピードの出ない原付だ。高速道路や自動車専用道路は法的に走れないし、もし入ったとして、スピード面で無理が出る。

(……車種にもよるが、すくなくともスーパーカブでは。)

原付でのロングツーリングでは、一般道路、いわゆる下の道を通ることになる。そこで問題になるのが混雑だ。私は、すり抜けがかなり苦手である(下手であり、嫌いでもある)。どうすればいいのかと母に聞くと、朝5時に家を出なさいとあっさり言われた。単純明快だ。朝の5時なら、いかな国道といえどまず渋滞はしないだろう。多分。

それまでで一番長いツーリングは、往復100km程度。と言っても、前に乗っていた、オンボロの原付でのこと。それも、平らな海岸線をだらだら走ったくらいだ。目的地は、そのときよりも遠く設定した。

箱根だ。

遠いし、起伏はあるし、天候もわからない。スーパーカブも、まだすっかり乗り慣れたとはいえない。私にとっては、大きな挑戦だった。

結果としては、ズタボロになりながらも走破することができた。

けして、無理の出る距離ではないと思っていた。舐めていた。朝の5時の、そして箱根、山の寒さを。想定外に寒かった。普段真冬でも走り回っている装備だからと油断していたが、それも昼間の話なのだ。まだ日の出ていない朝の5時は寒すぎた。あっという間に体力が奪われ、がくがく震えながら走った。道中コンビニを見かけるたび、寄っては温かいものを買った。すぐ飲み干して、体の震えをおさめ、そしてまた走った。

その時点、往路の時点で、寒さから大きく消耗していた。引き返すべきだった気もする。しかしその選択肢を失っていた。体力の消耗からくる判断力の減衰でもあっただろうし、一方で興奮からくる感覚の麻痺でもあっただろう。褒められた走りではない。

そもそも、元々体力のある方ではないのだ。むしろ虚弱体質だ。走り終え、帰宅すると途端に足に力が入らなくなった。這いずって風呂に入り、芯まで冷え切った体を温めた。ようやく、自分が気力だけで走っていたことを思い知った。

それでも、満足感は大きかった。

箱根。テレビの中の箱根。誰かに連れて行ってもらわないと行けない箱根。では、なくなった。むしろ、こんなに近い。近くなった。朝早く目の覚めた日に、思い立ってスーパーカブに跨がれば、数時間でたどり着く場所になった。薄皮をやぶる感覚があった。無意識の縛りを抜け出す感覚。

移動距離と思考力の話をきいたとき、その感覚を思い出した。

移動することは、無意識の縛りを抜け出すことになるのかも、と思う。できないと思っていることを取っ払うこと。「世界は広い」。そんな、単純で、明白な事実。無意識に知っている、越えがたい距離。途方もない断絶。それを超えることができると、身をもって知ること。

世界は広いが、私は速いと。

@s81
言葉は膚、わたしとすべてを隔てても、あなたに触れるよすがであれ。