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【前編】「宿題」を残したまま、投票環境の法整備が進む―国民投票法施行令改正案を読む

Break the Frame@サリー
·
公開:2026/9/16

2026年8月26日、総務省は「日本国憲法の改正手続に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)等に対する意見募集」を開始しました。

締切は、2026年9月24日(木)23時59分です。

対象となっているのは、「日本国憲法の改正手続に関する法律施行令」と、その施行規則をそれぞれ改正する政令案・省令案です。案件番号は145210768。

今回のパブリックコメントは、憲法をどう改正するかについて意見を募集するものではありません。

また、国民投票法そのものの改正について意見を募集しているわけでもありません。

対象は、将来、憲法改正の国民投票が行われる場合に、その実施に必要となる具体的な手続を定める施行令・施行規則の改正案です。

この記事では、その改正がどのような制度的な文脈で進められているのかを考えるため、国民投票法そのものに残された課題まで遡ります。

ただし、ここから取り上げる論点が、すべてそのまま今回のパブリックコメントの意見対象になるわけではないので注意してください。

制度全体の問題意識を今回の案への意見にどこまで結び付けられるのか。そこは後編で改めて整理します。

施行令・施行規則の改正案だけを見ると、かなり実務的です。

荒天などで投票箱を運べなくなった場合の開票。不在者投票。投票管理者。投票管理者や開票管理者などの住所。在外投票。投票に関する書類等の保存。

一見すると、投開票や在外投票などの実務を円滑化・合理化する改正に見える項目が並んでいます。

実際、私は調べた結果、今回の個別改正のすべてに反対することにはなりませんでした。手続上の負担を軽くする変更や、住所の全部を告示しなくてよくする変更など、支持できるものもあります。

しかし、だから今回の制度整備全体を、そのまま「よい改善」として受け入れていいとは私は思っていません。


今回の記事は、前後編に分けます。

前編では、国民投票法に残された「宿題」と2026年改正を確認した上で、今回の個別改正を一つずつ見ます。

後編では、保存期間の見直しを掘り下げ、制度全体への問題意識を今回のパブリックコメントへどう落とし込むかを考えます。

前編で「賛成できる」とする個別項目があっても、そこで記事全体の結論になるわけではありません。問題意識は後編まで続きます。


私は護憲派として、順序を問題にします

私自身の立場を明らかにしておきます。

私は護憲派です。

現時点で、日本国憲法の改正には反対しています。

そして、憲法改正を現実に実施するための制度整備についても、警戒して見ています。この立場は隠しません。

何を重要な問題として取り上げ、どこに危うさを感じるかという時点で、価値判断から完全に自由になることはできないからです。

ただし、「改憲に関係する制度だから全部反対」という読み方もしません。

もし国民投票が行われるのであれば、災害が起きても投票できる方がいい。海外に住んでいる人も投票しやすい方がいい。投票するために、不必要に自分の生活事情を行政へ申告しなくて済む方がいい。投票の秘密やプライバシーも守られるべきです。

そうした改善まで否定する理由はありません。この先も、賛成できるものは賛成できると書きます。

しかし、個々の改善に合理性があることと、国民投票制度全体をこの順序で整備してよいかは別問題です。

この記事で問いたいのは、「法律上できるか」だけではなく、「この状態で、この順序で進めることが、民主主義の手続として本当によいのか」ということです。

その「この状態」とは何なのか。

ここから、国民投票法そのものを遡ります。


国民投票法に残された「宿題」

国民投票法――正式には「日本国憲法の改正手続に関する法律」――が成立したのは2007年5月14日です。同月18日に公布され、2010年5月18日に全面施行されました。

ただし、制定時点ですべての論点に結論が出ていたわけではありません。

法律の附則には、後に「3つの宿題」と呼ばれる検討課題が残されました。

内容は、投票権年齢と選挙権・成年年齢との関係、公務員の国民投票運動と政治的中立との関係、憲法改正そのものとは別の国民投票制度を設けるかという三点です。

2014年改正では、投票権年齢について18歳への引下げに向けた整理が進められました。一方、公務員の国民投票運動をめぐる規制や、憲法改正を要する問題などについて別の国民投票制度を設けるかという論点は、引き続き検討事項とされました。

つまり、2007年制定時の「3つの宿題」は、2014年改正で一定の対応が進んだものの、すべてが完全に片づいたわけではありません。

そして2021年には、これとは別の検討課題が法律に書き込まれます。

2021年改正法の附則4条です。

この附則4条は、国に対し、同改正法の施行後3年を目途として、「検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」ことを定めました。

課題は大きく二つに分けられています。

一つは、天災などの場合の開票立会人の制度や、投票立会人の選任要件など、投票人の投票に係る環境を整備するための課題です。

もう一つは、「国民投票の公平及び公正を確保するため」の課題です。

こちらには、国民投票運動等のための広告放送・インターネット等を利用する方法による有料広告の制限、国民投票運動等の資金に係る規制、国民投票に関するインターネット等の適正な利用を確保するための方策が、具体的に挙げられました。

ここは誇張しないように確認しておきます。

「3年を目途」は、過ぎれば直ちに違法になる厳格な期限ではなく、附則4条も「すべて解決するまで国民投票を行ってはならない」とは定めていません。

それでも、国会自身が公平・公正に関わる具体的な課題を法律に書き込み、「施行後3年を目途」という時間的な目安まで置いた事実は残ります。

なお、2021年改正法附則4条自体は公布日の2021年6月18日に施行されていますが、条文が基準にしているのは「この法律の施行後3年」です。

改正法本体の施行日は同年9月18日でした。したがって、「3年を目途」という時間は2024年9月18日に経過しています。

では、その後の2026年、国会はこの「宿題」をどう扱ったのでしょうか。


2026年改正は「宿題」をどう扱ったか

2026年6月5日、国民投票法の改正案が国会に提出されました。

その後、衆議院本会議で6月19日、参議院本会議で7月24日に可決され、7月31日に法律第73号として公布されました。施行は2026年10月31日の予定です。

法律本体で行われた主な改正は三つです。

開票立会人の選任に関する規定の整備。

投票立会人の選任要件の緩和。

そして、憲法改正案の広報にFM放送を利用できるようにすることです。

衆議院の法案要綱では、これらを「投票環境整備のための公職選挙法改正並びの改正」と整理しています。

このうち、開票立会人と投票立会人の二項目は、2021年改正法附則4条の「投票環境の整備」側に具体的に書かれていた課題でした。

FM放送への対応は、附則4条に具体的に列挙されていた課題そのものではありませんが、2022年の公職選挙法改正を踏まえ、同じ2026年改正に盛り込まれました。

ここで私が特に注目したいのは、2026年改正法が、2021年改正法附則4条そのものにも手を入れたことです。

2021年改正法附則4条1号には、投票環境整備の具体項目として、開票立会人の選任に関する規定の整備と、投票立会人の選任要件の緩和が書かれていました。

2026年改正では、今回の法改正によって対応したこの二項目が、附則4条1号から削除されることになりました。

一方で、附則4条2号に書かれていた、広告放送・インターネット等を利用する方法による有料広告の制限、国民投票運動等の資金に係る規制、インターネット等の適正な利用を確保するための方策は、2026年法律第73号による改正後の条文でも残ることになっています。

さらに、「この法律の施行後三年を目途に」という附則4条冒頭の時間軸についても、2026年を起点として改めて三年を数え直すような変更はされていません。

つまり、2026年の国会は、附則4条をそのまま放置したわけではありません。

附則4条そのものを書き換え、今回対応した投票環境側の具体項目は削除した。その一方で、公平・公正を確保するための課題は、法律の文字として残した。

「宿題が残っている」というのは、単なる比喩ではありません。

しかも、2021年以後、SNS、生成AI、政治広告のターゲティングなど、国民の意思形成を取り巻く情報環境はさらに変化しています。

公平・公正をどう確保するかという課題は、むしろ具体性を増しています。

2026年6月の衆議院憲法審査会でも、広告規制、資金規制、インターネット等の適正利用について、附則4条が掲げた3年の目途をすでに経過していることを踏まえ、複数の会派から、なお議論や具体化が必要だとする発言が出ています。

ここで、現在地が見えてきます。

投開票や広報など、国民投票を実施するための環境整備は、改正法の成立という形で前へ進んでいる。

その一方で、

国民が投票に至るまでの情報環境や、広告・資金をめぐる公平・公正については、法律自身が検討課題として掲げたものが残っている。

個々の投票環境整備に合理性があることと、この進み方全体をどう評価するかは、同じ問題ではありません。

私は、この進み方の非対称さを問題視します。


警鐘は、すでに鳴らされてきた

ここまで見てきた問題は、2026年になって突然現れたものではありません。

国民投票における広告や資金力の格差、最低投票率については以前から問題が提起され、情報環境の変化に伴って、インターネット広告についても具体的な制度論が積み重ねられてきました。

日本弁護士連合会は、2019年1月、「憲法改正手続法における広告放送及び最低投票率に関する意見書」を公表しています。

この意見書で日弁連は、テレビ・ラジオの有料広告について、効果的に広告を行うには多額の資金が必要になることから、資金力の多寡によって、憲法改正案への賛成・反対について国民へ届けられる情報量に格差が生じるおそれがあると指摘しました。

その上で、現行法では国民投票期日前14日間とされている国民投票運動のための有料広告放送の禁止期間について、放送事業者の自主的な規律も尊重しながら、禁止期間を延長する法規制の必要性を国会で検討するよう求めています。

現在の国民投票法105条は、国民投票の期日前14日に当たる日から国民投票の期日まで、国民投票運動のための有料広告放送を禁止しています。

ただし、ここでいう「国民投票運動」は、憲法改正案への賛成・反対の投票をするよう、又はしないよう勧誘する行為です。

そのため、「賛成票を投じましょう」という勧誘広告と、「私はこの改正案に賛成です」という意見表明広告は、少なくとも105条の禁止対象としては同じ扱いではありません。

日弁連は、勧誘広告と意見表明広告について、実際には区別が困難な場合が予想されると指摘しています。

その上で、「意見表明」という形をとった広告が投票期日まで大量に流れれば、投票前に国民が冷静に判断するための期間を設けるという法の目的が潜脱されるおそれがあるとしています。

参議院憲法審査会事務局の職員が執筆した2021年の調査資料でも、日弁連意見書のこうした指摘が整理されています。

つまり、ここで問題にされていたのは単純に、「広告は悪いから禁止しよう」という話ではありません。

資金力の差が、国民が接する情報量の差へどこまで変換されてよいのか。

そして、表現の自由を守りながら、賛否双方について公平な判断材料と意思形成の環境をどう確保するのか。

という問題です。

さらに2023年4月、日弁連は、今度はインターネット広告を主題とした「憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書」を公表しました。

ここでは、かなり具体的な制度案まで示されています。

日弁連は、国民投票運動や国民投票についての意見表明のために有料で行うインターネット広告について、国民投票期日までの少なくとも1か月以上の相当期間、禁止することを提案しています。

さらに、

  • 広告主と、その発信内容・方法・規模を決定する権限を持つ「実質的支配者」を表示すること

  • 広告主と実質的支配者が広告に支出できる上限額を定め、その履行を確保する仕組みを設けること

  • 国民投票広報協議会が、賛成・反対双方の公平性を確保した上で、十分な情報提供を行うこと

  • 国民投票広報協議会が、広告事業者による自主規制の根拠となるガイドライン等を定めること

などを求めています。

2023年5月25日の衆議院憲法審査会では、立憲民主党の階猛委員がこの日弁連意見書を名指しで取り上げ、「勧誘CMか意見表明CMかを問わず、少なくとも投票期日1か月前から禁止すべき」とする提案を紹介しました。

もちろん、日弁連の提案も、そのまま採用すればよいというものではありません。規制の範囲や期間、実効性、表現の自由との関係など、個々の論点については検討する必要があるでしょう。

  • 広告をどこまで禁止するのか。

  • 支出上限をどの水準にするのか。

  • どのような主体に表示義務や報告義務を負わせるのか。

  • どの範囲の情報発信を有料政治広告として扱うのか。

規制を広げれば、表現の自由や国民投票運動の自由との緊張も生じます。

実際、2023年5月25日の衆議院憲法審査会でも、ネット広告規制の必要性が論じられる一方で、過度な規制が表現の自由を侵害するのではないかという異なる立場からの意見も出ています。だからこそ、具体的な制度設計について議論する必要があります。

そして2026年には、広告の内容そのものを規制することとは別に、広告の出し手や資金、ターゲティングを透明化するという方法も、衆議院憲法審査会で具体的に論じられています。

2026年6月11日の審査会では、中道改革連合・無所属の河西宏一委員が、EUの「政治広告の透明化及びターゲティングに関する規則(TTPA)」を参照し、

  • スポンサーの身元

  • 広告費の総額

  • 資金の出所

  • 広告がどの選挙・国民投票に関係するものなのか

  • ターゲティングを行う場合の対象や基準、使用する個人データ

といった情報を表示する仕組みを紹介しました。

河西委員は、この方法を、「誰が、幾ら、どの国の資金で、誰に向けて発信したのかを明らかにする」ものであり、表現内容そのものを規制するものではないと説明しています。

私は、この区別を大事にしたいと思います。

偽情報への対策が必要だからといって、国家が「これは真実」「これは虚偽」と一方的に認定し、政治的な表現を削除・禁止する仕組みを安易につくればよいとは考えません。

しかし、

  • 誰がお金を出したのか。

  • いくら使ったのか。

  • 誰に向けて広告を出したのか。

  • どのような条件で広告の対象者を選んだのか。

こうした情報を見えるようにすることは、表現内容そのものを禁止することとは別の問題です。

このような具体的な選択肢については、すでに国会でも議論されています。

もう一つ、日弁連の2019年意見書が扱っているのが最低投票率です。

ここは、前の章で扱った2021年改正法附則4条とは分けて考える必要があります。

最低投票率は、2021年改正法附則4条に列挙された「施行後3年を目途」の検討事項ではありません。

したがって、「最低投票率についても、2021年に国会が3年を目途に措置すると法律で定めた」とは書けません。

一方で、最低投票率そのものは、国民投票法をめぐって以前から国会でも検討を求められてきた論点です。

2007年の国民投票法制定時には、参議院の附帯決議で、低投票率によって憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討することが求められました。

2014年改正時の参議院附帯決議でも、「主権者の意思を十分かつ正確に反映させる必要があること」そして、「憲法改正の正当性に疑義が生じないようにすること」を念頭に、最低投票率制度の意義・是非について、速やかに結論を得るよう努めることが改めて求められています。

ですから、

2021年改正法附則4条に法律上書き込まれた「宿題」と、最低投票率のように別の経緯で以前から検討されてきた制度上の論点は、混同しない。

この線引きは必要です。

しかし同時に、広告やインターネット上の情報環境についても、最低投票率についても、「2026年になって突然、護憲派が改憲を止めるために持ち出した問題」ではありません。

広告については、日弁連が2019年にテレビ・ラジオの有料広告を、2023年にはインターネット広告を取り上げ、具体的な制度案まで示しています。

最低投票率についても、2007年、2014年の参議院附帯決議で繰り返し検討が求められてきました。

そして2026年現在も、衆議院憲法審査会では広告主、資金源、広告費、ターゲティング、偽情報への対応と表現の自由との関係が具体的に議論されています。

問題が難しいことは事実です。

しかし、「難しい」ということと、「後回しにしたままでよい」ということは同じではありません。

国民投票の公平・公正をどう確保するのか。

表現の自由を守りながら、資金力による情報格差や不透明な広告をどう扱うのか。

その議論は、すでに始まっています。

そして2021年には、有料広告、運動資金、インターネット等の適正な利用という問題が、とうとう法律自身の検討事項として書き込まれました。

だから私は、この問題を「いつか考えればよい周辺論点」として扱うことはできません。


「それでも、待ってはいられない」という反論

ここには、当然、強い反論があります。

情報環境は今後も変化し続ける。すべての問題について合意するまで待つのではなく、合意できる投票環境整備から進めるべきだ。

これは、こちらが都合よく作った反論ではありません。

2026年6月4日の衆議院憲法審査会で、日本維新の会の西田薫氏は、インターネットやAIの発展などによって課題は次々に生じるとして、すべての課題について合意して国民投票法を改正するのを待ち、憲法改正案を発議できないままでいるなら、「国民による主権行使の権利、機会そのものを奪うことになってしまいかねません」と主張しています。

また、国民民主党の浅野哲氏は、公職選挙法ですでに実施されている開票立会人、投票立会人、FM放送への対応について、「投票に参加しやすい環境を整えることは、国民主権の実質化そのものです」と述べ、「賛否両論あるほかの論点の議論を待つ必要はなく、合意できるところから直ちに法制化すべき」と主張しています。

私は、この反論を不誠実なものだとは思いません。

災害時の投開票や在外投票など、投票へのアクセスを改善する項目まで「広告規制がまだだから」と一括して止めれば、かえって政治参加を妨げる場合があります。

だから個別改正は一つずつ見ます。賛成できるものには賛成します。

しかし。


それでも、私はこの順序を是認しません

私は、未来に現れるすべての問題を解決するまで、一切の制度整備を止めろと言っているわけではありません。

問題にしているのは、2021年の段階ですでに国会自身が法律へ書き込んだ、有料広告、運動資金、インターネット等の適正利用という課題です。

国民投票では、投票箱へ行けることだけでなく、そこへ行くまでにどのような情報環境で意思を形成するかも重要です。

そして、この問題意識は護憲の立場だけから出ているものでもありません。

国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を大前提としつつ、憲法改正そのものについては問題解決の「手段の一つ」として検討する立場を取るチームみらいの古川あおい氏も、2026年7月16日の衆議院憲法審査会で、この問題を取り上げています。

古川氏は、2021年改正法附則4条に掲げられた広告放送・インターネット有料広告、運動資金、インターネット利用の適正化について、検討の目途とされた期間がすでに経過していることを指摘しました。

そのうえで、生成AIの発展によって、本物と見分けのつかない偽の発言や映像を誰もが容易に作り出せる時代になったとして、「この宿題の重みはむしろ増しております」と述べています。

これは、「護憲派が改憲を止めるために新しい問題を持ち出している」という話ではありません。

国会自身が2021年に法律へ書き込み、3年という検討の目途まで置いた課題です。

個々の投票環境整備に合理性があっても、法的に先へ進められることと、民主主義の手続としてこの順序を是認することは別です。

私は、是認しません。


進む「公選法並び」

前の章で見た2026年の法改正に続き、今回の政令案・省令案では、その施行に必要な規定を整備するとともに、2019年から2024年に行われた公職選挙法施行令の改正内容を、国民投票法施行令にも取り入れようとしています。

総務省が「命令などの案」として公示している「政省令概要」では、その対応関係が一覧化されています。

たとえば、

  • 荒天などで投票箱を送れない場合を想定した開票立会人の選任ルール

  • 不在者投票の送致先に関する特例

  • 投票管理者の交替制

  • 選挙事務関係者の住所を一部のみ告示できる仕組み

  • 病院の不在者投票管理者の職務代理者の要件緩和

  • 期日前投票・不在者投票の宣誓方法の簡素化

  • 投票に関する書類等の保存期間の見直し

  • 在外投票に関する書類やデータの送付方法の見直し

などです。

通常の選挙と国民投票には共通する実務が多く、「公選法並び」で制度を整えること自体には合理性があります。

ただし、公選法で採用済みであることは制度の由来を説明しても、国民投票でもそのまま妥当であることまで自動的に証明しません。

国民投票固有の問題が生じないかは、別に確認する必要があります。

そこで、今回の変更を一つずつ見ます。


今回の変更を一つずつ見る

1(1)①「選挙の期日前2日以後に分割開票区又は合同開票区を設けた場合における開票立会人の取扱い」

荒天などで投票箱を本来の開票所へ送れず、急きょ新しい開票区を設ける場合の開票立会人について、選任ルールを設けます。

適切な立会いのもとで開票を続けられる仕組みとして、私はこの方向を支持します。

1(1)②「市町村の区域が数開票区に分かれている場合における指定投票区の指定等の特例」

災害などで不在者投票を本来の投票管理者へ送れない場合、指定された別の投票管理者へ送れるようにする変更です。

投票を適切に処理するための特例として、基本的に支持します。

1(1)③「投票管理者の交替制に関する規定の整備」

投票管理者について交替制を可能にする変更です。

適切な引継ぎと責任の所在が確保されるのであれば、一人が開場から閉場まで居続けることを必須とする理由は乏しく、現実的な制度整備と考えます。

1(2)①―ア「選挙事務関係者の住所の一部の告示」

投票管理者や開票管理者などについて、住所全部の告示に支障がある場合、その一部の告示で代えられるようにします。

投票事務の担当者を明らかにすることと、その詳細な住所まで公表することは別です。安全やプライバシーへの配慮として、基本的に評価します。

1(2)①―イ「病院の不在者投票管理者(院長)の職務代理者となる者の要件緩和」

ここは少し慎重に見ていきます。

今回変更されるのは、病院の不在者投票管理者である院長の職務代理者について、医師等以外の者もなることができるようにする点です。

総務省は、介護老人保健施設や介護医療院では、医師等以外の者が施設長になり得ることを理由として挙げています。

施設内投票には、入院・入所している人の自由な意思や秘密投票をどう保障するのかという問題があります。

しかし、「医師等であることが、政治的中立性や不正防止能力を保証する」という根拠は、今回確認した資料からは確認できませんでした。

施設内投票の公正性という問題は、それ自体として残ります。

しかし、その問題と今回の職業資格要件の緩和とをそのまま結びつけて、今回の変更に反対するのは無理があります。

ここは反対論として採用しません。

1(2)②「期日前投票及び不在者投票の事由に該当する旨の宣誓書に係る申立ての内容の見直し」

期日前投票・不在者投票の際、具体的にどの法定事由に当たるのかを一つずつ申し立てるのではなく、いずれかの事由に該当すると見込まれる旨を包括的に宣誓すれば足りるようにします。

私はこの方向を評価します。

投票権を行使するために、「仕事です」「旅行です」「病気です」と、自分の生活事情を必要以上に行政へ申告しなくて済む方向の変更だからです。

1(2)④ 在外投票関係

在外投票については、在外選挙人証を在外公館で印刷・交付できる仕組みや、登録申請書などの電子データ、登録しなかった場合などの通知を、外務大臣を経由せず市町村選挙管理委員会と在外公館等の間で直接やり取りできる仕組みを導入します。

手続の迅速化・負担軽減につながる方向として、基本的に支持します。個人情報の適切な安全管理は当然必要ですが、「電子化だから危険」というだけで反対する理由にはなりません。

1(2)③「投票に関する書類等の保存期間の見直し」

総務省の概要には、「投票に関する書類等の保存に係る事務を合理化する」としか書かれていません。

  • 何が保存期間見直しの対象になるのか。

  • 現在どの程度の期間保存されているものを、どの期間へ変更するのか。

  • 具体的にどの条文を、どのように書き換えるのか。

今回公示されている「政省令概要」だけでは、その肝心な部分を確認できません。したがって、この項目については、前編では結論を急ぎません。

「事務の合理化」という説明だけを見て、妥当だとも不当だとも決めないことにします。

後編では、この1(2)③について、今回の概要が参照している2023年の令和5年政令第33号まで遡ります

何の保存期間が見直されたのか、その考え方を国民投票へ反映することをどう評価すべきかを確認します。


必要な改善が含まれていることは、免罪符にはならない

今回の政令案・省令案には、必要な改善があります。

しかし、個々に合理的な改善が含まれていることは、公平・公正をめぐる未解決の課題まで解消されたことを意味しません。

2026年改正では対応済みの投票環境側の項目が附則4条から削除される一方、公平・公正側の課題は、改正後の条文でも残ることになっています。その状態で、さらに「公選法並び」の整備が進みます。

私は、この進み方そのものを是認しません。

そして今回の案には、なお具体的な内容を確認できない「投票に関する書類等の保存期間の見直し」もあります。


後編では、「パブコメの書き方」を考えます

後編では、制度全体への問題意識を今回の政令案・省令案への意見へどう翻訳するかを考えます。

あわせて、「投票に関する書類等の保存期間の見直し」を2023年改正まで遡って確認し、今回公示された概要だけでは具体的な改正内容を確認できないという問題も扱います。

前編の結論は、個々には支持できる改善がある。それでも、公平・公正の宿題を残したまま、投票環境側の法整備が先に進んでいく。その順序に私は反対する、です。

後編では、この異議を実際のパブリックコメントへ落とし込みます。

@sallypenguin
サリーといいます。普段はBlueskyに生息しています。 bsky.app/profile/sillysallypenguin.bsky.social