
「永住の出口」をめぐるパブコメ
前の記事では、これから永住許可を受けようとする人に関わる「永住許可に関するガイドライン改定案」を見てきました。
今回は、もう一つ同時に行われている「出口」の方です。
案件番号315000141「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」。
すでに「永住者」の在留資格を持っている人について、どのような場合に取消事由に該当するのか。
該当した場合に、別の在留資格へ変更するのか、それとも在留資格そのものを取り消すのか。
その運用を具体化するガイドライン案について、現在パブリックコメントが行われています。
e-Gov上の受付締切は9月4日0時ですが、意見募集要領では9月3日(木)必着とされています。
提出するのであれば、9月3日中と考えておくのが安全です。
ここで最初に確認しておきたいことがあります。
今回のパブリックコメントで、「永住者の在留資格を取り消す制度を作るかどうか」を一から決めるわけではありません。
今回追加される取消事由の根拠となる改正法は、2024年6月14日に成立し、6月21日に公布されています。一部を除き、2027年4月1日に施行されます。
今回のガイドライン案は、その施行を前に、新たな取消事由の解釈や考え方を具体化するものです。
また、取消事由に該当した場合に、どのような場合に別の在留資格へ職権変更し、どのような場合に在留資格を取り消すのかという判断の考え方も示しています。
したがって、今回の意見募集で直接対象となっているのは、すでに成立した法律そのものではなく、このガイドライン案です。
何が取消事由に当たるのか。
定着性や法令違反の悪質性など、どのような事情をどう考慮するのか。
取消事由に該当した場合、どのような場合に別の在留資格への職権変更とし、どのような場合に取消しとするのか。
といった、運用の線引きについて意見を送ることができます。
そもそも、永住資格は現在でも取り消されることがある
今回の改正によって、初めて永住者の在留資格を取り消せるようになるわけではありません。
現行の入管法でも、下記の場合、「永住者」の在留資格が取り消されることがあります。
不正な手段等によって永住許可を受けた場合
正当な理由なく転居後90日以内に新しい住居地の届出をしなかった場合
虚偽の住居地を届け出た場合
また、永住者であっても、一定の場合には退去強制制度の対象になります。
2024年改正で変わるのは、そこに新たな取消事由が追加されることです。
出入国在留管理庁は、永住者には許可後の在留期間更新などの審査がない一方、許可時には満たしていた要件を、その後あえて満たさなくなる一部の悪質な事例があるとして、今回の制度を説明しています。
一方、永住者の中には、すでに日本に定住し、生活基盤を築いている人もいます。
そのため国会の附帯決議「十一」では、取消しや職権変更にあたって、永住者の利益を不当に侵害しないよう、「定着性」や法令違反の「悪質性」などの個別事情を厳正に判断し、特に慎重に運用することが求められました。
今回のガイドライン案は、この附帯決議を踏まえて作られています。
何が新しく取消事由になるのか
2024年改正で新たに加えられた取消事由は、大きく三つです。
一つ目は、入管法に規定する一定の義務を守らないこと。(第8号前段)
二つ目は、「故意に公租公課の支払をしないこと」。(第8号後段)
三つ目は、「特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたこと」です。(第9号)
法律の条文では、次のように規定されています。
第8号※1
「永住者の在留資格をもつて在留する者が、この法律に規定する義務を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は故意に公租公課の支払をしないこと。」
第9号※2
「永住者の在留資格をもつて在留する者が、[刑法などで列挙された一定の罪]により拘禁刑に処せられたこと。」
※1 第11号・第12号は、転居後90日以内に新しい住居地を届け出ない場合や、虚偽の住居地を届け出た場合について、別に定められている取消事由です。そのため、これらに該当する事実は第8号の「入管法に規定する義務を遵守せず」から除かれています。
※2 第9号は、対象犯罪の列挙部分を省略しています。対象となる犯罪は後で見ます。
以下順番に見ていきます。
一つ目 入管法に規定する一定の義務を守らないこと(第8号前段)
一つ目は、入管法に規定する一定の義務を守らないことです。
対象には、たとえば在留カードの更新や再交付の申請、在留カードの携帯・提示などの義務が含まれます。
今回のガイドライン案は、「うっかり在留カードを家に忘れただけでも永住資格を失うのか」という点についても、かなり明確にしています。
正当な理由がない限り、過失による義務違反でも取消事由には該当します。
ただし、在留カードの更新を一度失念した場合や、不注意で一度カードを携帯しなかった場合について、その一度の不履行だけで在留資格を取り消すことは想定していない、と明記しています。
また、病気や災害などによって義務を履行できなかった場合には、「正当な理由」があるかを個別に判断するとしています。
したがって、少なくとも今回公表された案では、一度の不注意による在留カード不携帯だけをもって、在留資格を取り消すことは想定されていません。
ただし、どの程度の義務違反から職権変更や取消しの対象となるのかという線引きは残ります。この点は後で見ます。
二つ目 「故意に公租公課を支払わない」とはどこからか(第8号後段)
二つ目は、「故意に公租公課の支払をしないこと」です。
ここでいう「公租公課」には、所得税や住民税などの租税のほか、国民健康保険や健康保険などの公的医療保険料、国民年金や厚生年金保険などの公的年金保険料が含まれます。
一方、手数料や利用料、罰金、過料などは含まれません。
重要なのは、単に公租公課を支払っていないという事実があるだけで、直ちに取消事由になるわけではないことです。
改正法は「故意に」と規定しています。
ガイドライン案は、これを、支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払わない場合だと説明しています。
そして、収入や資金・財産の状況、滞納回数、滞納額、滞納期間、支払状況、滞納に至った経緯、その後の事業や生活の状況、本人の言動などを総合的に考慮し、「支払意思がないことが明白」と認められる場合に該当するとしています。
ただし、やむを得ない事情があり、本人に責任を帰すことができない場合は該当しないとしています。
「払えない」と「払わない」を分ける
ガイドライン案は、取消事由に該当しないと想定される例も具体的に示しています。
病気、災害、失業などのやむを得ない事情によって支払えない場合です。
その例として、事業不振、感染症の流行や災害による収入変動、DV被害による生活困難、職場でのハラスメントを原因とする離職などが挙げられています。
また、催告などに応じて支払意思を示し、分納や猶予措置を受けている場合や、給与から公租公課が控除されているのに所属企業が納付していなかった場合なども、該当しない例とされています。
2024年の国会審議でも、病気や失業で支払えない場合まで「故意」に当たるのではないかという懸念が取り上げられました。
政府は、本人に責任を帰すことができず、やむを得ず支払えない場合は取消事由に該当しないと説明しています。
今回のガイドライン案では、少なくともこの点について、「払えない」場合と「あえて払わない」場合を区別する考え方が、かなり具体的に示されています。
当事者グループの「永住許可有志の会」も、定着性への配慮や取消事由の具体例が明記され、とりわけ公租公課の未納について個別事情を踏まえた慎重な運用が示されたことを評価しています。
では、どこから「故意」になるのか
一方、明確な金額や期間の線が引かれたわけではありません。
ガイドライン案は、滞納額、滞納期間、滞納回数なども考慮するとしていますが、それらについて一律の基準を設けて判断するものではないとしています。
何円以上なら問題になるのか。
何か月、何年間なら長期なのか。
何回なら「繰り返し」と判断されるのか。
そのような一律の基準は示されません。
これは、数字だけでは判断できない個別事情を考慮できるという面があります。
一方で、永住者自身が、自分の状況が取消事由に該当する可能性をどこまで事前に予測できるのかという問題も残ります。
関東弁護士会連合会は2025年、「故意に公租公課の支払をしないこと」について、支払義務を認識し、支払能力があるにもかかわらず、あえて支払わない場合に限定するよう求めていました。
また、その後に支払われて遅延が解消した場合は、取消事由に該当しないことを明確にするよう求めています。
今回のガイドライン案では、「故意」について、支払義務を認識しながらあえて支払わない場合とし、収入や資金・財産の状況なども含めて総合的に判断する考え方が示されました。
一方で、「支払能力がある場合に限定する」とは明記されていません。また、後から完納した場合に必ず取消事由から外れるとも定められていません。
一律の基準を設けない仕組みの中で、外国人や関係者の予見可能性をどのように確保するのか。
ここは意見を送ることのできる論点です。
施行前の不払いはどう扱われるのか
もう一つ、公租公課について重要なのが、改正法の施行前の不払いをどう扱うのかです。
今回の取消事由を含む改正法は、2027年4月1日に施行されます。
しかしガイドライン案は、永住許可後から改正法の施行前までに、故意に公租公課を支払っていなかったことが施行後に判明した場合も、第8号の取消事由に該当するとしています。
ただし、施行前の一時点の事情だけで直ちに在留資格を取り消すものではなく、その後の公租公課の支払状況なども含めて判断するとしています。
この点では、入管庁と法律家・当事者団体との立場が分かれています。
関東弁護士会連合会は、改正法施行前の入管法上の義務違反、公租公課の不払い、前科については勘案しないことを明確にするよう求めています。
永住許可有志の会も、施行前の事由について、遡及適用を行わない方針をガイドラインに明記するよう求めていました。
その後、同会が神田潤一衆議院議員を通じて入管庁と協議したところ、入管庁からは、今回の制度は永住許可後に許可要件を「あえて満たさなくなった悪質な場合」への対応であるため、改正法施行前の事象についても取消事由に該当し得る、との説明があったと報告されています。
今回公表されたガイドライン案にも、その考え方が明記されました。
改正法の施行前の不払いを、施行後に新しい取消事由に該当すると扱うことをどう考えるのか。
施行前の事情と、その後の納付状況をどのように評価するのか。
過去に未納があったものの、現在は納付している人をどう扱うのか。
この点も、今回のパブリックコメントで意見を送ることのできる論点です。
三つ目 特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたこと(第9号)
三つ目は、特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたことです。
対象となるのは、窃盗、詐欺、恐喝、殺人、傷害、危険運転致死傷など、入管法で列挙された一定の犯罪です。
すべての犯罪が対象になるわけではありません。ガイドライン案は、対象となる犯罪はいずれも故意犯だと説明しています。
また、対象犯罪で拘禁刑に処せられた場合には、刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も取消事由に該当します。
ここでも注意したいのは、「取消事由に該当する」ことと、「日本での在留そのものが認められなくなる」ことは同じではないということです。
次に、この違いを見ます。
「取消事由に当たる」と「日本から出なければならない」は同じではない
新しい取消事由に該当したからといって、必ず日本での在留そのものが認められなくなるわけではありません。
2024年改正では、第8号または第9号の取消事由に該当する場合でも、その人が「引き続き本邦に在留することが適当でない」と認められる場合を除き、法務大臣が職権で別の在留資格への変更を許可する仕組みが設けられました。
つまり、取消事由に該当すると判断された場合、その後は原則として、別の在留資格へ職権変更する。
ただし、「引き続き本邦に在留することが適当でない」と判断された場合、在留資格を取り消す。
という整理になります。
ガイドライン案では、職権変更となる場合、「ほとんどの場合」は「定住者」への変更を想定するとしています。
また、職権変更後に再び永住許可の要件を満たせば、再度永住許可を受けることも可能だとしています。
つまり、「『永住者』の在留資格を失う」ことと、「日本で在留を続けられなくなる」ことは、制度上分けて考える必要があります。
永住許可有志の会も、取消事由に該当しても直ちに退去につながらず、原則として別の在留資格への変更が想定されていることについて、永住者の不安を一定程度緩和するものと評価しています。
「定住者」になれば、何が変わるのか
「定住者」に変更されても日本で暮らし続けられるのであれば、永住資格を失ってもそれほど大きな違いはないように見えるかもしれません。
しかし、「永住者」と「定住者」では、在留の安定性が大きく異なります。
「永住者」の在留期間は無期限で、在留期間の更新審査もありません。
一方、「定住者」の在留期間は、5年、3年、1年、6月、または5年を超えない範囲で法務大臣が個別に指定する期間です。
その期間を超えて日本で暮らし続けるためには、在留期間の更新許可を受ける必要があります。
そして今回のガイドライン案は、職権変更によって「定住者」などになった人について、その後の在留期間の更新手続などで、職権変更の理由に応じて、入管法上の義務の遵守状況や、公租公課の支払状況を確認していくとしています。
つまり、永住者になったことで必要がなくなっていた定期的な在留審査が、再び生活の中に入ってきます。
更新は、単なる在留カードの書換えではありません。
現在の入管庁のガイドラインでは、在留期間の更新は、本人の活動や在留状況、在留の必要性などを総合的に考慮して判断するとされています。
納税義務の履行や、国民健康保険料などの納付、入管法上の届出等の義務を履行しているかどうかも考慮要素です。
また、そこに挙げられた事項をすべて満たしていても、すべての事情を総合的に考慮した結果、更新を許可しない場合があるとされています。
また、期限付きの在留資格になることは、入管での手続だけに影響するわけではありません。
金融庁は、在留期間を更新済みまたは更新申請中である場合、その旨を金融機関に届け出る必要があると案内しています。
また入管庁は、在留期間満了日までに金融機関へ必要な届出をしなかった場合、その翌日以降、預貯金口座の取引が制限される場合があると説明しています。
入管庁自身も、在留期間満了後にこうした日常生活上の制限が生じる可能性があるとして、在留期限に余裕を持って更新を申請するよう案内しています。
住宅ローンでも、外国籍の人について永住許可を申込条件とする商品があります。
たとえば住宅金融支援機構の「フラット35」では、外国籍の申込者について、「永住者」または「特別永住者」であることが申込要件とされています。
一方、永住許可がなくても利用できる住宅ローンもあります。
たとえば、あすか信用組合には「永住権のない外国籍の方専用」の住宅ローンがあります。ただし、利用できる人について「3年以上日本に在留、かつ、在留期間3年以上の定住者」などの条件が設けられています。
したがって、「定住者になれば住宅ローンを利用できない」ということではありません。
しかし、永住資格を失うことで、利用できる住宅ローンの商品や条件が変わる可能性があります。
この点は、2024年の国会審議でも指摘されていました。
衆議院法務委員会では、永住者の在留資格の取消しについて「住宅ローン等についての影響もある」として、十分な配慮を求める質問が出ています。
家族への影響もあります。
取消しや職権変更の対象になるのは、取消事由に該当した本人です。
家族だからという理由だけで、配偶者や子の在留資格まで取り消されたり変更されたりするわけではありません。
ただし、その人の配偶者が「永住者の配偶者等」の在留資格で暮らしている場合には、本人が「永住者」ではなくなるため、その配偶者は「定住者」など別の在留資格へ変更することになります。
一方、配偶者自身が「永住者」である場合や、子が「永住者」または「永住者の配偶者等」である場合には、その在留資格には影響しないと入管庁は説明しています。
永住許可有志の会は、永住資格の取消しについて、「長年日本で生活基盤を築いてきた永住者及びその家族の生活に極めて重大な影響を及ぼす制度」だと指摘しています。
横浜華僑総会などの在日華僑団体も、2024年の法改正時に、日本で長年生活基盤を築いてきた永住者や、日本にのみ生活基盤を持つ人がいることを挙げ、永住資格の取消制度について「永住者の生活、人権を脅かす重大事案」だと懸念していました。
つまり、「日本に残ることができる」ことと、「これまでと同じ安定した地位で暮らし続けられる」ことは同じではありません。
今回のガイドライン案は、職権変更をする場合、「ほとんどの場合」は「定住者」への変更を想定するとしています。
しかし、「定住者」には5年、3年、1年、6月など複数の在留期間がある一方、今回のガイドライン案には、職権変更の際にどの在留期間を付与するのか、その判断基準までは具体的に示されていません。
永住者から期限のある在留資格へ変更するのであれば、その期限をどのように決めるのかも、生活の予見可能性に関わる論点です。
「取消しにならなければ大丈夫」ではありません。
永住を維持できること。
定住者などに変更され、日本での在留は続けられること。
在留資格を取り消され、日本での在留そのものが認められなくなること。
この三つの間には、それぞれ大きな段差があります。
「取消し」まで行くのは、どんな場合か
では、取消事由に該当した人について、別の在留資格へ職権変更するのではなく、「永住者」の在留資格を取り消す方向へ進むのは、どのような場合でしょうか。
ガイドライン案は、入管法上の義務違反について、今後も義務を履行する意思がないことが明らかな場合や、違反の態様が「社会通念上看過しがたい」場合には、取消しが相当になり得るとしています。
公租公課についても、今後も支払う意思がないことが明らかな場合や、滞納額、滞納期間、滞納回数などが「社会通念上看過しがたい」場合を挙げています。
特定の犯罪については、過去の犯歴などから「犯罪傾向が進んでいる」と認められる場合に、取消しが相当になり得るとしています。
一方、第9号の対象となる犯罪で拘禁刑に処せられた場合でも、初犯で、執行猶予が付されたような場合には、在留資格を取り消すのではなく、別の在留資格へ職権変更することが想定されています。
さらに、取消しが相当と考えられる場合でも、家族関係などについて人道上の配慮を特に必要とする事情があれば、取り消さず、職権変更とする場合があるとしています。
制度の運用にあたっては、永住者本人やその家族などの日本への「定着性」にも十分配慮するとされています。
つまり、今回の案では、どのような場合に取消しまで進むのかについて、一定の具体例が示されました。
一方で、
「社会通念上看過しがたい」とは、どこからなのか。
「引き続き本邦に在留することが適当でない」と判断するのは、どのような場合なのか。
「定着性」とは、具体的に何を見るのか。
という部分には、なお判断の幅があります。
永住許可有志の会は、「定着性」の判断にあたって、在留年数、家族関係、就労・就学、地域とのつながりなどを具体的な考慮要素として明示するよう求めています。
また、取消しを検討する際には、当人の国籍国の社会情勢、その国における生活能力、差別や迫害を受けるおそれを含む生活上の困難について考慮するよう求めています。
今回のガイドライン案には、「家族関係」「人道上の配慮」「定着性」という考え方は入りました。
しかし、その定着性を具体的に何によって判断するのかについては、なお具体化の余地があります。
自治体などから入管への「通報」
今回の改正では、国や地方公共団体の職員による、在留資格の取消しに係る通報規定も新設されました。
改正後の入管法第62条の2は、国や地方公共団体の職員が、職務を遂行する中で、在留資格取消事由のいずれかに該当すると考える外国人を知った場合、その旨を通報することができるとしています。
なお、この通報規定自体は、今回新たに追加された永住者についての取消事由だけを対象とするものではありません。
今回追加された第8号、第9号について通報の対象となるのは「永住者」ですが、それ以外の既存の取消事由については、永住者以外の外国人についても通報することができます。
ここも誤解しやすいところです。
税金や保険料に未納があれば、自治体などが必ず入管へ通報する制度ではありません。
ガイドライン案は、この規定に基づく通報は義務ではなく、通報する職員が、取消事由について示された考え方などを踏まえ、任意に通報するかどうかを判断するとしています。
公租公課については、たとえば、一連の徴収手続の中で、度重なる催告や差押えなどを行う過程で把握した事実から、「公租公課の支払意思がないことが明白」と認められる場合に該当する可能性があると考えられたときには、通報することができるとしています。
つまり、単に未納があるというだけで、自動的に通報される仕組みではありません。
また、通報されたからといって、その時点で取消事由に該当すると決まるわけでもありません。
ガイドライン案は、通報を在留資格の取消手続の端緒とし、事実の調査などに活用するものだと説明しています。
通報を受けた後、入管庁は事実関係を調査し、本人への意見聴取などを行います。
その上で取消事由に該当するかを判断し、該当する場合には、別の在留資格へ職権変更するのか、「永住者」の在留資格を取り消すのかが判断されます。
したがって、通報があったこと自体によって、直ちに取消しや職権変更が決まるわけではありません。
入管庁は、公租公課の支払について関係機関へ相談に行っただけで、通報されることは想定していないとも説明しています。
ただし、通報するかどうかは、職務の中で把握した事実とガイドラインに示された考え方を踏まえて、通報する側が判断する仕組みです。
ガイドライン案には、通報する際の確認事項や具体例も示されています。
その上で、地域や機関によって不必要な判断のばらつきが生じないよう、どのように周知し、運用していくのか。
また、「役所へ相談すると入管へ通報されるのではないか」という誤解によって、必要な納付相談などをためらう人が生じないよう、どのように制度を伝えるのか。
ここも、今回のガイドラインについて考えることのできる論点です。
当事者の声は、どう反映されたのか
ここまで何度か取り上げた永住許可有志の会は、20代・30代を中心に、日本で生まれ育った永住者や、永住者とともに暮らす日本国籍の家族・友人らが参加する市民グループです。
同会は、今回のガイドライン案について、評価している点と、なお課題としている点の両方を示しています。
2026年8月4日に公表されたガイドライン案については、定着性への配慮や取消事由に関する具体的な事例が明記されたことを評価しています。
とりわけ、公租公課の未納による永住資格の取消しについて、個別の事情を踏まえた慎重な運用が示されたことについては、「永住者の法的地位の安定という観点からも大変な意義がある」としています。
一方で、同会はこれまで、定着性や国籍国での生活状況に関する判断基準、改正法施行前の事由の取扱いを含む遡及適用の運用方針、多様な当事者との意見交換の場について、ガイドラインへの明記や具体化を求めてきました。
このうち当事者との意見交換について、入管庁は、ヒアリングを希望する永住者個人や支援団体などすべてに対応することは現実的ではなく、一部の個人や団体だけにヒアリングすることも不公平になるため、要望に応じてヒアリングを実施することはしていないと回答しています。
一方で、当事者である永住者を含む多様な関係者から意見を聞いてガイドラインを作成しているとも説明しています。
ただし、これまでに実施したヒアリング等の詳細については、明らかにできないとしています。
これについて永住許可有志の会は、政策形成のプロセスや当事者との意見交換のあり方について、「十分な透明性が確保されているとは言えません」としています。
そして、制度への信頼を高めるためにも、政策形成過程における当事者との意見交換のあり方や、そのプロセスの透明性を確保することが重要な課題だとしています。
私は、この経過も今回の制度を考える上で重要だと思います。
2024年に法律が成立したときに示された不安の中には、2026年のガイドライン案や入管庁のQ&Aによって、具体的な考え方が示されたものがあります。
たとえば、うっかり在留カードを携帯しなかった場合に、在留資格を取り消すことは想定されていません。
病気や失業など、本人に帰責性があるとは認めがたく、やむを得ず公租公課を支払えない場合についても、取消しは想定されていません。
また、取消事由に該当した場合でも、直ちに在留資格を取り消して出国させるのではなく、「引き続き本邦に在留することが適当でない」と認められる場合を除き、別の在留資格へ職権変更する仕組みが設けられています。
その回答が示されている以上、「一度のミスですぐ国外退去になる」といった説明を続けるのは正確ではありません。
一方で、実際の案が公表されたからこそ、以前より具体的に問えるようになったこともあります。
何が明確になったのか。
何がなお行政の判断に委ねられているのか。
そして、制度によって直接影響を受ける人の声を、今後どのように政策形成や運用へ反映するのか。
そこを分けて考える必要があります。
これは「基準を明確にすればいい」問題なのか
ここまで私は、どこから取消事由に当たるのか、どこから職権変更ではなく取消しまで進むのか、その線引きを見てきました。
今回のガイドライン案によって、一度の不注意だけで直ちに取り消すことは想定されていないことや、病気や失業などによって公租公課を支払えない場合への配慮など、2024年の法改正時に示された不安の一部には具体的な回答が示されました。
しかし、問題は「基準が曖昧だから、もっと明確にすればよい」ということだけなのでしょうか。
そもそも、一定の義務違反や故意の公租公課の不払い、刑事処分に対して、永住資格を失わせるという仕組み自体をどう考えるのか、という問いがあります。
たとえば、公租公課を滞納した場合には、日本国籍か外国籍かを問わず、督促や差押えなどの徴収手続があり、場合によっては行政罰や刑罰もあります。
しかし、永住者については、それらとは別に、「永住者」という在留資格を失う可能性が加わります。
神奈川県弁護士会は2024年、公租公課の未納については、国籍を問わず督促、差押え、行政罰や刑罰などによって対応すれば足りるとして、永住資格の取消しという追加的な不利益を課すことを批判しました。
関東弁護士会連合会も、公租公課の不払いについて、日本人の場合と同様に滞納処分などで対応できるとした上で、永住者やその家族の生活基盤を深刻な危険にさらすことに見合うものではなく、永住資格を剥奪することは「過剰な制裁」だと批判しています。
犯罪についても、同じ問いがあります。
今回の改正では、対象となる犯罪によって拘禁刑に処せられた場合、刑期が短くても、また執行猶予が付いた場合でも取消事由に該当します。
もちろん、刑事責任を負うことと、永住資格を維持できるかどうかは、法律上は別の問題です。
しかし、刑事上の処分を受けた上に、長年の生活基盤となってきた永住資格まで失う可能性を加えることが、その行為に対して均衡の取れたものなのかは別に検討する必要があります。
神奈川県弁護士会は、短期間の拘禁刑や執行猶予の場合にも永住資格を取り消し得ることについて、永住者に「二重の制裁」を与えるものだと批判しています。
そして、ここには「差別」をめぐる論点もあります。
関東弁護士会連合会は2024年、日本で生活を築いてきた永住者であっても、過ちによってその生活基盤を根底から失い得るという制度は、外国籍・無国籍市民に対する差別や人権の軽視を助長するおそれがあると指摘しました。
また、附帯決議によって慎重な運用が求められたことについても、永住者やその家族の生活を入管当局の広範な裁量の下に置くという構造自体は変わらないとして、根本的な問題は解消されないとしています。
国際的にも、この点は問題になっています。
国連人種差別撤廃委員会は2024年6月25日、日本政府に書簡を送り、今回の入管法改正が、日本で永住資格を持って暮らす非市民の人権に「不均衡な影響」を及ぼす可能性について懸念を示しました。
日本政府はこれに対し、改正法は永住者に差別的な影響を及ぼすものではないなどと回答しました。
その後、2025年5月に同委員会は再び日本政府へ書簡を送り、政府の説明に留意した上で、改正法の施行が、永住資格を持つ人を含む外国籍者の人権に不均衡な影響を与えないことを確保するよう促しています。
つまり、「この制度は差別なのか」「外国籍の永住者に不均衡な不利益を与えるものではないのか」という問いは、この記事が新たに持ち出すものではありません。
国連人種差別撤廃委員会が懸念を示し、日本政府がそれを否定するという形で、すでに正面から争点になっています。
そして今回のガイドライン案が慎重な運用を具体化したとしても、その問い自体がなくなるわけではありません。
同じ故意の公租公課の不払いについて、永住者には既存の徴収制度に加えて、生活の基盤となる在留資格を失う可能性まで課す必要があるのか。
刑事上の責任を果たすことに加えて、永住資格まで失わせることは、その行為に対して相応な不利益なのか。
長年日本で暮らし、日本以外に実質的な生活基盤を持たない人についても、期限のない地位を行政判断によって失わせることを、どこまで認めるのか。
そして、その仕組みが、日本で生活を築いてきた外国籍・無国籍の人を、この社会の構成員として扱うことと両立するのか。
私は、ここも今回のガイドラインを考える上で外せない論点だと思います。
全部について書かなくていい
ここまで見てきたように、今回のガイドライン案には多くの論点があります。
しかし、すべてについてパブリックコメントを書く必要はありません。
たとえば、
「故意の不払いを判断する基準を、もっと具体的に示してほしい」
「改正法施行前の公租公課の不払いを、施行後の取消事由として扱わないでほしい」
「定着性について、在留年数、家族関係、就労・就学、地域とのつながりなど、具体的な考慮要素を明記してほしい」
「『定住者』へ職権変更する場合、どの在留期間を付与するのか、その考え方を示してほしい」
「納付相談などをためらわせないよう、自治体等からの通報について十分に周知してほしい」
「既存の徴収や刑事上の制度に加えて、永住資格まで失わせることが必要で相応なのか、改めて検討してほしい」
という一点でも構いません。
上記から選んでも構いませんし、ここに挙げていない点について、ご自身が重要だと思うことがあれば、もちろん意見を送ることができます。
今回の案件番号は315000141、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」です。
意見募集要領では2026年9月3日必着です。e-Gov上の受付締切は9月4日0時なので、9月3日中に提出するのが安全です。
前の記事で扱った案件番号315000140とは別の意見募集です。
永住の「出口」を、どこに置くのか
今回のガイドライン案によって、一度の不注意や、本人に責任を帰すことのできない未納についての考え方など、明確になったことはあります。
それでもなお、何をもって「故意」「社会通念上看過しがたい」「定着性」と判断するのか。
永住資格を失わせるという追加的な不利益そのものが必要で相応なのか。
「永住者」から期限のある在留資格へ変更することで、長年日本で築いてきた生活にどのような影響が生じるのか。
今回問われているのは、永住の「出口」をどこに置くのかです。
その線について、いま意見を送ることができます。