なにもしらないからともだちでいられる 第3話

愁羽淋
·
公開:2026/2/23

2話はこちら

第3話 生徒会長はだーれだ

A 謎の学園長登場!

 そんなわけで、フルト・グレイド魔法院の姉妹校になったわたしたちウィッチリア魔女っ子部長国連邦村学園に、学園長として派遣されてきたのはなんと! トレンチの襟を立てた不機嫌眼鏡の男! 第32階位魔法使いにして次元創造官ディメンション・クリエイター、ギー・ドゥボール!

 発表された講堂で魔女っ子全員ざわざわざわ。

「まって。次元創造官ディメンション・クリエイターって言った?」

「なんかラスボス級登場したんですけど!」

「32階位って、カルガモット卿より上!?」

 ギー・ドゥボール学園長の周りには、四角い額縁のようなものが宙に浮いている。まるで絵画のなかから抜け出たよう。あの額縁の向こうって、もしかして別次元?

「わたしがこのたび、この学園を治めることになった歩く無限回廊トロンプルイユこと、ギー・ドゥボールだ」

 歩く無限回廊トロンプルイユ

「キミだちが時間軸異常フリークエンシー・カタストロフで14歳だか24歳だかわからなくなってしまったように、わたしは描かれた絵であると同時に、その作者となった」

 まってまって、わけわかんない。時間軸異常フリークエンシー・カタストロフでそんなこと起きるの?

「そして……わたしがわたしの作品であることから逃れられないように、キミたちは自分を『可愛い魔女っ子』だと信じたこの巨大な美少女劇スペクタクルから抜け出すことは出来ないのだっ!」

 面倒くさい新概念来たぁ!

「さっそくだが、このなかに時間軸異常フリークエンシー・カタストロフの本質がわかるものがいるかね?」

 いきなりのトップギア! 新任学園長の問に、秀才グレイス・ミストが手を挙げる。

因果の強制収束ディスティニー・コンバージェンスだと考えられます」

 なんかこっちからも新概念来たぁ!

「14歳の少女でセックス描写をしたいだけの神の計画ごつごうしゅぎによって、わたしたちには24歳という仮の設定が与えられました」

 神の計画ごつごうしゅぎ

「そうだ。たしかに一部では正鵠を射ている。しかしキミはふたつの概念を混同している」

「混同というと?」

 ざわざわざわ。

「やがてこの世界には千年紀の滅亡ミレニアム・アニヒレーションが訪れる。それはたった2年後だと言われている。たった2年――」

 眼鏡の男は静かに会場を見渡す。

「これは『世界線駆動プロット・ドリブンによって導かれる必然』、キミが言った『因果の強制収束』ディスティニー・コンバージェンスだと言えるだろう」

 世界線駆動プロット・ドリブン

「しかし、時間軸異常フリークエンシー・カタストロフは舞台装置だ。美少女劇スペクタクルを成立させるための神の計画ごつごうしゅぎであり、本来なら世界線プロットには干渉しない。つまり、因果に関与することはなく、千年紀の滅亡ミレニアム・アニヒレーションとは独立しているはずだ」

「はず? というと、独立していないということですか?」

「そう。千年紀の滅亡ミレニアム・アニヒレーションにおいて、この世界はふたつに分裂する。そのふたつとはすなわち、キミたちが14歳である世界と、24歳である世界だ!」

「待ってください!」

 こんどはヴェルデ・クローバーから声が上がる。

千年紀の滅亡ミレニアム・アニヒレーション真鬼トゥルクによってもたらされると聞いています! それはウソだったんですか?」

「いいや、真鬼トゥルクは重要な役割を果たす。フルト・グレイド魔法院の上空にゴルジ体が発生しているのをみなも知っているだろう?」

 ざわざわざわ。

 あの、ただの黒雲にも見えるモヤモヤ。ゴルジ体って呼ばれてるのは聞いたことあるけど、それってなんなの。

「やがてこの世界は、細胞が分裂するようにふたつに分裂する。そのときに紡錘体ぼうすいたいとして、ふたつの世界にそれぞれの『存在』を導くのが真鬼トゥルクだ」

 まってー。理解がおいつかないー。紡錘体ぼうすいたいってなにー。ゴルジ体どこいったー。

「でも、わたしたち、神の計画ごつごうしゅぎで14歳だか24歳だかわかんなくされたんでしょう? それで世界は滅びるって言われても、わたしたち可哀想すぎるっ!」

「そうだな。だがキミはそれを、14歳の自分の疑問か、24歳の自分の疑問かと考えたことはあるか?」

 14歳の自分の疑問か24歳の自分の疑問かって概念自体に初めて出会ったー。

 あ、そうだ。そんなことよりこれ聞かなきゃ。

「学園長は真鬼トゥルクを召喚できますか!?」

 学園長は眼鏡を指でクイッ。

「造作ない。美少女劇スペクタクルとしてのわたしになら可能だよ」

 はいダウトー。

「でも、魔法院では長老とカルガモット卿しか真鬼トゥルクを召喚できないって聞いたんだけど!」

 学園長、呆れたようにため息。ハッとか言って。

「見ての通り、わたしがこの美少女劇スペクタクルの世界に存在しているのは半分だ。本質はその外にある。だが、長老テレンパレンや大審問長官カルガモット卿は、本質が美少女劇スペクタクル側にある。必然、わたしはカウントされない」

 ようわからん。聞くんじゃなかった。

「じゃあわたしたちの本質は!? 14歳なんですか!? 24歳なんですか!?」

 フレア・ヴァーミリアが聞いた。

 ギー・ドゥボールは顎に手をあて、少し考えてから口を開く。

「この世界が舞台だとしよう。そこに24歳の俳優がいて、14歳の少女を演じている。彼女は舞台上で、セックスを演じることが許されるだろうか。――言うまでもない。決して許されることはないだろう。その美少女劇スペクタクルに閉ざされているからだ。14歳の少女にその表現は許されない。その様式は観客を安堵させ、共感と救いカタルシスを与え、オーディエンスのなかで自己を肯定する力となる。登場人物もオーディエンスも、美少女劇スペクタクルに守られている。だが他方では、例外の果てしない透明化が招かれる。美少女劇スペクタクルとして消費されるものだけが表現され、そうでないものは目を背けられ、存在すら消えてゆく。その消失こそが、千年紀の滅亡ミレニアム・アニヒレーションだ。キミたちはその本質が、14歳のスペクタクルか、24歳の現実か、そのときに選ぶことになる」

 ぶっちゃけ、なにをどう選ばされるの?

「それで、時間軸異常フリークエンシー・カタストロフの本質って、結局なんなんですか?」

 改めてグレイスが問い返す。

美少女劇スペクタクルと、それによって捨象されたものの軋轢だ」

 わかんないっ!

 

 直後の生徒会室!

「わたし学園長の言ってることさっぱり理解できないんですけど!」

「そうね、正直ベルカミーナ生命探求官サーチャー・オブ・ライフから魔法使いウィザード魔女ウィッチの違いを聞かれたときも混乱したけど、今回はそれ以上ね」

「だいたい、この世界が美少女劇スペクタクルだなんて、メタじゃないの!?」※1

「どんなメタでも、それを『メタ』と指摘することほどメタじゃないけどね!」

「どういう意味?」

「神の視点と言えばいいものを、メタなんて言っちゃうからメタになる。言い方の問題だけでしょう?」

「そうかなぁ」

「こんな話を聞いたことある? たとえば、西尾維新とかカート・ヴォネガットとか、物語のなかに作者自身が登場するけど、あれは『作者』っていうキャラクターに過ぎないの。物語に登場する『作者』は決して作者自身ではない。メタい顔をして読者を誤魔化してるけどキャラクターのひとりに過ぎない。本当の『作者』のセリフは『地の文』。作者はずっと読者の傍にいるの。果たして、メタとは?」

 こんこんこん!

 ノックの音。

「だれだろう」

 こんこんこん! こんこんこん!

「キツネさんかな?」

 こんこんこんこんこんこんこんこーんここんこんこんこんこーんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこーんこーんここんこんこんここんこんこんこんこーんこんこんこんこんこんこんかんきんこんかんきんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん!

 がらがらっ!

「うるさーいっ!」

「新聞部です! さきほど学園長が生徒会長選挙の実行を発表されましたが、立候補されるんでしょうか!?」

「聞いてない! どこで発表したのよ!」

「パーカッション部と兼部してます!」

「聞いてないっ!」

 こんこんかかんかこんこんここんかかんかかかきこかかきこかかきこかかきこ!

「てゆーか、生徒会長も理事長もわたしでしょう!? アリスロッテ! わ・た・し!」

 ここんかきんきんここんかきんここんかきんこんこんここんここんここんここんここん!

「新聞部うるせーっ!」

「でも、学園長が選挙で決めろって言うんだったら、しょうがないわね。立候補するわ」

「グレイス!? 裏切るのっ!?」

「そうよね。こういうのは民主主義的に決めたほうがいいって思ってたの。わたしも立候補」

 ここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきんここんかきん!

「ちょっと新聞部!」

「ヴェルデ! あの意味不明の学園長が言ってるのよ!? なんで聞くのよ!」

 こんこんかかんかこんこんこかかんかこんこんかかんかこんこんこかかんか!

「わたしも立候補する!」

「フレア!」

「わっかりましたぁ! アリスロッテさん以外みんな立候補! 号外出しますねぇ!」

 はあ!? 待ってよ! んもう!

「わたしも立候補する!」

「なーんだ、アリスロッテも選挙に賛成なんじゃーん」

「勝手に追い込んどいてなんなのよう!」

 

「というわけなの! ここはひとつ駄菓子屋のプロモーション能力で!」

 と、持つべきものは駄菓子屋の友達!

「わたしにワイロを配れっていうの? いいけど、わたしにメリットがないならやんない」

「メリット!? メリットは、ええっと……ビュッフェに駄菓子置いてあげる! きっとすごい売上になるよ!」

「乗った!」

 というわけで、駄菓子ワイロさくせ~ん!

 正門横で、購買部で、屋上で、中庭で、食堂で、体育館で、講堂で、トイレで「アリスロッテをよろしく!」ってモロッコヨーグル配ってたら、フレアが、

「そんなことして恥ずかしくないの!? アリスロッテ!」

 ってびしーっとわたしを指差す!

 そのうしろには乗箒ほうきライディング部の部員たちが、箒を斜めに構え、右手をグリップ付近、左手を前方の柄に添えて胸の前に置くポートアームズで待機する! ぶっちゃけ、カッコいい!

「見よ、生徒諸君! わたしたちの熱き情熱とフェアネスが試される生徒会長選において、このような不正が許されるだろうか!」

 戦隊モノのレッドのような大袈裟なポージングで生徒たちに訴える! そして――

「可哀想に……こんな駄菓子でキミたちのココロを惑わそうだなんて。わたしが生徒会長になれば、いくらでも自由に食べられるようにできるのにっ!」

 モロッコヨーグル受け取ってくれた子に同情して涙をこぼして見せる!

「フレア……ごめんなさい……わたしたち……」

「いいんだ。わかっている。キミたちの崇高な魂はこんなもので買収されたりはしない! 魔女っ子としての誇りが、こんなもので買えるわけがないっ!」

 え、ええっと……。

「こ、これはレイチェルが勝手にやってることで、わたし関係ないからっ!」

「なにその秘書が勝手にやりましたみたいな言い訳!」

 

 方針転換! ヴィゴを使ってデモンストレーション!

 あ、ヴィゴってのは体長15メートルで重量は80トンのヴォルカニックドラゴン。わたしの相棒で、名前はヴィゴ・モーテンセン。そのヴィゴに乗って魔法学園のグラウンドにどーん! きゃーきゃー沸き立つ魔女っ子たち! さすがはドラゴン使いのアリスロッテ! カッコいい!

「アリスロッテ! 話があるの!」

 って、おやおやぁ? 声をかけてきたのは優等生のグレイス・ミスト。別にわたし選挙違反してるわけじゃないし、なあに? やっかみ?

 生徒会室。

「選挙戦にドラゴンを使うのやめてくれない?」

「はあ? なんで? 別に禁止されてないし、勝手でしょう?」

双子原ふたごばるが軍事国家になりつつある。そのアイコンとして、あなたとあなたのドラゴンを利用してる」

「えっ? ちょっと待って。わたし、たしかに双子原ふたごばる出身だけど、軍国化は関係ないし」

双子原ふたごばる雛菊牧場デイジーランチを制圧して以来、極度の緊張状態に陥ってるのはわかるでしょう? どことどこが戦争になるかもわからないなかで、そんなものを神聖な選挙に持ち込まないで」

「そんなこと言ったって、わたし、双子原ふたごばる側で戦ったわけでもないし、資金援助受けてるわけでもないもん」

「そう? アルーネ・カルティカ公の屋敷には、あなたが、蒼鯨そうげい騎士団で演説したときの銅像が立ってるって聞いたわよ?」

 あんのクッソ野郎~! 勝手なことしやがってぇ~っ!

 幽鬼エニグマの森から双子原ふたごばるまでおよそ5百キロ! ヴィゴで飛ぶこと3時間! 最高記録! カルティカ公の屋敷に降りるとあった! わたしの銅像! 勝手なもん作りやがって! とりあえず尻尾でぶーん!

「カルティカ公に伝言しといて! わたしあなたたちに協力する気はさらさらないから! むしろわたしのことは敵だと思って! ほらほらどいてどいてーっ!」

 と、ヴィゴで屋敷半分蹂躙。ついでに6千度のブレスでぶふぁっ!

 双子原ふたごばるから幽鬼エニグマの森までおよそ5百キロ! ヴィゴで飛ぶこと2時間半! すごい! 最高記録更新!

 どどどどどどどどどどど!

「グレイスはどこーっ!」

「あら、アリスロッテ。たったいまアルーネ公から発表があったわ」

「アルーネ公が!? なんて!?」

「わが軍に潜んでいた敵の伏兵を処女聖アリスロッテが神竜ヴィゴ・モーテンセンを駆って撃退。屋敷の半分が破壊されたが、これによって騎士団崩壊の危機をまぬがれた。我々は処女聖アリスロッテにより更なる飛躍を約束された」

「なんて勝手な言い草! ちょっとカルティカ公ブッ殺してくる!」

「無駄よ、アリスロッテ」

「だって! ぶっ殺さなきゃわかんなきゃ、殺すしかないでしょうよ!」

「殺してもわかりはしないわ。カルティカ公が死ねば、その家は息子が継ぐし、跡取りがいなくなればラゴールから総督が派遣される。あなたがやりすぎれば、今度はあなたを仮想敵としてあらたな口実が生まれるだけ。力ばかりでアタマを使わないあなたは、常に利用されて終わるわ」

 ぐぬぬぬぬ。

 

※1:メタは、自らの尾を噛んで環となった蛇または龍のシンボルで、太古の神のうちの一柱。始まりも終わりもないことから、永遠、不滅、完全性、死と再生、永劫回帰を表す象徴として、古くから神話や錬金術で使われてきた。魔法を発生させる源泉そのものに作用させる上位魔法はメタ魔法と呼ばれ、世界を創生した神々にもアクセスすることができる。

 

B 民主主義とは!?

 中庭をとぼとぼ歩いていると、ヴェルデに呼び止められた。

「あのね、アリスロッテ。お願いがあるの」

 ああ、はいはい。今度はなに? どうせよくないことでしょ?

「この生徒会長選から、降りてほしいの」

 あったり~。

 中庭を歩きながらヴェルデと話した。

「この生徒会長選は、学園長が言っていた美少女劇スペクタクルをどう捉えるかという選挙なの」

「あ、うん。てゆーか、そうなの?」

「そうよ。少なくともわたしはそう思ってる。それは、わたしたちが14歳か、24歳かを選ぶ選挙だとも言える」

「そっか。そこに結びつくんだ」

「フレアは、わたしたちは魔女っ子として、14歳の美少女劇スペクタクルを生きるって言ってる。グレイスは、24歳のリアルこそ、わたしたちの姿だって言ってる」

「あー。わかる。言いそう。それでヴェルデ、あなたは?」

「わたしはいまのまま。14歳のスペクタクルと、24歳の現実を両方とも受け入れる……。大人としての汚れや、責任や、現実も持ちながら、みんなのまえでは純真な魔女っ子として振る舞う。それでいいと思うの」

「なるほど。学園長の美少女劇スペクタクルって、そういう話だったんだ」

「うん。わたしはそう受け取った。それでアリスロッテ、あなたは?」

「わたし? わたしは……とくに美少女劇スペクタクルとか関係ないっていうか……」

 意味もなく頭上からどんぐりが降ってきて頭に当たる。

「あのね、アリスロッテ。気を悪くしないで聞いてくれる? わたし、こんなこと言いたくないんだけど、生徒会長選って、ただの人気投票じゃないと思うの。こないだみたいに騎士団が襲ってきたら、わたしたち、戦わなきゃいけなくなるかもしれない。そのときに、魔女っ子たちが納得して生徒会長を選んだかどうかは、とても重要になる」

「そうだけど……」

 どんぐりまた降ってきた。

「ごめんなさい、わがまま言って。わたしはこの選挙を、争点のある、真面目な選挙にしたいの。もしはっきりとした主張がないなら、降りて。この選挙戦から」

「わかった……考えとく……」

 どんぐり3個目。

 

 考えとくとは言ったけど、考えただけで答えは出ず。生徒会長選前日には弁論大会が開かれる。悔しいけど、弁論ではほかの3人に勝てる気がしない。わたしはトイレの浄化槽そばの芸夢王カード部を訪ねた。

「もしもーし。また原稿をお願いしたいんですけどー」

「処女聖来たwwww 硝子牙グラッシーファング殿の出番wwww」

「でも今回はうにもや殿もおられるしwwww たまにはうにもや殿がwwww」

 硝子牙グラッシーファングもうにもやもどっちも神絵師って言われるカリスマで、とくに硝子牙グラッシーファングは文章もうまくて、スピーチの原稿とかぜんぶお願いしてる。

「うにもやって、どんな文章書くの?」

「それがしは、こんな感じでwwww」

 手渡されたのは『尻出しクマの子かくれんぼ大会』と題された薄い本。内容は……ヤマなし! オチなし! 意味なし! の三拍子揃ったやおい本。ため息。

「競作しましょうかwwww」

「おおwwww いいですのうwwww よく出来た方を読んでもらうwwww」

「それでwwww」

 

 そしてやってきました弁論大会!

 ヴェルデからは降りるように言われたけど、決心つかぬまま、ついにこの日!

 わたしの手元にはスピーチ原稿が2枚!

 1枚は安定の硝子牙グラッシーファング、もう1枚はかなり意味不明なうにもや。いままでの実績を考えれば、硝子牙グラッシーファングなら大好評間違いなし。うにもやは小学生ネタレベル。

 まずはフレアからマイクを握る。

「みんな、聞いて! 学園長はわたしたち魔女っ子のことを『見せ物だ』なんて言うけど、わたしはそうは思わない! キラキラした変身シーンの何が悪いの!?

 私たちがステッキを振って、派手な爆発が起きて、最後にはハッピーエンドが待っている。その『因果の予定調和プリ・エスタブリッシュト・ハーモニー』こそが、みんなに明日を生きる元気をあげてるんじゃない!

 魔法は輝いてナンボだよ! 夢を見せてこその魔女っ子でしょ!

 リアリズムなんてクソ食らえよ。私はもっと強くて、もっと可愛い、究極のエンターテインメントとしての魔法を約束する! 私に投票して! この学園を魔女っ子の楽園にしましょう!」

 観客から割れんばかりの拍手!

 お次はグレイス!

「フレアの言う『元気』の正体……それは、与えられたイメージを受動的に消費しているだけの、虚無の快楽。

 私たちが可愛い衣装を着せられ、決まった台詞を吐かされるとき、私たちは自分自身の人生から疎外されている。学園長が言う通り、この学園は巨大なスタジオに過ぎないわ。

 魔女っ子の輝きは、わたしたちの思考を停止させるための魔薬。

 私の公約は、すべての変身アイテムの『転用デトゥルヌマン』。魔法のクリスタルを割り、そこに映る虚像ではなく、剥き出しになった社会と自分自身を見つめ直す。私と一緒に、この退屈な物語ストーリー漂流デリーヴしましょう!」

 用語がちょっと難しいけど、エリート集団からは期待の嘆息が漏れる! あれちゃんと意味のあることしゃべってたんだ。

 お次はヴェルデ!

「ええと……フレアのキラキラも素敵だし、グレイスの言ってることも、なんだか凄そうですけど……。

 でも、あんまり急に変わると疲れちゃいませんか? 魔法が偽物でも本物でも、放課後にみんなで食べるケーキがおいしければ、それでいいと思うんです。

 私は、この村の『背景の恩寵バックグラウンド・グレイス』をそっと守りたいだけ。いままで通り、14歳のわたしたちと、24歳のわたしたちを行き来する。そこでしか見えてこないものだって、あるはずなんです!

 大きな改革も、過激な批判もしません。今まで通り、のんびりした日常が続くように……。予定調和って、意外と心地いいものですよ?」

 こちらも「いまのままでいい」という言葉が安心感を与えるのか、聴衆から憬れのため息が漏れる。

 いよいよわたし……。

 安定の硝子牙グラッシーファングか……、いや……ここはヴェルデが言うように、身を引くべきか……。だったらうにもやの原稿でも……。

「どうしたの? あなたの番よ」

 ヴェルデが小声で促す。

「うん。なんか、意地はってごめん。決心できないまま、ここまで来たけど……会長選はみんなに譲るね」

 わたしが選んだ原稿! それはうにもやのバカ原稿!

「みんなーっ! こーん、にーち、わーっ!」

 この演説で、わたしはわたしの思いに区切りをつける!

「あれあれ~? 聞こえないぞ~?

 いつもの元気はどこに行っちゃったのかなぁ。

 よーっし! みんなを元気づけるために、アリスロッテ歌っちゃう!」

「なんなのそのスピーチ……真面目にやる気はないの?」

「違うわ。アリスロッテはこの選挙戦から降りてくれるのよ。選挙って、意地を張るためにやるものじゃない。それをわかってくれたのよ」

「なるほどね。あいつなりの気遣いなんだな」

「じゃっじゃーん! じゃっじゃーん! じゃっじゃーん!

 ちゅるりらちゅるりらちゅるりらちゅるりら!」

「…………」

「めざましとめたら♪ ふとんをとびだし♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)

 パンをくわえて♪ せーふくきながら♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)

 ばーんちょー せーんせー ごめんあそばせ まほうでぴゅん!

 ぷるぷる マジカル デトゥルヌマン!

 デリーヴ しちゃうぞ きゅるるんるん♪

 きのーのなやみは ラメのかなたへ かんがえないのよ へいへいぼーい

 へい!

 ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ

 そらとぶホウキに♪ リボンむすんで♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)」

「2番もあるの!?」

「スティックふりふり♪ プリティショットで♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)

 しーんゆー らーいばーる じゃましないでね まほうでぴゅん!

 ぷるぷる マジカル デトゥルヌマン!

 デリーヴ しちゃうぞ きゅるるんるん♪

 オトメのヒミツは かみひこーきで そらにとばすの へいへいがーる

 へい!

 ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ ずんずんちゃっちゃ」

「まだ終わらないの!?」

「きょーかしょやぶいて♪ ノートすてたら♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)」

「3番来たぁ! フルコーラス~!」

「はやべんたべたら♪ じゅぎょーはおひるね♪

 れつごー れつごー (れつごー れつごー)

 うーさぎー にわとりー おさきにしつれい まほうでぴゅん!

 ぷるぷる マジカル デトゥルヌマン!

 デリーヴ しちゃうぞ きゅるるんるん♪

 しんどいときには がっこさぼって げんきひゃくばい へいへいゆう

 へい!」

 会場は割れんばかりの大喝采!

 ひゅーひゅー! 最高かーい、みんなーっ!

 ジース イーズ アリスローッテ! センキュー・エブリバッディ! イエ~~~~~~~ッ!

 

「ご、ごめんねヴェルデ! うにもやの原稿であんなに盛り上がるなんて思ってなかったからっ!」

「ううん、いいの。わたしたちのどんな訴えより、あなたの歌が勝ったってことでしょう?」

「でも、こんなもの民主主義とは言えない!」

「そうかしら? 民主主義は賢い者たちだけで決めるものでもないわ。ただ歌いたい、踊りたいって子だって同じ1票を持ってるのよ?」

「だけどこの先、魔女っ子として命を賭けて戦わなきゃいけないときが来るかも知れないでしょう!? そのときにどうするの!? 民主主義って、自分がどうするかを決めるのよ!? 人気投票で終わらせる場じゃないわ!」

「言いたいことはわかるけど、生徒会長はもう決まったようなものよ」

「わ、わたし、辞退しましょうか……? さっきまでそのつもりだったし……」

「それは生徒たちが許さないわ。わたしも辞退なんて認めない……」

「カニッ!」

「そう、カニも……」

「カニ?」

 ふと足元を見ると、ヤシガニ!

「この子……」

「スーサの塔の騎士団との戦いでいっしょに戦ってくれたヤシガニだよね!?」

「カニィッ!」

「あのときはありがとう! 騎士団を追い払えたのは、あなたがいたおかげよ!」

「たしか、魔女っ子よりヤシガニのほうが多かった気がするけど、他の子たちは……?」

「カニッ!」

 と、ヤシガニが指さしたほうを見ると、大地を埋め尽くすヤシガニの大群が!

「この子たちもベルカミーナの教え子だったはずよ!」

「ベルカミーナはなんのつもりでヤシガニを教え子にしたの?」

(しーっ、それここで言っちゃダメ!)

(も、もしかして、た、食べるため……?)

「カニィ?」

「あっ! なんでもないのっ! みんなわたしたちのクラスメイトだから、入学の手続きしなきゃねって相談してたの!」

「いいこと考えた!」ってフレア。

「だいたい想像つくけど、念のため言ってみて」

「この子たちにも投票権あるから、わたしたち3人のなかから投票してもらうのどう?」

「ヤシガニって3百匹くらいいるんだっけ?」

「魔女っ子は百人だから、みんなでひとりに投票してもらったら、そのひとに決まるよ」

「それって民主主義なの?」

「そうなんじゃない? 投票はするし、ワイロ使うわけでもないし、お願いするだけじゃん?」

「うーん。民主主義ってなに?」

 

 そして投票日!

 結果は!

 アリスロッテ・ビサーチェ 98票!

 フレア・ヴァーミリア  301票!

 棄権           2票!

 カニたちの投票先は、わたしたちが話し合って決めた。生徒会長はやっぱ、元気ハツラツなイメージがいいよねってことで、フレアに。副会長はフレアが任命して、グレイスと、ヴェルデ。

「わたしは?」

「盛り上げ係」

「やったぁ! 盛り上げ係だぁ!」

 こんこんこん!

 ノックの音。

「だれだろう」

 こんこんこん! こんこんこん!

「キツツキさんかな?」

 こんこんこんこんこんこんこんこーんここんこんこんこんこーんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこーんこーんここんこんこんここんこんこんこんこーんこんこんこんこんこんこんかんきんこんかんきんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん!

「また新聞部かぁっ!」

「たったいま、魔法院のベルカミーナ・ミラン逝去のニュースが届きましたが、なにかコメントをっ!」

「えっ……まって……先生が……」

 ベルカミーナ……最重要人物じゃないっけ……? 死ぬの……?


困惑するアリスロッテシリーズ①

魔法のアバンチュール

困惑するアリスロッテシリーズ②

処女聖アリスロッテの帰還

@sonovels
さよならおやすみノベルズという個人小説レーベルで地味に書いています。サイトで読めばタダ。Kindleで100円。 sayonaraoyasumi.github.io/storage