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第4話 零度のエクリチュール
A 死せる魔女
ベルカミーナの訃報を受けて、わたしと生徒会の3人はフルト・グレイド魔法院へと向かった。デルクモで馬車を借りて、カムドの形だけの検問を越え、テルル精王国の市街地を抜けて、魔法院正門。上空には暗雲が浮かんでいる。
「あれ、ゴルジ体って言われてるんだけど、どういう意味?」
「ゴルジ体ってのは、人間の細胞の中にある小器官。薄膜が入り組んだ形をしてて、タンパク質の生成や運搬を担ってるって言われてる」
「それがなんで魔法院上空にあるの?」
馬車は軽快な足取りのまま、ゴルジ体の下へ。
「さあね。ギー学園長の言葉を信じるなら、世界の細胞分裂へと向けて、新しい細胞質を作り出してるんでしょうね」
あらためてその、ゴルジ体を見上げる。
「グレイス、細胞って見たことあるの?」
「見たことあるって、人間の身体はすべて細胞でできてるのよ? 毎日目にしてるわ」
「でも、ゴルジ体とか細胞質とか見たわけじゃないじゃん。なんでそんな、見てきたように言えるのよう」
遠くから暗雲に見えたものは、折り重なる薄膜の襞。その襞の周辺に薄い雲の塊のようなものが生成され、それが空に溶け出している。これがこの世界の細胞質を作り出してるという言葉に、一定の説得力を感じる。
「図書室に図解してる本があったよ。こんど一緒に見よっか」
「知ってるけど」
「卵子に精子がくっつくと分裂を始めるんだよ♡」
「それが男のキンキンと女のランランで作られてるって話でしょう? それも男女の性交を描きたいだけの
「しょうがないよ。神様はわたしたちのセックスを描きたくてしょうがないんだから」
まったく、神様ってヤツは。
「魔女っ子のマスターたるベルカミーナが死んだってのに、なんでこんな話してんだろう」
つい、ぼやく。
「あのひとは
自分の卵子。これもね。最初に聞いたときはどれほどの嫌悪を感じたかわからない。だけどそれもあのビジュアルと、魔法使いたちから虐げられた立ち位置、それと目前に迫る滅亡とで麻痺していった。
「……だれに殺されたんだろう」
つい、漏らす。
「想像の翼羽ばたきすぎ」
「心不全って聞いたわ。アリスロッテは考えすぎよ。あのひとを殺せるような魔法使いって、数人に絞られるじゃない」
「カルガモット卿とか」
「あーあ、言っちゃった」
北の緩衝地帯にガンフ・オルアの騎馬隊が侵入したとの情報で、デルクモでは混乱が続いている。テルルは包領国でガンフとは国境を接してはいないけど、実質的にラゴールとガンフの間に位置する。ガンフが攻めてくるにしても、デルクモ周辺から入ることはまずないと言われてきたけど、このところはおかまいなし。魔法院と騎士団の不和を狙った挑発とも言われている。今日は4人ともウィッチ☆ブラックのドレスを着て、それでもフレアは元気そうだし、グレイスは優等生だし、ヴェルデはおっとりしている。わたし? わたしは周囲の景色に目を奪われて、野を走るウサギなんか探してる。
葬儀はとっくに終わっていて、静謐な聖堂の中央、ベルカミーナの遺体は花で満たされた棺に静かに横たえられていた。黒いゴスロリがトレードマークだったけど、花は色彩豊かで、それはまるでわたしたち魔女っ子がまとう色とりどりのドレスのようでもある。ヴェルデは静かに蘇生の魔法を唱えて、しばらく自分の生命力を注いでいたけど、やがて咳き込んでしゃがみ込み、泣き崩れた。そこに――
なにもない空中に、黒いゴシックのパラソルが開いて、くるくると回り始める。
3段にパープルのフリルが入ったベルカミーナのパラソル。グレイスが息を飲む。フレアも、そしてヴェルデも顔を上げる。うっすらと影が深まり、シルクの黒い手袋が見える。その人影がパラソルを回しながら下げると、くるくるの黒い巻き毛にウサギの耳。黒いフレアスカート。
ベルカミーナ!?
違う、デネア姉さまだ!
「どうして? デネア様が?」
フレアの口に漏れる。
「今日はアタシの遺体に会いに来てくれてありがとう♡ あなたたちに会えてうれしいわ♡」
「どういうことですか……?」
グレイス戸惑う。わたしも大混乱。
「ごめんなさい♡ ナイショにして♡ デネアはわたしのエンタングルだったの♪」
「エンタングルって?」
「予備のカラダ♡」
「ちょ、ちょっと待って! それじゃああなたがベルカミーナってこと? デネア姉さまの身体を乗っ取ったの!?」
「あーらアリスロッテ、せんせーのこと呼び捨てにするなんて、ヒドイんじゃない? マスター♡ とか、プロフェッサー♡ とか、ユア・マジェスティ♡ とか、いろいろあるじゃな~い♡」
「デネア姉さまはどうなったの!?」
「デネアだったら問題ないわ。あの子、クジラとエンタングルしてるもの。クジラのココロのなかでお昼寝でもしてるんじゃなぁい?」
何言ってんのかちょっとわかんない。
「でも、デネア姉さまの身体は……」
わたしの戸惑いながらの問いに、フレアが割り込む。
「待って。あなたが本当にベルカミーナ
続いて、グレイス。
「デネア様が
ヴェルデも。
「長老会は知ってるんですか?」
「まあまあ、ここじゃあなんだし、場所を変えない?」
ベルカミーナはパラソルを肩に担いでくるくると回す。
「どうして? ほかのひとに聞かれると都合が悪い? ここで話せばいいでしょう?」
グレイスの顔が険しくなる。だけど――
「でも、ざーんねん♪ もう場所を変えちゃったのよーう♪」
ベルカミーナはお構いなし。「えいっ♡」とパラソルを閉じると、周囲の景色が割れて崩れ落ち、わたしたちは広い公園のなかのベンチにいた。ベルカミーナはマドロスポーズで、
「さあさあ、座んねえ、魔女っ子衆よぉ♡」
なんて言って着席を促す。
混乱継続中。デネア姉さまは魔法は使えないはず。ぜんぶスティックやドレスに仕込まれた魔力を解放してただけ。でもいまのは違う。
「マイ・マスター。このことは長老会は知ってるんですか?」
グレイスもいろいろ察したのか、マスターって呼び始めた。
「知らせてないわぁ♪ ま、隠すつもりもないしぃ、どーでもいいかな♡ あはっ♡」
「死因は? 他殺? それとも自殺?」
「死んでないわよう♪ こうして生きてるじゃなぁい♪」
「でも、本体は死んでたよね?」
「生命活動は停止してるわね♪」
死んでるって認めない!?
「それ、死んでるって言わない?」
「それよりも、どうしてこんなことに?」
「こないだの騎士団との戦争のことで、双子がうるさいのよう♪ でも、死んじゃえばもう文句は言えないでしょう?」
認めてるじゃん。
「双子? ……というのは?」
「長老テレンパレンの付き人、ウンズ=リィ、メンズ=リィ。一卵性双生児の男女の双子。遺伝子的にはありえないはずなんだけど、XでもYでもない謎の遺伝子を持ってて、ガキのくせに凄まじい魔法を使う」
「それって人間なの?」
「その問いをほかのひとにもしたことはある?」
「えっ?」
「あなたは人間? 答えられる? 人間の姿をして、人間として暮らして、まわりが人間と認めていたら、それは人間なのよ」
「賢くなったわね。ウィッチ☆サファイア♪」
「ありがとうございます」
「と、ゆーことで、みんなたちー♪ あらためて聞くけどぉー♪ アタシの悲願を覚えてるぅー?」
「悲願って……
「そ♪ そしてそこに現れるのが、零度のエクリチュール♡」
あ、また新概念来た。ほっとくといくらでも増える。
「どういう意味?」
「マリウスが言ってたでしょう?
「更にわかんなくなった」
「かつて、
そしてもうひとつ、
その差は2千度。
だけどそれも古い話。『魔女は伝承にあるような悪者じゃない』ってみんな気づいて、『魔女も魔法使いも、みんな魔法使いになれるようにしよう』って言って、魔法学校を作りました♪
さて、温度は零度になったでしょーか?」
この意味不明な質問……。本物のベルカミーナだわ……。
「わかんないけど、それに近付いたんじゃないかなあ」
「じゃあ、なんでアタシたちは魔女っ子をやってるの?」
「いまなんか、飛躍しなかった? それはええっと、好きでやってるんじゃない?」
「へ~♪ そうなんだ♪ それじゃあ、男の子はなんでおっぱいが好きかわかる?」
また飛躍!
「急におっぱいですか。それは、スケベだからです」
「はっずれー♪ おっぱいなんて、乳児に授乳するための器官でしょう? これがエロいの? エロいって思ったことある? パンツだってそうでしょう? エロい? 脱ごうか? ここに置いてもいいよ?」
と、閉じたパラソルでテーブルを指す。
「勘弁してください」
「それがエロいとしたら、その理由は♪」
「変態だから?」
「答えはぁ、男の子がおっぱい見たいのは、おっぱい見るのが通過儀礼になってるからでぇーす♪」
通過儀礼?
「おっぱい見ておっぱい揉んで一人前になれる♪」
「男ってそうなの?」
いや、違うでしょ。
「――おまえもついに女を征服したな。今日から一人前だ――と、セックスと社会承認が混同されたままタブー化さて、それがエロになる♪」
「それと魔女っ子とどんな関係が?」
「男の子はスケベだからおっぱい見たい。はたしてこれは、零度でしょーか♡ それとも温度があると言えるでしょーか♡」
設問の意味がわからない。
「正解わぁ? もっこり温かい温度でぇーす♪」
さいですか。
「女の子が魔女っ子になるのは、それしか与えられてないからよ♪ 星飛雄馬にも孫悟空にもなれないけど、サリーちゃんにはなれるわ♪」
だれそれ。
「なんで男の子は魔法使いになりたいって言わないの? 男の子はおっぱいを揉みたいからよ。魔法なんか使わなくてもおっぱい揉めるし。すべての夢がおっぱいの向こうにある。デューク東郷も島耕作もおっぱい揉んでから仕事に行くけど、おっぱい揉まれて仕事にいく魔女っ子なんていなぁい♡」
どんどん置いていかれる。
「魔女っ子はおっぱい♪」
反撃のすきがない。
「それ自身が温度を持つおっぱいって器官を持ちながら、どうすれば零度のポジションに立てると思う? そして、それが零度になったとき、そこには何が残っていると思う?」
「でもそれ、零度にしたいってのが間違いってことではないの?」
「おじいちゃん先生もそう言ったわ。繁殖を余儀なくされた世界で、すべての欲望を捨て去ることは死を意味する、って。でもそれって、古ぅーいパラダイムだと思う♪ 異端の神アルベールが、異邦人を描く前の!」
「おじいちゃん先生ってカルガモ?」
「そ♪ この世界は、魔女が火あぶりにされた世界と、零度のエクリチュールの中間地点。はたしていまいるここが、熱すぎるのか寒すぎるのかもわからない。月のお人形が言ってたでしょう?『わからない』って。わからないのよ。お人形の言う通り。魔女っ子はもう火あぶりにされたりはしないし、なんなら悪党を火あぶりにしてる。官能的なエロスはもう形だけになり、記号化、去勢されて、『魔女っ子の本質がおっぱいだ』って言葉もだれにも通じない。この世界のなかで、おっぱいは零度なのよ。でも本当にそう? 魔女っ子という究極にミニマイズされたアイコンに、もし温度があれば、宇宙は真空崩壊を起こす。その先にはもう宇宙が存在しうるのかどうかすらわからない」
「それが、零度のエクリチュールってこと……?」
「そ♪ 究極的にはそこにいくのよ♪」
「おっぱいを捨て去って、宇宙を崩壊させる?」
「逆よ♡ おっぱいで崩壊させるの♡ この宇宙を♡」
ベルカミーナがくるくるとパラソルを回して、ぽんと開くと、途端ベルカミーナの姿は消えて、わたしたちは元いた聖堂に佇んでいた。
「いまのは……?」
「幻覚?」
わたしたちの声が静かな聖堂に反響する。
「幻覚じゃないわ」
答えたのは棺のなかに横たわるベルカミーナだった。
「ひぃっ!」と、飛び退いたのはフレア。
「い、生きてたんですか?」
「生きてないわよぉ。死んでるじゃなぁい♪」
まるで目と口だけ生きているように、寝たままで喋る。
「で、でも、喋ってますよね?」
「死んだら喋っちゃいけないのぉ?」
非常識なひとだとは思ったけど、さすがに度を超えてる。
「このまま火葬したらどうなるの?」
「ん~♪ わかんなぁい♪ ちょっとやってみてぇ♪」
(どうする?)
(と、とりあえず、帰ろうか)
「蓋閉めていいですか?」
「ん♪ わかった♪ また会いに来てね♪」
またって。火葬されるとしたら、どこに会いに行けばいいの?
B 魔女っ子、初営業!
聖堂を出ると、ゴルジ体が淀む空に大きな帆船が浮かんでいた。
「あれは?」
「ガンフ・オルアの飛行船じゃないかな。なんどか見たことあるよ」
「あんなものが空飛ぶんだ……」
「ガンフは、魔法とはちょっと違ったナゾ技術持ってるから」
4人でぽかーんと、ガンフの飛行船を見上げた。
「お上りさんみたい」
「みたいじゃないよ。お上りさんだよ」
馬がぱからんぱからん。ひひーん。
「そのト書きどうなの」
「ト書きを読めるスペシャル能力もどうなのよ」
「ウィッチリア魔女っ子部長国連邦村学園の方ですね!?」
って、馬上のひとから尋ねられる。
「そうだけど、邪魔でした?」
「いいえ、
「ええっと……ひどい目に遭うのでなければ」
「用件は聞いておりません。ひどい目に遭うかどうかまで保証できませんが、大至急とのことでした」
「行きたくないって言ったら?」
「ひどい目に遭うと思います」
魔法院の東門から螺旋階段上って、3階イーストウイング奥の貴賓室へ~! きゃ~! 外からは黒尽くめの魔法院にこんなステキな部屋が~! って感じのキラキラのお部屋のテーブル席にいかめしいローブ纏ったジジィババァが詰まってた。
「アリスロッテ、あんたのそれ、マインドリードですべて読まれてるからね?」
尻の穴ちっせぇなぁ魔法院の先生ってやつぁ!
わたしたちも魔法院のガウンなんか被せられて、お部屋の隅に。居並ぶ魔道士のなかに、明らかに装いの違うミドルガイがひとりと、妖精と思しき煌めく小さな生き物とが混じっていた。
「ひさしぶりだな、アリスロッテ。
って、シシリールー!
「言語化しないで。だいたいわたし、呆気にとられてただけで――」
「細かいことはいい。用件だけ話そう」
喋らせてよう! 魔法使いみんなそう! 変なこと言うから、フレアたちが変な目で見てるじゃん。
「ここにいるハーディ・ガーディ殿をルハーマイのサンターンまで護衛して欲しい」
って、いきなりなにそれ! こーゆーときって、まずは世間話じゃないの? お天気の話とか、どこ出身ですかーとか、芋煮は牛ですか豚ですかーとか、魔女っ子はどこから見てますかーとか。いいけどさあ。紹介されたのは、グレーの髪と清潔なヒゲの端正なオジサマ。てか、それよりも。
「サンターン・イズ・どこ?」
「南のデス・アイルにあるモックスの集落だ。ここからはキア領を抜けてチミノーから船でルハーマイを目指すことになる」
「それを、なんでわたしらが?」
「報酬は払う。金貨千枚でどうだ?」
(金貨千枚? それって円換算でいくら?)わたし。
(金貨1枚が1万円だから、1千万)グレイス。
「い、いっせんまんっ!?」
(声が大きい!)グレイス。
「どうだ? 受けてくれるか?」
「も、もちろんですっ!」
「まって、アリスロッテ。依頼の内容も、護衛する相手の身元も聞いてない」
グレイスがインターラプト。
「おまえがグレイス・ミストか。ベルカミーナから聞いた。優等生だそうだな」
「ありがとうございます。こちらの要旨はもうご理解のことと思います。ご説明を」
こーゆーときのグレイス、なにげにコワイ。
「わかった。すべて話そう。まずは、こちらのハーディ・ガーディ殿だが、ガンフ・オルアの宮廷音楽家だ。音楽家と言っても、こちらのニュアンスとは少し違う。知ってるかもしれんが、ガンフの飛行船は音で浮かせている。その技術者ということになる」
知らなかった……。
「ガンフ・オルア教皇国
「あ、いえ、こちらこそ」
(自己紹介っ!)って、ヴェルデにつつかれる。
「あ、ええっと、ウィッチリア魔女っ子部長国連邦村学園盛り上げ係、アリスロッテ・ビサーチェです……」
(この肩書変えていい?)って、フレアに。
(あとで!)
「そして、隣が妖精のフールエ殿。ハーディ殿の助手ということでよろしいのかな?」
シシリールーの紹介が続く。
「ええ、かまいません。フールエ……」と、隣の妖精に自己紹介を促すナイスガイ。
「フールエです。よろしくね」
「アリスロッテですー。よろしくですー」
「旅の目的は、サンターン、すなわち第6モックスサイトの魔術師ベテルギウスに会い、魔導書コデックス・オブ・ライフにかけられた封印を解いてもらうことだ」
「コデックス・オブ・ライフって!」
「そう。おまえがオッカネ山で賞金稼ぎとともに盗み出した魔導書だ。その後ガンフ・オルアに渡っていたが、モックスの
「それって、わたしがその本預かって、ヴィゴで飛んでって封印解いてもらってきちゃダメなの?」
「おまえ、自分がそこまで信用されてると思ってるのか?」
「それ、もうちょっとミルクと砂糖入れて飲みやすくして欲しい」
「とにかくだ。ラゴールの領空をガンフの船で飛ぶわけにもいかん。移動は馬車になる。山道で時間はかかると思うが、馬を替えるだけの経費も計上する」
「でも、なんでわたしたちに? デク人形にまかせればいいじゃん」
「デク人形とは僕のことですか?」
うわぁ! マリウスいたぁ! 魔法院のローブ着て後ろ姿だし気づかなかったぁ!
「マリウスも同行させる。だがあくまでも
「なんで?」
「魔法院がガンフ・オルアの要人を守ったら政治問題になるからよ」と、割り込んでグレイス。
「そのとおり。戦闘はおまえたちの仕事だ。ただし、襲ってきたのがもし魔法院の年寄りのジジィだったりした場合には、マリウスが相手をする」
「カルガモ卿?」
「あえて名前を出さなかったんだが?」
「あ、そうか。ごめん。年寄りのジジィね。ちなみに年寄りじゃないジジィっているの? OK、答えは求めてないわ。そんなことより、シシリールーは行かないんだ」
「ああ。政治的配慮がある。代わりにブラッド・アップルを同行させる」
「ブラッドアップルって、金切り声のゾンビメイド!?」
「あいよう! ブラッド・アップル準備万端だわよう!」
って、机の下からでてきたぁ!
「なんでそんなとこに入ってんのよう!」
だいたい、ここに集まってるの魔法院の重鎮じゃないの!? 首と両手両足に継ぎ目があるゾンビメイドが机の下に潜んでてもリアクションなしなの!? 日常茶飯事!?
「なんでだって!? このブラッド・アップルになんでと来たか!? 困りましたよ、さあ困りましたねぇ、ブラッド・アップル! なんで? なんでときた! なんと愚かな質問だろう! いやいや、ここはヒントを頂こう! まずは第一のヒントだ!」
「会話成立しないから話したくない!」
「おおっとっとぉ! そのとおりでいっ! 今日のアリスロッテは賢いアリスロッテだね! どこから連れてきたんだい? ずいぶん探すのに苦労しただろう? アタイもちょうど2~3人迷子になっていたとこだわさあ!」
「ああもう! なんでこんなのまでついてくるの!?」
「おまえたちが死んだときに、使えるパーツを持ち帰ってもらうためだ」
「ひとのココロはないのっ!?」
さっそく馬車へ!
「お尻痛くなりそう」
「旧国境の山脈をつっきるのよ? 高級な馬車なんかに乗ってたら身ぐるみ剥がされちゃうわ」って、グレイス。弱腰。
「そのためのわたしたちじゃないの? 悪党が襲ってきたら魔女っ子に変身して一網打尽で人気も急上昇!」
「そうだね! そのためにはカッコいいポージングとか決めておかないと!」って、フレア。バカ代表。
「ええ~っ、それ馬車のなかで決めるのぉ~? これからぁ?」って、ヴェルデ。優柔不断。
「たはっ!」わたし。ただの不規則発言。
「カッコいいポージング……。それって
「零度関係ある?」
「零度ってのは、冷静・中立だと思うの。
「だって、悪を倒すんだよ!? 熱くならなくてどうするのよ。わたしはマスターがどうあれ、熱くいっくよ~!」
と、そこに。
「歓談中すまないが――」
と、割って入ってくるハーディ・ガーディ。
「――まずは礼を言っておきたい」
「れ、礼だなんてとんでもない!」
「お金もらえてホクホクなんです!」
「正直すぎるやろそれ」
「ルートには、ラハガキセの戦いの残党が残っていると聞くが、遠回りして時間をかけたくもない。大変だとは思うが、よろしく頼むよ」
「ご心配なく! まっかせてください!」
「魔女っ子モードでガッチリ護衛します!」
「ありがとう、頼もしいよ。では、馬車で待つ」
見た目は紳士だけど――。
「あれ、たぶんラスボスだよね」
「わたしもそう思う」
「しーっ! 聞こえるよ! もう!」
で、そろそろ出発したいんだけど、
「ねえ、マリウス」
呼びかけると、いちおうこっち向く。
「あのさあ。挨拶とかはしないの?」
「挨拶ですか? 意義が見いだせません」
これだ。
「
「コーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマンコーチマン」
スカート捲って指差す。
「これは?」
ボカッ!
後ろからグレイスに殴られた。
「マン――」
ボカッ!
マリウスも殴られた。
「それじゃあ、変身タイム、いきますかぁ!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
まずはフレアからぁっ!
「ルビー・プリズムー! セーット! アーップ!」
ペンダントからプリズムスティックを取り出すとテーマソングとともに変身バンク!
スティックで宙を叩くと、周囲の景色がパリンと割れて、無数の鏡の破片が舞う「ミラー次元」突入! 可愛くウインク♡ スティックの万華鏡を覗くと、瞳の中に虹色の幾何学模様が映り込み、色彩が溢れだす!
「回れ! 運命のプリズム!」
勢いよくスティックのリングが回ると、カシャカシャカシャッと背景の模様が変化して、その模様が光のドレスとなって流れ込む!
ブーツがしゅいんっ! スカートがふわっ! グローブがしゅいんしゅいん! きらきらが集まってパススリーブ! 胸元のリボンが風になびいて、真っ赤な髪がふぁさーっ! ヘッドドレスがきらきらきら~ん!
鏡で分割された背景に、赤いハートがピタリと揃って、クルクルと落ちてくるスティックをキャッチ!
「燃える勇気は、太陽の輝き! 笑顔を照らす情熱の炎! ウィッチ☆ルビー、ここに参上!」
「サファイア・プリズムー! セーット! アーップ!」
スティックで宙を叩いて、回れ! 運命のプリズム!
ブーツがしゅいんっ! スカートがふわっ! グローブがしゅいんしゅいん!
「気高い希望は、星空の瞬き! ストップ! 地球温暖化! ウィッチ☆サファイア! お相手するわ!」
「エメラルド・プリズムー! セーット! アーップ!」
回れ! 運命のプリズム!
ブーツがしゅいんっ! スカートがふわっ! グローブがしゅいんしゅいん!
「清らかな知性は、大地の囁き。明日を育む安らぎの風。ウィッチ☆エメラルド、準備は整いました!」
「さ、行こ行こ」
「まって! わたしがまだ変身してない!」
「ラジカセ回収するね♪」
「持っていかないで!」
「はやくしないと遅れるよ!」
「あーもう! ちゃっちゃらー、ちゃらりらー、ふっふっふーん、といやっ!」
ポーズ決めっ!
「孤独を愛する神秘の瞳。闇のなかから、あなたを見つめる。ウィッチ☆ブラック、さあ、わたしのターン……」
がらがらがら……
って、馬車出してんじゃないわよ!
「まってよーう!」
困惑するアリスロッテシリーズ①

困惑するアリスロッテシリーズ②
