第7話 野生の思考

愁羽淋
·
公開:2026/3/3

第7話 野生の思考

A 試される理性

 生徒会室にて。

「でも、こうも考えられる」

 グレイスが言った。

「カルガモット卿は、シシリールーにコデックス・オブ・ライフを渡したくなかっただけで、魔法院がコデックスを廃棄するなんてのはウソ」

 黒板には勢力図が描かれている。魔法院という大きな枠のなかに、シシリールー派閥、カルガモ派閥のふたつの円がある。

「いまさらそんなこと言われても。あのときはマリウスがボロボロにされてたし、わたしが勝てるとも限らなかったし……」

 わたしの反論はディミヌエンド。

「そのことはいいのよ。なにがどう動いているかを検討しているの」

「カルガモット卿は、コデックスがシシリールーの手に渡るより、ガンフ・オルアに渡るほうがマシだって思ったってこと?」

 ヴェルデが頬に指を当てて尋ねる。

「そうよ。カルガモット卿は騎士団と内通している」

 と、グレイスはカルガモ派閥から、騎士団へとチョークを走らせ、

「その件で、魔法院での立場が怪しくなっている。ここでシシリールーがコデックスを手に入れて力を持つと――」

 コデックスの絵をチョークでとんとんとん。

「カルガモット卿は魔法院を追われ、孤立する」

 チョークを置いて手のひらをぱんぱんぱん。

「だれが本当のことを言って、だれが嘘をついているのか……。これはね、わたしたちの理性が試されてるの」

 って、グレイスはわたしの方をチラリ。

「でも、シシリールーとカルガモだけで魔法院を語るのって、大根と玉子だけでおでんを語るようなものじゃないの? 長老のなんとかとか、双児がなんたらとか……」

 そこにがらがらがらっと戸が開いて、フレア。学園長に呼び出されてたけど、戻ってきた。

「おかえり。ギー学園長、なんの用だったの?」

 まあ、時期が時期だし、魔法院とのトラブルの話かと思ったら――

「魔法院が、魔女っ子を一人派遣してほしいって」

「派遣?」

「派遣ってなに?」

「形式上は留学生ってことになる」

 留学生にしたって、初耳。

「えーっ。なんかそれ、人質を差し出せって言われてるみたいで気持ち悪いんだけど」

 と、ヴェルデはワニのミルク飲んだみたいなイヤーな顔。

「じゃあ、どうする? だれか募集する?」

「違うよ。見習いは含まず、正式な魔女っ子からひとりだから、この4人の内だれかだよ」

「ええーっ。なんて答えたの? 断ったよね?」

「断ったけど、断れないって」

「どういう意味?」

「魔法院から資金提供受ける時の条件にあったんだって。年間何人までの交換留学に無条件で応じる、って」

 えーっ。そんな細かい条件まで気にしてなかったよーう。

「そういうことなら、仕方がないわね」

 ヴェルデはため息をひとつついて、背もたれに背を預ける。

「モノには『マナ』が宿るって、わたしのお婆ちゃんが言ってたわ。贈り物をあげると、それには『マナ』――魂みたいなもの?――が宿ってて、受け取った側はそれに縛られる」

「なにそれ、呪い?」

 そんな呪いのせいか、みんなどんより。だれかなんか楽しいこと言わないかなって思いながら、心のなかで楽しいことを探す。楽しいこと、楽しいこと。遠足とか、運動会とか。あとはまあ、ごはんだな。食ってりゃハッピー。

「ねえ、学園祭やらない? わたしたちで」

 って、口火を切ったのはフレア。

「わたしも言おうと思ってたの!」って、ヴェルデ。

「ずるい! わたしもそれ言おうと思ってた!」って、わたしも急いで乗っかる。

「学園祭ね……」

「って、グレイスは乗り気じゃないの?」

「悪くはないけど、お金がかかるわよ?」

 って、結局はお金かあ。

「まあ、お金はともかくだよ! わたしたちでなにかできることを探そうよ! 最悪みんなでポルカ踊るだけでもいいわけだしさ! それがわたしたちの学園祭なんじゃない!?」

 フレアの熱弁。

「そうね。じゃあ、学園祭の実行委員長は、盛り上げ係のアリスロッテで!」

「あ、わたし?」

 

 というわけで、学園祭を開くことになったわたしたち! いまは留学のことなんて考ええないで楽しもう! と思って駆け込んだのはとうぜん駄菓子屋のレイチェルが部長を務める錬金術部!

「ねえ、レイチェル! 学園祭開くんだけど、お安く開けるナイスアイデアないっ!?」

「あぶっ!」

 レイチェル、謎の奇声を発して薄い本をしまう。

「その本どうしたの? 硝子牙グラッシーファングの新作? うにもや? あ、いや、どうでもいいや。あのね、学園祭開くことになったの。でも、うちの学校、お金ないでしょう? 魔法院に出してもらうと、なんかいろいろめんどくさいこと言ってくんのよう。だからほら、あんたお金のことくわしいでしょう? なんとかなるんじゃないかなーと思って――」

 と、ふと見ると、机の上に薄い本が何冊も。薄い本ばかりか、園芸部の果物の箱に、採掘部が掘り出した鉱石? 釣り部が釣ってきた魚? それに狩猟部の獲物に、レザークラフト部が加工した革製品に美術部の彫刻、陶芸部のツボ、飼育部のヤギまで、いろいろある。

「――これ、どうしたの?」

「ええっと、これは……『円』と引き換えに……」

「買ったってこと? でも、そんなにお金あったっけ?」

「簡単に説明するとね、銅貨だけだと流通量が足りなくなって、みんな困ってるっぽかったから、紙幣を発行したの」

「シヘイ? 軍備してるの?」

「私兵じゃないわよ! 紙幣! アクセントは最初! アフレコ用語でいうと『アタマだか』! それじゃあもう1テイク、シヘイの発音はアタマだかでお願いしまーす、の、『アタマだか』で幣!」

「紙幣ってなに?」

「これよ」

 レイチェルは数字が書いてある紙を見せてくれた。

「これがなに?」

「お金。1枚で千円の価値があるのよ」

「えっ? わかんない。ただの数字書いた紙っきれじゃん。なんで価値があるの?」

「この紙幣があると、駄菓子と交換できるの。つまり、円と同じように使える。わたしがこの紙の円を駄菓子と交換することで、紙っきれの価値が保証されて、生徒同士の間でも、千円としての価値を持つことになるの」

「マジで!? それじゃ、これたくさん作ったら、学園祭の備品とかいっぱい買えるじゃん!」

「あ、でも、この学園の外では使えないわ。だから、駄菓子を仕入れるときは、いろんな部からかき集めた薄い本や魚やヤギを売って換金するのよ」

「なんかよくわかんないけど、すごい!」

「だから、学園内で手に入るものだったら、紙幣をたくさん刷ればいくらでも手に入る」

「ん? でもさ、こんだけいろんなもん掻き集めたってことは、みんなもういっぱい紙幣を持ってるんだよね?」

「そうだよ。各部の部長が一括で交換して、それぞれの部員に配ってるみたい」

「それって、余ったりはしないの?」

「ふっふっふ……学園に円があふれたら、もっともっと価値のあるものを投入すれば良いのよ!」

「というと?」

「駄菓子は十円からせいぜい百円でしょう? これだけだとみんなお金をもてあましちゃう。これをインフレと言ってね、お金の価値がなくなるってことなの」

「ふむふむ。しらんけど」

「だけどそこに! 千円とか1万円とかする商品が投下されたって考えてごらんよ! みんなそれを買うためにお金が欲しくなる!」

「なるほど! それってあんたが考えたの?」

「違うわ。外の世界ではみんなやってるのよ。たとえばアストルティアっていう異世界では――」

「どこそれ」

「エルフとかドワーフとかいて、勇者姫が――って、いいから聞いて! そのアストルティアでは、『冒険者のお出かけ便利ツール』ってのを使っていくらでもゴールドを稼ぐことができるの。そして、このゴールドはアストルティア内では、ほとんどが競売所を通して取引される。だから、その手数料の5%が取引ごとにシステムに吸収されるの」

「あ、うん、わからんけど」

「すなわち、取引ごとに、ゴールドの一部は消滅する。そして、それにプラスして、『しぐさ書』や『チャーム』や『マイタウン権利書』と言ったアイテムが、『お出かけツール』から供給されて、これらが数百万とか数億ゴールドで取引されるので、ユーザー間――」

「ユーザーってなに?」

「――もとい。国民の間でお金が余るなんてことはないし、取引額の5%は必ず消滅するので、インフレは低く抑えられてるの!」

「つまり、ウィッチリアでも『マイタウン権利書』を売り出すってこと!?」

「そうね……でも、駄菓子屋にマイタウンは難しいわ。そこでわたしが考えたのがこれよ!」

 と、レイチェルは手のひらに豆を乗せて見せてくれる。

「それは?」

「これは……マタタビのように見えるけど、タマタマビタビタっていう人間の男に効く禁断の木の実……これを食べると……」

「食べると……?」

「タマタマが欲望でビタビタになって、ひとを愛さずにはいられなくなるのっ!」

「きゃ~っ! あなたってヘビよっ! 淫らなヘビだわっ!」

「これを1個1万円で売る」

「強気! 売れるの!?」

「売れるわよ。だってうちの学園の男って、非モテが染み付いた覇気のない男ばっかりでしょう? ブサイクブサイクって言われて育ってそうなっちゃったんだけど、綾野剛だって星野源だって、よーく見たら別にそんなにイケメンじゃないわよ」

「実名出すなコラ」

「ムロツヨシだって大悟だって、あ、いけるかな? って感じる瞬間ってあるじゃない?」

「実名~っ」

「で、じつはうちの学園のブサイクにも、部活で開花してキラキラ輝き始めた子がいっぱいいる! 中学に入って学生服着てるの見て、あれ? あいつあんなにカッコ良かったっけ? うそ、背も追い越されてるじゃん! やだ、わたしなんでときめいてるわけ? ってなったあの子みたいに! なのに! そんな子に限って奥手なのっ!」

「あー。わからんでもない」

「そんな子にこの実食べさせて、タマタマをビタビタにしてあげたいっ!」

「発想が犯罪者」

「それでね。コートで効果を試したいの」

「またコートで?」

「わたし、ほら、恋多き乙女じゃん? コート以外にも恋を楽しみたいし、ぶっちゃけいつ浮気しちゃうかわかんないのに、彼がすごくわたしに一途で、それが辛くて……」

「それを聞かされるわたしが辛いんですが」

「だから、この実を彼に食べさせてあなたとふたりきりにして、あなたに襲いかかる現場を押さえたい」

 またそれかー。

「まあ、無理だったらフレアでもいいんだけど……」

 しくしくしく……。

 コートのためかどうかはわかんないけど、どうせ他のオンナとやるんだったら……。

「やるけどさー」

 こんこんこん。

 こんこんこん? ノックの音? だれだろう。

「はーい。入っていいよー」ってレイチェル。

「おじゃましますー。郵便部ですー」

「また例の」

「アリスロッテさんに、天文部からメモを預かってきましたー」って、郵便部はメモを手渡すと去ってった。

「もしかして、人類滅亡までのカウントダウン?」

「そう。惑星の配列でわかるの」

「どれどれ?」

 と、レイチェルに覗き込まれながらメモを開くと、そこにあったのは――

 ――人類滅亡まで、あと115日

「なんか、こないだと比べてめちゃくちゃ減ってない?」

「いやいや、こないだなんか8日まで行っててびびったもん」

「戻したんだ」

「うん」

「それ、信用できる数字なの?」

 

「いらっしゃいアリスロッテさん。ごめんなさい、散らかったままで」

 って、何も知らないコートが迎えてくれる。

「いいのいいの。こんなのぜんぜん片付いてるほうだよ。わたしの部屋なんかゴミ溜めだもん」

 ってゆーか、錬金術部もゴミ溜めだし、レイチェルも一人で暮らしてたらゴミ溜めになるタイプじゃないのかな。

「そうだ、コート、お客様のためにお菓子買って来てくれる?」

「あ、いいですよ。おいしそうなの選んできます」

 と、レイチェルがコートを追い出し、作戦スタート!

「これ、『プリッピー』の新味ってことにしてコートに食べさせて」

 って、レイチェルからタマタマビタビタの実をもらって、レイチェルはなぜかフルオープンでドレッサーに隠れる。

「なんで脱ぐ必要あるの?」

「これがわたしの戦闘服なのっ!」

「ああ、はいはい」

 レイチェル隠れてスタンバイOK!

 こんこんこん。と、ドアの音。

 コート戻ってきて、「あれ? レイちゃんは?」って見渡すけど、「お花を買いに行ったみたい」ってシナリオ通りにことを運ぶ。コートが椅子についたところで――

「これ、レイチェルから預かった『プリッピー』の新味。今度売り出すんだって」

「へー。プリッピーの新味ですか! 僕、プリッピー大好きなんです!」

 えーっと。

「一応断っとくけど、すごい精力がつく豆らしいの。もう、自分がわからなくなるくらい」

 一応、コンプライアンス的に。

「でも、レイちゃんが薦めてるんですよね? だったら僕も応える義務があります!」

 あの女のどこをそんなに信用してんだこの男、目ん玉腐ってんじゃねえぇのか? とジト目で見てたら、コートがパクっ。

「プ、プ、プ、ププ……プ……プリッピィィィィィッ!」

 みるみる紅潮する頬!

「お……おかしいです! ……なんだかすごいドキドキします!」

 と、額の汗を拭き始める。

「な……なんか……どうしたんだろう……」

 股間を押さえてモジモジ。

「どうしたの?」

 いやん、アリスロッテ、しらじらしい♡

「……アリスロッテさんっ!?」

 コートは立ち上がって、わたしににじり寄って、肩を抱いて……近いっ! 顔が近いっ! ドキドキするわっ!

「くっ……いえ……僕にはっ……」

 苦しんでる苦しんでる。肩に置いてた手をワナワナさせて、猛り狂うように服を脱ぎ捨てると、普段より何倍も大きくなった特大のチュロスがどっくんどっくん。先っぽはヌルヌル。テーブルを抑える手がプルプル震えている。

「ア、アリス……ロッテ……」

 そして再度、その手はわたしの肩に! 痛い……男の子の握力……だけど!

「ぼ、僕にはレイちゃんが……」

 コートはゼェゼェと肩で息をして、己のカラダをわたしから引き剥がし、手でアタマを掻きむしり、「うおおおおおおおおおっ!」と叫んで壁に向かい、そこに開いた穴にチュロスをぶち込んで、激しくストロークするとぐわんぐわんと部屋が揺れる!

「コートっ!?」

 このままじゃまずい! 壁の穴は小さいし、チュロスがザクザクになっちゃう! こうなったらわたしが……。

 いや、待てよ? これ、ディメンション魔法で、コートの凸ってるとこ、レイチェルの凹ってるとこに繋いじゃえばいいのでは?

 よっしゃやってみよう!

 と、実行するや、クローゼットの中から「ひゃうんっ!」という謎の奇声が上がる。

「レ、レイちゃんっ……!」

 コートのチュロスにもその感覚が伝わったのか、いくらかその声は穏やかに。コートのストロークに合わせて、クローゼットからは、「ひゃんっ!」「あふん!」「んぴゃっ!」っと、特徴のあるレイチェルの声が響く。

 うん、まあ、それはいいんだけどさ。わたし、どうすればいいのよ。

 

B 密室監禁! 姉と弟のタマタマビタビタ!

アマ祖根洲ゾネスの国って知ってる?」

「知らないけど、なんなの?」

「10年前の戦争で、男たちがみんな戦死しちゃって、女だらけになった国があるの」

「あらー。それって、高いとこのモノ取るときとか、ジャムの蓋開けるときとか、めっちゃ困りそう」

「それだけじゃないわ。祖根洲ゾネスでは若い男の奪い合いが起きないように、イケメンシェアシステムが導入されたんだけど……供給が少なすぎて需要を満たせてないの!」

「何人でシェアするかにもよるよね」

「そこでこれよ!

 ターマーターマービータービーター!

 ぱっぱぱらっぱーぱっぱぱらぱーぱー!」

「なるほど! これを売って外貨を稼ぐ、と!」

「そうよ! そしていずれは円が基軸通貨になるのよ!」

「きじくつーかってなに?」

「小麦を買うときも、大豆を買うときも、鉄鉱石を買うときも、みんな円で取引するようになるの! しかも小売だけじゃないわ。仕入れにも使うから、何億という円が動くことになる!」

「で、で、でも、何億って円を手に入れたひとがみんなで駄菓子を買いに来たらどうするの?」

「ふっふっふ。駄菓子と等価交換できることを保証した駄換紙幣だかんしへいだったら交換の義務はあるわ。だけど、わたしが発行する円は不換紙幣ふかんしへいって言って、駄菓子と交換できる保証はしていないの!」

「うわー。それただの詐欺じゃん」

「そうじゃないわ。駄換紙幣だかんしへいは在庫にある駄菓子の量までしか発行できないから、せいぜい数百万しか発行できない。これじゃあ大口の取引には使えないじゃない? これを発行額をばーんと増やして、みんなで使うことにすればー? なーんとなんと! 『みんな使ってる』って事実が紙幣の価値に早変わり!」

「つまり、発行し放題!?」

「そうね。でも、市場で余っちゃうと価値が崩れちゃう。価値がフラフラするような貨幣は信用して取引に使えないから、そうなると『騎士団が発行したドルで取引しようぜー』みたいな流れになって、あれよあれよという間に円は紙くずになっちゃう」

「うわー。そーゆーの見てきたように話せるところがすごいよね」

「逆に、円でしか買えないものをたくさん作り出せば、円の価値は上がるし、そのぶんたくさん発行できるようになる」

「円でしか買えないものって?」

「たとえば、ウィッチリア魔女っ子学園の部活動を応援するためのプロマイド。これを1枚5百円で売り出して、たくさん持ってるひとは学園祭で魔女っ子と握手できるようにするの」

「それたぶん、学校に禁止される」

「いいのよ! 例え話なんだからっ!」

「でも、5百円でしょう?」

「そうよ。だけど、数に限りがあるのよ? そうなると魔女っ子と握手したいひとは、5千円とか5万円とか出しても手に入れたいって思うでしょう? それをウィッチリア学園の取引所のみで取引できるようにして、そこでは円しか使えないってなると、みんな円を手に入れるしかなくなる!」

「おおっ!? だけどまって! 魔女っ子人気が衰えたらどうなるの!? 騎士団にも騎士っ子♡倶楽部みたいなのができて、みんなでそっちのプロマイド買うようになっちゃったら?」

「そうなったらオシマイよ。円は紙くずになる」

「ええ~~~~~っ!?」

「そうならないように、魔女っ子は常に研鑽して、新しい衣装を着て、新しいメンバー入れて、EVに対応して、世界基準のコンプライアンス守って、新しい魔法を身に着けなければいけないの!」

「うわぁ~~~っ! オタクが嫌いそうな要素混じってる~っ!」

「とりあえず、まずはそのきっかけとしてタマタマビタビタの実を売り込む! すでに原資となる円はODAとして何億か投入されているわ」

「いつの間にやってんの、それ」

 

 てことでやってきました薬草部~!

「アリ姉、レイ姉、こんちゃ」

「よう、タルト、例のもの用意できてる?」って、レイチェルはさばさばとタルト――学園唯一の男の子の魔女っ子でヴェルデの弟――に声を掛ける。

「タマタマビタビタの実? それならもう木箱3つぶん用意できてるよ!」

 って、タルトもさばさば返すけど。

「ねえ、レイチェル。あんた、薬草部にこれ栽培させてるの?」

「そうよ。園芸部からは拒否されちゃったから、しょうがないじゃない」

「それが普通でしょ。ヴェルデはなんでこんなもの引き受けたの?」

「ああ、ヴェル姉は硝子牙グラッシーファングってひとに夢中で、一粒食べせたい――」

 ボカッ!

「勝手なこと言わないのっ!」

 ヴェルデ登場。真っ赤。

「なーんだ。ヴェルデもちゃんと女子じゃーん。安心しちゃーう」

「うるさいわねっ! そんなんじゃないって言ってるでしょう!?」

「ためしにタルトも一粒食べてみる?」

 ボカッ!

「わたしの弟にヘンなことしないでっ!」

 殴られた。

「大丈夫だよヴェル姉。アリ姉もレイ姉も女として見たことないし、へんな気は起こさないって!」

「言ったなぁ? だったら試してみるかぁ?」

 ボカッ!

「暴力反対っ!」

 

 馬車部が用意してくれた馬車でアマ祖根洲ゾネスの国へ!

 荷台には3箱のタマタマビタビタと、わたしとレイチェル、それにヴェルデとタルト。ヴェルデは薬草取扱資格持ってるから必須。タルトはジャムの蓋開ける係。

「交換留学生の件、学園長から詳しい説明を聞いたわ」

 現地へ向かうまでの、長い街道でヴェルデが話した。

「長老の露払い役のウンズ=リィとメンズ=リィっていう双児がいるんだけど、そのふたりが魔女っ子を傍に置きたいんだって」

「えっ? 双児って変態なの?」

「そんなことないと思うわ。10歳くらいだって聞いたし、まだまだ子どものはずよ」

「じゃあ、純粋に魔女っ子への憬れ?」

「だったらいいんだけど、甘く見ないほうがいいわ。双児は、単に学生として魔女っ子が欲しいんじゃなくて、魔女っ子を媒介した『マブダチの構成』――つまり、魔女っ子留学生を通してウィッチリアへの影響力を持ちたいの」

「マブダチの構成とは?」

「たとえばわたしが双児のクラスに入って、毎年年末に利尻産の昆布なんかを贈るようになったら、受け取った側もお礼として地元で穫れた桃とかを贈らざるを得なくなる。魔女っ子側にも双児の管理する財産を手に入れるメリットがあるし、どちらにもメリットはある」

「メリットあるならいいんじゃん。じゃんじゃん交換留学しようよ!」

「でもね、ちょっと引っかかるんだよね」

「なにが?」

「留学は個人が主体でしょう? でも現実には、集団間の同盟だし、その交換は制度化されている。わたしたち個人の意思はどこに消えてるの?」

「そっか……断れないし、なんか不自由な決まりではある」

「これを彼らは『野生ヤンキーの思考』って呼んでて、そこには『努力』『根性』『運』『気合』『転校生』『アニメの第二期』『ホクロ』『ドンキホーテ』などが含まれてて、『魔法』ってゆうのは、それを操る力だっていうの」

「ええっと、転校生から先がわかんない」

「まあ、奥深いものなのよ」

「ほんでその、双児って言われてる子たちは、なにか企んでるの?」

「わかんない。いま、騎士団でアリアナ姫が危篤に陥ってるって噂もあって……」

「え、まって。アリアナ姫が? なんで?」

「もともとカラダが弱かったのよ。カルガモット卿の秘術で生きながらえてるけど、そろそろ限界が来てて……。もしものことがあれば騎士団は暴走する可能性がある。そのときに、魔法院と魔女っ子が対立してるとよくないって考えてるんじゃない?」

 と、話していると馬車は停車。

「ついたよー」って、馭者台に座る馬車部の部長のパエトーナ。初出。

 

「この国は、騎士団の影響力が強いから、基本、魔法は使わないでね」

 って、ヴェルデに注意されて、とある集落の庄屋の家の前へ。

 アマ祖根洲ゾネスの国……わたしもレイチェルに聞くまでよく知らなかったけど、俗称を密林族アマゾネスと言い、焚き火キンドルを囲んで、多くの言葉を交わしていたという。そこには近親間でのエトセトラ、動物とのエトセトラなど、多くのタブーがあり、案内線ガイドラインを超えると、この世界アカウントごと消失バンされると言われている。

「相手はちょっと気難しいひとだから、ビジネスの話はぜんぶわたしがする」と、レイチェル。

「わたしたちの役目は?」

「話がこじれて力で捻じ伏せる必要が生じたら、お願い」

「うわー、ぶっそうな話」

「でも、魔法はダメ」って、ヴェルデ。

「魔法を使うと警報ガエルがゲコゲコ鳴き出して投獄されちゃうの」

 魔法なしで戦えと言われても……いちおう、魔法銃クルシン・デシネは持ってきてるけどさあ……。

 ずずずずずん、と扉が開いて、屋敷のなかへ!

 広間へ通されて待つこと5分、庄屋様、メアリ・ショー・ジニィの登場!

 ひととおりの挨拶と自己紹介を終えると、まずは向こうのターン。

「ウィッチリア魔女っ子学園の話は聞いている。魔法銃クルシン・デシネを手に入れたそうだな」

「えっ? どうしてそれを?」

「学園の生徒の間で噂になっていると、出入りの業者が教えてくれた」

 あ、なーるほど。そのへんたしかにザルだわ。

「クルシン・デシネは、名前と裏腹に、絶対に死ぬことのない銃だと聞く。もともとは城や町を吹き飛ばすために作られたもので、皆殺しのドミノがその二つ名を返上せんがため、決してひとを殺さないように設計させたらしいが、死ぬのと同等の苦しみを与えることは避けられなかった。そしてそこがこの銃の恐ろしいところだ。並の銃ならば、苦しみは一瞬、死がすべてを解放してくれるが、クルシン・デシネは生涯に渡り死の苦しみを与える」

「あ……そ、そうなんですよ……ヒドイ銃なんです……」

 知らなかったけど。

「その銃、いま持っておるのであろう? どうだ? わたしにその効果を見せてはくれぬか?」

「えっ? 見せろと言われても……」

「例の者を連れて参れ!」

 庄屋様メアリがぱんぱんと手を叩くと、ロープでしばられた見すぼらしい男が連れてこられた。

「昨夜、当家に入り込んだ賊だ。知っての通り、この国には男手が少なく、死刑が禁じられている。おかげで、盗賊どもは何をやっても命までは取られぬと思い、我が物顔だ。そこで、だ。この男に『死の苦しみ』を与えて欲しいのだ」

「あ……いや……さすがにそれは――」

「この男、見張りに立っていた女を二人殺し、うち一人には死後に辱めを与えた。死んで償うのが当然のところを、苦痛で赦してやろうというのだ。わたしのこの寛大な判断に不服があるというのか?」

「いやー、不服ってゆーかー」

「やります! いますぐ準備いたしますのでしばしお待ちを!」

 わたしが躊躇ためらっていると、レイチェルが割り込んだ。

(いま聞いたでしょ!? 殺されて当然の男よ!?)

(それってわたしがやるの!?)

(学園祭のためでしょ!? 覚悟を決めて!)

 ええい、学園祭のためならいたしかたない! それにいままで二桁は殺して来たんだ! ここで躊躇するような人格者でもないし! ここはあっさりと!

 わたしが魔法銃クルシン・デシネを男に向けて引き金を引くと、そこに吐き出された邪気は一気に男に流れ込み、男を苦悩に打ち回らせた。

 銃撃は一瞬。

 その一瞬が、男に生涯消えぬ苦しみを植え付ける。

 その苦しみが身体のどこに、どう生じたかは不明だが、男は身体を床に打ち据え、初めこそ叫び声をあげるが、白目を向き転げ回るうちにその声も途切れ、ただ喘鳴を漏らしてのたうつだけになる。幾度も額を床に打ち据え、そこに血の跡がにじみ、メアリはほくそ笑む。「あがっ、あがっ」と、声にもならぬ声に耳を塞ぐと、突如、警報ガエルが一斉にゲロゲロと鳴き始めた。

 ゲロゲーロ、ゲロゲーロ、ゲロゲロゲロロ、ゲロゲーロ……。

「魔法?」

「だれが?」

 うなだれたまま、呪文を唱えているのはヴェルデだった。

 回復魔法だ。男の苦しむ姿に耐えられず、なかば反射的に詠唱したようだったが、それがクルシン・デシネの苦しみを和らげることもなく、ただカエルがゲロゲロと鳴き続ける。

 ゲロゲーロ、ゲロゲーロ、ゲロゲロゲロロ、ゲロゲーロ……。

 その後すぐに、わたしたちは取り押さえられて水牢に叩き込まれた。

 

「ごめんなさい……。わたしが魔法使っちゃったばっかりに……」

「ヴェルデが謝ることないよ」

 パエトーナは馬車に残ってるけど、連絡手段はない。水牢には警報ガエルが何匹もいて、たぶんこれ、双子原ふたごばるの庄屋の地下牢と同じで魔法を使うと水が流れ込むヤツだ。

「馬車に積んでる荷物、奪われてなきゃいいけど」

「ここを出て、もしそんなことになってたら、わたしヴィゴで屋敷踏み潰す」

「そうね……そのためにはここを出る方法を考えないと……」

「そうだ、アリスロッテ。クルシン・デシネって、城も町も破壊するんだよね? ここの壁壊せない?」

 と、レイチェルが思いつくけど、

「殘念。さっき撃ったのでラストだったっぽくて、もう光ってないの」

 わたしは灯りが消えて暗くなった魔法銃をレイチェルに見せた。

 想像を絶する悲しみがわたしたちを襲った。

 そして肩を落としたまま、レイチェルが呟く。

「……こんなときね……コートはいつも慰めてくれたんだ……」

 こんなときに惚気のろけ話!?

「僕たちにはモロッコヨーグルがある――どんな悲しいときも、辛いときも、10円持って駄菓子屋にいけば、また前を向いて歩き出せる――」

 あううううう。それ聞いたことあるよ。ほんとはわたしがコートと結ばれるはずだったのに。なんでこんな惚気のろけ話を聞かされなきゃいけないの?

「わたし、駄菓子持ってきたのっ!」

 って、レイチェルが急に笑顔になって、駄菓子を広げる。

「これ食べて、元気だそ!?」

 くっそー。幼馴染に彼ピ盗られるなんてフィクションでしか聞かないと持ってたのに。

「そうね。おなかが膨れたら、いいアイデアが浮かぶかもね」

 ヴェルデがモロッコヨーグルを手に取る。

「そうだよ。まずは腹ごしらえ!」

 レイチェルはよっちゃんイカ。

「しょうがないな、もう!」

 って、わたしはクッピーラムネ。

「それじゃ、俺も!」

 って、タルトは新味プリッピー。

 みんな一斉に「いただきまぁーす!」って、まって! タルトのプリッピーって!?

「プ、プ、プ、ププ……プ……プリッピィィィィィッ!」

 みるみる紅潮する頬!

「うおおおおおおおおっ! みなぎってきたみなぎってきたぁっ!」

 タルトは立ち上がり、服を脱ぎ始める!

「タルト! なにやってるのっ!」

 隠すべきところがフルオープン!

「ご、ごめんなさい! あのプリッピィ、ほんとはタマタマビタビタの実なのっ!」

 レイチェル謝るけどもう遅い!

「レイ姉ちゃんっ!」

 タルトがレイチェルに襲いかかる! わたしじゃないんだ! わたし、レイチェルにも負けるんだ! レイチェルも「ざんねんあたしでしたーっ!」って顔してるし、おまえはなんなの!?

「だめよタルト! 落ち着きなさい!」

 ヴェルデが諌めると、今度はヴェルデに!

「姉ちゃん、俺ッ! 俺もうがまんできないッ!」

 コートのときと同じ! 猛り狂うチュロスが荒ぶって、水牢に溜まる水面に波紋疾走!

「ま、まって! 姉弟なのよっ!?」

 しかし男の筋力は強い! しかもプリッピィパワーで増強! 女三人で抑え込んでも、すぐに払い除けられる!

 わたしはクルシン・デシネを取り出して、タルトの首に回して後ろから抑え込む!

 そのクルシン・デシネをタルトが掴むと、銃身が輝き始める!

 こ、これはっ!

 タルトの湧き上がるパッションでクルシン・デシネがチャージされていくぅぅぅぅ!

 

 その後、わたしたちは、チャージされたクルシン・デシネで牢の壁を破壊、ついでに庄屋の屋敷も吹き飛ばして、箱に3つぶんのタマタマビタビタはそのままウィッチリア魔女っ子学園に持ち帰りましたとさ。

 めでたしめでたし。

 


困惑するアリスロッテシリーズ①

魔法のアバンチュール

困惑するアリスロッテシリーズ②

処女聖アリスロッテの帰還

@sonovels
さよならおやすみノベルズという個人小説レーベルで地味に書いています。サイトで読めばタダ。Kindleで400円。 sayonaraoyasumi.github.io/storage