なにもしらないからともだちでいられる 第1話

愁羽淋
·
公開:2026/2/18

第1話 天文部の予報

A 雨の魔女っ子寮

 天文部の予報通り、朝からの雨。

 やることなくて、使い魔ラプを足でぐりぐり。

 きゅーきゅー鳴いて苦しんでるように見えるけど、足を離すとまた「やって!」って感じでまとわりつく。

 ぐりぐり。

 ぐりぐりぐり。

 わたしが住んでいるのは、ウィッチリア魔女っ子部長国連邦村。魔女っ子だらけの村。それぞれの部活がひとつの国となって、魔女っ子連邦を形作ってる。とゆう村。

 ラプと遊びながら、いまごろコートとレイチェルは部屋でセックスしてんのかなあって脳裏を過ぎる。ほんとならわたしがコートと結ばれるはずだったのに。コートと結ばれないんだったら、この村に来た意味もない――って思わなくもないけど、魔女っ子村作っちゃったの、わたしだもんな。投げ出すわけにもいかないし。

 止まない雨。

 廊下に出ると、魔女っ子見習いがきゃーきゃー言って走り回ってる。

「あっ! アリスロッテ先輩! 今日はどちらへ?」

 この子はアルノ。

「便所」

「じゃあ、用が終わったら、一緒にかくれんぼしませんか?」

「そんなことやってんの?」

「そう、リリィとアオイとメグとわたしで」

「寮の中でかくれんぼして楽しい?」

「めっちゃ楽しいですよ! 魔法アリで隠れて、見つかったら罰ゲームでブサイクとキスしなきゃいけないんです」

「そのブサイクの扱いよ」

 ほんとはトビチノ村からの移民20人ばかりで暮らすはずだったけど、わたしを慕う魔女っ子百人と、トビチノ村で恋愛対象から漏れたブサイク百人がついてきた。おかげでいまの人口は225人。魔女っ子はみんな魔法院から来た子たちなので、勝手に魔法学校みたいなものが始まって、一応、正式な魔女っ子であるわたしと、フレア、グレイス、ヴェルデの4人が先輩扱い。残りは魔女っ子と言っても、見習い。あとは700ほどのトロールが住んでるけど、この子らは無害でいい子。

 アルノの部屋に行くと、ブサイクがひとり座らされていた。さすがにブサイクのなかでもマシなほうを選んで連れてきたっぽく、容姿はまあまあ。

「ほらほら! ルシオ! 魔女っ子学園の理事のアリスロッテ様だぞ! ご挨拶は!」

「いいよー。理事ったって形だけだし。先輩でいいよー」

「こ、こんにちは」

「いまスカートのなか見たでしょう? いーけないんだぁっ♪」

 見習い魔女っ子のひとり、リリィがルシオって子の腕をスティックでグリグリ。やられてる子は顔だけ見るとヘラヘラ笑ってるけど、心中まではわかんない。

「負けたらこの子とキスするの?」

 同意は? って、わたしもそーゆーキャラでもないんだけど。

「そうです! あ、でも、先輩、オニやりませんか? わたしたち4人で隠れるんで!」

「ん。わかった」

 ばたばたと部屋を駆け出す4人。

「もーいーかい」「まーだだよ」「もーいーかい」「まーだだよ」「もーいーかい」「もーいいよ!」

 遠隔透視とヒートスフィアへの生体反応を使えば探すのは簡単なわけで、掃除用具入れでメグ確保、じゃがいもケースのなかのリリィ確保、ベッド下でアオイ確保、屋根裏でアルノ確保。簡単過ぎる。楽しいかこれ?

「罰ゲームはメグ~」

「きゃーやだー!」

「フッフッフ。ルールからは逃げられないのよっ!」

「あーもうしょうがないなー。やるから、ちゃんと口閉じててよねルシオ! 舌いれたら殺すからね?」

 なんて言いながらメグとルシオがキッス。

「10秒だからね! 10秒!」

「舌入れろルシオ~!」

「んっ! んんっ!」

 2戦目、こんどはアオイが罰ゲーム。

「行け! ルシオ! おっぱい触れ!」

「ほらほらベロ入れなさいよ、罰ゲームなんだからぁ!」

 なんだかなあ。

 ブサイクもブサイクなりに役得というか、ぶっちゃけイケメンじゃないってだけで、ちゃんと清潔にして趣味は読書とバスケットボールですとか言われたら十分恋愛対象レベル。

「なんか、かくれんぼすぐ見つかっちゃうね」

「これいっそ、じゃんけんで負けた子が罰ゲームでよくない?」

「ええ~っ♡ やだぁ~♡」

「罰ゲームは、おっぱい揉まれながらキス」

「ええ~~~~っ♡」

 と、4人はじゃんけん。もはや負けたいのか勝ちたいのかわからない。男子のラッキーエロエピソードには、「それただの性虐待被害じゃない?」ってのが混じってるけど、彼にとって美しい思い出になってほしいって祈るばかり。

「きゃ~、負けた~!」

「じゃあ、ブラウス脱いで!」

「ええ~~~~っ!? 聞いてな~い!」

 男子はニコニコして降ってくるご馳走を待ってるだけ。

「アルノ、感じてるんじゃない?」

「相手はブサイクだよ?」

「悔しい? ねえ、悔しい?」

「次はじゃんけん抜きで! ブサイクが指名するのはどう?」

 魔女っ子の上位グループが男子をとっかえひっかえ呼び出してるって噂は聞いてたけど、こんなことやってたんだ。

「ふたりきりで押し入れに入るの!」

「服は? 服はどうする?」

 まあこれも、魔女っ子寮ではありふれた日常で、かといってみんながみんなこうやってブサイクをイジって遊んでるかっていうとそうでもなく、雨の日は静かに本を読んだり、編み物をしていたりする子が多い。アルノたちが特別で、そのまわりには彼女らに憧れるグループがあって、そのなかの何人かがたまにここに加わって「罰ゲーム」の恩恵に与って、ピラミッドが構成されてる。

「ルシオー、おまえから動けよー」

「そのまま中で出しちゃえ!」

「えっ? 今日はダメよ! ルシオ! 中で出したら殺すからね!」

 そんで、ブサイクのなかにも「アルノたちのグループ」と接触できる「親衛隊」が形成されて、顔のよしあしでピラミッドが築かれてる。

 顔ってのは不思議なもんで、猫背になって芸夢王カードやってるときはあんなにヒドイって思ってた顔も、アルノたちから無理やり風呂にいれられて、あの子たちが選んだ服を着せられて、それで何度かセックスなんか経験しちゃうと、なんてゆーの? ほかのブサイクに対する優越感? みたいなのが生まれてかしんないけど、それこそ「オレ、バスケやってます」みたいな顔になっちゃうと、もはやブサイクなんて呼べないわけで、ほんでそれは「どーせわたしたちの学校にはブサイクしかいない」って諦めてた並クラスの魔女っ子にも夢を与えるんだけど、魔女っ子とブサイクのやりとりはトップに立つアルノたちとその親衛隊が仕切ってて、なんか、恋愛協定みたいなシステムが出来上がってんの。

 ブサイクな男子のなかにも、たまーにモテる子がいて、でもそういう子はグループのだれかに声かけられて召し上げられちゃう。そーするとあら不思議。猫背のオタクがバスケやってます顔の男子に大変身。並の魔女っ子からはちょっと遠い男子になっちゃう。そしてみんな諦める。男子はみんなかわいい子が好き。友だちとしては話してくれるけど、恋愛対象としては見てくれない。

 んでこの恋愛協定システム、ぶっちゃけていうとセックスやりたい協定も、魔女っ子・ブサイクともに、その存在を知るのはピラミッド中流以上の選ばれたメンバーだけで、底辺の子たちは相変わらず。男女間に壁をつくって、「愛は純真で精神的なもの」って信じて、ブサイクはブサイクで固まってアルノたちみたいな軽薄な女子を蔑んで、下っ端の魔女っ子は下っ端の魔女っ子で彼女らに媚びる男を蔑んだ。いっそ底辺のブサイクと底辺の魔女っ子でくっついてしまえばお互いの「やりたい!」をぶつけあって解消できるものを、顔ってまるで磁石みたいに、はっきりとS極N極ってゆー色分けされてないと引かれ合うこともなくって、そのS極でもない、N極でもない子たち、底辺にいる金属塊? 鉄くず? たちだって、「やりたい!」を顔にしたみたいなイケメン・美少女に惹かれて、それでいて自分たちは見向きもされなくって、自分たちの尊厳? 誇り? を自分たちの内面に求めて、より一層闇の深いオタクになっていったのでした、みたいな。

 そしてこの、底辺のブサイクと底辺の魔女っ子が、恋愛に対する深い思慮を語り合って、そこにシンパシーみたいなのを感じて打ち解けるかってゆーとそうでもなくって、たとえばカラダの接触だったらどこが感じる? どんなプレイする? って具体的に語れるけど、お互いに異なる闇を持った者同士が、独自に錬成した「内面」を語るわけでしょう? それはたとえば、一方は「メカの変形合体と多元宇宙の解釈」で、一方は「戦国時代に散った武将の歴史のif」だったりするわけでしょう? まあ、打ち解けるはずがないよね。お互いに「これなら顔だけの軽薄なヤツのほうがまだいい」とか言い出して、それはもう考え方もアルノたちと変わらないわけで、よくよく考えるとそこにあるのはピラミッドじゃないんだよね。非モテが勝手に掘ってはまった穴があるだけで、非モテが「ピラミッドの頂点」と思ってるのはただの「地表」だよ。

 

「ちょっとアリスロッテ!」

 って、声をかけてきたのは乗箒ほうきライディング部の部長、フレア・ヴァーミリア。

 学園の魔女っ子4人のうちのひとり、何を隠そうウィッチ☆ルビーの真の姿。前巻でわたしと戦って敗れたひと。

「敗れてない! あなたの仲間3人が乗り込んできたせいでしょ! あんなのフェアじゃないわ!」

 地の文にリアクションするな。

「地の文だってちゃんと読めるの!」

 ええっと。魔女っ子のレッドポジションなので、直情的で熱血でがんばりやさん。あと、地の文が読める。いまは乗箒ほうきライディング部を作ってその部長。部員の4人を引き連れて、わたしの前に立ちふさがる。

「あ、うん。ごめんごめん。ところでどうしたの?」

「部費が足りなくて箒が買えないの。わたし入れて部員は5人なのに箒3本しかないのよ!?」

「それねー。わたしたち、トビチノ村からの株分けでしょう? トビチノ村って自給自足の村だからお金がないのよ」

 一応、駄菓子屋だけで使える「円」という通貨はあったが、外で流通してる金貨の1万分の1の価値しかない。金貨1枚が1万円。

「でも錬金術部は、フラスコもビーカーも新しいの買ったって聞いたわ。アルコールランプも!」

「錬金術部はレイチェルがやってるから、溜め込んだ円を換金して自前で買ってきたらしいの」

「自前で~っ!? そんなぁ、それじゃあわたしたちの国はこれからどうやって欲しいもの手に入れるのよう!」

「箒だったら自分で作るって手があるしぃ……」

「却下! それじゃあ古文書部なんかどうすんのよ。古文書自分で書くわけ? 水泳部は? 水着作るの? 布はどうするの? 織るの? 糸は? カイコ育てるの? 桑の葉はどこから採ってくるの? 輸送用の馬車はどうするの? 作ればいい? 馬は? ブサイクに引かせるつもり?」

「うーん。あんまり考えてなかった。ちょっとレイチェルとも相談しておく」

 

 雨も上がって、外出。レイチェルの家まで。

 魔法院出身の魔女っ子たちと違って、レイチェルはトビチノ村の駄菓子屋の子で、魔法は使えない。それでも、コートとふたりで暮らすためにこの村に来て、わたしたちの真似して錬金術部を作った。パートナーのいる子には家が与えられる。ほかの子は寮。コートと暮らしてるレイチェルにも家がある。わたしが決めたルールでもあるんだけど、ちょっと悔しい。と、因縁浅からぬ関係だけど、駄菓子屋やってるおかげで村の外とも仕入れ等々の交流があって、こういうときは頼らざるを得ないのよね。

 こんこんこん。

「あ、アリスロッテさん。ひさしぶりです」

 出てきたのはコート。コートはこの村の村長で魔法も使えることは使えるみたい。あんまり使ってるとこ見たことないけど。元彼ってゆーか、両想いだったはずなんだけど、いろいろわけあってプラトニックなまま、ぽっと出のレイチェルに掻っ拐われた。

「レイチェルいる?」

「あ、いや、いま出かけてますけど、すぐ帰ると思います。どうぞ上がって下さい」

 コートはわたしが見たことない服着てる。レイチェルの趣味? 似合わなくはないけど、なんか、他人になったみたい。部屋に入ると、そこもやっぱり他人の部屋。ベッドカバーとか、壁紙とか、とうぜんわたしとは趣味が違うし、コートの部屋にあったものとも違う。壁にはクッピーラムネのポスターが貼ってある。

「今日はどんなご要件ですか?」

「うん。学園の備品関連のこと。どうやって揃えようかなって」

「ああ、大変そうですね。僕も手伝えることがあったら言ってください」

 と、コートはお茶を出してくれる。わたしが見たことないティーカップ。一緒にお風呂にも入ったし、ドラゴンに攫われたの助けたのもわたしだし、コートだってあんなにわたしのこと思ってくれてたのに。それなのにコート。なんでよ、もう。

「最近どうですか?」って、コート。

「いつも通りかな」

「なにごともなければなによりです」

 あーあ。なにこの他人同士の会話。

 なんて思ってたら、ガチャっとドアが開いて「ただいまー」って、レイチェルの声。

「あ、お邪魔してるよー」

 気まずい。

「あら、ようこそ我が家へ。はじめてだっけ?」

「引っ越しのとき、なーんもない部屋を1回見ただけ」

「女子寮はどう? また共同便所横?」

「今回は便所からいちばん遠いとこ」

「便所って。トイレって言いませんか? 化粧室とか」

「男の子はすーぐカッコつけたがる」

 学園の備品の話は、まずは外で流通してる金貨ゴールドを稼がなきゃいけないって話になって、そのへんは学校の理事やってる魔女っ子3人も加えて話すことになった。小難しい話なんで、まあ、適当に流して。

「それでアリスロッテ。それとは別に相談があるんだけど、あとで錬金術部の部室に来てくれない?」

 レイチェルの言葉に、コートが耳をそばだててる。

「あ、うん。いいけど、どんな相談?」

「女の子同士の話」

 レイチェルは少し悪戯に笑った。

 

B これからのこと

 レイチェルとの約束の時間まで、まだ間がある。

 学園はブサイクたちが突貫で作ってくれたもので、ほぼ完成してる。なんたって前巻ではメソメソポタポタミャアミャア文明の女神像に仕組まれた転送装置を蘇らせた子たちだ。神代のエルフや太古のノームに匹敵する謎の技術を持っている。と、そんな彼らの尽力でまあ、外面は出来てきたけど、学園というからには授業もちゃんとしたいし、カリキュラムも考えないといけない。やることいっぱいだね、アリスロッテ、って、コートのことなんて忘れて前を向かなきゃって思い直した上手いタイミングで、グレイスとでくわした。

 グレイス・ミストは魔女っ子のひとり、ブルーポジションのウィッチ☆サファイアに変身する。知的でクールな優等生で、前巻ではわたしの先輩3人組とそこそこいい勝負をしたエリート魔女っ子。古文書部の部長で、風紀委員長兼任、それで図書館の管理も担当というスーパー優等生。

「ところで、ここの本ってどこで仕入れてくるの?」

「スーサの塔とニコラス・ケイジ天文台にあったものをそのまま借りパク」

「ひでえ。優等生ひでえ」

「鍵も持ってるから、夜中に忍び込んで何冊か追加してある」

「倫理観は?」

 これからの学園の運営のこと話すと、「魔法院に知り合いのアテンディングがいるから、声をかけておく」って。アテンディングってのは、教授見習いとか、そういう意味らしい。

「見習いのみんなを魔女っ子にしてあげたいの」と、エリートの瞳がキラキラ。

「だよねー」

「そのためには、見習いの封印を各自3つ解かなきゃいけないんだけど、これを解けるのが第12階位以上の魔法使いで、わたしじゃ無理だから」

「グレイスたちって何階位だっけ?」

「2階位」

 下から2番め。魔女っ子見習いは1階位。いままで聞いたなかでいちばん高いのが、カルガモっていうクソジジィの31階位なんで、いやあ、先は長い。ちなみにわたしは魔法院に籍がないから階位はナシ。そしてしばしの沈黙ののち。

「アリスロッテ。あなた、ヒミツは守れるひと?」って、グレイス。真剣な目。

「ええ、守れと言われれば」

「そう」と、静かに口に漏らして、一呼吸ののち。

「もし資金援助が必要なら、カイ州のマルロー伯に繋ぐことができる。……いろいろと問題のあるひとだから、反対する魔女っ子はいると思うけど、もし、どうしてもというなら」

「あ、うん、わかった――」

 問題ってなに? これだけの情報でなにをどう判断しろと? とは思うけど、それをフランクに聞けるほど親密じゃない。

「資金のことは、いろいろ当たってみる」

 ま! 当たるアテなんかないけどね!

 

 ついでなので温室。薬草部のヴェルデ・クローバーに会いに来た。

 ヴェルデはグリーン・ポジションの魔女っ子。ウィッチ☆エメラルドに変身できる自然を愛する癒し系で、ハーブティとケーキ作りが趣味。小鳥と心通わせるナチュラリスト。以前わたしと戦ったときは、先輩3人に瞬殺されてたけど、自力で生き返った。

「アリ姉、こんちゃ」

 出迎えてくれたのは、タルト・クローバーっていう魔女っ子見習い。魔女っ子唯一の男子で、ヴェルデの弟。2つ年下って言ってたかな。ヴェルデはたぶんわたしと同い年くらい。

「ヴェルデは?」

「ヴェル姉は水くみに。で、なにしに来たの?」

 見習い用の魔女っ子服を着崩した男子。たぶんわたしより年下だけど、身長はかなり高い。というか、わたしが小ちゃい。

「ここの薬草、売れないかなと思って、相談しに来たの」

「あ、いいよ。まとめて引っこ抜いてやるよ」

「あ、まって。ヴェルデに許可取らないと」

「そんなの、あとでいいって」

 と、タルトが薬草の前にしゃがみ込んだところで、

「タルト! わたしがいない間に勝手なことしないのっ!」

 ヴェルデの声。

 助かった。

 でもすでにタルトは2~3本薬草引っこ抜いてた。

「んもう! 悪い子!」

 ってヴェルデからゲンコツ食らって、「ちぇえっ」とか言って頭擦って、いつの時代の漫画だって感じだけど、まあ、いいか。とりあえずベンチに腰掛けて3人で話した。

「それでカクカクシカジカで、薬草をちょっと売れないかなーって思ってるんだけど……」

「そうねえ。薬草は買うと高いけど、売っても二束三文なのよねえ。売れるのは深根草ハルマラくらいかしら」

「魔薬じゃん」

深根草ハルマラだけで精錬するからよ。普通の回復ポーションだって半分は深根草ハルマラよ? これに遅効性を出すためのエルフシードと、中毒性を抑えるセルキーリーフを加えてある」

「そうなの?」

「そう。古代の戦記ものに出てくる『薬草』のほとんどは深根草ハルマラ。中毒症状が出てる描写もある。回復ポーションもわずかに中毒性があって、多用すると効かなくなる」

「ええ~っ! なんか芸夢王カードと違う!」

「あっちはゲームでしょう? 『薬草』の正体が魔薬だなんて知りもしないひとが作ってるか……あるいは知っていながらそうしてるとしたら、罪深いと思うわ」

「どうなんだろ。ゲーム作ってるひとってみんなバカだし、知らないんじゃないかな」

深根草ハルマラはそもそも栽培が禁止されてるからね。魔法院は特別な許可を受けてたから栽培できたけど、わたしたちはバレたら逮捕される。魔法院から勝手に持って来ちゃったけど、ちゃんと許可を受けるか、放棄するか決めないといけない」

「でも、深根草ハルマラでしょう? 許可が降りるとは考えられない」

「そうね。魔法院以外には国立の研究機関にしか許可は降りてないわ。でも、放棄したらもう回復ポーションも作れない。それはそれで困るでしょう?」

 これ、お金の問題というよりはもう、わたしたちが魔女っ子として存続できるかどうかってゆーアイデンティティの問題だ。

「じゃあ、パトロン探してパト活する?」って、タルト。

「それもいいかもね。デルクモの魔法院に匹敵する魔法学校作るって言ったら、卒業生欲しがる貴族はいっぱいいると思う」

 って、ヴェルデ。でも、そう言いながらもなんか、明らかに乗り気じゃない風。

「それじゃあ、どこかの貴族から援助受けたりするの、どう思う?」

「うん……。まあ、しょうがないよね」

 んー。なんか乗り気じゃないなあ。でもさあ、いい話来てるんだよ?

「あの、これ絶対ナイショの話なんだけど、ヒミツにできるって約束できる?」

「ナイショの話ってなに?」

「他の魔女っ子にも言っちゃダメだよ? フレアにも、グレイスにも」

「うん。ヒミツって言うんだったら守るけど……」

「カイ州のマルロー伯って知ってる……?」

 って、言った瞬間にヴェルデが立ち上がった。

 え? え? え?

 も、もしかして……これなんか、マズいことだった……?

「聞きたくない! その話だったらほかのひとと決めて! わたしには結果だけ教えて!」

 そのままヴェルデどっか行っちゃった。これ、わたしが悪いの? つぎどんな顔して会えばいいの? グレイスにどう話せばいいの?

 

 結論は先送り。時間も時間だし、錬金術部へ。

 それにしても。女の子同士の相談ってなんだろう。てゆーか、わたしアタマのなか大混乱で、レイチェルの女の子同士の相談なんか聞いてる場合じゃないんだけど。

 こんこんこん。

「入っていいよー」

 錬金術部の部室を覗くとキャラメル色のおかっぱ頭が、フラスコやらビーカーやらをつないでなんか実験してた。

「なにやってんの?」

「錬金術の実験! いま、あんずボーとモロッコヨーグルを合成してるの!」

「それ、普通に混ぜればよくない?」

「いけないわ、アリスロッテ! あなたには探究心ってものがないの!?」

 探究心を発揮する場所がミニマムすぎると思うの。

「それより、相談ってなに?」

 レイチェルはアルコールランプの火を消して、キャスター付きの椅子に座ったままわたしのそばに来て、「いいから座って」って、いま合成したばっかりの「あんずボーモロッコヨーグル」をわたしのまえにトン。

「これ美味しいの?」

「わかんない。でもこないだのよっちゃんイカと梅ミンツの合成はそこそこいけたわ」

 とりあえず、ふたりでパクリ。ゔぇー。

「それより、相談って?」

「うん。彼のことなんだけどさあ」

 コートって言えよー。こっちまだ傷が癒えてないんだから、彼とか言われるとスンってなるんだよぉ。

「すごく淡白っていうか、真面目っていうか、なんかさ。不安になってくるの。向こうからアクションしてこないし、普通の食べ方しかしてくれない」

 それってエッチな話なの? 駄菓子の話なの?

「梅ジャム塗って舐めたりとか、道具使ったりとかもない。わたしからいろいろ提案しても『そんなものはフィクションですよ』とか言われて、もしかしてわたしだけ変態なのかなって」

 ねえそれ、駄菓子の話? 駄菓子の話でいいの? 

「いや……ひとそれぞれ……だから……?」

「それで思ったんだけどぉ、わたしってもう何人か経験してるじゃない? でもコートはわたししか知らないの。コートもいろんな経験積んだら、もっと乱れるっていうか、解放されるっていうか……あー、難しいな。そうじゃないな。ぶっちゃけわたし、コートが他のオンナとチュッチュゼリーしてるとこ見てみたいの」

 うわーん、どっちなんだー。

「でも、知らないオンナだとちょっとハードル高いじゃない? そこでアリスロッテ。あなたよ。コートとはチョコバナナしないまま別れたんだよね?」

 う、ううう……。なんかぜんぶ下の話に聞こえる……。それにわたし、ずっと両片思いだった幼馴染同士だと思うからこそ譲ったのよ? あんたがそんな子だと知ってたらわたし……。

「どう? ふたりでコートの経験値をアップしてあげない?」

「でも……」

「この先わたし、我慢できなくて、他のコにも駄菓子あげちゃうと思うんだ。でも、コートがわたしに一途だと、わたしだけ裏切ったみたいになるじゃない?」

 その理屈、わかるようでわからん。

「まあ、無理だったらフレアでもいいんだけど……」

「わたしがやる!」

 しくしくしく……。

 コートのためかどうかはわかんないけど、どうせ他のオンナとやるんだったら……。こんこんこん。こんこんこん? ノックの音? だれだろう。

「はーい。入っていいよー」ってレイチェル。

 ガラガラガラってドアが開くと、見習い魔女っ子がひとり。

「おじゃましますー。郵便部ですー」

「そんな部まであるんだ」

「アリスロッテさんに、天文部からメモを預かってきましたー」

「天文部?」

「あ、そうそう。ちょっと惑星の観測を頼んでたの」

「観測って?」

「じゃあ、これ」って、郵便部はメモを手渡すと去ってった。

「なになに?」

 と、レイチェルに覗き込まれながらメモを開くと、そこにあったのは――

 

 ――人類滅亡まで、あと722日

 

「えっ? これ、どういうこと?」

 


困惑するアリスロッテシリーズ①

魔法のアバンチュール

困惑するアリスロッテシリーズ②

処女聖アリスロッテの帰還

@sonovels
さよならおやすみノベルズという個人小説レーベルで地味に書いています。サイトで読めばタダ。Kindleで100円。 sayonaraoyasumi.github.io/storage