フライング編
草石ナリオ「はい、そんなわけで草石(くさいし)ナリオと与久(よく)マナブのコーナーのはじまりでーす!」
与久マナブ「せ、先生っ……」
草石ナリオ「えー、みなさん地の文だらけでお疲れでしょうから、この先は、えー」
与久マナブ「先生、早いです」
草石ナリオ「小生、草石ナリオと与久マナブの……はい?」
与久マナブ「ぼくらの出番は、次の章ですよ」
草石ナリオ「次の章?」
与久マナブ「そう! 第4章、『お話を書いてみよう!』から登場するんです」
草石ナリオ「ということは……」
与久マナブ「出番間違っちゃってます」
草石ナリオ「あー。マナブくん、またやらかしちゃったわけだ」
与久マナブ「ぼくが? そうじゃないですよ、先生がやらかしたんですよ」
草石ナリオ「先生が? 小生が? はて?」
与久マナブ「はて? じゃなくて、いったん引っ込みますよ!」
草石ナリオ「ああ、はい」
与久マナブ「さあ! 行きましょう!」
本編のはじまり!
草石ナリオ「ナリオとー」
与久マナブ「マナブの~!」
草石+与久「お話書いてみよ~っ」
与久マナブ「――のコ~ナ~!」
草石ナリオ「そんなわけで、やっと出番だよ、マナブくん」
与久マナブ「ええ、この第4章では、実際にどんなお話のパターンがあるか、書きながら考えてみよ~、というテーマでお送りします」
草石ナリオ「おお、いいねぇ。じゃあ、やってくれたまえ」
与久マナブ「……」
草石ナリオ「……」
与久マナブ「先生がやるんですよ?」
草石ナリオ「おお、小生が? そうか、小生がやるのか」
与久マナブ「先生、フライングまでして、いったいなにを楽しみにしてたんですか」
草石ナリオ「いやいや、こういうのはね、シナリオライターあるあるなんだよ」
与久マナブ「こういうの?」
草石ナリオ「仕事くれくれうるさいのに、いざ仕事回したらなにもしない」
与久マナブ「それ、先生だけですよ」
草石ナリオ「欲望に正直な男!」
与久マナブ「ああ、はい。とにかく先に進めます。ゲームにもいろんなお話がありますが、定番的なお話にどんなものがるか、順に見ていきたいと思いまーす」
草石ナリオ「おお、いいねぇ。やってやって」
与久マナブ「……」
草石ナリオ「……」
追われている少女を助ける
草石ナリオ「まず挙げられるのは、ド定番。『追われている少女を助ける』だね」
与久マナブ「この本でもマクガフィンのコーナーで出てきましたね」
草石ナリオ「別名、カリオストロパターン」
与久マナブ「先生、別作品のタイトル出すのやめときましょうか」
草石ナリオ「このパターンは、少女が追われている、助ける、すると謎を残して去っていく、調べているうちに巨大な事件が明かされていくという展開で、ほぼなんにでも使える最強パターンなのだよ」
与久マナブ「これ、少女でないと駄目なんですか?」
草石ナリオ「構造的には老人でも少年でも行ける気はするんだけど、まあ、たいがい失敗するだろうね」
与久マナブ「そういうの、差別ですよね」
草石ナリオ「なにを言うかね、マナブくん。現実世界でも少女は苦しめられ、追われているのだよ」
与久マナブ「ハッ……!」
草石ナリオ「気持ち悪いオタクに」
与久マナブ「それ、言わないでください」
草石ナリオ「現実の残酷さが、創作の残酷を生み出す。そこに切り込んでいくのが主人公ではないかね」
与久マナブ「なるほど、ぼくの考えが足りてなかったです」
草石ナリオ「まあ、少女が追われているとなると、オタクは食いついてくるからね」
与久マナブ「オタク愚弄するのやめてもらっていいですか?」
草石ナリオ「このパターンの優秀なところは、キーアイテムを渡しやすいところにある」
与久マナブ「キーアイテムというと?」
草石ナリオ「通称クラリスリングと言われるあの指輪とか」
与久マナブ「あー、確かに。これが仮に『転校生の紹介から始まるパターン』だったら、指輪なんか渡せませんものね」
草石ナリオ「まあ、やるとしたら、初日に校舎裏に呼び出してボコボコにして、ポケットの中あさったら指輪が入ってたとか」
与久マナブ「主人公、超絶なワルじゃないですか」
草石ナリオ「それを別の生徒に売りつけてタバコを買う、と」
与久マナブ「で?」
草石ナリオ「……と、転校生から始まるパターンではキーアイテムを渡せない、という話だよ」
与久マナブ「いや、主人公がクズすぎましたよ」
草石ナリオ「とにかく、小生はこの『追われている少女を助けるパターン』、とくにネタがないならこれで行っとけっつーくらいに推奨しておる」
与久マナブ「なるほど! 覚えておきます!」
潜入ミッションから
草石ナリオ「で、つぎはこれ、もう、究極」
与久マナブ「究極というと?」
草石ナリオ「イチオシよりも更にオススメ」
与久マナブ「簡単に前言を塗り替えないでください」
草石ナリオ「潜入ミッションから始まるパターン」
与久マナブ「潜入ミッションから……?」
草石ナリオ「ゲームではすごくよくあるパターン。敵の秘密基地に潜入せよ、みたいなミッションの、敵基地目前からスタートする」
与久マナブ「ああ、なんかそんなゲーム遊んだことある気がします。これのどこがオススメなんでしょう」
草石ナリオ「まず、チュートリアルができる」
与久マナブ「チュートリアルというと……」
草石ナリオ『OK、潜入は成功したみたいね。扉があったらAボタンで開いて中に入って』
与久マナブ「司令部の女性がインカムで話しかけてくるやつですね?」
草石ナリオ『敵が見えたらXボタンで攻撃、Kボタンでキック、Mボタンでグレネードが使えるわ』
与久マナブ「先生! そんなボタンありません!」
草石ナリオ『左スティック下は自爆スイッチよ』
与久マナブ「うわー、押しちゃったーっ」
草石ナリオ「潜入ミッションパターンのもうひとつのメリットは、ボスを登場させられること」
与久マナブ「なるほど、序盤で派手なバトルを見せられるわけですね?」
草石ナリオ「そう、ここで巨大だけど素人にも倒せるハリボテと戦う」
与久マナブ「あんまりなこと言わないでください」
草石ナリオ「……と、これでゲームの操作方法も身につくし、ミッションを受けて潜入して敵を倒す、バトルで勝つとどんな報酬がもらえるかもわかる、と、30分程度でゲームの中味が把握できるわけだ」
与久マナブ「たしかに便利そうです! でも、肝心のお話がよくわかりませんよね」
草石ナリオ「そこはちょこちょこ挟まる思わせぶりなセリフで惹きつけるのだよ」
与久マナブ「たとえば?」
草石ナリオ『またあの女に騙されたネズミが迷い込んだか……』
与久マナブ「おっ!? 司令官のお姉さんにじつは良からぬ企みが!?」
草石ナリオ『……ぐふっ……この装置はおまえにくれてやる……』
与久マナブ「ボスがなにか残した?」
草石ナリオ「そう! 開始30分でなにもかも見せるのが、いまのゲームの潮流と言って良いだろう」
与久マナブ「ですよね。出し惜しみはよくないです!」
草石ナリオ『……よく聞け主人公……この装置を開発したのは、おまえの司令官の父親で、司令官はその実験中に命を落とし、おまえに司令を与えているあの女はアンドロイドだ』
与久マナブ「うわ! ぜんぶネタばらしした!」
草石ナリオ「開始30分でなにもかも見せる!」
与久マナブ「だからってストーリーまで!」
草石ナリオ「そこから始まる愛の形があってもいい」
与久マナブ「なんの話ですか、先生」
親の仇と間違えられる
与久マナブ「なんていうか、いきなり救助とかいきなり潜入とかじゃなくて、もうちょっとおとなし目なのないですかね?」
草石ナリオ「えー、じゃあ、『親の仇と間違えられる』はどうかね?」
与久マナブ「おお! 時代劇でありそうなパターンですね?」
草石ナリオ『やあやあ我こそは越前屋カニ之介が娘、越前屋カニ乃なり! 貴公をオフランス公国お花畑騎士団聖騎士オマール・エビィとお見受けする! 亡き父の仇! いざ尋常に勝負勝負!』
与久マナブ「どんな世界ですか」
草石ナリオ「これ、主人公が間違えられるパターンと、主人公が間違えるパターンがあるんだねぇ」
与久マナブ「このパターンの利点はどんなところでしょう?」
草石ナリオ「まず、ド頭に戦闘シーンを挿入できる」
与久マナブ「あ、これもまた戦闘からですか」
草石ナリオ『リアクター出力120%……全衛星ターゲット補足! 聖騎士オマール・エビィ! お覚悟をっ!』
与久マナブ「越前屋の娘、何者ですか」
草石ナリオ「そして主人公は無実の罪で重粒子線砲を雨のように浴び、バトルの途中で越前屋娘が『なにかおかしい! もしかして!』と、気がつく」
与久マナブ「主人公、生きてますか?」
草石ナリオ『このひとじゃない……顔が違う……』
与久マナブ「娘、どこで主人公を仇だと判断しました?」
草石ナリオ「そうそう、そういうところをアフターバトルのトークで説明できる」
与久マナブ「アフターバトルって」
草石ナリオ「唐突に仇だと間違えられたら、その話を聞くしかないじゃない? それにもう、聞いちゃったら無視できないじゃない?」
与久マナブ「つまり、強引に物語に引き込むことが出来る」
草石ナリオ「あっ!」
与久マナブ「どうしました?」
草石ナリオ「これ、現実の出会いにも応用できんもんかね?」
与久マナブ「先生、問題発言です」
いじめられている子を助ける
草石ナリオ「あと、ちょっとこれ、追われてる少女を助けるパターンと似ているのだけど、『いじめられてる子を助ける』というパターンがある」
与久マナブ「うーん……。似てるというか、同じでは?」
草石ナリオ「いやいや。違うんだよ。なぜならこちらは少女でなくても成立する」
与久マナブ「なんと!」
草石ナリオ「いじめられてるのは少年でもカメでも、なんならチューブの前田亘輝でもいい」
与久マナブ「前田亘輝いじめませんよ、普通」
草石ナリオ『やーいやーい、悔しかったら冬のうた歌ってみろーっ! 紅白出てみろーっ!』
与久マナブ『うるさいやい! 紅白出たことあるもん!』
草石ナリオ「えっ? 出たことあるの!?」
与久マナブ「出ましたよ。家族と見ましたもん」
草石ナリオ「まってまって。なに歌ったの?」
与久マナブ「夏を待ちきれなくて……」
草石ナリオ「いや、いくら待ちきれないったって、大晦日に……」
与久マナブ「本題に戻りましょう」
草石ナリオ「そうそうこのパターン、追われてるパターンよりも広い対象を取れるけど、むしろ少女がいじめられているとピンと来ない。不思議なことに」
与久マナブ「ああ、確かにそうですね。なんでしょうね、この非対称性」
草石ナリオ「ストーリーって自由に書けるように思えるけど、けっこうイメージに束縛されるのよ。このパターンだったらこのキャラクター、みたいな」
与久マナブ「で、このパターンの特徴は?」
草石ナリオ「これもバトルから立ち上がるのと、バトル後のアフタートーク」
与久マナブ「親の仇パターンといっしょですね?」
草石ナリオ「そう見えるが、親の仇パターンはどこかにいるはずの本当の仇が秘密を持っているのに対して、いじめ救出パターンは目の前の助けた子が秘密を持ってる風に描きやすいので、展開は速い。逆に親の仇パターンはじっくりと秘密に迫れる」
与久マナブ「なるほど。先生の作品っていつも展開が遅いですよね」
草石ナリオ「うるさいです」
告白の場面から
草石ナリオ「次はしっとりと、告白の場面からスタートするパターンじゃ!」
与久マナブ「おお! うれし恥ずかし告白!」
草石ナリオ「これがけっこう難しい」
与久マナブ「あ、そうなんですか?」
草石ナリオ「なんていうか、冒頭って物語のきっかけだから、物語全体のトーンを決めるのよ。それが告白とどう絡むのかが難しい」
与久マナブ「ぼくには先生の言ってることが難しいです」
草石ナリオ「物語ってのは、最初に開いた箱は最後に閉じるものなの。箱Aが開き、箱Bが開き、箱Cが開いたら、閉じるときには逆に、C、B、Aで閉じるの。冒頭『告白』で始まったら、最後はどう閉じるの? って感じじゃない?」
与久マナブ「でもそういうこと、普通は意識しませんよ?」
草石ナリオ「そうなんだよねぇ。だれも気にしていないのに、どうしてこだわっちゃうんだろうってのはあるよねぇ」
与久マナブ「そういえば、おジャ魔女どれみが告白シーンからスタートでしたね」
草石ナリオ「ところでマナブくん、2000年に任天堂から発売されたゲームボーイアドバンスソフト、マジカルバケーションというゲームを知っておるかね?」
与久マナブ「知りませんが」
草石ナリオ「……」
与久マナブ「あ、あとで調べるので黙らないでください、先生!」
草石ナリオ「いろんな世界を冒険するRPGなんだけど、冒頭が告白からなのよ」
与久マナブ「おお! うれし恥ずかし告白!」
草石ナリオ「告白するのはクラスメイトからクラスメイトへ、なんだけども、最後もそのふたりが重要なとこにいて、物語にも深く絡んでくる」
与久マナブ「いいですねいいですね! ドキドキします!」
草石ナリオ「でも、告白が深く絡むRPGなんてのはそんなにポンポン書けるもんじゃない」
与久マナブ「まあ、たしかにそうですね」
草石ナリオ「世界観のリードにもならないし、謎解きも始まらないし、バトルにもチュートリアルにも直結しない。なので、お手軽なように見えて難易度は高いし、ゲームの導入としても弱い」
与久マナブ「じゃあ、オススメはできない、と」
草石ナリオ「いやいや、オススメできないものを紹介するわけがない」
与久マナブ「でも、考えうる限り悪手なんですよね?」
草石ナリオ「まあ、だからこそ深い物語が書けるともいえる」
与久マナブ「告白から深い物語……?」
草石ナリオ「いやいや、バカにしてはいけないよ? 告白ってのは、好きになったけどそのことを言えない、どうしようっていうココロの揺れをあらわしているんだよ?」
与久マナブ「ええ、それはわかりますけど……」
草石ナリオ「フラれるかもしれない、ライバルがいるかもしれない、相手はなんだか輝いて見える、家庭の問題もあるかもしれない、学業との天秤もあるかもしれない、それは……この宇宙のすべてだとは言えないだろうか!」
与久マナブ「おお! 最後は大きく出ましたね!」
草石ナリオ「告白というシチュエーションは大好物なので、いろんな作家さんに提供してほしい」
与久マナブ「あ、そういう話でしたか」
草石ナリオ「マナブくんもぜひ、告白の話を書いてみてほしい!」
与久マナブ「はい! そういう素直な意見を述べる先生は好きです!」
草石ナリオ「きゅ、急になに言ってるの? そういうのマナブくんの思い込みでしかないんだからね!」
落とし物を拾う
草石ナリオ「次のパターンは、『落とし物を拾う』です」
与久マナブ「先生! なんか地味です!」
草石ナリオ「地味だけど、よくあるのよ、このパターン」
与久マナブ「拳銃を拾ったり、設計図を拾ったり、呪いのアイテムを拾ったり?」
草石ナリオ「わかっとるじゃないかね。そこから事件に巻き込まれていくパターンだよ」
与久マナブ「でも、ゲームではあまり見ませんよね」
草石ナリオ「そうだねぇ。サブクエの類では鉄板なんだけどねぇ」
与久マナブ「そうなんですか?」
草石ナリオ「ゲームの場合は落とし物ではなく、ドロップアイテムだったり、あるいはマップ上に配置されているものを調べたら、だったりするので、落とし物だとはあまり認識してないだけではないかね」
与久マナブ「なるほど、サブクエでしたか。メインの物語のお話が続いてたので、すっかり忘れていました」
草石ナリオ「ゲームってのは、セリフメインで進むので、話し相手がいないパターンはなかなかうまくことを運べない。なので落とし物ってのも、なかなかメインになり難いんじゃないかな」
与久マナブ「わかりました先生! 落とし物が話をすればよいのではないでしょうか?」
草石ナリオ「つまり、ええっと……」
与久マナブ「やってみましょう先生、先生が拾われたナニカで」
草石ナリオ「そうかそうか……えー……『わたしを拾ってくれてありがとう』」
与久マナブ『ああ、はい。ええっと、だれ?』
草石ナリオ『越前屋カニ之介の娘、カニ乃……』
与久マナブ『あー、もしかして、親の仇を探しているという』
草石ナリオ『貴公をオフランス公国お花畑騎士団聖騎士オマール・エビィとお見受けする!』
与久マナブ「ていうか、ぼくはなにを拾ったんですか、先生」
草石ナリオ「次はちょっとダメなパターンを3つ挙げてみよう」
与久マナブ「えーっ。ダメとかいってるとだれかのしっぽ踏みますよー」
清々しい朝から
草石ナリオ「まず、ド定番のダメから」
与久マナブ「ダメにも定番があるのですね?」
草石ナリオ「朝、日が昇り、ニワトリが鳴いて、目覚ましが鳴り響いてる場面から始まるやつ。これがもうぜったいダメ」
与久マナブ「なんでですか、オーソドックスないい始まりじゃないですか」
草石ナリオ「いやいや、ペンギン村じゃないんだから」
与久マナブ「御大に喧嘩売らないでください」
草石ナリオ「あれはいいの。パロディだから」
与久マナブ「ああ、なるほど。ニワトリじゃなくてブタさんが鳴いてましたもんねぇ」
草石ナリオ「同じように、学校でチャイムが鳴るとこからもダメ」
与久マナブ「それ、先生もむかし書いていませんでしたっけ?」
草石ナリオ「いや、あれはその、オーソドックスに始めたかったというか」
与久マナブ「先生、自分には甘いタイプですね?」
草石ナリオ「うっさい、次だ次」
ニュースの場面から
草石ナリオ「ニュースの場面から始まるのもダメ。ダサい」
与久マナブ「先生、ただオーソドックスが嫌いなだけでは?」
草石ナリオ「だって、ニュースって他人事だもん、主人公気づかずに味噌汁すすってオシマイでしょうよ」
与久マナブ「でも、その朝のニュースで見た怪人が、主人公の通学路に出現したりするわけでしょう? フハハハハハハ! とか言って」
草石ナリオ『ああーええっと……だれだっけ?』
与久マナブ「主人公、1ミリもニュース見てない!」
草石ナリオ「なんかそういうのは、ニュースじゃなくて、具体的になにが起きているか描いてほしいわけ。ニュースってのは『それがニュースになりました』って結果でしょう?」
与久マナブ「それをニュースでやってるんじゃないですか? 『○○小学校○年○組の田中くんがショッカーに改造されました。田中くんのインタビュー映像を御覧ください』って」
草石ナリオ「ああ……親友の田中くんが……」
与久マナブ『ナリオ➖️ッ! インタビュー受けてるの、同級生の田中くんじゃない?』
草石ナリオ「いきなり呼び捨てかね」
与久マナブ「いまのはお母さんのつもり……」
草石ナリオ「あ、ええっと。『ほんとだ……あいつ、改造されちゃったんだ……』」
与久マナブ『田中さんち共働きだから、それで改造されたんだわ……』
草石ナリオ『共働きだから改造された?』
与久マナブ「どうです?」
草石ナリオ「共働きだから改造された?」
与久マナブ「あ、やっぱり引っかかりますか」
草石ナリオ「しかしニュースでも、『どこで見てるか』によっては、そこがシチュエーションになるから、すべてがダメとも言い切れないねぇ」
与久マナブ「たとえば?」
草石ナリオ「女とシケこんでるときに、むかしの女がニュースに出てる」
与久マナブ「うわぁ。『○○商事○○課の田中さんがショッカーに改造されました』って……」
草石ナリオ「改造される以外のニュースはないのかね」
与久マナブ「次のニュースで、友人が殺されてる! 犯人はきっとショッカーに改造された田中さん!」
草石ナリオ「そこにノックの音が!」
与久マナブ「うわーあいつが殺しに来た!」
草石ナリオ「パニックになってると扉をあけたのは孫娘で……」
与久マナブ『おじいちゃん、どうしたの?』
草石ナリオ『げほげほげほ。なんでもない、持病の癪が出ただけじゃ』
与久マナブ「主人公、二十代にしてもらえます?」
夢はじまり
草石ナリオ「まあ、ニュースは仕込みようがあるからよしとしよう」
与久マナブ「あ、いいんだ」
草石ナリオ「夢はじまりだけはどうにもこうにも」
与久マナブ「いや、でも、夢だってオーソドックスですよ」
草石ナリオ「だって夢って、現実とつながってないんだもの」
与久マナブ「それがなにか問題でも?」
草石ナリオ「じゃあたとえば――ロトの血を引く勇者が、旅立ちの日に大福をたくさん食べる夢を見ました。そして目を覚まして、お城へ行きました――これ、夢の描写する必要ある?」
与久マナブ「もっと違う夢を見ましょうよ」
草石ナリオ「たとえば?」
与久マナブ「魔王が夢のなかでなにか告げるとか」
草石ナリオ「あー、へんな夢見たー、でおしまいじゃない?」
与久マナブ「いや、なんか意味はあるんですよ」
草石ナリオ「あのね、マナブくん。意味のある夢なんてものはないの」
与久マナブ「いや、だって、え?」
草石ナリオ「じゃあ、逆に、だよ」
与久マナブ「逆に」
草石ナリオ「魔王を倒したあと、魔王が夢に出てきて勇者を倒したらどうなるの?」
与久マナブ「あー、ええっと……それは夢だから無視して良いのでは?」
草石ナリオ「てことは、冒頭の夢を無視できないのはおかしい。はい論破」
与久マナブ「はい論破って」
草石ナリオ「物語は入れ子構造になっていて、最初に開いた箱は最後に閉じるの。だから夢ではじまったものは、夢でケリをつけなきゃいけない。でも夢でケリがつくとしたら、それは現実の物語ではないの」
与久マナブ「じゃあ、『同じ夢をクラスメイトも見ていた』ってのは?」
草石ナリオ「それはただの偶然だよ。マナブくん」
与久マナブ「他にも同じ夢を見たって生徒が……」
草石ナリオ「偶然だと言っているのがわからんのかね!」
与久マナブ「どうしてそんなに必死に……? もしかして先生も同じ夢を……?」
草石ナリオ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
与久マナブ「というのはアリなんじゃないですか?」
草石ナリオ「使い古されてるよ、こんなネタは」
与久マナブ「いや、このコーナーってそういうコーナーでは?」
転校生紹介
与久マナブ「先生、ダメなネタではなく、使えるネタが欲しいです」
草石ナリオ「じゃあ、定番中の定番、『転校生の紹介』から始まるパターン」
与久マナブ「おお! 冒頭のカットで、黒板に名前が書いてあるやつですね!」
草石ナリオ「そう、必ず縦書きされてる名前。あれ、転校してきたのが井伊直弼と Townsend Harris だったらどうするの?」
与久マナブ「知りませんよ、そんなこと」
草石ナリオ『ふたりは、朝廷の勅許無しでの通商条約を締結して、まえの学校を退学になりました』
与久マナブ「まえの学校、どこですか」
草石ナリオ「このパターン、初手でキーパーソンひとりを紹介できるというアドバンテージがある」
与久マナブ「なるほど、シナリオライターってそういうこと考えるんですね」
草石ナリオ「学校を紹介しながら、『あれがクラス委員の田中くん。水戸藩を脱藩してきたの』と、主要登場人物も紹介できるし……」
与久マナブ「きな臭くなってきました、先生」
草石ナリオ『これがこの学校の正門。桜田門』
与久マナブ『時は元禄十五年師走半ばの十四日!』
草石ナリオ『殿中でござる! 刀をお納めくだされ!』
与久マナブ「それはそうと、このパターン、学園ものにしか使えないので、ゲームでは難しくないですか?」
草石ナリオ「なにを言うかねマナブくん。学校でなくても、騎士団でも傭兵隊でもなんでもいいのだよ」
与久マナブ「あ、そうか」
草石ナリオ『今日からこの騎士団に配属された井伊直弼と Townsend Harris だ』
与久マナブ「またそのふたりですか」
草石ナリオ『ふたりは、朝廷の勅許無しでの通商条約を締結して、まえの騎士団を追放された』
与久マナブ「どこででもやらかすんですね」
草石ナリオ『クソッ! どんな世界線を選ぼうが桜田門外の変が起きてしまう!』
与久マナブ「ループものになってますよ」
草石ナリオ「よく気がついたね、マナブくん。じつは転校生紹介で始まるものとループものは相性がいいんだよ」
与久マナブ「そうなんです?」
草石ナリオ「魔法少女まどかマギカ、オール・ユー・ニード・イズ・キル、太陽に吠えろ……転校生から始まったら8割がたループものだと思っていい」
与久マナブ「先生、ちょっと違うの入ってます!」
草石ナリオ「と、見てもいなかった太陽に吠えろをネタにしたところで、前半戦の終了じゃ!」
与久マナブ「見てなかったんですか……」
草石ナリオ「後半戦は第8章!」
与久マナブ「懲りずにまた読んでね!」
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