中学のときの話はバレンタインデーの思い出に書いた通りだ。バレンタインデーからの1ヶ月のことを書こうと思う。
自分の学校では3月になると、卒業式とは別に、卒業生を送る会がある。朝から体育館を貸し切り、卒業生に向けて各学年で劇を披露したり、合唱を披露したりする会だ。
ここでそういった出し物に選抜される人たちは、教室で目立っている人たちだ。自薦だったか、他薦だったかは覚えていないが、無論自分は入っていなかった。
卒業生を送る会を1ヶ月後に控えた放課後、友達と2人で教室の隅っこで遊んでいたら、女子グループが「ミニモニ。ジャンケンぴょん」を流して練習し始めた。あー卒業生を送る会の練習かーなんて思いながら、その練習を茶化すような感じで教室の隅で、友達と真似して踊っていた。女子グループの中には密かに想いを寄せていたKさんもいたので、自分に気づいてほしいと思っていたのかもしれない。いや、激しく思っていた。
真似していたダンスもすぐに飽きて、2人で徐々にアレンジを加え、志村けんの変なおじさんダンスを取り入れた。部活を退部して暇を持て余していたので、教室の隅で何日かふざけて踊っていた。何日か経つと2人で始めたダンスも、人数が増え、最終的には6人に、そしてほぼ変なおじさんダンスの振付が完成し、女子グループも何それーと言って笑ってくれていたので満足だった。
ある日、ダンスパートを統括している担任の先生が練習風景を覗いて、僕らのダンスも見つかってしまった。「お前らさっきからなにやってんだ!」と言われたので怒られるかなと思ってビクビクしてたら、「それ面白いから、お前らもそのお笑いダンスで本番でろ!」と言われ、本番2週間前に出演することが決まってしまった。人前に立つのが苦手なのもあるし、ただの悪ふざけから、しかも「お笑いダンス」なんて言われてハードルも上がってしまい大変なことになってしまったと思いながらも、女子グループとは絶妙な距離を保ちつつ、つまり特に会話などはせず、本番まで練習をした。
披露するダンスが2曲あるとのことだったので、もう一曲を見せてもらったところ、カッコいい曲とカッコいいダンスだったので、僕たちは真顔でただ膝を横に曲げるだけのふかわりょうのネタのような振り付けにした。不安はありつつも、もしこれが成功したら、今までのクラスでのポジションが一変して世界が変わってしまうかもしれないという期待もあった。
そして迎えた本番当日、ステージの上では女子グループが、ステージの下では冴えない男たち6人がダンスを披露した。
結果は大盛り上がりだった。1曲目のカッコいい曲で、クスクスと笑いが起こり、2曲目のミニモニ。で体育館が爆笑に包まれ、完全にメインステージを食っていた。今まで注目されたこともなかったので本当に嬉しかった。
性質は違うが、映画のナポレオン・ダイナマイトを観ると、このときのことを思い出す。
片付けが終わった体育館のマットで、5人で寝転び、「この中で誰が1番先に童貞を卒業するんだろーなー」「卒業したら連絡しろよー」なんて話をしたのもいい思い出だ。高校に上がった頃、メンバーの1人から「童貞卒業しました!」とメールが来たが無視してしまった。無神経だと思う。あれから20年経つがこのメンバーとの繋がりは高校に進学以降今は全くない。
ちなみに片想いしていたKさんには、発表が終わった後に、「ダンスよかったよ!」と言われて肩を叩かれた。その後順調に親交を深め、2年生に上がった秋頃に、同級生の生徒会長と交際した。親交を深めたと思っていたのは自分だけだった。変わるかもしれないと思った世界はそう簡単に変わることはなかった。
しかし、ある時、ある人たちで、何かを起こそうと協力したあの青春のような経験は今も脳の片隅で鈍色の輝きを放っている。