野菜づくり講習会 初収穫

上村朔之助
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講習を受けて6週目になった。クワを使って土を耕し、畝を作る。そこへ、ナスや枝豆、トウモロコシを植えていく。クワの扱いにも慣れ、ひたすら土を耕したい気持ちだ。ほかの講習生とも打ち解けてきた。まだ5月だというのに、もう暑い。講師に聞くと10年前と現在とでは、栽培方法もまったく変わったらしい。気をつけなければ、プロの農家でさえ熱中症で倒れることがあるという。温暖化なのか、気候変動なのか。

すべての作業を終えて、2週目に定植したサニーレタスとリーフレタスを収穫した。 48歳にして初めて自分の手で植えた野菜の収穫である。晴天に映え、一列に並んだ畝のレタスは美しく、講習生たちは皆、笑顔になった。大きな袋に二つずつ詰めるとパンパンになった。さっそく家に持ち帰り、レタスを使ったメニューを考える。まずはサラダだ。サラダボウルにしよう。レタスを敷いて色々とトッピングしよう。

ドレッシングを作る。黒酢、メープルシロップ、オリーブオイル、しょうゆを適当に混ぜ合わせて味見をする。いい塩梅。彩りも考え、ゆで卵と、赤と黄色のプチトマトを切る。クルトンをまぶし、パルミジャーノチーズをスライスして出来あがり。一口食べる。うん、おいしい。初収穫の嬉しさのあまり、ごてごてしすぎた感も否めないが、たまにはいいだろう、お祝いだ。

二日目は、豚肉を蒸してレタスで巻いて食べることにした。「肉のハナマサ」によって肉探し。豚ウデという部位は、グラム89円でお手頃だった。脂の乗りが良さげな1キロの塊をカゴに入れる。今日はシンプルにしよう。白菜と小ねぎを購入。豚ウデに塩をすり込み、白菜をざく切りにして、スライスしたショウガを乗せて一時間ほど蒸す。その間に、自家製味噌唐辛子を作る。韓国粉唐辛子と和辛子を鶏ガラスープに溶かして、にんにくをすりおろす。準備はこれだけ。豚肉がいい感じに蒸し上がった。一口サイズに切る。出来あがり。新鮮なレタスで蒸し豚と白菜を巻いてがぶり。豚の脂がほどよくおいしい。これはいくらでも食べられそうだ。

講習会は始まったばかりだ。来年の3月までさまざまな野菜を収穫することになる。一年間の講習が終わると、世田谷区の「農業サポーター」になり、区内の農家のボランティアができるようになる。ひょんなきっかけで昨年の8月から一人暮らしを始め、毎日欠かさず自炊するようになった。そうすると、自分で育てた野菜を調理したいという欲望が湧いてきた。そこに偶然、世田谷区のXアカウントから「野菜づくり講習会」の告知ポストが流れてきた。渡りに船と応募。200名の中から30名という狭き門に当選。生活の幅がひろがった。

わたしが病みつきになってきたものはインコや短歌、詰将棋創作、ボウリングなどで、それらとの出会いはすべて偶然だった。しかし、これは今までの人生で体感したことがない得体のしれない「なにか」があるのではないか、という無意識の嗅覚がはたらいて、その偶然を見逃さなかったのではないかという思いが最近になって深まっている。それが生得的なものか、育った環境によるものなのかは分からない。しかし、最近わたしが傾倒している唯識仏教の「縁起」の思想を援用すると、すべては繋がっていることに気づく。

かつて愛したインコの大好物だったレタスを、これもまた必然だったのかもしれないと、ふと思いながら手に取る。静かにちぎる。

@tai
1975年生まれ。兵庫県芦屋市出身。10代を神奈川県葉山町で過ごす。県立横浜緑ケ丘高校卒業、日本大学芸術学部放送学科中退。映像ディレクターなどを経て、現在は成城の有閑マダムと茶飲み話をするだけの簡単なお仕事をしています。Xにて、ぴよぴよホームズ代表取締役社長として活動中。 @taikichiro