しずかなインターネット

日記やエッセイにちょうどいい
文章書き散らしサービス

ログイン

2026/09/08 国宝 青春篇 / 花道篇

たーんえー
·
公開:2026/9/9

映画『国宝』の原作小説を読んだ。うーん、面白い。映画も良かったと思うが、自分は原作の方が好きだな……

原作は『青春篇』『花道篇』の2巻構成。当然映画より話のボリュームは大きく、映画ではかなり大胆な再構成が入っている。主人公の喜久雄と、花井家の息子の俊介の2人を中心とした物語なのは共通だが、映画が"その2人の物語"として絞って描いていたのに対し、原作は周辺の人物についても丁寧に描かれていて、より群像劇的だったと感じた。

特に重要な人物としては、映画で序盤に喜久雄と一緒に宴会で歌舞伎を踊っていた徳次がいる。原作だとその後一緒に大阪に来て、その後も喜久雄の傍で、絶対の味方として支え続ける貴重な人物だった。喜久雄が辛い立場に置かれるパートが長々とあるが、その期間信頼の置ける徳次がいるかいないかでもう印象が全然違うので、(尺の都合とはいえ)カットする判断は大胆すぎるな……と思った。

また、原作では女性たちの奮闘も映画と比べてしっかりと描かれている。俊介の妻となった春江が歌舞伎役者の妻として一人前になる様子だったり、父の後ろ盾を得るために喜久雄に近づかれた彰子が喜久雄を支え続けることを決めたり、喜久雄の娘の綾乃がグレたり、結婚したり。加えて、歌舞伎以外の世界との関わりの描写もある。喜久雄が映画に出たり、新派に移ったり、オペラ歌手と共演したり。またお笑い芸人や力士と関わりがあったり。歌舞伎役者としての生き方だけでなく、それを支える者としての生き方、全く別の世界の生き方、様々な人の人生が描かれていた。

物語を構成する要素がとても多く描写も細かめな分、全てが綺麗にまとまっているわけではないと思う。だが、そうした様々な過程があり、長い年月が流れたからこそ、喜久雄が最後に辿り着く地点があるのだと思わせる、確かな筆力があった。でも人生ってそういうものなのだろうな…………瞬瞬必生だ(何でも平成ライダーくん)。

自分はつい最近歌舞伎を生で見たばかりだが、その演目「春興鏡獅子」も原作では登場していた。通常1人で踊る演目を、作中では喜久雄・俊介の2人で踊ったとのこと。実際に見た演目が出てくると嬉しくなるし、イメージも湧きやすいな。逆に、歌舞伎を(映像ですら)見たことがないと、作中の描写だけでは想像が難しそうだと思う。映画では歌舞伎の舞台を映像で伝えられるため、この点は小説と比べた圧倒的な強みだった。

この小説は、字の文が語りのような口調になっているのも特徴だ。自分は普通に文字で読んだのだが、Amazon Audibleでの朗読は現役の歌舞伎役者の方が務めている。Audibleで聴くと、それはそれで雰囲気が出る……かもしれない。