ベトナム奇行備忘録 [3] からの続き
旅に出ると、世界遺産や有名観光地よりも生活感のある路地や民家に惹かれる。そして現地の人と関わった思い出の方がずっと記憶に残る。わたしは比較的人間が好きな方ではないと思ってきたけれど、もしかしたらそうでもないのかもしれない。気怠そうな市場の店主や、道端に座り込んで雑談する人たちを羨望の目で眺めてしまう。あのゆるさがなんともうらやましい。
とくにベトナムは親切な人がやたら多い印象を受けた。と同時に、菊川警戒(リスクマネジメント)センサーも律儀に発動するのだった。
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ダナンでも食事は市場を目指した。地元の台所としてグルメが集まるコン市場とのことで大変な賑わいだ。この街に住んでいたら、朝昼晩の食事には困らないだろう。

菊川女史によると、ダナン名物は茹で豚だそうだ。茹で豚の店は席が埋まっていたけれど、ここはベトナム。「んじゃ、あの店のテーブルで食べな」という感じで近場の他店のテーブルへ誘導される。街の小さな店も同じだったが、市場の店の人たちもきっと持ちつ持たれつなのだろう。素晴らしいね!
あとから来た同席のお兄ちゃんたち4人組に料理が先に出てきた。「ん?」と思ってたら、1人のお兄ちゃんが席を立って「この人たちのまだきてないよー」と茹で豚屋の店主に報告に行ってくれた。年は20歳を過ぎたあたりだろうか。彫物があったり(ベトナムの人は多い)少しやんちゃな雰囲気もあるがずいぶん親切な若者もいるものだ。
茹で豚はモーレツな量の野菜といっしょに、2枚のライスペーパーに巻いて食べる。1枚は日本でもお馴染みの乾いた薄いペーパー。もう1枚は少し分厚くてプルンとした生のライスペーパー。こちらは重なっているので、ベタベタ張り付いててやたら取りにくい。ちょうど冷えピタのような質感だ。

そしたらまたお兄ちゃんが教えてくれた。乾いた薄い方をプルンペーパーに重ねると、2枚がくっついてプルンもスッと剥がせるという。なるほどこれは見ただけではわからんな。おかげでさまざまな食感を楽しめたし味もすこぶる良かった。ベトナムで食べたトップ2に入る。
そのあとも、お兄ちゃんたちは写真を撮ってくれたり何かとやさしい。いや、やさしいというより、なんというか「ボクたち善行やっとります」という生真面目なイメージは皆無で「ほら、こうやんの」とか「スマホ貸してみ。撮ってやるよ」という感じで自然なのだ。親戚の集まりで甥っ子が世話を焼いてくれるような愛おしさがある。大変な好感度だ。異国から来たおばちゃん軍団に我が息子はこのような行動ができるだろうか?
●菊川女史によるただならぬ『最強』警戒心 その6
ベトナム奇行菊川警戒もバージョン6となった。わたし的には、彼女の妄想力がピークに達したのもこの日。恩を仇で返すという点でも最強だったエピソードをここに残したい。
我々が食後のデザート的にジュースなどを楽しんでいる時に、お兄ちゃんたちは次々に席を立って行った。
センサー発動である。
菊川さんが早速、(彼らのカメラでもいっしょに写真を撮ったため)「虹彩(目の生体認証)を取られた! 悪質な犯罪に使われるかもしれない!」と騒ぎ出した。なんという猜疑心であろう。「んなわけねーだろ!」などと笑っていたら、テーブル周辺が少し騒がしくなっていた。
3店舗のお姉さんたちが大声で話している。彼女らの顔がみるみるうちに険しくなり、それから怒りの表情へ変わっていった。ベトナム語なのでまったく想像の域ではあるけれど、どうやら「ちょっとあんた、ウチのお金払ってもらった?」「いやもらってない」「えーマジ? 」「そっちは?」「わたしももらってないよ!」「じゃああいつら食い逃げ?」「ヤラれたーーー!」という雰囲気だ。これは大変だ。何が大変かといえば、菊川さんの虹彩猜疑心が確信に満ちピークに達してしまった点だ。

お兄ちゃんに撮られた虹彩。菊川先生はこの写真をアップしたら足がついてさらに悪用されるかもしれないからアップはやめようと言っていましたが。が。載せます。
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結果的に彼らは、金を払わず帰っていった。これはまちがいない。けれどもわたしは、故意に『食い逃げ』したとは思っていない。
まず、1人はパックに入った弁当のようなものをどこかから買ってきてあとから席に着いて食べていた。なのでとりあえず彼は無罪。そして他の3人も、わたしたちにバイバイしたり、店の人に「ごちそうさま」みたいな言葉を交わしたりしてゆっくりと席を立った。1人は携帯でもいじっていたのか少し時間差で店から離れている。もし『食い逃げ』を企てていたなら、一斉に、しかもスピーディーに出ていったはずではないか。
また、彼らはこの市場にはかなり慣れていた。これは推測だけど、市場のお姉ちゃんたちとも顔見知りだったような気がする。そんな身バレしている彼らが『食い逃げ』などするだろうか? 誰かがまとめて払ったと思い込んで店をあとにしたに違いない。というのがわたしの贔屓目で見た推理である。
イスクラさんも菊川さんもわたしの力説に納得していたような気がする。無銭飲食はしたけど、故意ではないので原則無罪のジャッジとなった。

わからんけど。でも、大変記憶に残る良きエピソードでした(菊川含む)。
ベトナム奇行、まだまだ続くんです。
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イスクラさんによる「ベトナム紀行」と「バインミー&コーヒー」のZINEが出ました。わたしたちもガッツリ載ってます。こちらはしっかり時系列。世界遺産の観光地やトータルの経費なども掲載されてます。
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この日記の一部が日記本になりました。前書きは不穏なのでWEBには載せていませんし続編がかかっていますので全員買ってください! 2025.1 - 2025.6