はじめに
2024年の"推し"本 Advent Calendar 2024 の1日目の記事です。
どんな本か?
リーダーシップは一部の人だけに与えられる天職であり、複雑で膨大なリーダーシップの哲学を実践しなければならないと思われがちですが、そんなことはありません。ささいな行動を日々繰り返すことで、お互いを尊敬し、信頼し合うチームを作ることができます。Netscapeでマネージャー、Appleでディレクター、Slackでエグゼクティブを経験した著者が、それぞれの立場のリーダーに必要な振る舞いを30のエッセイで紹介します。1on1での傾聴、信頼関係の築き方、仕事の任せ方、メンバーのほめ方、チーム内のうわさ話への対応、組織の文化の作り方など、マネジメントの場面で出会うさまざまなテーマをとりあげ、リーダーとしての具体的な行動や考え方を解説します。
Netscape、Apple、Slackで活躍したベテランリーダーの著者が、30のエピソードについて綴ったエッセイ集です。
僕は仕事においては一メンバーのロールで、チームリーダーという立場ではありませんが、副題の「ささいなことをていねいに」の部分に惹かれてこの本が読みたくなりました。
当たり前のことを当たり前に、丁寧に、継続してやる
この本では、いわゆるマネジメントのベストプラクティスやフレームワークではなく、当たり前のふるまいを意識して続けることの大切さ、について書かれています。
マネジメントで大切なことは1on1である、立場に関わらず尊敬をもって相手に接することが大切である、アジェンダなくしてミーティングはできない、オンラインミーティングではマイクとオーディオの初期値を適切に設定しておこう、といったある種当たり前のことを、「丁寧に継続してやろう」という内容です。
私たち人類は今のところ、時間を節約するための「お手軽なハック」、つまり、何かをすぐに達成したり、理解したりするための賢い方法に夢中になりがちです。しかし、この本はその類のものではありません。この本に書かれているのは、繰り返せるプラクティスです。時間をかけて組み合わせることで、持続可能なリーダーシップが形作られ、それを自ら改善していけるようになるのです。
引用元:「はじめに」
各章ごとにテーマが完結しているエッセイなので、どの章から読んでも、読み返してもいい内容になっています。語り口が軽妙なので、さくっと読める本だと思います。
今回は、特に印象に残った章やフレーズについていくつかまとめてみます。
14章:素敵な褒め言葉
無欲で善意の元に使われればほめ言葉は、最高の成果を出した人に報いるための上品で持続的な方法です。
引用元:p85
本章では、賞賛報酬と脳の働きと深い関わりがあることを語る中で、「Peggle」というゲームのクリア演出が紹介されています。
あるレベルをクリアすると、虹、花火、ユニコーン、そしてベートーベンの「歓喜の歌」が決れるする中、感動的な報酬が惜しみなく与えられます。
引用元:p81
Peggleの開発者は、プレイヤーというものは、馬鹿げたくらい派手な演出で自分の成果を祝って欲しいのだと考えており、それが功を奏しています。
引用元:p83
良いゲームであるためのルールとして、著者は「過度な満足感が得られる瞬間があること」を挙げています。
タイムリーで効果的なフィードバックが得られた瞬間に、ゲームを学び、習得できる
引用元:p82
本章ではさらに、これを組織作りにおける「ほめ言葉」の話に当てはめて分析しています。健全なチームを作るために重要なことは、リーダーがメンバーに対して、「タイムリー」に「成果」の「承認」を示すことである、と書かれています。
(前略)
完結に言えば、「あなたのやっていることは重要です」ということです。ほめるまでの時間が短ければ短いほど、やっていることが相手の記憶に残ります。褒め言葉そのものではなく、ほめられるきっかけとなったふるまいが記憶に残るのです。
引用元:p84
一方で、Peggleのゲームクリアに対する「ほめ言葉」の報酬は、まったくの無欲ではありません。ゲームを続けてもらうために、絶妙なタイミングで楽しく感じるように計算されたものだからです。
「無欲であること」は、褒め言葉の中で最も繊細さが求められるものである、と書かれています。よい褒め言葉とは、社会的コストや依存関係を意識せずに出てくるものであり、混じり気なくその成果に向けられるものである、と。
ここでは、著者が過去に無愛想で無口なシニアVPから、ふとした瞬間にかけられた素直な褒め言葉に心を動かされた、というエピソードが語られています。
フィードバックは、とても価値のある人間同士の取引です。あなたの一面をじっくり観察してくれた人がいるということです。
(中略)
あなたは自分のことを理解しているつもりでも、そうではないのです。今度は、あなたが時間をかけてフィードバックをきちんと聞き取り、質問をして中身をはっきりさせ、できることなら仕事のやり方を見直しましょう。
フィードバックを与え、受け取るという行為はあらゆる面で、人間関係における信頼関係を構築する機会になります。
引用元:p92
14章はポジティブフィードバックの重要性について語った内容ですが、15章ではネガティブフィードバックの重要性についても同様に書かれています(こちらはメンバーからネガティブフィードバックを受け取ったときに、どのように受け止めるかという内容でした)。
以前、ポジティブフィードバックについての散文を書いたことがありましたが、「他者からのフィードバックの重要性」という点について、個人的に共感できる言語化がされているな、と感じる章でした。
27章:貴重な1時間
私は今、単にタスクを終わらせるだけでなく、スピード感を持って終わらせることに喜びを感じています。この猛烈な勢いを利用して、次は何をしようかな? 自分の生産性を期待より高められることが他にありますか?
引用元:p161
この章では、大量のタスクマネジメントに追われているときに陥りがちな、コンテキストスイッチの切り替えによる「偽の生産性」について語られています。
本当に忙しい状況のときに得られた報酬系がポジティブフィードバックとなり、「忙しければ忙しいほど、もっとたくさんの報酬が得られるのではないか」という誤った思い込みとなって、「あまりに忙しいせいで、本当は忙しいのにそれを意識できていないことがある」という状況を作り出すことがあるかもしれません。
著者はあるときから、意識して1日1時間、意識して「自分の時間」を過ごすようにしたようです。
家族と過ごすこと以外で、私が1週間の中で圧倒的に好きな時間は、土曜日の朝です。少し寝坊して、2階に上がり、コーヒーを淹れ始めて、ふらふらとパソコンに向かいます。(中略)私は好きな音楽をかけ、画面の中央には言葉が並びます。その瞬間、私は明らかに忙しくなく、仕事もしておらず、何かを作っています。この時間が毎日あればいいのに。
引用元:p164
僕自身も、日常の営みの中で、不用意にマルチタスクを抱えて消化する瞬間の「偽の生産性」に正のフィードバックを得ているな、と感じる瞬間は多々あります。(これが癖になってしまう苦い感覚も、とてもわかるぁなと思います)
実際のところ、タスクを抱えすぎて、ToDoリストを潰すことに消耗してしまう、という状況は、リーダーやマネジメント層では必然的に陥ってしまう状況だと思いますし、「自分のために静かに過ごす、貴重な1時間」を確保する、という著者の行動が素敵だな、と感じました。
私の貴重な1時間では、静かであることを意識しています。(中略)私は、魅力的な小さなやるべきことの流れを断ち切り、同じように印象的な忙しい仕事をこなす聡明な人々から自分を引き離し、自分が考えていることに耳を傾けます。
私が、1時間、何があっても。
引用元:p165
さいごに
自分が今置かれている立場やロールによって、この本の何章が響くかは変わってくるのかな、と思います。何ヶ月か後か、ロールが変化した時にまたふと手に取ってみたい本でした。