さて、2曲目以降を聞いていきます。2曲目はMVも作られている「Fifty's map~おとなの地図」という曲。
この曲にはいろんなオマージュがちりばめられている。まずタイトルが「Fifty's map~おとなの地図」。これは明らかに尾崎豊の「十七歳の地図」からの引用だろうなと聞く前からわかる。きっと歌詞も意識しているんだろうな。
このアルバムはシングルという形の曲が一曲もなく、全曲新曲という珍しいアルバムだったわけですが、発売前に二曲だけMVが公開された。そのうちの一曲がこの曲だった。こういう特殊なアルバムだよってことをこれだけにおわせておいて、わざわざMVを作るということは、何か意味がありそうだ。なので俺が初めてきいたのはアルバムではなくMVからでした。
なので、MVをベースに語っていこうと思います。Fifty's mapのMVはこちら。なぜか見覚えのあるお茶の水駅周辺から、駅でたたずむおじさんがスマホで映像を見るところからすべてがはじまる。
そしてMVを見ればひとめでわかる。MVは2004年発表の自身の曲「くるみ」のセルフパロディだ。映像としてほぼまるまる引用しているといってもいい。
そのまんまである。
「くるみ」という曲はとてもいい曲で、桜井自身でも指折り数えるぐらいお気に入りの歌詞のフレーズが入っている曲でもある。そしてさらに、MVがとても人気の高い曲だった。くるみというMVのストーリーは、上のサムネイルを見ればわかるとおり、おじさんたちが昔を思い出して、昔やってたバンドをもう一度やらないか、鳴らすだけで楽しいじゃないか、という内容だ。シンプルなんだけどすごく胸を打つMVで、その年のMV系の賞をかっさらっていた記憶がある。
MV内のバンドが、楽しそうに、でも客からの評判は全然の中演奏をしたあと、楽しそうにメンバー四人で河原をあるいている。そのバンドはMr.ADULTSというバンド名だったんだけど、バンド名を決めたときの没案をふくめた紙がポケットに入っていたのを投げ捨てながら歩いていく。その紙を、バンドの後ろを歩いていた桜井和寿が拾う。
この紙をひろい、何かを決心して、桜井はMr.ADULTSに背を向けて、振り返り元来た道へ戻っていく。
これがミスチル結成前夜だ、というのが「くるみ」のストーリーだった。ちょうどミスチルとしてもバンドとして立て直しを図っていた時期(桜井の脳梗塞明けや、もっかいポップシーンに殴り込みにいこうと決意していた時期でもあった)ため、余計に胸を打ったものだった。
その映像をほぼ引用しながら。エンディングで、なるほど、このアルバムでやりたいことがそのまま描かれていた。
Mr.ADULTSは「くるみ」という曲をうたっていたかもけれど、自分たちはFifty's mapという曲名を選ぶ。あのころよりも、ずっと年老いた顔で。以前は後ろを振り返り、家に帰ったのかメンバーの元に向かったけれど。今度は前へ向かい、メンバー三人の背中を追いかけるように、四人で同じ方向を向かっていく。
Mr.Childrenが今回やりたいことがここに象徴されている。自分たちはもうくるみのときのように若くはない。顔にしわはたくさん刻まれた。でも、50代ならではのできることはまだある。背中しかうつっていないけど、四人そろって前を向いて歩いていく姿は何か感動的ですらある。
どうやらこのアルバムは、老いていく自分との対峙、すら通り越して、老いたからこそ初めてできること、すらめざしているように思う。
そうとらえると、タイトルがFifty's mapであり、青さの象徴であるかのような尾崎豊の「十七歳の地図」と対比させていることも意味がつながってくる。
尾崎の世界のように、盗んだバイクで走りだしたり、夜の校舎の窓ガラス壊して興奮できるようなときはとうにすぎた。そんなことで自由を感じれるほど、もう若くはない。
これもまた「I MISS YOU」同様、ミスチルそのままのこと。求められることに答え続けることがミスチルの仕事。ここは普遍性もあっていいですよね。ミスチルのことを絶対にそのまま歌っているだけなのに、それぞれの仕事のしんどさみたいなところにもリンクします。楽しいだけで仕事できるわけじゃないもんね。
そしてこの曲はこの歌詞でおわる。MVの最後にリンクするかのように。
ずっとミスチルを見てきたからこそ、こういう言葉がこぼれてくることに泣けてきてしかたない。「互いの背中たたえながら行こう」。決して100%望んだ形になっていたわけじゃなくても、同じ迷路でさまよいはいずりながら、だれも欠けずに走り切ってきた同志がいる。もうちょっといこう、と声をかけあう姿。
どうやら頭二曲は、このアルバムでやろうとしていることのイントロダクションのようです。そしてだんだんみえてくる。どうやら、Mr.Childrenとは背負うものであり、50代にさしかかってきた自分としては、それがつらいときもあるんだと。そんな内容と向き合わさせてもらうぜ、という決意表明のようにみえる。だからMr.Childrenとして期待されてる何かじゃないかもしれないけど、もうそんなもん無視して俺たちは独白するんで、聞くも聞かないもご勝手にどうぞ、という、一見突き放してるようで丁寧な案内文のようにみえる。
面白いな。こんなMr.Children見たことない。俺はずっと、地に足をつけたミスチルが見たいといってきた人なので、このチャレンジはとても自分にとっては刺激的だ。
と、内容ばっかりに気を取られていて、あんまり曲が耳に入ってこなかったので改めて曲を聞き返してみよう。音楽的にみるとこの曲はサビがはっきりいって変である。まるでBメロのような、決してサビで聞きたいような感じではない、少しざわっとする感覚がする。決して気持ちよくない転調とコード進行でサビが展開される。メロディはずっとポップなのに、AメロBメロはさわやかで、サビで一気に転調とコード進行だけで心をざわつかさせるのも、曲の内容を際立たせるためなのかなとも思う。まぁ正直このサビは好きではないですがw やりたいことはとてもよく理解できます。
次回からは1曲ずつではなく感想をまとめます。次回最終回です。